別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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外伝7が、間に合わないYO!
デズデモーナ達を押しのけて、ソレルとマグワートが血相変えて飛んできた。バツが悪そうに苦笑したアサギに、二人の天界人は目くじらを立てる。
一応クレロ直属の天界人だ、宝物庫の中身はある程度知っていた。そもそもその杖は天界人が作り出した唯一無二の杖である、願えば対象を変化(へんげ)出来る
「それはっ! 宝物庫保管の変化(へんげ)の杖ですよね!? 何故アサギ様が持っているのですか!?」
「ええと、お借りしてきました、後で返却するつもりです」
「持ち出し禁止の筈ですよ!? 一から順に説明してください」
「ぁう」
二人に凄まれて、小さく縮こまるアサギだが、トビィが割って入った。身長は当然トビィが最も高い、人間になったので勢いでデズデモーナも参加し、その隣に胸を張って立つ。妙に満足しているデズデモーナに、二人の天界人は呆気にとられた。
「アサギは悪くない、デズとクレシダを思っての行動だ」
「いや、十分悪いですよ。トビィ殿はアサギ様に甘すぎます」
「アサギ様は悪くない、私達を思っての行動です」
「いや、だから十分悪い。竜風情に言われたくないのですが」
睨み合う四人を他所に、アサギは廃村を見つめる。風が通り抜ける、瞳を軽く閉じて周囲を探ったが、やはりここにはもう何もない気がした。
言い争いを続ける四人をすり抜けて、アサギは村へと近づく。気づいたソレルが止めようとしたのだが、慌てて腕を引っ込めた。声をかけてはいけない気がした。
「……もう一つの場所へ行きましょう、ここにはもう、何もないです」
何故、分かるのか。勇者だからか。
言い切られたところで、はいそうですか、と従うこともない。ソレルとマグワートはアサギを睨みつつ村へと再び進む。
「後で必ず、返却してください。というか、私が今預かります」
アサギから杖を奪い取ると、ソレルはわざとらしく大きな溜息を吐く。「ごめんなさい」と謝罪するアサギに何も言わず、二人は歩き出した。
「ねぇ、その杖」
「言いたいことは分かるわマグワート、これを持ち出したことよりも、もっと恐ろしいこと」
二人の背に、じっとりと汗が浮かび上がる。口には出さなかった、が、思っていることは同じだ。
『何故、アサギはこのような力を持つ杖が宝物庫にあることを知っていて、使いこなせたのだろう』
何処でその情報を得たのか、二人に悪寒が走る。
勇者だから、では片付けられない事態に、得体のしれないアサギに二人は恐怖する。自分が話をしている相手は、地球という惑星に産まれた日本という国の少女ではない気がした。
「本当に何もないのか?」
舌打ちして忌々しそうに天界人の背を睨むトビィは、アサギの傍らに立つと呟く。首を縦にふって、アサギは見上げた。
「はい。昨日全てを消去しました、形跡もないと思います。ただ、問題は何故あの村がそのような事態になったのか、です。その手がかりは、もうここにはない気がします。だから別の場所へ行ってみたいのです」
「なら善は急げ、だな。……おい、デズ、クレシダ。竜に戻れ、移動する」
つっ立っている二人に視線を送ると、困惑気味に互いの顔を合わせる。そうも簡単に人間から竜へと変貌出来るものなのだろうか、そもそも今着用している服はどうなるのか。
申し訳なさそうにアサギが二人に近づくと、そっとその腕に触れる。
「大丈夫です、『戻りたい』と念じれば。クレシダ、デズデモーナの意志が左右します」
「ということは、今後人間になりたくないので、念じなければ良いのですね」
淡々と告げたクレシダに、アサギはぎこちなく微笑む。
「嫌かもしれませんが、人間の姿だと、トビィお兄様と何処にでも行けますよ。”森の中へも”」
言われた瞬間、クレシダの表情が引き攣る。その様子に、アサギから笑みが消え、神妙に頷いた。唇を噛み、視線を逸したクレシダは小さく頷く。
数ヶ月前を思い出した。
三体の竜を置いて、森へと入っていたトビィの後ろ姿が蘇る。嫌な予感がする、と竜達は止めた、だが余裕の笑みでトビィは去っていき、行方知れずとなった。再会出来たが、あの時の不安を考えると、自分が人間になったほうがまだ気分が楽だと痛感した。
歯ぎしりした、アサギの思惑通りだ。見透かされている気がした、まだ出会って間もないというのに。
「……解りました、御意に」
深く頭を垂れたクレシダの隣で、デズデモーナは嬉しそうに微笑んでいる。横目で黒竜を軽く見て、大きく肩で息をした。
出会った時は、トビィ以外に心を許さない雰囲気だったが、三体の竜で最も人間に馴染んでいる気がした。意外だった、黒竜は常に単独行動を好む種族だと聞いていたからだ。ところが、主であるトビィよりもアサギに心が傾いている気がして仕方がない。それは契約違反ではないだろうか、とクレシダは懸念した。
