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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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あと少しー。




 トリプトルが次期男神候補に現女神の推薦があって立ったことにより、ノートゥング家は沸き立った。火の男神は初めてのことだ、最初に名を残すことが出来るとあれば、涙を流して喜ぶ。
 しかし、腑に落ちない者達もいた。
 そもそもトリプトルが育成を放棄しているとの情報があり、光の精霊ベシュタが真偽を確かめに、そして補修の為に向かったのだ。一部の者達しか知らないが、この件に不信を抱く。
 男神クリフの失脚を望んだ女神の強欲が原因だとは思った、しかしこちらも証拠がない。何より、女神に意見する勇気を持つ者がいなかった。
 だが、男神を女神の一存で決めて良いものだろうか。
 精霊達は困惑し、口を噤む。

「エロース様、ベシュタはどうしますか?」

 ミリアが砂糖菓子を差し出しつつ、エロースに話しかけると上機嫌のエロースは軽く顔を歪める。

「本人に問う。トリプトルと違い、あやつは扱い難い。我が身が大事か、小娘が大事か、本人に選ばせる。ベシュタ、トロイ、リュミを”トリプトルの件で話がある”と伝え呼び寄せよ」
「承りました、ではアースの処刑は先送りですか?」

 鼻で笑うと、エロースは砂糖菓子を一つ摘み、指先で潰す。さらさらと粉が床に落ちた。

「いや、三人を呼び寄せた時点でアースにはスクルドごと消滅してもらう」
「なるほど、三人が居てはあの出来損ないの惑星を破壊することが出来ないのですね」
「そうだ。ほほほ、愉しいこと」

 ミリアは胸を撫で下ろす、軽く微笑むとユイと視線が交差した。

「トロイは、死んではならない男よ。私、彼を愛しているの」

 勝気にそう言うと髪をかき上げる、聴いていたエロースは声高らかに笑った。

「そうだったか、なかなか目が高い。自分のものにしてしまえ、私が許可しよう」
「ありがとうございます、エロース様!」

 機嫌が良いと分かっていたので、あえてミリアは本音を吐露した。ユイは腹の底から笑い合う二人に、静かに溜息を吐く。この二人が好色だというのは前から知っていた、だがついていけなかった。

「ユイは? あのリュミという少年はどう? なかなか似合いよ」
「私にはまだ、色恋ごとは」

 控えめにそう言うと、再び二人は笑い出す。男を知らねば女ではない、と馬鹿にされたがユイは必死に耐えた。

「私はね、ユイ。トロイをずっと見ていたの。エロース様の巫女としてお仕えするまで同じ学び舎にいたのよ。水と闇の精霊は交流があるから、彼に会えることだけを楽しみにしていたわ」
「それは知らなかった、だがミリア、一人の男に現を抜かすのは愚かな事。自分に現を抜かす男達を大勢作ってこそ女だ」
「流石はエロース様! ですが、エロース様のように美の結晶でもありませんし、身の程を弁えますわ」

 ユイは内心絶句しながら聴いていた、ミリアのエロース言葉褒めが始まる。彼女はこうして、エロースに取り入ってきた。確かに、女神に気に入られていれば生活は楽だ。陰口も気にならない、それどころか自分を恐れてくれる。まさに虎の威を借る狐だ。
 女神の巫女になる為には、巫女専用の特進科へ進み、成績と容姿、そして女神に使命されることが条件だった。
 ユイは裕福な家に産まれなかったので、両親から期待を課せられ、必死に努力し、巫女になった。友達を作ることもままならず、周囲は皆敵だった。這い上がるその野心をエロースに見い出されたのだ。
 巫女になり、アースの存在を知ると忘れたはずの劣等感が蘇った。女神が一目置く少女は自分と同じ歳で、美しかった。友達にも囲まれ、楽しそうだった。
 もし、年齢さえ違っていたらそこまで憎悪の対象にならなかっただろう。同じように貧相な家に産まれ、死に物狂いで勤勉に励んだユイと、何の苦労もなく類まれな力を所持しているというだけで、名声を手にしそうなアース。

「私、あの子嫌い。疎ましい、あんな何も知らずに生きてきた子が認められるだなんて、あってはならないことよ」

 呟いたユイの言葉は、ミリアには届かなかった。だが、エロースには届いた。素知らぬフリして口角を上げると「だからお前を選んだのだ、ユイ」小さく呟く。
 憎悪や嫉妬、優越感と湧き上がる欲望が、生きる為に必要な感情だ。それらを忘れなければ、望むものが手に入る。自らを大きく揺さぶり、突き動かす原動力はそれらが一番なのだ。

