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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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早く書かないと間に合わないYO!
いつものことですが。


 起き上がり、欠伸をしながら地下の住居を出た。地上に上がり、灰色の空を仰ぎ見ると薄く微笑む。
 楽しいことなど何もないと思っていた、けれども今日、明るい色彩の未来が見えた。

「トランシス!」
「あぁ。オルビス、こんばんは」

 夜が更ける頃だが、集落に住む一番の美人が近寄ってくる。好意を持たれている事は知っていた、何度か身体も重ねた相手だ。こうして夜な夜な、親の目を盗んではトランシスのもとへとやって来ていた。

「あのね、今日、安全日なの」
「そ」

 普段ならばトランシスは軽く笑って手招きし、家に入れてくれる。だが、今日はそっけない返事をしただけで、オルビスの横を通り過ぎていった。慌ててその腕を掴もうとしたが、気配を察知したトランシスは軽々とそれを避けた。

「ね、ねぇ! しない? 私は」
「他の男に性欲処理は手伝って貰えよ、オレはもう、無理」

 態度が豹変したトランシスに、愕然とした。確かに以前から冷たい時もあったが、一応話は聞いてくれたし、応じてくれた。だが、今日はどうだろう、完全に邪険に扱われている。
 顔を顰め、怒りを露にオルビスは大股でトランシスに近づくとその腕に触れようとする。だが、強い力でその手が弾かれた。

「痛っ」

 悲鳴を上げたオルビスは、唖然とトランシスを見上げた。背筋が凍った、侮蔑の視線を投げかけてくるトランシスのその態度に一気に心拍数が上がる。冷徹な視線は、精巧な人形の様だ。

「触るな、彼女の香りと温もりが逃げる。もう、お前じゃ勃たない。愛する子が出来た、彼女にしか、触れられたくない」
「なっ!」

 大きく目を開いたオルビスを置き去りにし、トランシスは歩いていく。動けなくてその場でオルビスは地面を見つめた、地面に染み込んでいく水滴を見ていた。

「な、何よ。彼女は作らない、って言ってたじゃない。身体だけの関係が楽だ、って言ってたじゃない! 夢の中の緑の髪の美少女を待っている、って言ってたじゃないっ! 何処の女よ、私のトランシス横取りしたのっ! 許さない、許さないんだからっ」

 少しくらいは愛情の欠片があると思っていた、だが、今のトランシスの言葉で全くなかったと分かってしまった。ただの気まぐれ、お遊び。トランシスに惹かれて近寄った女達は多くいたが、その中でも自分は一番なのだと思い込んでいた。
 自尊心が傷つけられた、傷つけたのはトランシスだが、怒りの矛先は名も姿も知らぬ少女に向けられる。
 オルビスは唇を噛み締めると、爪を二の腕に突き立てて絶叫を必死で堪えていた。産まれて初めて、腹の底で蠢く憎悪を感じた。
 何処か遠くを見ていたトランシスに惹かれていた、寂しそうなその背中が好きだった、時折見せる子供のような笑顔と、無下に扱う高圧的な態度に胸がときめいていた。そんな彼が酔うと決まっていう言葉が『緑の髪の美少女』。
 夢に出てくるとにかく美しい少女で、彼女こそが自分の運命の恋人であり、そのうち目の前に現れる筈だと、心底幸せそうに語った。
 嘘だと思っていた、誰も選ばないためについている嘘だと思い込んでいた。
 緑の髪の少女など、この集落には存在しない。そんな夢物語は誰も信じない。
 オルビスは、髪を振り乱しながら地面を踏みしめ、自宅へと戻る。比較的裕福な家柄で、トランシスが養子婿に入ってくれれば、と勝手に願っていた。

「お前じゃ勃たない、って、馬鹿にしてっ!」

 捨て台詞を吐き捨て、オルビスは自室に閉じこもると枕を潰す勢いで握り締める。

 トランシスと別れたアサギは、どう戻れば良いのか分からず、困惑していた。手を振り続けているトランシスにぎこちなく手を振り、引きつった笑みを浮かべる。数歩後退し、来た時と同じように、木に登ってみた。登る、と言っても手足を使って登るのではない。軽く跳躍して、風に舞うように枝から枝へと上へ飛び移る。一番上まで来て、そこから周辺を見渡した。
 荒野が広がる、灰色の世界。土壌は汚染されているのか茶ではなく赤黒かった。顔を顰め、地上を見下ろすとトランシスがまだ手を振っている。
『木の上から来たから、そこから戻ってみる』と告げると、トランシスも一緒に登ると言い出したので慌てて止めた、数分前。

「また、来ます。すぐに、必ず」

 アサギはそう叫ぶと、胸の前で手を握り締める。「クレロ様の、お城へ戻して」そう願った。
 身体が浮かび上がる感覚に、瞳を閉じ、身を委ねる。  
 何故か確信していた、戻れる、と。
 暖かな空気に包まれて、口元に笑みを浮かべたアサギは何処かへ流されていく。

