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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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ねもい


 風が止まる、潮の香りが掻き消え、一瞬血生臭い空気がミシアの周囲を取り囲んだ。

「破壊の姫君に相応しい生贄を探しております」
「生贄?」

 眉を潜めるミシアに深く頷くと、二人は揃って口を開く。

「ミシア様が正式に破壊の姫君として降臨する際に、美しい処女達の首を一斉に斬り落とし、そこから吹き出た血でミシア様が沐浴をなされますように、と。大勢の生贄を集める為に、アイ様、タイ様は様々な土地に罠を張り巡らせておられます」

 盛大な儀式なのだろう、自分のために用意されることは嬉しいが、ミシアは軽く首を傾げる。
 幾つか引っかかった。

「私は美しいわよね? 私より劣る女達の血を浴びて、これ以上美しくなれるのかしら?」

 反対側に首を傾ける。

「盛大な祀り事ならば、美形の男達を大勢届けていただけた方が嬉しいのだけれど」

 沈黙が訪れる。
 冗談ではなく、ミシアは本気で言っている。二人が何と言うのか、早く知りたかった。交互に顔を覗き込む、二人の視線は地面の遥か地下を見つめているように虚無だった。
 偶然通りかかった恋人達が、その様子を見て『占い師に真実を的中されて動揺している』青年達だと思い、不審に思うことなく通り過ぎる。

「美形の男達も勿論取り揃えております、女性の信者が少ないので、贄を集めておられるようですが、不服でしたら伝えておきます」

 数分の沈黙後、ミシアは髪に触れながらゆるりと口角を上げた。

「私の損にはならないわよね、それで進めて頂戴。効果があるかどうかはともかくとして、ね。それは良いのだけれど、奇っ怪な魔物達は、私に危険が及ばないようになっているのでしょうね?」

 ミシアも本日、洞窟の奥で謎の物体に出くわした。宙に浮く球体だ、耳障りな不快音と共に魔物を出現させてくる厄介な物体のことである。

「勿論、ミシア様には指一本触れないようになっております」

 球体に指などなかった、と言おうとしてミシアは口を噤む。被害が来ないのならばそれで良い、自分を盛大に祝ってくれるという意向は嬉しいものなので内容はどうでもよかった。

「私はいつ破壊の姫君として君臨するのかしら? 時期が決まっているの?」
「アイ様、タイ様によりますと、神を封じてからの様です。実力だけなら神など赤子のようなもの、ですが、注意すべき点は千里眼です。神は地上の様子を窺うことが出来ると、聞き及んでいます。今しばらくお待ちくださいませ」

 妙に神について詳しい、ミシアは水晶に触れていた指を軽く動かした。が、表情は変えなかった。

「そう、楽しみにしているわね。連絡を待ちながら、私は普段通り過ごせば良いのね?」
「はい。何かありましたら、またこちらでお会い致しましょう」

 深く一礼し、恭しく手の甲に口付けると青年達が去っていく。ミシアは一人夜風に当たりベンチに腰掛けていた、膝の上の水晶は、雲から顔を出した月の光を浴びている。
 水晶に、アサギを映し出す、マダーニを映し出す、アリナを映し出す。

「いつ殺そうか。その生贄として首を切り落としても良いけれど、醜い女の血では私の灼熱の太陽のように眩い美しさを際立たせられるかが疑問よね。各地のその魔物達がとっとと皆殺しにしてくれれば良いのに、っていうか、女は別に不要なのよ。この世界に私が一人いれば済むことよね」

 喉の奥で愉快そうに笑うと、最後に水晶にトビィを映し出す。恍惚の笑みを浮かべて、愛しそうに水晶を持ち上げると、そっと口づけた。舌を這わせると、頬が紅潮する。
 粘着音が、夜の丘に響いていた。
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