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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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転載忘れてた。




 ようやく解放されたアサギは、トビィと共に街へ出向く。機動力に優れた二人は、次々に聞き込みを開始した。けれどもそう上手くいかないらしく、その日は特に何も起こらなかった。不審な人物も見かけず、そういった噂もない。
 行く先々でアサギに似た人物を捜し、見かけていないか聞き込みをしたが、誰も知らなかった。
 アサギが学校へ行っている間も、トビィは単独で聞き込みを開始した。深刻な人手不足の為、クレシダとオフィーリアも人型になり街へと入る。時折休憩をしつつ、アサギの分まで忙しなく動いた。
 三人とも、人と接することは好きではない。クレシダはともかくとして、トビィとデズデモーナはアサギに汚名が着せられることを懸念して必死になっていた。
 水竜オフィ―リアは、長時間人型になっていると肌が乾燥し、体調不良に陥ってしまうことが発覚した為参加していない。思わぬ落とし穴だった。
 若く、好奇心旺盛なオフィ―リアはトビィと共に人間界の街を駆け巡りたかったようだが、仕方がない。まさか途中で池に飛び込み、水分を補給するわけにもいかない。ひたすら水を飲み続けていたらどうか、とも思い実際やってはみたものの、そういう問題ではなく失敗に終わった。
 その日の街は、そこまで大きくはないが大河沿いにある為活気が溢れていた。下流へ船で物資を運んでおり、人口は多い。これから期待される、発展途上の街だろう。
 その街を訪れたことがなかったので、トビィにしては珍しく様々な個所に視線を走らせ歩く。ただ、トビィ単独でも目立つのに、整った顔で長身の男が三人も揃えば、周囲は黄色い歓声に包まれる。それが些か煩わしい。
 その街は、最初からあった建物の隙間に次々と建てていったらしく、窮屈な路地になっていた。後先考えなかったのだろう、交通の便は悪い。入り組んでおり、迷路の様だ。
 トビィは単に観光を楽しんでいるわけではなかった、アサギへの土産を探していたのだ。髪飾りで手ごろなものはないかと、露店を見て回る。
 軽快な足取りのトビィの後方、二本足で歩くことに疲れたクレシダは、顔を歪めて立ち止まった。普段は飛び回っていることが多いうえに四足歩行な為、人間の歩き方にはどうしても慣れない。
 デズデモーナのように”アサギと同じだから”という愉しい心持ちでいられたら、気にはならないのだろう。
「どうしたクレシダ、急がねば」
「疲れた、人間は面倒だ」
 気配に気づき、険しい顔をしてデズデモーナが振り返る。品定めをしているトビィは、どんどん先へと進んでいった。このままでははぐれてしまう。
「そう言うな、我慢しろ」
「私はデズデモーナと違う……いくら主の命とはいえ、これは苦痛過ぎる」
 俯き、今にもその場に寝転がりそうなクレシダを引っ張ると、デズデモーナは歩き出す。「この程度で根を上げるなど、だらしない」叱咤する同僚に、クレシダは本音をぶちまけた。
「魔王と戦っていた時のほうが今の何倍も楽だ」
 心底嫌らしい。
 聞き流し、デズデモーナは重いクレシダの身体を引き摺って行く。
「…………」
 嫌々ながらに歩き出した筈のクレシダの足が、止まった。
 ようやく二人が遅れている事に気づいたトビィが、片手を上げて手招きする。
「クレシダ、どうした。少し我慢しろ、そこの店で食事にするからここまで頑張れ」
 人ごみに紛れて届いたトビィの声に、クレシダが軽く視線を投げる。
 しかし、その意識は別の場所にあった。
 路地の奥を見つめているクレシダに視線を追い、デズデモーナもそちらを見やる。が、同じ顔に見える人間が右往左往しているばかりで、特に異変はない。
「行こう、主が待っている」
「…………」
 クレシダが返事をしないことは普段通りの為、追及することもなくトビィと合流する。労う為に、三人は一軒の店に入った。
 席に深く腰掛け、トビィが適当に注文した食事が並べられると、クレシダも手を伸ばす。黙々と食べている姿に安堵し、トビィも口に運んだ。
「しかし、ここにも手がかりはないようですね」
「あぁ……明日は次の街にするか」
「御意」
 二人の会話を聞き流しながら、クレシダが焼き魚を頬張り「アサギ様?」と呟く。ただ、口内に物が入っていたのでその声はトビィに聞こえることがなかった。
 クレシダは先程、アサギに良く似た雰囲気の少女が、路地を駆けまわっている姿を見たような気がしたのだ。
 しかし、彼の性格上突っ込まれなければ方向もせず、目の前の馳走と疲れた足を休ませてくれる椅子の存在に気がいってしまい、トビィに報告をしなかった。
 クレシダは、何処までもマイペースだ。
 勇者達は今日も何処かの街へと足を運ぶ。新しい街へ行けるので、お遊び程度で通っていた。浮かれた気分でいては駄目だと思いつつも、やはり楽しい。以前恐ろしい目に遭ったというのに、仲間達もいるので安心しきっている。
 日本に比べると不便だが、やはりその土地柄の食事が大きな楽しみになっていた。惑星クレオの通貨は大量にある為、地球のように自分の小遣いで買わなくても良いのである。高いものも、遠慮なく注文していた。
