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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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120630_003136.JPGめも。

~110    トビィ来る・最後の晩餐的な 
~111  ロシファ死亡
~112  戦闘開始
~113  勇者達他到着
~120  第二章へ。

あと、10話。
なんか、無理そう(おぃ)。


・外伝1 ベルーガまで進めてOK
・外伝5 開始
・裏   トレベレス×アリア

らくがきは、久々に幸せそうなトランシスとアサギ。
のほほん。

 サイゴンとホーチミンは、アサギの部屋の前で互い一言も交わさず、待っていた。
 けれども、どちらが握ったのだろうか。2人は軽く手を握り、その温もりを確かめている。安心できた、幼い頃に戻ったようだった。
 まだ、ホーチミンが女装などせずにそこらにいる魔族の男子として元気にサイゴン達と走り回っていた頃。やんちゃなホーチミンは大きな魔法を連発し、サイゴンはそれを避けながら剣を振り回すという危険な遊びが好きだった。
 帰り道は、手を繋いでいたものだ。
 芽生えた恋心は、ホーチミンが先だった。もともと、サイゴンの姉であるマドリードが類まれなる美女で、彼女を見るたびに華やかで美しい蝶のようだとホーチミンは羨望の眼差しを向けていた。
 憧れは、自身に反映したくなる。
 ちょうどその頃、街へ出た際にサイゴンが年頃の娘を指してこう告げた。

「見ろよ、ミン。あの女の子、可愛いよな。ふわふわの服を着てる、甘い砂糖菓子みたいだ」

 確かに、目立った容姿をしていたがマドリードには敵わない。タイプが違うが美しさだけで比較するならばマドリードの勝ちだ。サイゴンは大した意図もなく、何の気なしに呟いたのだが、ホーチミンにしてみればそれは自分の憧れ対象を貶められたようで。
 流れるような髪に、花の髪飾り。レースをふんだんにあしらった、風に揺れる軽い素材のワンピース。
 何処かの令嬢だったのかもしれない、気品があった。だが、そんなことはどうでも良い。
 ホーチミンの闘志に火がついたのだ、サイゴンの発言を無視出来なかった。

「……ぜんっぜん、かわいくないよ!」

 叫ぶと走り出したホーチミンの気持ちなど、サイゴンには解る筈もない。呆気に取られて消えてしまった友人の後姿を見つめる。
 翌日のことだった、家のドアをノックする音で目を覚まし、顔を覗かせたサイゴンは硬直した。

「おはよう、サイゴン」

 にっこりと微笑むホーチミンは、昨日までの見知った友人ではない。同じような衣服を身に着けていたはずだったが、今朝は明らかに少女用の衣服を身に着けていた。
 言葉を失ったサイゴンに、微笑み続けるホーチミンはくぅるりとその場で一回転する。

「可愛いでしょ?」
「……何か悪いものでも食べた?」

 ようやく搾り出した声だった、薄桃色したロングワンピースを身にまとい、髪にはレースのリボンのホーチミンを奇怪な目で見つめながら。

「見て、ちゃんと下着も女の子用なんだから」

 ぶわっとスカートの裾をめくり上げ、可愛らしく小首を傾げたホーチミン。すらりとした足は確かに艶かしいかもしれない。だが、股の部分に当然のごとく違和感がある。
 小さなリボンがついた、黒のストライプの下着だった。まごうことなき少女用だった。
 しかし、勿論違和感。下着はともかくとして、違和感。