……何故、そこまで。
勇者、という人間を初めて見たが、何かが引っかかる。でなければデズデモーナが懐く筈がない、いや、同じ竜族として懐いて欲しくはなかった。
『……名前は、クレシダ。あそこにいる主と共に暮らしているものです』
『主? だあれ?』
出会った時を思い出し、無表情でアサギを見つめていたが違和感を感じて瞳を開く。表情の動きが初めて大きくなった、瞳が開き、歯が震え出す。「違う、そんな出会い方はしていない」漏らした。
魔界イヴァンでアサギに出会った筈だ、トビィが魔王に斬りかかったあの時だ。しかし、今鮮明に思い出した情景は、自分の身体を撫でながら微笑むアサギの姿だった。
「馬鹿な」
クレシダは軽く目眩を覚え、額を押さえる。異変に気づき慌ててアサギが駆け寄ると、その背を支える。瞬間、再び過去の記憶が蘇った。
木の根元で眠っているトビィを、二人で見た。
確かに、見た。
「気分が悪いですか、少し腰を下ろして……」
「お構いなく」
不安そうに覗き込まれたアサギの瞳に映る、人の形をした自分を見たクレシダ。水面に映る自分の姿は何度か見た、が、目の前の自分は誰だ。
アサギが治癒の魔法を唱える、慣れない身体で負荷がかかっているのだろう、と思ったが違う。クレシダは会話しているトビィ達を見つめながら首を横に振った。
知らない記憶が、怖かっただけだ。
休息していると、二人の天界人が戻ってくる。「確かにもう、何もないですね。これ以上の滞在は無意味のようです」落胆し、そう告げた。
「アサギがそう言った筈だが? 時間が惜しい、オレ達はライアン達と合流する。アンタらは?」
不服そうにトビィがそう告げると、舌打ちしたマグワートが「私達は報告の為戻る、後で合流するかもしれない」と呟く。ソレルが背中を軽く叩いた、今の態度はよくない、と言いたかったのだ。
鼻で笑ったトビィは顔色が戻ったクレシダとデズデモーナに目配せすると、アサギの手を取る。アサギの言うことは間違いがない気がした、言うことを全て叶えたいと思った。
叶えなければならないと思った。
直様竜の姿に戻った二体の竜にそれぞれ乗ると、浮上する。
「マグワート様、ソレル様、杖、返却ごめんなさい。お願いします、後でクレロ様には謝罪します」
「……報告をしておきます、贔屓されている神の愛児とは言え、やり過ぎは信頼を失いますよ」
「はい、ごめんなさい」
厳しく冷ややかな口調で、ソレルは言い放つ。見下ろされている視線が気に入らなかったので、同じ高さまで翼を広げて飛んだ。人間に劣ってはならぬと、教えられてきた。
「では、後程。報告を待っています」
「はい、解りました」
嫌われてしまったろうか、とアサギは瞳を伏せた。最初は友好的だった気がしたのだが、徐々に温度差を感じるようになった。遠慮しているような、様子を窺っているような、信頼されていないような。気分が良いものではない、声色が変わった気がした。
「気にするな、アサギ。行くぞ」
察したトビィが天界人の羽を睨みつけそう告げると、さらに浮上する。「天界人は恐らく、人間や魔族、エルフを下に見ている。普段は上から見下ろしている存在だ、対等に離すことすら嫌悪感を感じるんだろ。そういう種族だと思う」分析した結果がそれだ、天界城でも歓迎はされていないように思えた、協力して欲しい、と頼んだのは神だ。他の天界人は従っているだけで、本心は邪魔なのだろう。
「ありがとうございます、トビィお兄様」
二人は、ライアン達と合流すべく空を駆ける。
到着した先では、ライアン達が困り果てていた。というのも、洞窟を進んでも何もなかったからだ。宙に浮く謎の球体が消えている、移動してしまったらしい。
「逃げられた、やはり見張っているべきだったのでは」
「あんなもの、何処へ行くんだよ。神は把握出来てるのか?」
魔物一匹いない、ただの森の中だった。何もなかったので緊張の糸が解け、勇者達は地面に座り込んでいる。
「帰ろうか、時間の無駄だ」
ライアンの意見に皆大きく頷くと、マダーニが陣を描き出す。天界人から教わった、人間は知らない陣形だ。これさえ描けば、簡単に天界城の一角へ戻ることが出来る。後始末は、トビィとアサギがすることになった。マダーニが陣を描く様を、ミシアが眼光鋭く食い入るように見つめている。
陣から消えていく仲間達を見送り、トビィとアサギは陣を消し始める。大したことはない、足で壊し、最後に水をかけるだけだ。
「時間もあるし、ナスタチューム達のところへ行くか?」
「そうですね、この間途中でしたし」
ただアサギと離れたくなかっただけだが、トビィの提案にアサギも頷く。安堵し、再び移動しようとした矢先、突如クレロの声が脳内に響いた。
『戻ってきて欲しい! 何かおかしい』
毎回邪魔をするクレロに、トビィは苛立ちを覚えた。
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