別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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聡一はようやく静かになった自宅を出て歩き出す。久し振りの履き慣れたスニーカーだ、靴紐が解けたので道路にしゃがみ込む。俯き加減になったら不意に、涙が込み上げてきた。震える手で紐を取り、なんとか結び終える。だが瞳から今にも零れそうになっていた涙の為、その場から動けなかった。
鼻をすすり、指先で鼻をこすった。人から眼を背けながら立ち上がると、ようやく歩き出す。平日の昼間で道は人通りが少ないが、泣いていた表情を他人にすら見せたくなかった。高校生にもなって泣きたくなかった.
陽射しは分厚い雲で覆われており、八月上旬だというのにそこまで暑くはない。昨日は慣れない喪服の為窮屈さと暑苦しさで汗を多々流していた、それに悪態づいていた。
自宅から徒歩で約十分、路地に入って進めばそこが目的地だ。いつかは住宅地が出来る荒れ地だったが、何年もこのままだった。山を削り、剥き出しの斜面が広がっている。ここぞとばかりに、雑草が生い茂っていた。
聡一は、懐かしさに思わず息を大きく吸い込んでいた。小学生の頃は近所の友達と毎日のように学校が終わってから訪れて、秘密基地を造っていたものだ。
『懐かしいのぅ、聡一?』
一瞬、声が聴こえた気がして顔を上げていた。うろ覚えだが、膝辺りまで伸びている雑草を掻き分けて目的の場所を探す。似たような松の木が植えられているが、額に滲み出た汗を腕で拭いながら腰を下ろした。子供の頃の目線に合わせたのだ、探している木がどれなのか、こうすれば分かると思った。
『ごらん、聡一。あの松が一番立派じゃて』
数年前のことだ、松の木も成長していて形を変えている。だが聡一は迷わずに一本の木に近づいた、背丈は低いが重圧感のある木だ。
スコップを持ってくることを忘れて舌打ちしたが、地面に転がっていた木の枝を手に取ると根元を掘り起こす。老人と子供が埋めたのだ、そう深くはない筈だった。
場所が違うのか、それとも既に誰かに掘り起こされてしまったのだろうか。見つからない。この木だった筈だと言い聞かせ、聡一は何かに取り付かれたように懸命に掘る。埋まっている石に阻まれながら捜索するが、やはり見つからない。気づけば陽が傾いていた。聡一は我武者羅に棒を投げ捨てると、溜息を軽く吐き自嘲気味に笑って帰路についた。大したものではない、仕方がないことだと自身に言い聞かせる。だが、足取りは重い。
夕飯は出前だった、慣れない葬式で母も疲労しており家事をする気にならなかったのだろう。「おじいちゃん、ここの天丼好きだったわねぇ」祖母の声を聞きながら、聡一も好きな馴染みの店の天丼を無言で食べる。
「あ、そういえば聡ちゃん。これ、何か知らないわよねぇ」
祖母が何かを大事そうに手に抱えていた、何気なくそれを見て思わず硬直する。
探していたものだった。先程掘り起こしに行って見つけられなかった、それだ。
埋めた時は綺麗な菫色をしていた筈の、高級な茶菓子の箱だ。聡一は思わず立ち上がると祖母から奪うように今はくすんだ色のそれを取り上げ、震えながら見つめる。
「おじいさんがねぇ、病院へ入る前に持ってきたのよ。病室にも置いておいたの」
子供の頃、祖父と埋めた茶菓子箱。手にした途端、涙が溢れ出す。まさか祖父がこれを掘り起こしていたとは、思いも寄らなかった。
祖父が入院したのは一ヶ月ほど前だ、雨風にさらされて掘り起こした形跡が分からなくなっていたのだろう。聡一は力が抜けて思わず床にへたりこむ。挑むように睨み、そっと蓋に手をかけた。『じいちゃんと聡一の宝物だ』
箱の中身は当時の玩具と写真、そして記憶にない一筆便箋が一枚入っている。祖父の字だ、入院中に書き、箱に入れたのだろう。
『聡一は、憶えていたかい? 昔も今もこれからも、じいちゃんと仲良くしておくれ』
仲良く、と言われても祖父はもうこの世にはいない。だが、祖父らしい一文だと思った。
中学生になり高校生になり、祖父や祖母と会話する時間もなくなった。親すらも煩わしい存在だと思っていた、だが違う。
子供の時の様に頻繁に見舞いに行き、話をすればよかったと後悔した。嗚咽している孫に祖母が頭を撫でて、言う。「今頃天国で嬉しくて笑っているねぇ。ありがとねぇ」
胸につっかえていたものが泣いてとれた、大きくなると泣く事は何故か困難だ。だが、思い切り聡一は泣いた。祖父との思い出の茶菓子箱を胸に抱いたまま、聡一は大人への道を開いた気がした。
『泣くのも笑うのも恥ずかしい事ではない。感情を露にして大事な事を見失わずに、生きて行くのだよ。聡一、お前は聡明な子だから』……祖父の言葉が甦っていた。
鼻をすすり、指先で鼻をこすった。人から眼を背けながら立ち上がると、ようやく歩き出す。平日の昼間で道は人通りが少ないが、泣いていた表情を他人にすら見せたくなかった。高校生にもなって泣きたくなかった.