「え、ぁ、い、ぉ、うっわー……」

 股間を凝視し、上手く口が回らず言葉を発することが出来ないサイゴンに、ただホーチミンは不思議そうに微笑むばかりだった。二階からはマドリードが、興味深そうにそんな2人を見つめている。
 何かの罰ゲームなのかと、サイゴンは思った。その日限りの悪ふざけだと思っていた。
 だが、ホーチミンは以前自分が着ていた少年用の衣服は捨て、少女用の衣服に全て買い換えていたのだ。
 両親は、何を思ったのだろう。母親に至っては娘が欲しかったことも手伝い、またホーチミンが可憐な少女にも見えたので当時は乗り気だったというが。
 ともかく、ホーチミンは本気で女装に取り組んだ。女装というより、女性になりたかったので立ち振る舞いも研究した。それもこれも、ことの発端はサイゴンが何気なしに呟いた「あの子可愛い」という言葉だ。
 幼少の友人への気持ちを友情なのか愛情なのか判らぬまま、ホーチミンは”愛情”だと認識した。
 自分以外の誰かを褒めたことが気に入らなかったのかもしれない、それだけだったのかもしれない。
 けれど、思いのほか女装は楽しく、そして年頃の娘らよりも自分が美しく思えたホーチミンは止める事がないばかりか、エスカレートしていく。
 料理に裁縫、掃除は勿論のことつつましい立派な妻となるべく、母親からマドリードから、近所のおばさんから女性としての心得を習得した。それは利口なホーチミンにとっては新たな学習のようで楽しかったのだ。
 あれよこれよと褒められ伸ばされ、着実に習得していったホーチミン。
 どう反応して良いやら解らず、サイゴンは戸惑うばかりだった。あろうことか好意の矛先が自分であると知り、更に混乱する。サイゴンは、かけがえのない友人だと思っていた。突然恋愛感情へと切り替わったホーチミンに嫌悪感を抱くことはなかったが、悲しかった。
 見た目はどうであれ、それでもサイゴンにとってホーチミンは友人だった。夜這いをかけられても、押し倒されても迫られても友人に変わりはなかった。
 サイゴンが本気で嫌がったならば、ホーチミンとて止めたかもしれない。
 ただの、一度。ホーチミンが女性を志して数ヶ月が過ぎた頃、2人は偶然に口づけをした。
 もっとも、サイゴンは記憶にすら残っていないだろう。秋に行われる豊穣の感謝祭にて、歌って踊って呑んで疲れ果てたサイゴンは道端でひっくり返っていた。苦笑しながらも、無防備な姿で眠っているサイゴンに膝を貸し、ひと時の静かな甘い時間を過ごしたホーチミン。そっと、その時口付けた。
 数回、目蓋を引きつらせて起きるかと思われたサイゴンだが、微笑したまま深い眠りへ。
 気付いてなどいない。
 会話がなくとも、至福の時だった。うっとりと、身を任せた。何も身体を温め合ったり、話をしなくとも気持ちは通じる。
 と、実感できる時間だった。恋人同士のようだと思えて、ホーチミンは苦笑する。
 サイゴンが今、何を思っているのかなど知らない。自分と同じ想いであるはずなどない、それでも、幸せを感じた。
 やがて、騒がしくなる廊下に2人は慌てて手を放すと距離を置く。アサギ達が戻ってきたのだ。

「ホーチミン様、サイゴン様!」
「アサギちゃん、こんばんは。ちょっと伝えたい事があって待ってたの」

 駆け寄ってきたアサギを抱きとめるホーチミン、不思議そうに首を傾げたアサギに申し訳なさそうに言葉を続ける。

「明日からね、外せない仕事が出来たから暫く一緒にお勉強が出来ないの」
「そう……ですか。解りました!」

 後方に立っているハイに目配せするホーチミンに、無言で頷くハイ。

「夕飯はこれからだ、一緒にどうかね」

 ハイに誘われたので、今夜も共に食事をすることにする。食堂にはアイセルも居た。あろうことか、魔王アレクも居た。周囲の魔族は恐縮し、離れていく。魔王が2人揃っていれば、誰しもが敬遠するだろう。

「珍しいですね、このような場所に」
「気分転換だ」

 言って笑うアレクに、アイセルは軽く目配せをする。
 気分転換もあるだろうが、妙な動きをする者がいないか探りに来たのだろう。先の侵入した人間に通じるものが必ず何処かに居るはずである。
 何も知らないのは、アサギのみ。ホーチミンとて、アサギの目を盗んである程度の事情は聴かされた。

「ねぇ、アサギちゃん。そういえばトビィちゃんと知り合いなんですってね」

 白身魚とカボチャのパイを切り分け、配っているホーチミンは、早速食べ始めたアサギに声をかける。

「はい! ホーチミン様もトビィお兄様を知っているんですね」

 ”トビィお兄様”。間違いなく、今アサギはそう呼んだ。先程の小説が甦る、ホーチミンの脳内を駆け巡る。あの小説
の主人公、アリアが『トバエお兄様』と呼んでいた声が再現される。

