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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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ねむい。

 記憶が混乱している、アサギは再び始まった頭痛に顔を顰める。額を抑えながら、懸命に思い出そうとしたが、痛みが邪魔して上手く考えがまとまらない。

「アサギ、何処から来た? どうやってここへ?」
「わ、わからないのです」
「解らない?」

 先程から苦悶の表情を浮かべているアサギだ、もしかして記憶喪失なのかと思い、トランシスは数回瞬きを繰り返す。

「話をしよう、この場所が何処か、解らないみたいだから」
「お願いします」

 確かにここが何処か知りたい、アサギは痛みを堪えて小さく頷く。

「ここは、西海に近い集落エルズミーア。
はるか昔、海というものは青く輝いていたらしい。驚きだよな」

 語りだしたトランシスに聞き入る、内容は衝撃的だった、アサギの知らない場所だと聞けば聞くほど確信する。
 この場所の海は、指一本入れたら溶けてしまいそうな、異臭を放つ粘着ある灰色の液体を指す。近寄らないのが暗黙の了解だ。
 この街には約一万人の人間が住んでいた、が、誰も青く輝く海を見たことなどなかった。語り継がれてきただけだった、時折古めかしい本から”海”の写真が現れるが空想上のものだと思っていた。
 この場所は何もかもが灰色で彩られている、それが普通だ。空、海は勿論、町並み、人々の表情。全てが陰り曇り、澱んみ、光は無きに等しい。
 人々は、生活の殆んどを地下で過ごしている、夜空に瞬く星達すら見ることが無い。稀に、光っている何かを見るが、それが星ではないことなど皆知っていた。監視機のライトだ。
 夜空に輝く満天の星、宝石箱を引っくり返したような目を奪われる輝き。それは、
少女達の夢に過ぎない。少女たちも、夢はあまり見ない。絶望しかないからだ、夢を見る余裕がなかった。
 集落から出れば、荒地で砂が吹き荒れ、腐敗した木、枯れ果てた木、動物の死骸に人間の死体。遠くでは廃墟の建物が、時折崩れ落ちている。人々の生活の場は、限られている。
 住居は確かに地上に存在したのだが、正式な家は皆地下に持っていた。地上の家は、ダミーだ。掘っ立て小屋ではなく、簡素な家具はある為一通りの生活は可能だ。
このような生活は、エルズミーアに限ってことではなく、この惑星の一区を除きほぼ全ての集落がそんな状態である。
 エルズミーアの北西、要塞神都・レプレアを除いて。上空から覗き込むと、密集した高い建物がまるで剣山の様なその場所。道は狭く馬車が一台通れる程で、それでいて人口は多かった。その中心地に聳え立つ、一際派手で高い城がこの惑星の支配人が住まう城だ。
 密集しひしめき合う都でありながら、城だけは奇怪に悠々堂々と建ち誇っている。
 ゴルゴン七世の住まいだ。何百年か前にこの惑星の”神”を殺害し、自らを神と名乗った男の子孫である。
 七世は常に女を数人傍らに侍らせ、酒を浴びるように飲み干し、肉を豪快に喰らっていた。趣味は殺人で、美しい少女を拷問器具にかけ嬲り殺すのが三度の飯よりも好きだという、変人である。七世が何か言葉を発すれば側近達は美しい少女を差し出さなければならない、そうしないと自分達の身に災いが振り掛けるのである。
 つい最近では、王に丸一日兵士の前で犯された後、台に貼り付けられ、手の指、足の指、手首、足首、腕、脚、腰、首など切り落とされるという”遊び”に付き合わせられた。切り刻まれた少女は、袋に無造作に詰められて親元へと戻される。発狂する両親、血が滴るその袋を嘆き哀しんで抱きとめて。
 少女達は、自ら七世の”玩具志願”をしていた。名乗出た娘の両親は、莫大な金額を受け取ることが出来るからだ。少女の命と引き換えに、両親は安泰を保証される。だが、娘がいなくて何が幸せか、どう生きていけば良いのか分からない者がほとんどだった。それでも少女達は家族の為に生贄として、自らの身体を差し出し続けている。
 それならば神都を抜けて他で暮らせば良い、と思うかもしれないが、外の世界は過酷だ。作物も不作続き、飲み水も汚い、汚染された土地で貧困に喘ぐしかないのだ。また、一歩外に出れば生きる権利を奪われる、惑星には神都から偵察機が飛ばされており、気まぐれで人間を撃ち殺しているのである。
 
