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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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うあー



 もし、願いが叶うのであれば。次に、次に逢えたなら。

「普通の女の子。……賢くなく、美しく、好きな時に抱ける女。そんな子に、なりたいです」
「アース!」

 名を呼ぶ声が聴こえたので、アースは一瞬目を開いた。だが、自嘲気味に微笑むと再び重い瞼を閉じる。「トリプトルが来るはずはないのです」

「しっかりしろ、アース! 聞こえるか、返事をしろ!」

 小屋の裏手で倒れ込んでいたアースを発見したベシュタは、慌てて抱き起こした。しかし、胸に手をあてると心臓は停止している。

「な、なんということだ」

 愕然として、震える手で頬に触れる。涙がその頬に垂れた。

「アースが何処かへ避難させたんだ、彼女は土の精霊じゃないよ、もっと別のものだ」
「そんなことはどうでもいい。アース、オレは頼りないか? 頼むから頼って欲しかった、何を言われても必ずその願いを叶えるから。何があっても傍にいる、オレは裏切らない」

 トロイが片膝つき、アースの髪を悲痛に撫でる。声が震えていた。

「愛している、アース」
「……好きだよ、アース」

 リュミが座り込み、不器用に笑った。大粒の涙がこぼれて、アースの腕に落ちた。

「ずっと、友達だ。だから遠慮なく何でも言ってよ、それが僕は嬉しい」
「愛している、アース」

 戸惑いながらも、ベシュタはそっとアースの唇に口づけた。まだ柔らかく、暖かい唇を感じ、胸から熱いものが込み上げる。

「すまない、この唇はトリプトルのものだったな」

 すぐに唇を離すと、自嘲気味そう告げる。何度も髪を、頬を撫でベシュタは愛している、を繰り返す。
 地鳴りがした。
 惑星スクルドが育成主を失って、崩壊するのだ。アースが避難させるべき者たちは、すでに被害を受けない惑星へと、転送されている。この破滅の惑星に残っているのは、四人だけだ。

「良い最期だ、共に死ねる」

 晴れ晴れしい笑みを浮かべたベシュタに、トロイが喉で笑う。リュミも肩を竦めた。

「そうだな。生きていても仕方がない、知っているか? 魂は輪廻するそうだ、想いが強ければまた同じように生まれ変われるらしい。オレはアースとまだ過ごしたい、必ず同じように転生するさ」
「じゃあ僕も! みんなで宇宙の創造主様にお願いしようよ、きっと叶えて貰えるよ」
「宇宙の創造主、か。そういえば古い記述にそうあったな、忘れていた。神などよりももっと高位な存在、全宇宙を掌握し、見守っているだけの麗しき女神。名は確か、アサギ」
「では、宇宙の女神アサギよ。どうかオレ達をまた、アースと巡り会えるように配慮してくれ。オレはまだ、彼女の願いを叶えていない」
「宇宙の創造主は、マリーゴールドっていう場所にいるんだって」
「マリーゴールド? アースが育てていた花の中にそういう名前のがあったな」

 三人は、そっとアースの身体に触れた。互いに視線を交わし、力強く微笑む。絶望などしていなかった、死する惑星で彼らが見出したのは、未来への希望。 
 数秒後、全員の身体が弾け飛んだ。惑星スクルドが内部から爆発し、宇宙の破片になったのだ。
 その爆発は、周囲の惑星を巻き込んだ。連鎖反応で、もしくは吹き飛んだ破片が隕石として落下し、損害な被害を被った。惑星スクルド、主星アイブライト以下、男神と女神が統治していたとされるアイブライト系の銀河は、消滅した。周辺にいて、免れた惑星もあったが、暫くは大気が不安定になった。得体の知れない恐怖に怯え、宇宙の創造主を”戦乙女”として奉っていた惑星は、言い知れぬ不安から争いがおき始める。
 男神クリフの惑星クレオは、そんな中で安定した銀河にたゆたい、来るべき時まで待ち続けていた。
 惑星の連鎖崩壊で発生したビッグバンにより、宇宙には新たな惑星が姿を現した。消えゆくものあれば、産まれるものもあるのが、摂理だ。太陽系、と呼ばれることになるその場所に、地球という名の美しい水の惑星が出来上がるのは、暫く先のことになる。地球は、別の国で”アース”と呼ばれた。
 誰が、つけたのだろう。
 その地球アースという惑星に、アサギという名の少女が産まれるまでは、気が遠くなるような時間を要する。が、もうそれは誰にも止められない運命。

「何もなき宇宙の果て 何かを思い起こさせる
 向こうで何かが叫ぶ 悲しみの旋律を奏でる
 夢の中に落ちていく 光る湖畔闇に見つける
 緑の杭に繋がれた私 現実を覆い隠したまま
 薄闇押し寄せ 霧が心覆い 全て消えた
 目覚めの時に 心晴れ渡り 現実を知る
 そこに待つのは 生か死か」