「ふふ、トビィちゃんは人間だけどドラゴンナイトだったから知らない人のほうが魔界では少ないわ。美形だしね」
「かっこいいですよね、脚も長いですし。思わず、お兄様って呼び始めたんですよ」
「……血は繋がってないのよね」
「はい、この世界で初めてお会いしましたが、何処かで昔も会った事がある気がして」

 無邪気にそう言うアサギに、ホーチミンの顔色が変わる。あの小説は、もしやアサギの過去の記憶ではないのかと脳裏を過ぎった。震えるホーチミンを気遣い、サイゴンがそっと、再び手を握る。

「トビィ? 何処かで聞いた名だな?」
「あの、ハイ様に一番最初に斬りかかった人です……」
「あぁ、あの人間にしては俊敏な」

 ハイが気難しそうにそっぽを向いた、アサギがトビィをかっこいいと言った時点で機嫌が悪いのだ。おまけに、凄腕であることも、ハイならば知り得ている。難なく交わしたが、武勇の才能があることなど明白だ。
 膨れっ面のハイは放置し、アレクが興味深そうに会話に参加する。

「トビィとアサギは知り合いなのか、マドリードの育てていた子だろう?」
「アレク様もご存知なのですか!? トビィお兄様って、凄いんですね」

 アサギはただ、驚くばかりだ。自分以外にここまで魔族の、それも上流階級のメンバーと知り合いである人間がいたとは。それが、トビィだとは。
 ただ、感嘆の溜息を吐く。トビィが誉められるので、アサギも嬉しくなって自然と笑顔になってしまった。

「アサギちゃんは、トビィちゃんが好きなのね」
「はい、とっても。まだ出遭って間もないですけど、とても信頼していますし、尊敬もしています」
「……男女の恋愛事とは違うのかしら」
「え、だんじょ?」

 切り込んで訊くホーチミンにサイゴンが顔を顰めてテーブルの下で軽く手を揺する、アサギは困惑気味に首を傾げた。ハイはますます不機嫌になるが、皆放置である。

「恋愛感情、ということですか? えっと、そういうものではないです。ホントに、頼れるお兄さんで」

 控え目に告げたアサギに、ホーチミンは微笑んだ。女ではないが、女の勘が働く。

「好きな人がアサギちゃんにはいるんだったかしら? もしかして、トビィちゃんに似ていたりする? 髪の色とか、瞳とか」

 ホーチミンの質問にアレクとアイセルは事情を知らず、ただ聞き入るばかりだ。だが、サイゴンは喉を鳴らした。
 アサギの答えが、妙に長く感じられるほど間がある。

「えっと、あの、私と同じ日本人なので同じ黒い髪と瞳なんですが……。トビィお兄様とは似ても似つかないです」

 地球に紫銀の髪の人間が存在するとすれば、髪を染めているのだろう。染めてもあのように綺麗な色合いにはならないだろうが。
 アサギの返答に、緊張していたサイゴンは肩の力を抜いて大きく溜息を吐く。ホーチミンも軽く微笑むと紅茶を口に含んだ、流石に口内が乾いていたのだ。
 拍子抜けしたような、安堵したような、腑に落ちないような。
 だが、ホーチミンが眉を潜める。好きな人の話をしているアサギは、たどたどしく、頬を染めて恋する乙女だ。だが。

「ちょっと、待って。トビィちゃんみたいな髪と瞳の人って、他に知らない? 知ってる?」
「あ、えっと、私の世界にはあんな綺麗な髪と瞳の人間は存在しません。ので、トビィお兄様しか知らないです」

 不思議そうに返答するアサギに、思わずホーチミンが口元を押さえる。身体が震える、力強くサイゴンの手を握った。
 つまり、あの小説が指し示した事とは。
 ”今後アサギが、トビィに似た少年と出会う可能性が有り、そうなると身の破滅となる”ということではないのか。
 ホーチミンの直感である、憶測でしかない。だが、不可解なあの小説がホーチミンの前に現れたのは、必ず何かしらの意図があるはずだ。魔力の高いホーチミンが選定され、導かれたのではないのか。
 アサギを、護る為に。
 質問攻めのアサギだったが、折角なので反対に質問をすることにした。押し黙ったホーチミンに、遠慮がちに問う。

「あの、私からも訊いてもいいですか? スリザ様は最近どうしてますか、お姿が見えなくて」
「スリザならば私からの依頼を遂行しているので、王宮にはいないのだよ。魔界を駆けずり回っている」
 