陽射しは分厚い雲で覆われており、八月上旬だというのにそこまで暑くはない。昨日は慣れない喪服の為窮屈さと暑苦しさで汗を多々流していた、それに悪態づいていた。
自宅から徒歩で約十分、路地に入って進めばそこが目的地だ。いつかは住宅地が出来る荒れ地だったが、何年もこのままだった。山を削り、剥き出しの斜面が広がっている。ここぞとばかりに、雑草が生い茂っていた。
聡一は、懐かしさに思わず息を大きく吸い込んでいた。小学生の頃は近所の友達と毎日のように学校が終わってから訪れて、秘密基地を造っていたものだ。
『懐かしいのぅ、聡一?』
一瞬、声が聴こえた気がして顔を上げていた。うろ覚えだが、膝辺りまで伸びている雑草を掻き分けて目的の場所を探す。似たような松の木が植えられているが、額に滲み出た汗を腕で拭いながら腰を下ろした。子供の頃の目線に合わせたのだ、探している木がどれなのか、こうすれば分かると思った。
『ごらん、聡一。あの松が一番立派じゃて』
数年前のことだ、松の木も成長していて形を変えている。だが聡一は迷わずに一本の木に近づいた、背丈は低いが重圧感のある木だ。
スコップを持ってくることを忘れて舌打ちしたが、地面に転がっていた木の枝を手に取ると根元を掘り起こす。老人と子供が埋めたのだ、そう深くはない筈だった。
場所が違うのか、それとも既に誰かに掘り起こされてしまったのだろうか。見つからない。この木だった筈だと言い聞かせ、聡一は何かに取り付かれたように懸命に掘る。埋まっている石に阻まれながら捜索するが、やはり見つからない。気づけば陽が傾いていた。聡一は我武者羅に棒を投げ捨てると、溜息を軽く吐き自嘲気味に笑って帰路についた。大したものではない、仕方がないことだと自身に言い聞かせる。だが、足取りは重い。
夕飯は出前だった、慣れない葬式で母も疲労しており家事をする気にならなかったのだろう。「おじいちゃん、ここの天丼好きだったわねぇ」祖母の声を聞きながら、聡一も好きな馴染みの店の天丼を無言で食べる。
「あ、そういえば聡ちゃん。これ、何か知らないわよねぇ」
祖母が何かを大事そうに手に抱えていた、何気なくそれを見て思わず硬直する。
探していたものだった。先程掘り起こしに行って見つけられなかった、それだ。
埋めた時は綺麗な菫色をしていた筈の、高級な茶菓子の箱だ。聡一は思わず立ち上がると祖母から奪うように今はくすんだ色のそれを取り上げ、震えながら見つめる。
「おじいさんがねぇ、病院へ入る前に持ってきたのよ。病室にも置いておいたの」
子供の頃、祖父と埋めた茶菓子箱。手にした途端、涙が溢れ出す。まさか祖父がこれを掘り起こしていたとは、思いも寄らなかった。
祖父が入院したのは一ヶ月ほど前だ、雨風にさらされて掘り起こした形跡が分からなくなっていたのだろう。聡一は力が抜けて思わず床にへたりこむ。挑むように睨み、そっと蓋に手をかけた。『じいちゃんと聡一の宝物だ』
箱の中身は当時の玩具と写真、そして記憶にない一筆便箋が一枚入っている。祖父の字だ、入院中に書き、箱に入れたのだろう。
『聡一は、憶えていたかい? 昔も今もこれからも、じいちゃんと仲良くしておくれ』
仲良く、と言われても祖父はもうこの世にはいない。だが、祖父らしい一文だと思った。
中学生になり高校生になり、祖父や祖母と会話する時間もなくなった。親すらも煩わしい存在だと思っていた、だが違う。
子供の時の様に頻繁に見舞いに行き、話をすればよかったと後悔した。嗚咽している孫に祖母が頭を撫でて、言う。「今頃天国で嬉しくて笑っているねぇ。ありがとねぇ」
胸につっかえていたものが泣いてとれた、大きくなると泣く事は何故か困難だ。だが、思い切り聡一は泣いた。祖父との思い出の茶菓子箱を胸に抱いたまま、聡一は大人への道を開いた気がした。
『泣くのも笑うのも恥ずかしい事ではない。感情を露にして大事な事を見失わずに、生きて行くのだよ。聡一、お前は聡明な子だから』……祖父の言葉が甦っていた。
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