ＴＨＥ・ＢＩＲＴＨ ~DESTINY外伝1~ 39.妻の裏切りなど痛くも痒くもなく

スクルドに立ち入り不可となる
ベシュタ、トリプトル、スクルドに侵入を試みる

⇒クリフ気付く
⇒アース覚醒
⇒あぼーん

　頭を横に振った、先程の光景を忘れようとした。今は悲しんでいる場合ではないと唇を噛み締める。
　自分は罪を犯した、その罪を償う為にこの命を差し出すことは怖くはない。けれどもその為に巻き添えをくらうモノ達がいてはならない、責任もって逃がさなければならない。
　しかし、アースはまだエロースを信じていた、尊敬していた。

「大丈夫、あなた達は必ず遠くへ。女神エロース様はね、歴代の中で最も優秀な方なの。どんな者にも優しいのです」

　自身にも言い聞かせる様に囁く。

　――違うよ、アース様。あの女は女神ではないよ、本当の女神は目の前にいるよ。

　涙を拭い取ったアースは、ようやく微笑む。意を決して立ち上がると、小屋へと足を進めた。今はもう懐かしい、皆で笑いあった場所だ。トリプトルを思い出したが、同時に金髪の美女も脳裏に浮かび上がり、再度アースは首を横に振る。額を抑えて涙を堪えた。

　逃亡を試みたベシュタは真っ直ぐに惑星スクルドを目指す、転移装置へ行かねば辿り着くことが出来ない。
　この姿では目立つので手頃な布を被り、全身を覆うと槍を隠して進んだ。
　と、何処からか聴き慣れた声がする。思わず立ち止まり、声に導かれるように進む。一刻の猶予を争うが、無視出来なかった。

「おめでとうございます、トリプトル様。しかし、私で良いのでしょうか。一度婚約をした”キズモノ”で御座います」
「気にするわけない、ガーリャ、神の妻としてオレを支えてくれ。女神エロースの姪である君ならば、とても心強い。君しかいない」
「貴方の為に尽くします」

　思わず失笑してしまった、その声に驚き二人が振り返る。着衣が乱れた二人に、ベシュタは肩を竦める。

「なんと節操がない」

　紫銀と金の髪が混ざり合っている、トリプトルとガーリャだ。ベシュタを見るなり気まずそうに寄せ合っていた身体を離す二人、会話から察するに、男神がトリプトルに決定したのだろう。そしてその妻には。

「なるほど、大罪人の妻という不名誉なものではなく、乗り換えたか」

　時間はないが、予想外の事態に思わず話しかけた。いつの間に自分と婚約を解消したのだろうか、エロースの策略であることに違いはない。愛し合っていたわけではなく、互いの利害が一致した政略結婚であったことも間違いない。ガーリャに愛されていなかった事実は、ベシュタには関係がなかった、興味はなかった、僅かも悲しまなかった。腹が立つこともなかった。
　そんな自分に、余計アースへの想いを確信する。愛する男に酷い仕打ちをされても求め続ける彼女、他に見向きもしない彼女、アースの隣にいてその想いを向けて欲しいと切実に願った。
　そんなベシュタの前で、二人は黙ったままだ。罪悪感が出たのか、もどかしい感情がうずまき、上手く言葉が出てこない二人は目を泳がせる。

「まぁ良い、達者でなガーリャ。トリプトルも女神との関係は程ほどにしないと、汚名を着せられ葬りさられる。……この私のようにな、気をつけると良い。だが私はそれで満足だ、今初めて女神の呪縛から解き放たれ、自由を得た気がする」

　哀れむような視線を投げかけ、その場を去る。ガーリャが腕を伸ばしかけたが、それを無視した。

「私は今まで何を見て生きてきたのだろう、早くアースに会いたい。愛する人と共に死ねるという素晴らしさなど、あの者達には分からないだろう」

　ただ、アースが愛しているのは先程の愚かな男だ。