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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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次がラストー。がんばったー。
今日の夕飯は野菜ときのこのスープにして執筆ー。


 惑星スクルドへ行くには、転移しなくてはならない。転移する場所は、主星アイブライトであろうとも、一箇所しかない。当然そこは気軽に行き来出来る場所ではなく、警備も強固だ。また、安易に行くことも出来ない、行き先操作を誤ると、別の惑星へ飛ばされるか、最悪宇宙に放り出される。
 誰かを人質にし、脅してスクルドへ飛ばしてもらうしか方法がなかった。誰かを殺してでも、強行突破するつもりだったベシュタに、怖いものは何もない。
 しかし、想定外の事態が起きていた。
 向かう途中で、皆が不安そうに眉を顰めている。子供を抱き上げ、走り回っている者もいた。転移装置へ近づいていく程、皆慌しげに、強張った表情になっていく。書類を手にし、怒鳴っている者もいる。
 それでもベシュタは、今優先すべきことは惑星スクルドへ行くことだと先を急ぐ。と、足元が揺れた。初めての感覚に思わず壁に手をつく。
 悲鳴が聞こえる、「まただ!」と怯えた声が耳に届いた。地震である。
 主星アイブライトに地震が起こることなどない筈だが、地盤の為他惑星では頻繁に発生する区域もあると習った。気味の悪い縦揺れに、額を押さえる。
 地震は、何度も起こった。これが喧騒の原因かと思ったが、無視をした。
 転移装置は、普段よりも閑散としている。
 地震の件で出払っているのか、警備も少ない。安堵し、ベシュタは徐に近づいて行った。皆、真剣に何かに目を通していた、故にベシュタの存在に気づかない。
 そっと槍を出し、一気に喉元に突きつけるとフードを外す。

「惑星スクルドへ飛ばせ」

 槍先が突きつけられている者は、微動だ出来なかった。動けば、少なからず傷を追う。硬直したその者に代わり、隣の者が慌てて武器を手にしようとしたが、ベシュタに凄まれ身を硬くする。

「惑星スクルドへ私を飛ばせ」

 再度告げたベシュタを、少ないながらに警備兵が取り囲む。しかし、槍を見せ付けると皆手出しが出来なかった。
 脅迫している男は、長年転移装置の管理をしている男だ。捨て駒に出来るような精霊ではない、ベシュタは運が良かった。

「し、しかし、あの惑星は消滅だと」
「構わない、私は罪人でどの道死刑になるだろう。人知れず病気として葬り去られるかもしれないが……この先もう、長くはない。行かせて欲しい」

 目配せし合い、どうするか躊躇する精霊達だが、観念し許可が下りた。自分が飛ぶまで、人質から槍を離さず、ベシュタは転移装置に入る。別の惑星に飛ばされては困るので、行き先を確認した。装置の前の水晶には”スクルド”と映し出されている。間違いない。

「ありがとう、助かった」

 礼を言い、転移していくベシュタに困惑気味に頭を下げた者達の前を、誰かが一気に通り過ぎる。大きく瞳を開き、思わずベシュタがその名を呼んだ。

「トリプトル!」

 転移装置は、二人を惑星スクルドへと連れて行った。

 アースは、小動物達に囲まれながら慌しく動いている。小屋の外に植物を出していた、室内で栽培していた花の鉢を運んでいる。重い物は以前トロイが動かしてくれたので、アースには苦しかったが自分しかいないのでやるしかない。落とさないように、何度も休憩をしながら全て外に出す。
 ようやく全て運び終え、満足そうに微笑んだアースは、物音を聞いた。自分以外に精霊は居ない筈だが、声がした。思わず、慌てて近くにあった毛布を被り、広間の隅に座り込む。

「どうして来た」
「別に。あんたらの死に様を見ようかと思って」

 アースの身体が震える。声はトリプトルとベシュタだ。
 久しぶりに聴いたトリプトルの声に、思わず涙が込み上げた。以前、聞きたくて仕方がなかった、大好きな声だ。何故ここにいるのか解らず、姿を見せることが出来ずにその場で身を潜める。
 声は、怒気を含んでいた。余計に出て行けなかった。

「早く戻らねば、巻き添えになるが」
「あぁ、こんな惑星吐き気がする。帰るさ、オレは忙しい」
「神だからな」

 神。アースは唇を動かした、せめて姿を見たいが、動けずに声だけを懸命に聴く。「神に、なられたのですか」疑いが晴れて抜擢されたということだろうか。アースは思わず微笑むと「おめでとうございます」と呟く。

「あぁ、神になった。こんな馬鹿げた惑星になんざ用はない」
「誰のおかげでその地位を得たと思っている、アースのおかげだろう」

 自分の名が出たので、アースは身体を震わせた。部屋の隅で毛布が動くが二人は気づかない。
 顔を大きく歪ませると、無表情で自分を見ていたベシュタに唾を吐き捨てた。思わず眉を顰めたベシュタだが、何も言わない。

「自分の判断だ! あの馬鹿女なんざ知らない!」

 吠えるトリプトルに、ベシュタはわざとらしく溜息を吐く。

「そういう言い方はないだろう、女神と契約したのだろう? それとも脅迫されたのか」
「アンタだってそうだろ? 女神の指示通りに動いて、あの女を”愛した”。愛してもいないくせに、田舎女を容易く手中にした。騙す方も悪いが、騙されるほうがもっと悪いと、オレは思っている。だからオレは別にアンタが嫌いじゃない、寧ろこんな状況になって哀れんでいる。美しい妻もいたのにな? 貴族という地位に目が眩んで、簡単に股を開いた女なんて、アンタも遠慮したかったろうに、気の毒だ」

