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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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完結!



 神殿が崩れていく、エロースは金切り声を上げて醜く地面に這いつくばっていた。近くに控えていたユイとミリアも悲鳴を上げ、テーブルの脚にしがみついている。
 突如襲った地震により、主星アイブライトは崩壊しつつある。
 小刻みに振動が始まり、縦揺れになった。収まるかと思ったが、揺れは大きくなっていった。
 二人の神によって統べられている宇宙、その主星に地震など起こりえない。人間達が文字通り天上の麗しき人々、と呼んでいた精霊達は阿鼻叫喚の中にいた。
 そんな中、エロースに必死に語りかける男がいた。

「エロース様! 惑星スクルドですが崩壊の兆しがありませぬ! 育成途中で純潔を失った場合は確かに愚行ですが、もしやすでに完成していたのではありませんか? とすると、アースは冤罪です」
「何を今更! そんなことよりこの状況を報告せよ、一体何が起きたというのだ」

 地震が起きる前、偶然スクルドについて調査していた男だった。純潔を失い、育成能力が消えてしまう場合、貴重な記録が残せる為、この男は惑星を眺めていた。過去の資料から、土の精霊は急速に力を失うと知っていたのだが、一時アースの力量が極端に落ち込んだが、今は戻りつつある。
 首を傾げて、数人で見守った。
 記載通りならば惑星からは酸素が失われる、水が枯渇する、命あるものが足を踏み入れられなくなる、とあった。死の惑星が誕生するか、内側から爆発して消滅するかどちらかだ、とあった。
 惑星スクルドは、その兆しがない。
 未だに動植物は元気にしていた、アースも普通に生活していた。
 不審に思ったので、女神に報告に出向いたのだ。

「原因は調査中ですが、他惑星でも地震が多発していると。しかし女神よ、アースの件を有耶無耶にしてはなりませぬぞ。貴女様の威厳に関わります」
「今はそれどころではないだろう!? たかが一人の小娘が冤罪だとして、何か変わるのか。どうでも良いだろう、今はこの状況を」

 ……何処までも身勝手な。
 ……自分が頂点に立っていると思い込んでいる、なんて浅はかな!

 声が響いた、怪訝に顔を上げるエロースと、引きつった笑みを浮かべる男、そしてミリアとユイもその声に気づき、声の主を探す。

 ……我らは覚えているのに、自ら”神”と名乗る者が創造主を忘れているとは、情けない。
 ……全てを委ねて暮らす我らと違い、明確な目的を持って生きるモノ達は、勘づくモノもいるがほとんどが覚えていない様だ。
 ……彼女が宇宙を常に見守ってくれていたからこそ、そなたらの宇宙が安定し、こうして”神”を名乗れるというのに。
 ……初代の神は、覚えていた。何処で、忘れ去られてしまったのだろう。
 ……神こそが最も創造主に感謝し、皆に伝えていかねばならないのでは。
 ……あろうことか、創造主が初めて御創りになられた惑星を消滅させるなどと。

 声は、何が発しているのかすぐに解った、だが受け入れられなかった。皆唖然とその光景を見つめていた、何も考えることが出来なかった。
 ただ、死を直感した。
 途端、ミリアが悲鳴を上げる。高音のそれにユイも悲鳴を上げる。互いに悲鳴を上げていることなど気づかず、喉を潰す勢いで、内蔵を全て外にぶちまける勢いで、叫んだ。
 崩壊した女神の神殿に、木々が入ってきた。枝を動かしながら、静かに蠢いている。大きさに違いはあれども、緑の葉を生い茂らせた木々だ。

 ……我らは創造主の代わりに戦う。

 違う声に振り返れば、狼達の群れに取り囲まれている。
 流石のエロースも何も言えず、この状況を見つめる。
 何故、木がしゃべっているのか。狼は何を言っているのか。

「創造主?」

 とは、何か。

 ……ここまで言っても何も思い出せぬとは。男神は薄々勘づき、創造主を敬っていた。

 話が繋がらない、近寄ってくる木々に悲鳴を上げ続けている二人の巫女が煩くて、止めるように告げたが、その言葉は声として出ていない。

 ……無に帰る、創造主は我らがお守りする。
 ……創造主の願いを打ち砕いた、愚かなモノよ。

 狼達が一声に駆け出すと、喉元に喰らいつく。抵抗することもなく、エロース達は身体を大きく痙攣させ、息絶えた。

 ……何故、忘れてしまったのだろう。皆必ず、創造主の腕に抱かれていたのに。
 ……自然の摂理に従って生きるモノは忘れはしない、創造主の息吹を身近に感じられるから。だが、無駄に知識をつけたものはその存在を否定してしまうのだ。自分達が一番高等であると信じているから。未知の存在は恐怖の対象であり、排除せねばならないと思考がまとまる。

 木々と狼は、項垂れて神殿を出た。精霊達が我先に逃げようと、死に物狂いで駆けずり回っている光景を、哀れみの念を込めて見つめる。

 ……逃げる場所など、存在するが行けはしない。宇宙とは、この区域のモノ達が掌握しているよりも広大だ。ここは、宇宙の一角、僅かな場所。遥か遠くに、同じように生活しているモノ達はいるが、そこへはたどり着けぬよ。そんな技術、今、ココにありはしない。

 風に乗って、男が手にしていた書類が木々の前を横切った。コナラの木がそれを見つめる、枝に引っかかった。

 ……お気の毒に、アース様。異質な貴女様は受け入れられなかった、ですが諦めてはなりません。どうか、その願いを叶えてくださいませ。我らはいつでも御側におります。

 木々は、惑星スクルドが浮かぶ方角を見つめひれ伏した。一声に、動物達が、地面の小さな草花が、まるで太陽に顔を向けるように、同じ方角へ頭を下げる。
 精霊達だけが、この狂ってしまった主星スクルドから逃亡しようと、必死に転移の間へ向かっている。

 転移の間は、我先に脱出しようと溢れかえる精霊達で埋め尽くされていた。押し合い、時折倒れこみ、罵声を浴びせながら皆鬼のような形相を浮かべている。数人は圧死したようだが、気にとめるものはいなかった。

「こうなると、酷く醜いものだな。人間達に奢り高ぶっていた種族も、死を前にするとこうも不愉快になるのか」
「同じにはなりたくない、な」


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