DESTINY 第四章～伝えたい想いを胸に秘め～ 29.記憶は流れゆき、巡る

本文が長すぎると言われますが、前はこのくらい平気だった・・。

　話を一通り聞いてみたが、結局ここが何処なのか解らない。地球ではないことは確かで、少なくとも惑星クレオでもない。
　ならば、何処か。
　他にアサギが知る惑星は、リュウが治めている幻獣星に、惑星ネロ、ハンニバル、チュザーレだ。
　しかし、今聴いた話が真実であるならば、その何処でもない。魔王、という単語が出てきていない。
　ただ、一つだけ。
　名は知らないが、以前天界城で垣間見た謎の惑星を思い出した。宇宙に浮かんでいた、深紅の惑星だ。宇宙という闇に浮かぶ、燃え盛る炎に似たあの惑星ではないかと……そう思った。
　何故かそんな気がして、仕方がない。
　眉間に皺を寄せて考え出したアサギに、トランシスは溜息を吐く。
　心ここにあらず、といった状態のアサギに、胸がチリリと痛んだ。

「ねぇ」
「あ、はい」

　声をかけられ我に返ったアサギは、何故か不機嫌そうなトランシスを見上げた。唇を軽く尖らせ、頭をかいている。

「それで、アサギは何処から来たのさ。というか、以前も逢ったことない？　物凄く見覚えがある気がするんだけど」

　キィィィ、カトン……。

　妙な音に、トランシスはアサギを急に抱え込むと、マスカットの木に身を潜めた。偵察機が来たのかと思ったが、空気の振動は、ない。
　注意深く周囲を見渡すトランシスだが、その腕に包まれてアサギは赤面したまま硬直している。
　嫌な感じは全くない、寧ろ、心地よい。
　初めて逢う筈なのに、そんな気がしない。この体温の温もりと、鼓動と、香りを知っている気がして仕方がない。先程の口付けとて、懐かしい気がした。
　唇にそっと指を添える、身体中全てが熱を帯びている気がして、くすぐったい。

「変な音がしたけど、大丈夫みたいだな」

　大丈夫、と言いつつもトランシスはアサギを離さない。それどころか、無意識の内に強目に抱いていた。
　髪を撫でる、その艶やかな指通りと香りに、息を大きく吸い込む。

「あの」

　躊躇いがちにそう声を発したアサギに、ようやく慌ててトランシスは身体を離した。急に今の行動が恥ずかしくて、何故か弁解を始める。

「い、いや、その、こう、こうして抱きたくて忘れていたわけじゃ、ないっ。で、でも、得したかも。……笑うなよ」

　慌てふためくトランシスが面白くて、つい、アサギは吹き出した。あまりに楽しそうに笑うので、トランシスも肩を竦めると一緒になって笑う。ぎゅ、とアサギが控え目にトランシスの衣服を掴んだ。

　キィィィィ、カトン……。

「ほ、ホントですね。二人で一緒にいると、あったかいですね」
「あ、うん。だろ！？　うん、うん、そうそう。あー、で、アサギは何処から来たんだっけ」
「えっと」

　逢って間もない二人だった。
　話せば話すほど、知っている気がした。
　抱き合うことも、口付けることも、当然のことに思えた。
　互いにそう思いつつも、自分が変なのかと思い、正確に言葉にせず。
　この状況を躊躇う、親密に寄り添っていたかと思えば、急によそよそしく離れる。
　自分の”好みだったから”口づけたトランシスと。”最初の口づけ”は必ず恋人と、と願っていたアサギ。
　それは、必然だ。
　アサギは、意を決して唇を舌で濡らすと、不安そうに口を開く。

「信じていただけないかもしれませんが、ここの何処でもない場所から私は来たのだと思います。……宇宙って分かりますか？」
「何処でもない場所？　宇宙なら解る、空に光っているらしい星があるトコだろ？」

　空を指し、そう言うトランシスにアサギは頷いた。

「私が住んでいる場所は、ここではないのです。えーっと、どう説明したら良いのでしょう。地球、という惑星にいるのですが」
「チキュウ？　……聞いたことがない地名だな」
「えっと、地名ではなくてですね、太陽系の惑星の一つで」
「太陽系？　太陽は二つあるだろ、どっちの太陽？」
「え、ふ、二つ！？」