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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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うおおおおおお



 窓から頼りない月を観ていた。部屋の中には、心許無い蝋燭の灯りが揺れているだけだ。静まり返るその宿は、客自体がいないのかもしれない。路地裏に面している為、眼下の狭苦しい道には人気がない。
 街の宿泊施設にいるのにそれは幻覚で、自分以外誰もいない空間に迷い込んでしまった気さえする。
 マビルは、声も立てず涙を流した。 
「一緒に寝てくれる?」
 何度か使ってきた台詞だった。
 これ見よがしに上目遣いでそう言えば、狙った男は堕ちた。豪華な食事と美しい部屋、そして贈り物。
 それが嬉しくて、何度も囁いた。
 けれども、今はそうではない。
 そんな意味では使っていない。
 ただ、ぎゅっと抱きしめて、一人ではない事を実感したいだけだった。
 ぽたぽたと、涙がシーツに染みを作る。
 こんな日が来るなどと思っていなかったマビルは、後先考えていなかった自分の行動に後悔していた。
 魔界は窮屈だと思いながらも、護られていたことを痛感した。
 狭い部屋に相応のベッド。
 その上で膝を抱えて丸くなる。
 身体を重ねる事は今でも簡単だ、だが今のマビルは快楽など求めていない。
 怖い夜に護ってくれる、温かなものが欲しいだけだ。
 しかし、マビルを抱いた男達はすぐに離れていった。派手に暴れて広まった噂、そして勇者達が注意勧告を促している為に、興味本位で近づいても深く踏み込まない男達が出て来たのだ。
 後腐れない関係を望んでいたのに、今はそれが苦しい。
 一人ベッドに取り残されることが、こんなに虚しく怖いことだとは思わなかった。
 上手く手を伸ばす術などない、今までそんなことをする必要がなかった。繋ぎ止める手段など解らない。 
「おねーちゃんは得意そうだよね」
 情けなく吐き捨てたマビルは、唇を噛み締める。
『寂しいから、あたしが眠るまで起きてて。ずっと傍に居てね? 何処にもいっちゃ駄目だよ?』
 不安そうに見つめ返して、そう告げたら男達は傍に居てくれるのだろうか。
 けれども、自嘲気味に笑って頭を掻き毟る。そんな弱弱しい自分は好きではないし、気持ち悪かった。
 ベッドから足を下ろすと、重たい身体に鞭を打って部屋を出る。
 一人きりの室内は、孤独だ。それくらいならば、酒場で美味しくもない酒でも呑んで気を紛らわしていたほうが楽だと思った。
 大通りに出ると、まだ人がいる。安堵の溜息を漏らして、歩き出す。
 会話しながら通り過ぎる人々を横目で見つめ、一人きり彷徨うマビルは知らず溜息を零す。
 まばらな人の流れの中で、マビルだけが暗い顔で逆走している。
 どうしようもなく胸が苦しくて、また涙が溢れ出した為に慌てて路地裏へと足を向ける。
 自分の事など誰も見ていないだろうが、泣き顔など人に見られたくない。
 屈辱的だ、強い自分が壊れてしまって戻れなくなりそうだった。
 ……あたし、弱くない。人前で泣くのは、弱っちい奴がする事。あたしは、強い。強くて可愛いマビルちゃんなんだから。
 路地裏で極力音を立てないように鼻水を啜り、涙を拭う。必死に自分を奮い立たせる。そうしないと、壊れてしまう。
 不意に聞き覚えのある声がして、弾かれて顔を上げた。
「クレシダ、こっちだ、クレシダ?」
 瞬きし、耳を澄ます。確実に知っている声だった、いつか身体を重ねた男だろうか。潤む瞳を擦り、瞳を細める。
 金髪に、碧の瞳。頭部から二本の角が飛び出している男と瞳が交差した。
 無表情で何を考えているか解らず、他人を寄せ付けない雰囲気の男は整った顔立ちをしている。しかし、マビルは好みではないし、出来れば近づきたくない男だと思った。
 記憶の糸を手繰るが、この男は知らない。