 ガーリャは崩壊していく惑星で、静かに唄った。美しいだけで取り柄がない、と言われていたので、唄を覚えた。竪琴も拙いが奏でることもできた。独りきり唄っていた、使用人達は逃げてしまい、両親もいなくなった。
 助けなど、来なかった。
 良い家柄に産まれ、名誉ある男達と結婚したにも関わらず、なんて惨めな最後かと嘲笑し、嗚咽する。気づけば、女神が審議を行う間に来ていた。足元が不安定で、必死に休める場所を探していたらそこにいた。
 息が、止まった。
 煌く紫銀の髪が揺れていた、トリプトルが立っている。
 思わず腕を伸ばしたが、声はかけなかった。
 目の前の巨大な映像に、何かが映っている。途切れており、歪むが見ることは出来た。
 ベシュタがいた、他にも知らない男達がいたのだが、問題はベシュタが抱いている少女だ。目映く爽やかな黄緑色の髪の少女。整った顔立ちは、施工な人形の様だった。
 ガーリャは理解した、彼女こそが、土の精霊アースであると。ベシュタとトリプトルの心を掴んで離さない、美貌の娘であると。

「なんて、羨ましい子」

 小さく呟く。一心不乱にその映像を見つめているトリプトルをその場に残し、ガーリャは気づかれないように踞る。
 ガーリャは、そっと、もう一度だけアースを見つめる。「あの子みたいに、なりたいわ。幸せでしょうね、自分を愛し続けてくれる人に出会えて」
 存在には気づかず、トリプトルは涙を零していた。

「あそこは、オレの場所だったのに」

 ベシュタを睨みつける、アースに口付けているその姿を憎悪に満ちた瞳で穴が空くほど見入った。「やっぱり口付けしてやがるっ」歯を食いしばる。ゴリリ、と歯が欠ける音がした。
 アースがすでに息絶えていることを、トリプトルは知らない。アースを囲み、親友だったトロイと、好感が良かったリュミ、何処まで行っても近寄れない因縁のベシュタが目の前に映っていた。
 アースを見つめる、殴り続けたはずの顔は、完治し、美しいままだった。

「治癒能力まで高いのか、大したもんだ。お前は誰彼構わず惹きつける、本当に忌々しい馬鹿女だよ。オレのものだったんじゃないのかよ」

 トリプトルは知らない、アースの気持ちを。

「裏切り者っ!」

 吐き捨てると、見たくないというように腕で視界を遮った。「あぁ、でも、本当は、それでも」
 腕をゆっくりと開き、アースの顔を再び見ようとした。が、映像がそこで途切れる。惑星スクルドが消滅したのだ。
 だが、瞬間。
 見間違いかもしれなかったが、トリプトルの目に飛び込んできたものがある。アースの胸元にあった、深紅の石。記憶があった、あれは確か。

「オレがあげ」

 考えがまとまる前に、主星アイブライトも崩壊した。トリプトルもガーリャも、爆発に巻き込まれる。
 原因を正確に知る者は、その惑星にはいないように思えた。が、精霊達以外はみんな知っていた。
 そして、消滅した惑星達を眺めていた惑星達も、知っていた。

 ――宇宙に多大な被害が。
 ――だから止めろと説得したのに。

 遠い星に住む者達は、遥かなる悠久の時間を得て、流れ星を幾つも夜空に発見することになる。降り注いだのは、死滅の光。
 回避できる筈だった、最悪の事態。

『昔々あるところに、主星アイブライトに住む男神と女神が統治する銀河がありました。そこに産まれた土の精霊アースは、火の精霊トリプトルに恋をし、またトリプトルもアースに恋をするのですが、上手くいきませんでした。
 アースの美貌と膨大な潜在能力に畏怖の念を感じ、嫉妬した時の女神が彼女を罠に嵌めて葬りさろうとしたのです。
 二人の仲を光の精霊ベシュタを派遣し破壊させ、アースの協力者である水の精霊トロイと風の精霊リュミの動きを封じました。
 自分ではなくベシュタに心変わりしたと思い込んだトリプトルは、愛していたアースに暴行を加えました。愛情が、歪んでしまいました。自我を崩壊させるまでに、愛していたのです。
 何をされても、アースはトリプトルを求めていましたが、結局二人の仲は戻らぬまま、その銀河は崩壊してしまいます。
 捨てきれない願いがありました、憎みながらもアースと共に居たいと渇望していました。何をしたらその心が動かなかったのか、戻るのか彼には解りませんでした。
 叶えたい願いがありました、アースは願いを言いませんでしたが、その言葉を待っていました 
 貫きたい意志がありました、一度は女神に取り込まれましたが、アースを愛し、選び、共にいようと誓いました。 
 護りたい人がいました、アースは親友でした。何があろうとも、傍にいようと願いました。 
 伝えたかった言葉がありました、”愛しています”です。言われたかった言葉がありました”愛しているよ”です。 
 宇宙に被害を撒き散らしたこの銀河の物語は、一部の者たちが知っていましたが、語られることなく宇宙はまた、静かに時間を刻んでいきます。』

 そして、始まる。願いが終わるまで、続く。絶望に取り込まれ、真実を黒で塗りつぶし、願いを忘れ、別の願いに書き直すまで、終わらない物語。

 キィィィ、カトン。

 誰かが願いを諦めれば、物語は、終わる。
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