 間を入れることなく、アレクがそう切り替えした。アイセルが安堵し、軽く溜息を吐く様をアサギは見逃さなかったが、追求など出来ないのでにこやかに笑うと頷く。

「よかった、なら良いのです。何かあったのかと」
「スリザが戻ったら、早急にアサギに会いに行かせよう」
「あ、いえ。ご無事なら、良いのです。いつも、アレク様のお傍にいらしたので不安でしたから」

 この子は、何か気付いている。アレクは瞳を細めると手の中のカップを見つめた、残り少ない紅茶が揺れる。
 食事の後、ハイに促されてアサギは部屋へと戻った。そのハイに、アレクが神妙に頷きハイもまた、応える。
 トビィを誉め、アサギの好きな相手の話まで聞かされ、ハイは意気消沈だ。あんな状態で万が一の事態にアサギを護る事が出来るのかとアレクは軽く頭を抱える。
 その後、アレクはサイゴンに耳打ちされて自室にアイセル、サイゴン、ホーチミンを招きいれた。
 ホーチミンにスリザの状態を教え、動揺を与えながらも緊迫した空気で調査依頼を託す。
 震えて口が開けないホーチミンに代わり、サイゴンがあの小説の話をアレクとアイセルに話した。
 流石にこれには、魔王アレクも目を見開き唇を噛締める。

「一旦、整理してみようか。何故だろう、未来には光が溢れている筈なのに影が差した気がする」

 脱力でソファにもたれこんだアレクに、三人は静かに控えた。沈黙が部屋を支配する。

「ともかく、3人はスリザを襲撃した人間の女の調査を。それが第一前提だ。私は、その図書へ出向こう。私にも何か語りかけるかもしれない」

 3人が顔を上げて、力強く頷くと満足そうにアレクは微笑した。

「そなたらが、私の代に居てくれて本当によかった。一人では無理だった」

 弱々しいアレクを励ますように、サイゴンが立ち上がると傍に寄り添う。

「貴方様だからこそ、集っているのです。全ては、貴方様のお心があればこそ」
「アレク様、ハイ様にもアサギ様から目を離さぬようにと再三申して置いてください、あの子は勘が鋭い。何かに自分から首を突っ込みそうな気がしてなりません」
「何より、トビィが魔界へ戻ったらそれが悪化しそうな気もしますが、トビィには俺から話しますので」

 不気味な糸に、この場の全員が絡め取られている気がして。アレクは頷きながらも不安を隠しきれなかった。

「もし、アサギの髪と瞳が若葉のような緑であったならば。全ては一致するのか……」

 異界から召喚された小さな勇者は、漆黒の髪と瞳の美少女。
 何の悪戯か、同じく異界から来た魔王に一目惚れされて、拉致された。
 だが、その姿は次期魔界を治めるであろう予言の女王の影武者として産まれた、アイセルの妹・マビルに瓜二つであり。ただ、予言と髪と瞳の色が違う。予言通りならば、緑のはずだった。
 予言が間違っているのか、アサギではないのか。
 また、ここへ来てホーチミンが示唆された謎の不気味な小説が、どうしても気にかかる。

「次期女王がアサギちゃんの子孫、という可能性は? アサギちゃんに子供が産まれて、その子が瓜二つな可能性も。その子が緑の髪と瞳かもしれません」

 ようやくここへきて、落ち着いたホーチミンが口を開く。確かに、それも有り得る。最も有力だろう。
 だが、アレクは確信に近い予感があったのだ。アサギで、間違いはないのだと。

「そうなると、アサギ様の髪と瞳の色が突然変異で変わらねばなりませんが」

 苦笑したアイセルだが、アイセル自身もアサギが予言の娘であると信じて疑っていなかった。

「あれ、そういえばアサギちゃん。たまに太陽の陽があたると、若干緑っぽい髪の色をしていないかしら? 若葉というよりは、深い森林の深緑的な」

 ぼそ、と呟いたホーチミン。思わず、アレクが立ち上がる。

「……なんにせよ、気を引き締めよう。彼女を護らねばならない。私は、私の全てを懸けて。光溢れる未来を、潰したくなどない」
「御意に」

 静かに退室した信頼できる3人の魔族を見送ると、アレクは深い溜息を吐きながら、恋人のロシファから貰った茶を淹れた。恋人に、会いたくなった。
 会いに行くか。 気弱に呟き、闇に紛れてアレクは姿を消す。