 記憶違いか、と踵を返したマビルだが大きく瞳を開いて振り返った。
 男は知らない、しかし”クレシダ”は知っている。
「トビィの……竜の名前!」
 悲鳴のように絞り出した声は、語尾が掠れていた。
 声の主は、トビィだ。
 マビルは途端逃げ腰になり、吐瀉物で汚れた壁にもたれていた。顔が蒼褪めていく。
「早く合流しよう、アサギが待ってる」
「……そうですね、行きましょうか主」
 狙われた獲物が、逃亡する為に神経を研ぎ澄ませて周囲を窺うように。必死に会話を聞き取った。
 この位置からだとトビィの姿は見えない、しかし、確実に壁の向こうにいる。
 アサギの傍にいて、彼女を護り続ける厄介な男がすぐ傍に居る。
 そのトビィが『クレシダ』と呼ぶ男。確かに人間ではないようだが、マビルの知っているクレシダは竜の姿だった。
 人型のクレシダに戸惑い、恐る恐る再び視線を投げかけると、こちらを睨むように観ていた眼光と交差した。
 喉の奥で、引き攣った悲鳴が漏れる。
 けれども、身構えたマビルを気にも留めずにクレシダはマビルの前から立ち去った。
 ようやく、鼻にツンとした異臭を感じた。まだ新しい吐瀉物に気づき、喉まで胃の中の物が込み上げる。
 どうにか口を押えて、吐き出したいのを堪えながら逃げた。
 トビィがいるということは、アサギがいるということ。
 逃げなければならないと、本能が急かす。
 こんな情けない姿など見られたくない、助けも乞いたくない。
 息を切らせて、迷路のような街を奔走する。何処へ行っても、人影に怯えた。
 出くわしたのが、アサギだったら、トビィだったら、クレシダだったら。恐らく他にもアサギの仲間が大勢いるに違いない。
 嗤いながら取り囲まれている気がした、何処へ逃げても把握されている気がした。
 これでは、袋の鼠だ。
 もう、何処へ逃げれば良いのか解らない。確実に追っては迫ってきている。
 魔界を飛び出し、自由になれたと思ったのも束の間だった。ここは、窮屈だ。
 そして、怖いもので埋め尽くされている。
 どうしても逃げきれない夜は、毎晩やって来る。
 夜に一人きりで眠る恐怖から逃れる為に、明日から昼間に眠ろうと考えて情けなく微笑んだ。
 夜露に濡れた草で、足元が冷やされていく。それでも、冷たいベッドで眠るよりも心地良いものだった。
 ……一体、あたしはどうしてしまったの。
 頭上の木で、梟が啼いた。
 二羽いるらしい声に、肩を竦める。
「鳥ですら、一人ぼっちじゃないのね。じゃあ、あたしはなんなの」
 低く笑うと、肩を落とす。俯いて、当てもなく森を徘徊した。歩いていたら、眠い身体も起きていられる。怖くない。
 どれだけ歩いたのだろうか。
 急に降り出した小雨を疎ましく見上げ、大木の下に逃げ込んだマビルは一息つく。
 そろそろ、疲れてきた。
「さむ……」
 震えて腕を擦りながら、前髪から滴る雨をぼんやりと視界に入れる。
 ふと、その前方が淡く光っていることに気が付いた。
 焚火ではないその光が、妙に柔らかく暖かなものに見える。引き寄せられるように近づいていった。
 
「なに、これ?」
 それは、森の中に浮かんでいた。初めて見るそれに手を翳すと、懐かしさを感じた。
 普段のマビルならば、地面に目を落とし気づけただろう。転送陣であるということに。
 けれども、温もりを渇望していた為手を伸ばして口元を緩める。怖さなど微塵も感じず、安心できた。
 転送陣に浮かぶ発光体に、指先が触れた瞬間。
「っ!?」
 発光体に、身体が吸い込まれる。悲鳴を上げる余裕すらなかった、ただ、巨大な波に連れ去られるように抗うことも出来ずに膨大な光の渦に身体が投げ出される。
 目が回る、呼吸が止まる。
 けれども何故か、悪い気はしない。
 大きな掌に包まれているようだった。
「……な、なんだ、ここ」
 マビルは喉の奥から込み上げて来た胃液に咳き込んだ、口元を押さえて蹲る。
 空気が悪くて、吸い込むたびに胸が軋んだ。
 周囲は暗い森だった、けれども見たこともないような強い光が周囲には溢れ返っている。混乱しながらも宙に浮かんだマビルは、恐る恐る見下ろした。
