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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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ねもう。



 翌日。
 ユキから『今日は行けない』とメールが届き、アサギは仕方ない、と気にせず出掛ける。手に入れた杖を持って出歩くのは恥ずかしかったので、布に包んで持ち歩くことにした。近くの公園でトモハル達が待っていた、アサギの所持しているものに皆目を止めたが、アサギはにっこり微笑むだけである。手を振って合流すると異界へ出向くが、ケンイチが不貞腐れていたのでミノル肩を竦めた。
「機嫌悪いな」
「ユキ、どうして来ないのかな。用事ない筈だけど」
「忙しいんだろ、お嬢様だろ?」
「でもさぁ」
 納得がいかないと、爪を噛んでいるケンイチに、アサギは苦笑する。さみしいのだろうな、と思った。ただ、ユキに会いたかっただけではないのかな、と思った。
 キィィィ、カトン……。
 妙な音が聞こえた、勇者達は一瞬静まり返るが、互いの顔を見合わせて首を傾げるのみだ。何の音か解らなかった。
 到着した天界城では、すでに仲間達が待っている。広間で手招きしている姿を見つけ、慣れてきた廊下を走って近寄った。
 大まかな予定は決まっている、アサギはトビィと昨日の村へ行く。天界人のソレル達も付き添うことになっていた。ライアン達も同じように昨日の不可解な洞窟へ出向く、アサギ以外の勇者達もそちらだった。
 神であるクレロは、地上の監視をしており手が離せないとのことで、出迎えはなかったが皆目的地へ向かった。
 アサギは外で待機していたデズデモーナの背に乗る、トビィがクレシダに乗る。ソレル達天界人は翼があるのでそのまま下界へと降り立った、一気に昨日の村へと急ぐ。
 今日は調査だ、他に不穏な場所がないか確認をすることが目的である。杖を胸に抱きながら、アサギは昨日の村の様子を思い浮かべていた。
 詳細はトモハル達から聞いた、リングルスを捕えたのは、最も強固な人物だと悟ったからなのか。偶然なのか。考えても結論は出ないが、明らかに”何者かの手の内で転がされた”ことは確かである。アサギが通った時、洞窟には何もなかった筈だが、ケンイチが通ったら罠が仕掛けられていた。
「こちらの動きを読んでいるとしか思えないな」
 トビィがそう呟く、忌々しそうに見えてきた村を見つめる。
 静まり返った村周辺に、二体の竜は降り立つ。遅れてソレルとマグワートも舞い降りた。鳥の鳴き声は聴こえてくる、特に今のところ不気味な感じはしない。
「再確認すると、事の発端は洞窟でケンイチ殿が魔物に遭遇し、同じく村では人間だった筈の者達が魔物に変貌しトモハル殿達を襲撃した、と。そしてリングルスが捕らえられ、トビィ殿にアサギ様が合流、村の地下で発見したリングルスを救出した、と。地上に蔓延っていた魔物達を消し去ったのはアサギ様、ですね」
 勇者アサギは万能だ、他の勇者とは格が違う。それは、驚異にも思えた。異界の勇者の能力が恐ろしく、ソレルは畏怖の念を隠しながら語りかける。
 アサギはぎこちなく頷くと、デズデモーナの背から降りて瞳を閉じた。周囲の気配を探っている、トビィもクレシダを降りて近づいてくる。剣が引き抜かれた、万が一に備えてだ。
「……何も感じません、もうここには何もないと思います」
 瞳を開いたアサギはそう告げた、ソレルとマグワートは、目配せしながら村へと歩いていく。手には二人の得意な槍が携えられていた。
「一応調査を、行きましょう」
 軽く溜息を吐き、トビィはアサギの髪を撫でる。手をつなごうとしたが、アサギはそっと唇に指を当てて「しー」っと悪戯っぽく微笑んだ。
 その艶めいた表情に一瞬顔を赤らめるトビィだが、先に向かった二人に気づかれぬよう、小さく頷く。
 アサギは、そっと杖を取り出した。布から出てきた杖に、トビィが瞳を細める。不思議な空気を発している、ただの杖ではないことなど、見て解った。