 魔族とエルフの混血であるロシファは、数日前に何者かの襲撃を受けたが、そのことを乳母に話さなかった。
 余計な心配をかけたくなかったのだ、まさか、聖域であるこの場所に侵入してきたなど、有り得ない事なのだ。慌てふためく乳母を見たくはなかった。
 アレクがやってきて、思わず抱き締めてもロシファは言わなかった。
 同じ様に、不要な心配させたくなかったのだ。もし万が一、また入り込んでも同じ様に自分が撃退すれば良いだけの話だと、そう思っていた。
 両親から引き継いだ、格闘の技と膨大なる魔力に敵うものなど、いないと思っていた。それこそ、魔王アレクですら凌げるとロシファは思っていた。
 もし、ここで話を2人にしていれば。未来は少し、変わっていたかもしれないのだが。
 だが、彼女は誰にも、言わなかった。
 結界を張ってくれた、エルフ達の名誉の為でもあったかもしれない。易々と侵入出来る筈がないのだから。ロシファ自身が認めたくなかったのかもしれない。
 確かに、侵入してきた人間のエーアは。人間として魔王ミラボーに背いていた頃、清らかで高貴な魔導師であった。
 だから、侵入できたのだ。精神を、邪悪なものに操られていたとしても、心の奥底は穢れなく美しいままだ。
 もし、エーアの存在をアレクに語っていたのならば。スリザを襲撃した人物と同じであると判明し、このような場所にロシファを置いておかなかっただろう。もしくは、護衛をつけただろう。

「それで、アレク。どうしたの?」
「いや、顔を見たくなって。いや、顔は毎日でも見ていたんだけど」
「……つまり、疲れたのね。全くアレクは仕方がない魔王様ね」
 
 小さく見える魔王アレクに、優しくロシファは手を差し伸べて抱き締めた。
  
 数日、何も進展はなく。
 日中アサギはハイに魔法を教わり、夜になると食堂でハイとその場に居合わせたサイゴン達と食事をする。
 リュウは大人しくなったように、時折姿を垣間見せるだけで自室に引き篭もりがちになった。
 エーアは甲斐甲斐しく悪魔テンザの看護し、すっかり信頼を得て名もなき孤島に滞在したまま。
 トビィは魔界へ向けてドラゴン達と空中を舞っており。
 勇者達一行は、アサギを救う為に船で一路魔界を目指す。
 ミラボーは急がば回れとばかりに、ただただ自室で愉快そうに宝石を眺めたままだった。
 鋭利に尖らせた漆黒のオニキスを1つ、取り出してテーブルに置く。

「あの魔族の女将軍はオニキスに相応しいかのぉ、さて、これをどこへ送るか」

 次いで、長方形に加工されたオーソクレースを取り出すと、テーブルに置く。

「あの悪魔はこれかの、エーアはこれで」

 角ばったヘマタイトを、悪魔テンザに見立てたオーソクレースの隣にゆっくりと置いた。ことん、と音がなる。

「さぁて、愉快な戯れの始まりじゃの。まずは手始めに……オニキスを、ペリドットに送り込むとするかのぉ」

 美しい、オリーブグリーンの宝石ペリドットに見立てたのは、勇者アサギだ。
 魔王ミラボーは垣間見ている、以前トビィとアサギが深き森の幻惑の魔法使いに捕らわれた際に変貌したアサギを見ている。
 だから緑色の宝石にアサギを例えた、ごく自然に。
 そこに、魔王アレクらが必死になっている答えがあったのだ。勇者アサギの髪と瞳は、緑であると。

「ただ、ペリドットの傍にいる黒真珠が邪魔じゃのぉ。剥がさねばのぉ」
 
 黒真珠は、ハイのことだろう。ミラボーは手持ちの宝石を何個かテーブルに並べながら、まるで遊戯でもするように ゆっくりと、思案する。宝石たちが、煌くと、ミラボーの瞳も鈍い光を放った。