 言葉を失って、呆けた。
 見たことがない物が行ったり来たり忙しなく動いている、目に刺激を与える程の不自然な色を放つ光が生物の様に動き回る。魔界の城よりも高い建物が点々と聳え立ち、聞いたこともない音がそこら中で反乱している。夜空に浮かぶ幾千の星は何処へ行ったのだろうか、地上に落ちてしまったのだろうか。
 空には星の光がない、足元には星々よりも強い光が存在している。地上に星達が落下してしまったのか、それとも、空よりも上に来てしまっただけなのか。
 マビルは混乱し、狼狽する。
 瞳を凝らせば、人間もいた。
 忙しなく動く姿は地面に這い蹲る蟻の様だ、夥しい数に度胆を抜かれる。見たことがない衣服を身に着けている、けれどもそれを変だとは思わなかった。寧ろ、惹かれた。
 物珍しくて夢中で観察していると、黄色い悲鳴を上げる。黒い短髪に、鋭利な瞳ですらっとした身体つきの極上の男。パリッとした衣服……スーツを身に纏っており、初めてみたそれに心躍らせた。気になり、その男を追う。
 奥まった場所のコインパーキングに停めてあった真紅のスポーツカーに乗り込んだ男は、胸元から煙草を取り出し咥える。
 地面に降り立ったマビルは、不思議そうに車に触れた。冷たい感触のそれに、首を傾げる。何かさっぱり解らなかった。コンコン、と車を叩いたマビルは小首傾げて指先に集中した。通り抜けられる、と判断し、ずぶりと車内へ侵入すると後部座席に滑り込む。
 男はバックミラーに何気なく視線をやり、何時の間にか座っていたマビルに仰天して振り返った。思わず、煙草を落としていた。
 
「っ!? 誰だ!?」
「こんばんは」
 艶やかに微笑み、小さな欠伸をしてマビルは寝転がる。シートを撫で、感触にうっとりと瞳を細めると悪戯っぽく笑う。
「夜、一緒に眠ってくれる人を捜してるんだけど」
 扇情的なポーズで挑発するマビルに、男の喉が鳴る。
 マビルは、惑星クレオから転送陣で地球に来てしまった。
 その転送陣は、一体誰が設置したのか。都会に放り出されたが、魅惑的な容姿のマビルは地球に順応した。昨今、家出娘が増えている時代である。男達は信じて疑わず、いや、そうだと思い込んだ。
 家に連れて帰る者、そこらのホテルに飛び込む者、待てずに公園へ直行する者。男慣れしているマビルは身体を重ねる事にも抵抗はなく、為すがままに身を任せる。天性の素質で男達を翻弄し、魅了し、骨抜きにした。
 美しい衣服を強請り、美味しいものを食べ漁り、贅沢に溺れる。
 男達は何人もいたので、衣食住に困ることは何もなかった。
 微笑してじっと見つめ続ければ、好みの男から声をかけてくれる。厭きたら捨てた、それでもしつこかったら殺した。
 昔の自分に戻った気がして、優越感に浸れた。ここは夜でも明るくて賑わっていて、心細くない。
 何処だか解らなかったが、このままここに居ようと決意した。
 前居た場所に比べると、ここは住み心地が良く楽園だ。 
 そんなマビルのもとに、突然やって来た男。
「大丈夫? ケガしてない? なんか……血の香りがするから」
 キィィ、カトン。
 マビルは、顔を歪めた。
 トモハルは、頬を染めた。
――慎重に行かねば、今回で終わらせねば。一刻の猶予もない、次回へ引き延ばすことなど出来ぬ。地球を始め多くの惑星が限界を迎えている、我らの身に巣食う無様なモノ達が死滅するのは構わないが、我らが犠牲になる必要などない。
――けれど。
――けれど? 我らは一心同体、皆の願いは同じ。心を傾けるな、同情など不要だ。揺らぎがある者は相談し、決意を強固なものにするのだ。聴こえるだろう、あの悲痛な叫び声が。我らはあの時止めた、それを振り切り愚かな選択をした”彼女”を憐れむ必要などない。
――しかし。
――まだ何かあるのか、クレオ。
――……いや、特に。
――ふん、その身に”彼女”を匿うことにより、同調でもしたのか。情けない。
――……他に方法が。
――ない。幾度となく破壊されてきた惑星達の嘆きを聴いただろう? 