「オレ達の集落も、もとは小さかったみたいだけど、長年を経て近隣の集落も身を寄せ合い、今の大きさになったとか。理由はこの木さ、アサギも不思議に思っただろう? この大きな木、普通なら有り得ない。おまけに、偵察機にまっさきに狙われそうだけど何故か素通りされていて無事。そんな奇跡にあやかって、皆集まった」
「そう、ですか。不思議な木ですね」

 あまりのことにアサギはそれしか言えなかった、そんな世界は、知らない。

「あ、そうだ。マスカット、って呼んでるけどあれ食べようか。この木の脇に、たまに実らせる小さい木があるんだ。あぁ、アサギの髪に似た色の果物だよ」
「え?」

 言うなり、トランシスはアサギの手を引いて下り始める。あわてふためくアサギにはお構いなしに、簡単に地面に舞い戻った。まごついているアサギに笑い、両手を広げる。「おいで、大丈夫、抱きしめてあげるから」
 宙に浮けるアサギだ、別に高い位置から落下したとしても無事なのだが、言葉に甘えてはにかみながら頷くと、そっと木から手を離し、ジャンプする。下で待っているトランシスに手を伸ばした。

「っと!」
「きゃあ!」

 衝撃が二人を襲うが、見事に抱きとめたトランシスは無邪気に笑って、得意げに鼻を鳴らす。

「な、大丈夫だろ?」
「は、はい。ありがとうございます」

 見つめ合っていた二人だが、徐々に身体が下ろされ、地面につま先がつくと、ようやくアサギにも口づけのタイミングが解った。トランシスの視線に、自然と頬が熱くなる。軽く瞳を細め、近づいてくる端正な顔立ち、キスされるのだと、思った。ゆっくりと、瞳を閉じる。
 再び唇に、暖かく柔らかいものが触れた。正面から抱き締められ、背を摩られる、髪を撫でられる。

「アサギは、良い香りがする。不思議な、落ち着く香りだ」
「そう、ですか?」

 シャンプーだろうか、と思った。母の好みで薔薇のシャンプーを使っている、確かにアサギも気に入っているものだ。
 抱き上げられ、歩き出したトランシスに違和感なくアサギはそのまま大人しくしていた。

「ほら、あれ。もう残り僅かだけど」

 促されて見た先に、マスカット実る木が立っていた。小ぶりのその実は、少し貧相だ。
 トランシスは近寄って二粒もぎ取ると、一つをアサギに手渡す。

「皮をむいて、食べるんだ。知ってる?」
「あ、はい。わかります」

 二人は、皮を剥いて同時に口に含んだ。下で潰すと、口内に甘い味が広がる。思わず笑みをこぼした二人は、嬉しそうに味わった。

「今まで食べた中で一番美味い! 濃厚な甘みだな驚いた」

 上機嫌でトランシスはもう一粒もぎ取る。指で摘み、目の前のアサギに近づけると、顔をくしゃ、とさせて屈託ない笑顔を見せた。
 途端、アサギの胸が跳ね上がる。
 とくん、とくん、とくん、と早鐘のように鳴り響く胸の鼓動に、目眩がする。

「やっぱりアサギの髪に似てる、綺麗な黄緑色。少し髪の方が濃いかな?」
「そ、そんな綺麗な色ですか?」
「あぁ、アサギの髪のほうがもっと綺麗だよ。オレは、好きだな」
「好き。好き、好き……」

 単語を繰り返す、マスカットを食べているトランシスを見つめながら、アサギは抱きつきたい衝動に駆られた。
 この、突然変色した髪を綺麗だ、と言った。好きだ、と言ってくれた。
 嬉しかった。ただ、嬉しくて仕方がなかった。好きだ、という単語が嬉しかった。

「私を今、好き、だと」

 

 
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