「もうすぐだ、のぅ? 愉しいことよ」

 エロースは、幾つも砂糖菓子を粉々に砕いた。

 直様、スクルドにいたベシュタ、トロイ、リュミは呼び戻される。急な召集に不審がるトロイと、唇を噛み締めるベシュタ。女神が動いたのだろうと思い、眠っているアースを不安そうに見つめる。

「今は手一杯だ、忙しい」

 トロイが拒否したが、来なければ育成者から外すと警告が来た。

「行ってはならぬ」

 ベシュタが低くそう呟くとトロイも同意し、リュミも大きく頷く。だが、武器を構えた女神直属の兵士達が押し寄せ、三人を拘束した。まだ寝台に伏せっていたアースを一人残し、三人は強制連行される。
 主星アイブライトに戻ると、三人は何故か別々の客室へ通された。一歩も出ることは叶わず、何が始まるのかドアの外に怒鳴っても誰も返事をしない。
 トロイは壁を蹴り上げた、だが、ビクともしなかった。リュミは爪を噛みながら室内に武器となるものはないか探す。ベシュタは。

「これは……御機嫌よう女神様」

 孔雀の羽根で作られた大きな扇子で仰ぎながら、悠々と室内に入ってきたエロースと対峙する。
 皮肉めいて笑うベシュタには、大体筋書きが見えていた。気に入らなかったのだろう、自分がアースに肩入れしたことが。

「『貴方の御身は必ず護るわ、任せなさい。成功すれば、我一族の仲間入りよ。悪い話ではないでしょう?』……と言われた記憶がありますが」
「”成功すれば”と伝えただろう、ベシュタ。我が姪を妻とし、そなたを次期男神に推薦しようと思ったが。私の顔に泥を塗った。姪を無下にし、あの小汚い土の精霊に血迷っているとか?」

 少しの沈黙の後、ベシュタは低く笑い出す。眉間に軽く皺を寄せたエロースの瞳を睨みつける、その鋭利な視線に思わず後退し、舌打ちした。

「血迷っているのではありません。彼女を、アースを愛しています」

 頭に血が上ったエロースは、金切り声を上げると「もっと利口な男だと思っていたが、なんと低俗な! アースと身体を重ねたのはお前ということにし、共に処刑してくれる!」血走った眼でベシュタを指差した。
 しかし、涼しい顔でベシュタは微笑んでいる。

「真実でしょう、それが。ならば私を早く惑星スクルドのアースの元へ返してください」
「脅しではないぞ!? ……いや、そなたが喜ぶことなどしたくはないな。そなたの処遇は考える」

 ミリアが慌てて濡れた絹を差し出し、額に浮かんだ汗を拭いた為多少熱が下がったエロースは、呼吸を整えようとして咳き込んだ。

「もう御歳では? 時期女神候補を探されて、隠居されてはどうでしょう」

 何故この男は火に油を注ぐのだ! とミリアは生きた心地がしない。エロースの怒りが頂点に達しそうだったので、必死に宥める。

「アースと惑星スクルドは今から消滅する! そなたは生きたままクリフと同じ監獄へ入り、そこで一生を終えよ!」

 勢いよくドアを閉めて出て行ったエロースに、ベシュタは肩を竦める。じんわりと、手のひらに汗が滲んだ。今頃になって脚が震えだす。しかし、顔は清々しく微笑んでいた。

「愛している、と。アース、お前にこそ想いを伝えたかった。抜け殻の言葉ではなく、私の本心を」

 女神は実行するだろう、先程の言葉は脅迫ではないだろう。女神を故意に憤慨させたのは、この部屋から出る為だった。ここに拘束されていてはどうにも出来ない。
 数分して、思惑通りに部屋のドアが開かれる。

「思った以上に早い行動だ」

 おどけて肩を竦めたベシュタを、女神直属の兵士が取り囲んだ。

「光の精霊ベシュタ、女神エロース様に無礼を働いた大罪により、投獄する」
「あの色魔女の何が女神だ」

 喉の奥で笑い、そう告げたベシュタに槍が向けられる。それを、ベシュタは待っていた。瞳を細め、軽く足を開くとそのまま天井へと高く上げる。向けられていた槍を蹴り上げると、中段へと腕を伸ばしそのまま掴む。槍を引き寄せ、そのまま構えると向けられていた槍を一気に薙ぎ払った。

「私を誰だと思っている? 何度武術大会で優勝したと思っている? 得意な武器は槍だ」

 瞳の奥が揺らめく、軽く息を吸い込むと、次々に心臓を槍で突き刺し息の根を止めていった。
 数分後、最後の一人が床に崩れ落ちるのを見届ける前に、ベシュタは部屋を飛び出す。

「アース、お前に愛していると告げたい。私の想いが、叶わぬと知っていても」
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