――苦しい、あぁ、苦しい、苦しすぎて、耐えられない。もう、嫌だ、嫌だ、嫌だ、親だ、嫌だ。


 そんな声が聴こえたので、慌てて瞳を開く。
 漆黒の闇に、浮かび上がる青白い光が、頬をすり抜けていく。アサギは、思わず息を飲んだ。

――あぁ、苦しい、苦しい。
――身体が、焼け焦げて引き裂かれる。

 前方と後方から聴こえた声に、アサギは数回振り向き、声の主を探す。目の前にあったのは、青く美しい惑星と、ドス黒く燃えるような深紅の惑星だった。
 言葉を失い、一瞬そこで身体が停止する。

――アサギ様。
――アサギ様。

 名を呼ばれたので、仰け反った。何かに身体が絡め取られる気がして、必死で腕と足を動かし、唇を噛み締めると瞳をきつく閉じ、耳を塞ぐ。その声を聞いていたら、身が引き裂かれそうな気がした。

「アサギ様! 一体何処へ行っていたのです!」

 耳元で叱咤する声に飛び起きたアサギは、周囲の顔を見て、安堵の溜息を漏らした。身体中に粘着ある嫌な汗が吹き出している、気持ちが悪くて、身震いする。

「お姿が見えなくなったと思ったら……何処かへ出向いていたのですか?」
「ごめんなさい、クレロ様に杖の事を謝りたくて探していたのですけど、見つからなくて。それで、えっと」

 まさか、見知らぬ場所へ行っていた、とは言えなかった。アサギは口ごもり、戸惑い、俯く。大袈裟に溜息を吐くと、ソレルが冷たく言い放つ。

「しっかりしてくださいまし。確かに貴女様は優秀な勇者様です、クレロ様にも一目置かれている存在です。ですが、身勝手な振る舞いはその身を滅ぼすことになると、肝に銘じなさいな」
「はい……。あの、それでクレロ様はどちらに?」
「杖の件でしたら、もう私が謝罪しておきました。特にお咎めはありません、速やかにお引き取りくださいませ」
「そうですか、ごめんなさい。ありがとうございました、お手数お掛けしました」

 叱られていると解ったアサギは、素直に謝り、地球へと戻ることにする。気落ちした足取りで、帰路につく。ただ、後日やはり自分の口からクレロに謝罪しようと思った。

 自室に戻ると、アサギは全身鏡にふと目がいった。首筋が赤いので、近寄って見つめる。虫刺され、ではない。指でその箇所を触ってみて、思い出した。赤面し、小さく悲鳴を上げる。

「こ、これがキスマーク!」

 魔王ハイにも以前つけられたのだが、その事実は知らない。震えながら、鏡を覗き込み、首をよく見つめてみる。
 アサギは先程の熱い唇の感覚を思いだし、トランシスの声と笑顔の残像を見た。悲鳴を上げてその場にしゃがみ込むと、暫く深呼吸で落ち着こうとする。
 が、出来ない。
 横目で鏡を見つめ、赤い箇所に目をやると、鏡にトランシスが映っているような錯覚になった。耳元で声が聴こえる、あの、甘い声が聴こえる。
 身体中から力が抜けたが、アサギは四つん這いで本棚へと移動した。震える手に力を込めて、進む。手馴れた手つきで、読み慣れた漫画を取り出す。

「え、えっと」

 読者体験恋愛漫画、と見出しがついた、厚い漫画の単行本である。このシリーズが好きで、アサギは買い集めていた。

「た、確か、何処かに」

 数冊取り出し、必死に記憶を辿る。

「あ、あった! これ! よ、よかった、大丈夫」

 大きく溜息を吐き、胸の前でぎゅ、っとその本を抱きしめると嬉しそうに笑った。
 その単行本に収録されていた漫画に、このような内容のものがあった。

『彼氏と別れて、泣きながら街を歩いていました。偶然すれ違った男の人に、声をかけられました。無視して歩いたのですが、彼はついてきました。警察へ行こうとしたのですが、その人は、ハンドタオルを差し出してきました。私が泣いていたから、心配になったのだそうです。見ず知らずの人に、話を聞いてもらいました。その人は、私より年上でした。真剣に話を聞いてくれてました、気がついたら、彼のことが気になっていました』

 という漫画である。ラストは、この二人が恋人になる、というものだった。

「よかった、出会ってすぐにでも、好きになって良いみたい! 大丈夫、大丈夫」

 トランシスを思いだし、アサギは床に転がる。漫画を抱きしめたまま、恥ずかしそうに「好きです、きっと」と呟く。
 ただ、嬉しかった。
 トランシスに言われた事が、嬉しかった。……アサギにとっては、とても大事な言葉だった。他愛のない、言葉だったが。

 キィィィ、カトン、トン。
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