――それは。
――再度警告する、今回で終わらせる。最初から”彼女”の辿る路は決定していたのだ、抗おうとも無駄な努力だ。寄り路しなければ、宇宙は穏やかなままだったろうに。
――彼女にその責任は負えない、私は、反対だ。全てを知った彼女はどうなると思う? 放棄する可能性もあるだろう、危険だとは思わないのか。
――上手くやるのが我らの役目、その件に関しては手を打ってある。
「アサギ」
 クレロは、顔を顰めて頭を押さえた。眩暈を感じて前のめりになると、周囲の天界人が血相変えて助けに入る。脂汗が額に浮かんでいる神に、天界人達は心底震え上がった。 
 
「如何されました、クレロ様」
「気にするな」
 と言われたところで無理だ、構うな、とばかりに手を揺らす神に、天界人は引き下がらない。
「ですが……」
「少し、眩暈がしただけだ」
「何かの予兆ですか? 一体何が始まろうとしているのです?」
 神の態度に、天界人達は不安の影を落とす。勇者が現れ、魔王を倒し、世界が平和になったかと思えば破壊の姫君なる者が生活を脅かす。地上での醜い争い事など放っておけば良いものを、神は介入した。
 クレロは座り込んで膝を抱える。「アサギ、アサギ……アサギ様」虚ろに、勇者の名を呼んだ。それは、傍から見たら神が人間の勇者に恋をした愚かな図でしかない。
 神への不信は募っていくばかりだ、弾劾する者も出て来るだろう。不信任案を提出するのも時間の問題である。
 魔界イヴァンの魔族達は、復興の為に懸命に働いていた。トビィの計らいによりナスタチューム達も上陸し、素性を隠して支援をする。
 方向性が整ったので、進捗を定期的に報告してもらう手筈になった。
 仮初でも彼女を頂点に置いたことは善き事であり、上手く物事が進むことに皆胸を撫で下ろす。
 魔界はナスタチュームに任せ、アサギは別の問題に本腰を入れた。
 ワイバーンに打撃を与えられた惑星チュザーレの港町も、復興は上々だった。アーサー達が支援に入っているので、間違いはない。
 そんな中でアサギもトビィと共に訪れ、様子を見て回った。皆が不便をしていないか不安だったので訪れたのだが、杞憂だった。報告通り、活気で溢れている。混乱に乗じた盗人も少ないらしい。
 帰ろうとした矢先、アサギは街の中央から離れて駆け出す。ワイバーンから助けたガーベラを、トビィにも一目見てもらいと彼女を探し始めたのだ。
 トビィは正直気乗りしなかったが、アサギが言うので仕方がない。アサギ以外の女には興味がないが、無下に断れなかった。
 金髪を風に靡かせ、裏庭で洗濯をしていたガーベラは、訪ねて来た二人に目を丸くした。本当に足を運ぶとは思っていなかったのだ。「律儀な子」肩を竦める。純粋無垢な子犬のようにじゃれつくアサギに、罪悪感が芽生えた。
「トビィお兄様、ガーベラさんです。お美しい方でしょう?」
 アサギが弾んだ声でそう言うので、ガーベラは何気なく後方を見つめた。トビィと視線が交差する。息を飲む程美しい男が立っていた。
 互いに見据えた際、”何処か似ている”と痛感した二人は形程度の挨拶を交わす。似すぎていて、近寄ってはならない気がした。
 自分の嫌な部分が鏡に映ってしまいそうで。
 心に蟠りを抱いたトビィは、ガーベラには近づかないほうが良いとさえ感じていた。悪い女ではない、魅力的な女だった。けれども何故か心がざわめく。
 けれども、アサギはガーベラに熱狂していた。
 美しい大人の女性は、少女に大きく揺さぶりをかける。手に届かないテレビの中のアイドルに惚れ込む様に、雑誌で着飾るモデルを羨望する様に、アサギはガーベラを尊敬の眼差しで見つめた。
 アサギの周りには、常に美しい女性がいた。それはマダーニであり、アリナであり、手を伸ばせばすぐに触れ合えた。
 しかし、ガーベラは空気が違う。何処となく気品が漂い、近づき難い彼女は、アサギの心を捕えて離さなかった。
 娼婦という職業柄、勇者と付き合うには相応しくないと思い距離を取ろうとするガーベラ。
 幼いアサギに、娼館に漂う独特の雰囲気から隠したかったトビィ。
 キィィ、カトン。
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