 そっと杖を地面と水平に掲げたアサギは、デズデモーナとクレシダの前に立つと瞳を閉じた。
「アサギ様? 何を?」
 何事かと狼狽するデズデモーナには答えず、アサギは神経を集中させる。短いスカートがふわり、と巻き上がる。足元から頭上へと空気が流れていく、髪が舞い上がる。光の粒子がアサギを包み込みながら、杖へと移動していく。
「いきますっ!」
「はぃ?」
「は?」
 間抜けな声を出した二体の竜は、眩い光に包まれた。思わず顔を背けたトビィと、光に気づき慌てて振り返ったソレルとマグワート。
 見たものは、竜の巨体が消えた瞬間である。
 勇者アサギは何をしたのか、と慌てて駆け戻った二人が見たものは、見知らぬ二人の男がつっ立っている光景だった。
 全裸で。
 小さく悲鳴を上げると瞳を手で覆う、アサギも驚いて顔を真っ赤にすると地面を見つめていたが、小さく杖を振りかざし、恐る恐る再び確認してみる。
「あ、あの、これは一体」
「……一体何をされました、アサギ様」
 顔面蒼白で自分の身体を触っている黒髪の男と、虚無の瞳でアサギを見つめている金髪の男。
 声で解った、トビィは思わず吹き出す。
「よう、デズ、クレシダ。縮んだな?」
「……アサギ様、何をされたのか話してください」
「え、こ、これはどういう」
 黒髪の男がデズデモーナ、二本の立派な角が生えた、長身の美丈夫である。金髪の男がクレシダ、同じく二本の角はそのままに、デズデモーナより若干低い身長で、身体が細めだ。二人共トビィと似たような衣装に身を包んでいる、人間年齢にして二十代前半程度に思えた。
「人間になれる魔法をかけてみました、これで今度から、トビィお兄様と離れることなく、一緒にいられます。姿が怖いと恐れられることもありません」
 下腹部は見ていないが、逞しい胸板を目の当たりにしたのでまだ顔が赤いアサギは、悪びれた様子もなくそう告げる。多少声が震えていたが。
 口を開いたまま、アサギを見つめていたクレシダと、デズデモーナは思い当たることがあり、大きく瞳を開く。
『……でも、不便でしょう? この姿だと、トビィお兄様が街へ行く時にはついていけないもの』
 先日、アサギが心を痛めた様子で自分に告げていた言葉を思い出していた。
「勝手にそのようなことをされましても、困ります」
「アサギ様! ありがとうございます!」
 抑揚のない声で反論したクレシダを遮り、デズデモーナはアサギに抱きついた。それは、普段ならばアサギに擦り寄る程度の感覚だったが、今は青年の姿だ。両腕でしっかりとアサギを抱え込み、自分を気にかけてくれていたことが嬉しく、何より”アサギと同じ姿になれたこと”に感動したデズデモーナは、あろうことかトビィの存在を忘れていた。
 竜と美少女、ではない。
 青年と美少女、だ。
「デズ」
 首を掴み、アサギからトビィが引き剥がした際の表情を見たクレシダは、頭を抱える。「アサギ様は疫病神」小さく漏らした。
「いかがされました、主。そのように引きつった顔で」
「どうもこうもない、アサギにやすやすと触れるな」
「そう言われましても、今の今までアサギ様は私の背に乗っておられまして」
 四つん這いになっている人型のデズデモーナの背に、アサギが跨っている様子を思い浮かべたトビィは、全力でデズデモーナを殴りつける。初めて殴られた為、小さく吠えたデズデモーナだが自分が何をしたのか全く理解出来ていなかった。
「何故殴られたのか!」
「……面倒なことになったな」
 それでも、アサギは微笑んでいた。この目の前の姿ならば、自由に人間界も行き来出来るだろう。竜に戻りたい時も念じれば簡単に戻る筈だ、全裸になることは避けねばならないが、なんとかなるだろうと解釈し、嬉しそうに微笑む。が、急に神妙な顔つきになると何処か遠くを見つめた。
「トビィお兄様のそばを、離れてはいけないのです。貴方達は」
 こぼした声は、罵倒にかき消された。
「アサギ様! その杖、何処から持ち出したのです!?」
 次は、アサギが叱咤される番だった。
 
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