 その日もアサギはハイと共に中庭で魔法の稽古である。優秀なアサギは火炎の魔法を上級まで完璧に取得した、風の魔法も習得していた。攻撃補助に、治癒魔法、防御魔法も習得している。
 ハイの専門外なので、水と土の魔法がアサギも不得手である。
 ホーチミンに助言を頼むと、図書館をと促されたのでアレクも連れ立って一度行くことになった。が、アレクはその日、生憎不在である。優雅にティータイムをとっていたハイとアサギだが、アサギは水を飲む為に退席した。
 水など、持ってこさせれば良いとハイは言ったが、直ぐ傍に共有の水飲み場があるので、苦笑いしてアサギはそこへ出向く。ハイは、不安そうに後姿を見ていたが、ついて行こうとしたらアサギに止められたのだ。
 すぐ、傍だからと。
 1人歩くアサギの瞳に、何かが飛び込んでくる。猛禽類の鋭利な爪と、美しいまでの濃茶の羽を持つ、幻獣である。
 リュウと行動を共にしているリングルス=エースだった。片時もリュウから離れないが、自室に閉じこもり気味なリュウだったので、暇を持て余して外で飛行していたのである。
 アサギの視線に気がつくと、唾を吐き捨てそうになったのを我慢して地上に降り立つ。
 リュウから命令は来ていないので、親身に話せばならないのだが、相手は人間だった。
 自分達を呪縛していた人間である、気さくに話そうと思っても簡単に出来るものではない。

「こんにちは、えっと、リュウ様のお傍に控えている……」
「リグ、です」
「リグ様」

 そこへ、気配に引き寄せられてか風の精霊エレンも寄って来た。蝙蝠のケルトーンも近寄ってくる。
 アサギに接近されているリングルスを護る為に、エレンとケルトーンは来たのだ。人間は信用出来ない、以前の様に操られる事だけは避けなければならない。

「えっと、えーっと」
「エレと申します」
「ケト、です」

 名前が解らないので戸惑っていたアサギに、2人は偽りの名を伝える。本名は、絶対に口にしてはならないのだ。
 アサギは丁寧にお辞儀をすると、3人をまぶしそうに見上げて溜息を吐いた。
 柔らかな笑みに、思わずリングルスが「何か?」と言葉を発する。

「いえ、リュウ様の仲間さん達はみんな、神秘的ですよね。サイゴン様達魔族の方々とは違う雰囲気です」

 それはそうだ、魔族ではなくて幻獣なのだから。と、エレンが反論しようとした。もっと高貴な一族だと言おうとして唇を噛締める。
 アサギは、じっと目の前の3人を見ていた。人間からしたら珍しいのだろうが、見られて気分が良いものではない。好奇心旺盛なのだろうが、嫌悪感を抱いた3人は小さく会釈をするとそのまま飛び立つ。

「なんていうか、神様みたいですよね」

 飛び立った3人に大きく手を振って笑ったアサギの、その一言に思わずリングルスが振り返る。
 見下ろせば、小さな人間がまぶしそうに自分達を見つめていた。邪気のない、悪意のない、純粋な瞳で。

「か、神?」

 狼狽し、ケルトーンがリングルスに視線を投げかける。エレンはそっぽを向いて腕に爪を立てていた。

「この世界の神様はクレオって言うらしいですね。でも、私がいた地球は、神様は1人ではないんですよ。土地によって神様は違うんです。私が居た日本にも沢山の神様がいるのですが……」

 話し始めたアサギの続きが聴いてみたくて、思わずケルトーンが再び地上に降り立つと、嫌々ながらもエレンが舞い戻り、戸惑いがちにリングルスも降りて来る。

「山にも川にも神様がいるんですよ、村にも神様がいたりして。私は神様の姿を見たことがないですけど、きっとリグ様達みたいな感じなのでしょうね。祠とかを作って、お祭りするんです。形は様々ですけど、キツネの神様とか色々なんですよ! だから、もし、日本の山奥とかで誰かがリグ様達を見たら、きっと大慌てて村に戻って、『神様見たー!』ってなるんだろうな。……都会だと、そうもいかないかも」

 都会で飛行していたら、間違いなく捕獲されるだろう。なので、アサギは苦笑してそれは言わなかった。
 神秘的な山奥で。もしくは、信仰深い田舎でならば間違いなく神格化されている。

「皆さん、とっても綺麗ですものね! なんだか、見ていると崇めたくなってしまいます」

 神社でするように、アサギは一礼してからパンパン、と手を叩いて3人に拝んでいた。

「……それは?」

 呆気に摂られて、ケルトーンが問うと、アサギが不思議そうに顔を上げる。

「あ、あれ。私達の国だと、神様にはこうやってするんですよ。年に一回は最低でもしていると思います。毎日している人もいます。私のおじいちゃんとおばあちゃんは、家の神棚に毎朝拝んでますね。私の神様はどんな方なんでしょう、リグ様達なら見えますか?」
「さ、さぁ」

