別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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転載忘れすぎててずざー。
もう、ここで終わりだと思った。
助けなど来ない、助けに来てくれる人などいない。
勇者アサギの代わりに、ここで朽ち果てる。
影武者として生きてきた、これが運命。
その終着点。
アサギに間違えられなかったら、こんなことになっていなかったのに。
「ちっ、運が良いようで」
土に埋もれ、諦めて意識を手放したその時遠くで聞こえた、男の声。珍しい桃色の髪を思い出し、マビルは沈む。
瀕死のマビルを今にも喰らおうと、三つの大口を開けていた魔物を鋭く制し、アイは眉を寄せる。
「上等な肉だろうが、我慢しろ。後でたらふく別の肉を用意する」
忌々しそうにマビルを見下ろし、顔にかかったその煌めく髪をかき上げたアイは、遥か遠くを見つめた。
誰かが、こちらへ向かっている。
「破壊の姫君様」
愛しそうに敬愛の念を籠めて、うっとりと呟いたアイはそちらの星雲に向かって深く頭を下げる。
アイと三つ頭の魔物は、闇に紛れるようにしてひっそりとその場から消えた。
小雨が降る。
しとしとと降り注ぐそれは、容赦なくマビルの身体から体力を奪っていく。
『マビル』
「っ?」
ピタリと張り付いていた瞼を抉じ開けると、ぼんやりと岩肌が見えた。
背中が痛くて、それでも起き上がる気力もなくて、マビルは小さく呻きながら茫然と瞳だけ動かす。
恐る恐る右手を動かすと、指先が硬く冷たいものに触れた。
土の感触ではない、石のように思えた。
続いて左手を動かすと、やはり土ではなく石に触れる。
腹で深呼吸を繰り返し、背中に神経を集中させると、ゴツゴツと岩肌を確認した。
「ぇ……?」
今、眠っているのは土の上ではなく岩の上だと気づく。
頭が混乱する、ここが何処なのか検討がつかない。
忌まわしい魔物と魔族が何故か立ち去ったことは、うっすらと記憶にある。しかし、その場所とは違うところに自分が転がっているのが解らない。
生きたいという願望が働いたのか。
周囲から、妙な気配はしない。マビルは何度か半身を起こそうとしたが、上手く力が入らなかった。
寝そべったまま、先程よりは安全なこの場所に安堵の溜息を漏らし、少し眠った。
岩の上では眠ることは容易い事ではなく、疲れ切った身体ですら拒否をする。浅い眠りを繰り返し、ようやくマビルは回復魔法を試みた。
ただ、起き上がりたい一心で。
暗い洞穴に、魔法を放つ際に発する光が舞う。心地よい光は、マビルを落ち着かせた。
マビルが立ち上がると頭部を打つ高さの洞穴は、耳を澄ませば水音が聞こえた。周囲に反響している、近くに水源があるのだろう。
喉が渇いたので、何か口にしたくて水を求める。回復魔法で身体を癒しても、喉までは癒せない。
暗闇が支配するその狭い空間を、人差指に火の光を灯し移動する。
何処まで続いているのか解らないが、自暴自棄になりかけていたので後先考えず進んだ。
最深部に到着すると、小さな水たまりが出来ている。地中から染み出た水がそこに溜まっているのだろうか、滴が一定の間隔で零れ落ち、波紋を広げていた。
綺麗な水か解らなかったが、喉を大きく鳴らすと貪るように水を飲む。
多少土臭かったが、どのみち口内は土まみれだ。気にならない。普段のマビルからは考えられない行動だ、それほど、切羽詰まっていた。
満足したマビルは、揺れる水面に映る自分を見た。
……なにこのみすぼらしい女。
疲弊した顔が映っている、それが自分だと認めるのに時間を要した。
認めたくないが、明らかに自分だ。
頬の土と共に、幾筋も流れる涙も拭う。
水面に火の球を浮かべると、より鮮明に醜い自分が映った。
悲鳴を上げて回復魔法を連呼する。腕に傷が見えた、首に切り傷がある、唇にかさぶた、瞼は落ち込んで窪んでいた。
自分を見つめるのが好きだったマビルにとって、これは拷問だ。
泣き喚く体力が戻ってきたのでのたうち回る、しかし冷静さを失っている為上手く魔法は発動しない。
「は、早く! 早く回復しないと! こんなの、イヤ!」
恐怖に怯えて震えながら、マビルは大声で哭いた。
「”アサギ”さえ、いなければっ……!」
憎悪の矛先はアサギへ。
全ての元凶は、アサギ。アサギが勇者として来てしまった時から運命の歯車は回転し、マビルを渦中へと引き摺りこんだ。
いや、アサギが産まれると定められた時からか。
誰からも愛されて護られて美しく咲き誇るアサギから少し離れた場所で、俯いたまま出番を待つ。誰にも知られないように、ひっそりと生きていく。
「そんなの、絶対嫌なのにっ」
憎い。
悔しい。
どうして、こうも違うのか。
殺したいけれど、殺せない。何故ならばマビルはアサギの力量を認めていた。まざまざとその能力の高さを見せつけられて、挑むほど馬鹿ではない。
あちらの魔力が高くて殺せないのなら、せめて。
せめて、何か一つでも勝てるものを見つけねばならない。
一体何が、出来るのか。
万能なわけがない、一つでも弱点を、追い詰める要素を探さねば。
でないと、これで終わる。
……本当に、痛いんだ。身体も心も悲鳴を上げるの、痛いの。
涙を零すなど弱者がすることで、自分には似合わないと罵りつつも、とめどなく溢れてくる。
……誰も助けてくれない、泣いても、叫んでも、あたしのトコには誰も来ない。
これがアサギならば。
泣けば誰かが手を差し伸べて救ってくれる。夜は誰かと寄り添い包まれて深い眠りにつく。傷などない、出来る前に誰かが庇ってくれるから。
人間の勇者で、次期魔王となる”はず”の、最強の”姉”。
「影武者のあたしは、死ななきゃいけないの? 一体なんで産まれたの」
身体中の水分がなくなっていくのを痛感するが、それでも涙は止まらない。「あ、あたしだって。あたしだって!」掠れる声は、閉鎖された洞穴にすら響かないほどか細いものだった。
……誰か。誰か。助けてよ、護ってよ。
嗚咽を繰り返し、ぐったりと岩肌に横になる。人肌とは程遠いそれに、情けなくなった。こんなものに縋るしかないだなんて、どうかしている。
「いたい、よ」
痛いのは、身体なのか、心なのか。
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