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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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よし。



 トモハルから村の詳細を聞いたアサギは、眉を潜める。この村は一体何なのか、全く解らない。トモハルと会話した少年は、おそらくは人間だったのだろう。が、リングルスに埋め込まれたような寄生触手を同じように”誰かに埋められ”変貌した、と考えるのが一番受け入れられる。
「人体実験みたいだよね」
 ケンイチが呟く、全員天界へと戻ってきているが、今広間でクレロ待ちをしていた。一応皆無事だったので安堵しているが、腑に落ちない。リングルスの体調も良好で喜ぶべきなのだが、笑顔は引き攣る。
 暫し沈黙が訪れた、魔王を倒した勇者達は、更なる試練が待っていることなど予測していなかった。
 出された茶を啜っていたが、慌ただしい足音ともに、勢いよくドアが開かれる。
「待たせたな、すまない。ライアン達も奇っ怪なものに遭遇していて」
 全員、顔を引きつらせて椅子から立ち上がった。入室してきたクレロは微笑むと、座るように手首を揺らす。
「大丈夫だ、落ち着いた。すぐにこちらに来るだろう。皆もご苦労だったな」
「とりあえず私達は帰るぐ。アサギ、まただぐ。何かあったら私を召喚するんだぐ」
 リュウが立ち上がると、歩き出す。バジルも軽く会釈をし、リングルスを支えて続いた。エレンはリュウの肩に乗る、控えめに微笑むと手を振る。
「ありがとう、幻獣星の王よ」
 クレロが声をかけたが、リュウは返答しなかった。無愛想な態度に「仲間が危機に瀕していたのだから仕方がない」とクレロは苦笑する。しかし、心痛だった。自分が疑われていることは勘づいているのだが、露骨に態度に出されると堪える。
 現神クレロが即位する際に、先代の神に心配されたことは『君は他人の顔色を窺い過ぎる』ということだった。『神に即位したら、自信を持って自分の意見を述べなさい。正しいと思って行動しなければ、皆不審がる』そう言われたが、簡単に出来るものではない。
 高圧的に振舞っている気がして、クレロは苦手だった。神には相応しくないのではないかと、自分で思っている。その自信がないからこそ、余計周囲に不安を与えているのだが。
「クレロ様、あの村はどうしましょうか」
「調査に行く、万が一に備えてアサギとトビィは明日も手伝って欲しい」
 不穏な空気を払うように、アサギが問う。クレロが口元を綻ばせてすぐに返答をした、明日は日曜日で学校は休みだ、午前中は祖父母からの稽古があるが、午後は空いている。ミノル達も午前中はサッカーの練習だが、午後は暇だった。ダイキは夜から剣道の稽古で、今この場にいないがユキは。
「ユキも空いている筈です」
「あとで連絡しておくよ」
 アサギとケンイチが頷いた、人数は多い方が心強い。
 明日の予定について会話していると、アリナの元気な声が聴こえてくる。いきなり飛びつかれて頬に口づけされながら、アサギは嬉しそうに笑った。
「やっほーい、アサギ! 今日も可愛いっ」
 アリナの首根っこを掴み、引き剥がしたのはトビィだ。不服そうに唇を尖らし、暴れるアリナを睨みつけている。
 騒々しくなった部屋から、笑いが溢れた。ミノルも、笑った。笑いの中にいたら、笑える気がした。
「そうだ、俺はこれでいい。俺がいないほうが、アサギは楽しそうだ。今も、笑っている」
 皆に囲まれて、愛されているアサギを見つめ、笑う。寂しそうな横顔に、トモハルは何も言えずただ親友を見つめていた。
 互いにまだ想っているだろうに、歩み寄らないことは解っていた。二人共、そういうタイプではないからだ。アサギは”自分のことを嫌っている”と認識すると極力近寄らないようにする。トモハルは、気づいていた。
「アリナ達は大丈夫だった?」
 アサギに不安そうに聞かれ、肩を竦めてアリナは出された茶を啜る。ライアンに目配せすると「洞窟の奥で奇っ怪な音を出す”何か”に遭遇し、逃亡したのも束の間、洞窟の出口で動く土に襲われた。火炎の魔法で辛うじて撃退したものの、また調査に行かねばならない場所だと思う。意味が解らない」と話し出す。
「あれに似てるよ、やっぱり、絶対! 邪教の人達が絡んでる、あの人達、妙なもの作れるんだよ、それこそ科学に近いものがないかな」
 ケンイチが勢いよく叫んだ、ダイキも頷く。邪教に関わった勇者は、この二人だ。特にケンイチは不気味な球の製造過程を、目の当たりにしている。
 茶を優雅に啜り、焼き菓子を口に運んでいたミシアは、眉一つ動かさず聞いている。
 白熱した言い合いが続くが、結論は出ない。何も解決していない、皆が無事だったことは喜ぶべきだが。
「同時に変なモノに遭遇するなんて、不思議ですね」
 アサギがすんなりと口に出したが、クレロが顔を顰める。偶然にしては妙だと思っていた、まさか陽動だったのでは、と訝しむ。「嵌められたのか?」となると、何か別の場所で重大な事が起きたかもしれない。世界の監視を続けるべく、クレロは踵を返した。
 
「皆、今日はご苦労だった。明日もよろしく頼む、出来ればここで寝泊りしてもらえると助かるが、無理強いはしない」
 数人は頷いた、すぐに出撃出来たほうが良いに決まっている。勇者達は帰宅するが、そのうち泊まってみたいと思った。
「あの、クレロ様」
「どうした、アサギ」
 控えめに話しかけてきたアサギに、立ち去ろうとしていた足を止める。クレロの目の前で、アサギは申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「えーっと、図書館ってありましたよね?」
「図書館? あるが、何か?」
「私が見ても大丈夫ですか? 色々調べてみたくて」
 思いがけない発言に、クレロは瞳を丸くする。「勇者が勉強とは、また熱心な」と感心した。しかし、申し訳なさそうにしている意味が解らない、図書館くらい勝手に行き来しても大丈夫だ。
「それから、えーっと、あの、天界のお城って宝物庫みたいな場所ありましたよね?」
「あるが、それが何か?」
「私が見ても大丈夫ですか? 珍しいものを見るのが好きなのです」
 一瞬首を捻ったが「流石女の子だな」と勝手に解釈し微笑む。
 何が流石、なのか意味不明だ。控えていた天界人が咳をしたが、クレロには届かなかった。
「あぁ、良いよ。アサギが来たら、見せるように警備に伝えておこう」
「ありがとうございます!」
 嬉しそうに微笑んだアサギに、クレロも微笑む。
 傍から見ていると、誰の目にも贔屓している、とより溺愛しているように見えた。天界人は美しいものを好むが、やはり神もか、と皆げんなりした。
「……待っててね、デズデモーナ、クレシダ、オフィーリア」
 アサギは、安堵して瞳を閉じた。 
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