 再び拝み始めたアサギに困惑気味に、リングルスは見つめ、眉を顰めているエレンに口を開きかけた。

「何を、祈っているのですか」

 上ずった声で問うリングルスに、アサギは小さく微笑むと頬を赤く染める。

「それは、秘密です。願い事は人に言ってはいけないんですよ。……でも、神様ならいいのかな。『早く世界が平和になって、誰も哀しまず苦しまない未来が届きますように』って」

 アサギにとって、それは故郷の地球も同じ事だった。この惑星だけではない、どこの世界でも貧困に戦争は起こっている。だから、有り触れた願いだった。それでも、3人には衝撃を与えたのだ。

「ふふ、不思議ですよね。何故かアレク様やハイ様よりも神様っぽく見えてしまうんです」

 舌を出して笑うアサギ。遥か遠い昔の光景が甦る。
―――リングルス様、今日も一日我一族をお守りいただき有難うございました。今日収穫した魚と野菜でございます。
―――エレン様、良き風を導いてくださり有難うございます。おかげでこの村は何不自由なく今日も一日を終えました。
―――ケルトーン様、どうか今日も私達をお守りくださいませ。皆が幸せであるようにと。
 人間達に迫害されるまで、神として崇められてきた幻獣達。人間に愛され、讃えられることなど忘れていた。
 憎むべき対象であったもの、だが、その憎しみを取り払う事が出来るのはやはり人間である。
 あの頃、慕ってくれる人間達の為に何かしたいと3人とて躍起になったものだった。同じ時間を過ごした、助言をした、笑えば人間は喜んでくれた。だから幻獣達も笑ってその場に居続けた。

「アサギ様こそ、不思議ですよ」

 言ったリングルスの頬を涙が伝う、昔懐いてくれていた人間の少女が思い出された。彼女は召喚士の末裔だった、だが、リングルスを逃がそうと、幼い身体でやってきた貪欲な人間に殺されたのだ。
 その、少女の笑みを思い出してしまった。
 エレンも、ケルトーンも、同じ様に崇めてくれていた人間達を思い出していた。忘れていた記憶だった、憎悪の対象である人間は全てではなかったことを、思い出した。
 反発していたエレンとて、自分に洋服を縫ってくれた村の少女達を思い出していた。こぞって美しい貝殻や石で装飾品を作り、届けてくれていた。それが嬉しくて、エレンは少女らの頭上を飛びまわっていた。そして、花弁を降らせるのだ。
 アサギは水飲み場で水を飲む、ケルトーン達も懐かしい胸の熱い思いを放したくなくてアサギについて水を飲んでいた。冷たい水が喉を潤す、心を潤す。
 その水飲み場は、スリザが眠っている部屋の、真下である。

「おやおや、ハイの傍を離れて美しいペリドットが1人きり。……オニキスよ、起きるが良い。その鋭い剣先でペリドットを貫くとよぃぞぉ」

 ミラボーが手元の宝石を宙に浮かせながら、闇の中でそう呟いていた。
 アレクの忠実な部下であるスリザが、アサギを襲えば。ハイとアレクに亀裂が走るだろう。上手く行けばスリザがアサギをミラボーの許へと、連れて来てもくれるだろう。まさに、一石二鳥である。
 周囲に3人の気配があった、だが、鼻で笑うとそれらを見下す。何も出来ぬだろうと。
 パリン、と窓ガラスが割れた。音に気付いてアサギが気付けば頭上から煌く硝子の破片が落ちてくる。驚いてよけようとしたのだが、虚ろな瞳のスリザが両手に愛用の剣を携えて降って来たので反応が遅れた。
 武器を部屋に置いておいたのは、アイセルの失態だ。

「スリザ様、戻られたんですか」

 思わず声をかけたアサギだが、部屋の窓を割って出てくるだろうか。武器を所持して振ってくるだろうか。
 頭の回転の速いアサギは、異変を感じ唇を噛締める。

「下がって、アサギ様!」

 思わず、リングルスとエレン、ケルトーンは武器を所持してアサギの前に立っていた。
 護るべく、立った。




 
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