 ……馬鹿女。

 嫌われているとは知っていたが、次から次へと出てくる言葉にアースは震えながら耐えるしかなかった。耳を塞ぎたかったが、動いてはならないと必死に足に爪を立てて堪える。

「そうだな、アースに出会ったことは計算外だ。出世街道に乗り、迷うことなく進んでいた筈だが、失敗したようだ。まんまと君に神の座を奪われてしまった」
「お気の毒!」
「あの時、女神にアースを誑かすように言われなければ、こんなことにはならなかったろうな」
「アンタも甚大な被害を被ったなぁ、不憫だ。憎んでいるだろ、あの女を」

 ……憎んでいる。

 二人が自分について話していることは、理解出来ていた。トリプトルに嫌われていることも、承知していた。しかし、ベシュタにも疎ましく思われていたとは知らなかった。

「トロイとリュミも今後に影響しないと良いけど。まぁ、神になったオレが、その辺りは一肌脱ごう」

 ……みんなに私は迷惑をかけていた。

「あぁそうだ、アンタも助けてやるよ。一緒に戻ろう、神であるオレならば、アンタを無罪に出来る。極悪人アースに手を差し伸べた優しい精霊の、悲惨な末路を皆に話せば納得するさ。死罪は、あの女だけで十分だ」

 足音が遠ざかって行った、主星に帰ったのだと思ったアースは、力なく毛布から這い出る。床を見つめ、這いつくばった。溢れる涙を、止めることができなかった。「一体私は、何の為に存在していたのでしょう」震える声が語る。

「最初から、要らない子でした。他の家族は皆、幸せそうでした。私は異質で嫌われ者だったから、両親にも見捨てられていました。私が子であることを、恥じていたのでしょう。せめて育てて頂いた御恩に、と惑星の育成を開始したら……」

 ……皆が不幸になりました、私のせいで、皆の生活が狂ってしまいました、私と出会ったせいで!

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 床に伏せて泣き喚く。泣いてもどうにもならないが、泣くことしか出来なかった。

「愛していると! 愛していますなどと、私ごときが思ってはいけなかったのです! 愛しています、などと告げて私は何を期待していたの。あの人が愛してくれるわけがないのに! なんて独りよがりで身勝手な妄想!」

 ……嫌われて、当然でした。

 一頻り泣くと、ようやく立ち上がる。壁に手を添えて、歩き出す。一刻も早く、これ以上の犠牲を出さない為にできる限りのことをしなければと、思った。
 外に出て、鉢植えに声をかける。

「大丈夫、遠くの惑星へ避難してくださいね。安全な場所へ送り届けます、ごめんね、そしてありがとう」

 黄色と橙色の花が、微かに揺れた。
 アースが瞳を閉じ、そっと手をかざすと、忽然と鉢植えが姿を消す。
 隣の、大きな紫色の花にも手をかざす。同じように、瞬時に消えてしまう。アースは次々に、鉢植えを消していった。何処の惑星にたどり着いたのかは分からないが、同じような環境の惑星に”転送している”。
 鉢植えが終わると、次は一面に生い茂っている草をそのまま消し去った。木々も消えていく、鳥も、リスも、狐も消えていく。
 瞳を閉じると、無事に別の惑星で根付く姿が見えた。アースが送った植物や動物は、若干発光していたが、時間が経過するとそれも薄れていった。

 ベシュタとトリプトルは、大木の下に来ていた。何故かついてくるトリプトルに眉を顰め、重い溜息を吐く。

「……早く帰ったらどうだ。私はアースを捜している」
「返事を聞いていない、オレが助けてやるんだから、一緒に戻ろう」
「断る、一体君は何がしたいのか」

 眉を吊り上げ、語尾を強める。「全く、こんな男のアースはどこがよかったんだ」そう唇を動かしたが、トリプトルには解らない。

「迷惑してるんだろ? あんな女、愛していないんだろ?」

 静かにベシュタは大木を見上げる、豊かな葉が揺れていた。何か伝えたそうだった。しかし、話しかけてこない。

「……私は確かに、神になるという野心で生きてきた」
「知ってるさ、だから女神の策略に乗った」

 トリプトルには答えず、ただ語る。自身に言い聞かせているのか、大木に聞いて欲しいだけなのか。ベシュタにもそれは解らなかった。

「彼女に出会って世界が変わった。確かに最初は騙す目的で近づいたが、今は愛している。彼女と共に生きたいと願っている、あの小さく震える身体を私が支えたいと思っている。『計算外だ』私が誰かをこんなにも愛おしく狂おしいと想うだなんて。だが、心地よいものだ。知らなかった」

 後ろ姿のベシュタを見つめ、トリプトルは雷に打たれたかのように背筋を伸ばし硬直する。

「アースを愛している」

 身体の中で、炎が燃え上がる。耳元で誰かが囁く。『なんて苛立つ奴! 放っておけば直に死に絶える』

「早く死ねよ、アンタ見てると吐き気がするよ」

 ……横取りした癖に! あの女はオレのものだったのに!

 両手から炎が巻き起こる、大きく振り被り、ベシュタを憎悪の瞳で見つめると投げつけようとした。だが。

「そうだ、君に訊いておきたかった」


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