別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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眠くて死にそうだが頑張ろう。
唇に触れた柔らかく暖かいものが、目の前の見知らぬ男の唇だと気づくのに、時間を要した。いや、状況を受け入れることに時間を要した、のほうが正しいか。
綺麗な紫銀の髪が揺れている、透き通るような不思議な光を放つ濃紫の瞳からは、目が逸らせない。年上の男に何故か抱き締められ、首筋を舐められた挙句、キスされているらしいこの状況。
アサギは唇を塞がれたまま、盛大な悲鳴を上げた。
「きゃあああああああああああああああああああああああっ」
口から息が勢いよく吹き出る、驚いたトランシスは顔を離した。自由になった唇から、悲鳴が溢れ続けた。高音のそれに、顔を顰めるとその唇を今度は手で塞ぐ。
「む、むぐごごごご」
「うるさい、静かにしなよ。叫ぶの止めるなら、この手を離す」
怒気を若干含んだような声に、アサギは思わず声を止めた。小刻みに震えながら、恐る恐る小さく頷く。その様子に安堵の溜息を吐き、ゆっくりと手を離したトランシスは額の汗を拭った。
「あぁ、びっくりした。まさか口付けくらいで叫ばれるとは思わなかった。このオレと口付けしたい女は夥しい数いるのに」
「口付けくらい、ってそんな! わ、私にとっては大事なことなんですっ。キスはわ、私は、最初のキスは彼氏とするって決めてるいるのです、絶対絶対、彼氏とするのです」
「キス?」
キスという単語を知らないトランシスは首を傾げる、話の流れから口付けだということをなんとなく把握したトランシスは、物珍しそうにアサギを見つめた。
「あ、あああ、あぅ!」
唇をこすり始め、泣き出したアサギに、不愉快そうにトランシスは睨みつける。露骨に嫌がられては気分を害して当然だ。
「は、初めてのキスは、大好きな彼氏、と」
少女漫画で何度も読んだ、幸せな結末の主人公達の恋物語。少女ならば惹かれて当然の世界、キスは重要だった。
泣き出したアサギに、流石に罪悪感が湧いたトランシスは気まずそうに頭を掻き毟る。困惑し舌打ちすると、アサギを抱きしめた。
驚いたアサギは必死に抵抗を試みるが、耳元で囁かれた言葉に唖然とする。
「ごめん、悪かった。だから責任とって今からオレが君の彼氏になろう。未来の彼氏と口付けたなら、納得出来ない?」
思わず、顔を見上げた。瞳を何度も瞬きし、言われた意味を考えるが、徐々に赤面する。恥ずかしいのではなく、怒りが芽生えた。
「そ、そんな! 私は貴方のこと、知りませんっ。彼氏というのは好きな人です」
「好きになればイイよ」
「そんな身勝手な! 第一、名前も知らない人なのに、彼氏だなん」
「トランシス。オレ、トランシスっていうの。で、君の名前は?」
話を遮られたが、にっこりと爽やかに微笑まれて口を閉ざしてしまった。名乗らないわけにもいかず、渋々アサギは小声で名を告げる。
「アサギ、です」
「アサギね、アサギちゃん。オレはもうすぐ十七歳だけど、アサギは?」
「今は十一歳です」
「若っ! これからよろしくね」
「よろしくお願いします?」
会話が流れて、微笑まれ髪を撫でられたが、ようやくアサギは我に返った。これは納得してはいけないと思った、首を横に振る。
「な、何を言うんですか! 私は」
「あー、そうそう、気になったんだけど。”は、初めてのキスは、大好きな彼氏、と”っことは、今のが初めての口付けなんだよね? 彼氏ができるのも初めて?」
アサギの顔色が変わる、赤から青白く変化した様を見ていたトランシスは思わず吹き出した。が、笑われた事など気にしない、それよりも言われた事が衝撃的だった。
口ごもり、俯くアサギだが、か細い声で「初めての、口付け、でした」と素直に認める。
キィィ、カトン……。
正確には、初めて、ではなかった。アサギ本人は知らないが、数ヶ月前トビィが気を失っているアサギに口付けている。
だがその事実を、アサギは知らない。今のが初めてのキスだと、思い込んでいた。
「彼氏がいたのに、口付けしてないなんて事はないよね?」
『あぁ、なんだ、知ってたのか。でも、それ誤解。アイツ、彼女じゃないから、問題ない』
瞬時にミノルの顔が浮かんだが、同時に自分とは全く似ていない美少女とキスしていた数週間前が蘇った。
ミノルが彼氏だと思い込んでいた自分が立っていた、浮かれてはしゃいで、ミノルの本心を見落としていた愚かな自分がそこにいた。
「彼氏は、いたことが、ありません」
キィィィ、カトン……。
絞り出した様な声に、気の毒そうにトランシスはアサギの髪を撫でる。
「奥手なの、理想が高いの? アサギみたいな可愛い子、放っておかないだろ? それとも何、性格が悪すぎるとか?」
アサギの身体が、跳ね上がった。震え出したので流石にこれ以上からかうは止そうと思い、耳元で「ごめん」と呟く。髪を何度も撫でていたが、突如その肩にアサギを担ぎ上げる。悲鳴を上げたアサギを無視して、トランシスは目の前の木に登り始めた。
太い枝に座り、アサギを膝の上に乗せ、背後から抱き締めたトランシスは愛おしそうに髪に頬を摺り寄せる。
腕を優しく撫で上げ、指を絡ませると気落ちしているように見えるアサギに囁いた。
「オレは好きだな、この綺麗な髪の色とか、大きな瞳とか。性格はわからないけど、表情が変わるトコも面白いと思うし」
二人の体温が重なる、暖かい背中が心地よく、アサギは瞳を閉じる。
「悪かったよ、勝手に口付けして。でも、仕方ないだろ、口づけたいと思ったんだ、可愛すぎて」
そう囁かれ、赤面したアサギは言葉が出ず沈黙を守ったままだ。
「許して、これからアサギの彼氏として頑張る。だからオレを好きになりなよ」
甘く囁くその声が、危険なものに思えた。が、聞き慣れない単語は心地よく、思考を停止させる。身体を密着させ、アサギの身体を覚えるように匂いを嗅ぎながら鼻先を移動させるトランシスがくすぐったく、子犬のようで思わずアサギは軽く笑う。
「笑った、よかった」
そう言い、後ろを振り返ったアサギとトランシスの視線も絡み合う。指に入る力が強まり「口づけ、するよ」と熱を帯びた声でそう告げたトランシスに、震えながらも微かに頷いたアサギは。口づけを交わした。
軽く触れるだけのそれだが、何故か以前から口付けていた仲である気がした。
脳内で、誰かが囁いている。「この人が好き、この人が好き、この人が好き」と。
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