 それでも、不満はある。贅沢というのは、尽きない。 
「ラーメンがないよな、ラーメンが」
「ないでしょ、流石に」
 小言を呟きながら串に刺さった焼貝を齧りながら歩くミノルに、ケンイチが吹き出す。ミノルのラーメン好きは知っているが、流石に異界で求めても無理な話だった。
「パスタはあったよね」
「ちげーよ、麺類が喰いたいんじゃねー、ラーメンをズルズルやりたいわけよ。濃厚な汁のさ。醤油か味噌がいい」
「ますますないと思うよ、それ……」
 アサギに彼氏が出来ていたという衝撃の事実に、翌日も気落ちしていたミノルだったが、どうにか浮上したようだ。普段通りに何かしら齧っている。
 トモハル曰く、顔に見せないだけでまだ本調子じゃない、ということらしいが。もしかしたら、食べる事によって忘れようとしているのかもしれない。
「過食症にならないでよ、失恋の痛手で」
「うるへー……お、あれ美味そう! おっさん、それ何、一本頂戴」
 仏頂面をして軽くケンイチからの言葉を流し、すぐに目新しい食べ物に食いついた。隣でケンイチが大袈裟な溜息を吐く。
 ミノルとケンイチ以外は用事があった為、二人はアリナと同行している。
「にしても、アサギに似た人物ねぇ。あんな可愛子ちゃん、滅多にいないと思うんだけどなぁ。少なくとも、今の今までボクは見た事ないよ。ホントなのかなぁ?」
「だよなぁ……」
 両手に食べ物を持って「いたら彼女に欲しいくらいだよ」とミノルがぼやいたのを、ケンイチは聞き逃さなかったが、あえて追及しなかった。「僕は好きな子だけを見ていこう……」良い反面教師が出来たと、心で固く誓う。
「実はさぁ、どっかでアサギを見かけた男が、もう一度会いたくて虚言したとかじゃないの?」
「有り得るな」
 幾多の証言を得ているので、それはない。しかし、アリナとミノルは真剣だった。肩を竦めて話を聞きつつ、ケンイチは後をついていく。
 なんのかんので、この二人は仲が良い。
「そのアサギは今何処よ?」
「トビィと一緒じゃね?」
「仲いいよなぁー、トビィの押しが強い、ってのもあるけど。あの二人、時折入り込めない空気を醸し出してるよね」
 ミノル同様、行く先々で食い散らかすアリナにクラフトは眉を顰める。食べ過ぎだ、と言いたいのだ。しかし、物珍しいとどうしても手を伸ばしてしまう。
「気に入ったものは故郷に持ちかえればいい、持ちつ持たれつ。街の活性化を目指してボクなりに頑張ってるの」
「さいですか」
 半ば諦めたようなクラフトは、細いアリナの何処に大量の食事が入っていくのか毎回不思議だ。動く量が半端ないので、食べてもすぐに消費してしまうのだろう。美しいラインは変わらない。
 ミノルという飲み食い友達が出来て、一層活発になった気がする。
「にしてもさ、新しい彼氏とやら、どんな奴だろ? トビィと同じ髪色ってすんごい偶然じゃない?」
「ぅ」
 平然を装って会話していたが、やはりそれは地雷だったようだ。ミノルが硬直すると、慌ててケンイチが口を挟む。
「アリナ、そっとしておいてあげて!」
 退屈そうに髪を指に巻きつけながら、頬を膨らますアリナ。
「えー、だって気になるじゃん。いつ紹介されるんだろーな、ボクより強いかな? 性格悪そうだったら追い返していいかな?」
「それは許可する」
 ミノルが即答する。
「おっ、あれも美味そう」
「いいね、いいね、一本いっとく? おばさーん、その串二本くださいなー!」
 ミノルとアリナの食べ歩きは止まらない、見ているだけで胸やけがしてきたケンイチとクラフトは、互いに顔を見合わせてそっと頷き合った。
 アサギは、トビィと小さな村を訪れていた。山の麓にあるこじんまりとした村は、人口も少なく寂れている。村の中を鶏が走り回る、そんなのどかな場所だった。自給自足の生活を営んでおり、村中が家族の様だ。実際親戚ばかりなのだろう。
 旅人も僅かにしか通りかからないらしく、宿は一軒しかない。食事処もそこが経営しているらしく、旅人はそこにしか足を運ばないだろう。
 当初、クレシダ達も人型になり村へ入る予定だったが、ここには何もないと判断したので村の入り口で待機することになった。流石に竜では場所もとるし、何より無意味に人間を驚かせてしまうので、人型になっている。
 好きにしていて良いと言われたので、クレシダは地面に寝転がった。デズデモーナは警戒を怠らず、周囲に鋭い視線を投げかけている。
 
「流石にここに余所者が来たら警戒するだろ」
 苦笑し、足を踏み入れたトビィは目の合った村人に声をかけた。
「すまない、最近見知らぬ女が来たことはなかったか?」
 こういった閉鎖的な村は、余所者に対して酷く冷たくあしらう。トビィが生れ育った村もこのような雰囲気だった為、若干懐かしさを感じてもいた。
「いや……あんたらが久し振りだ」
「そうか、悪かったな」
 抑揚のない声で告げられ、トビィは片手を上げると礼を述べた。陽は大きく傾き、山の向こうに沈もうとしている。見上げた空は真っ赤で、何処か不気味だった。湿気を帯びた風が、頬を撫でる。
「なんだか、あんまり良くない風が」
 眉を寄せたアサギは、村の裏にある山が吼えたような気がして一点に集中した。トビィも殺気を感じ、剣に手を伸ばす。
 強風が吹けば消え去ってしまいそうな家にいた人々が顔を覗かせ、不安げに山を見つめ出す。
 村人が肩を落とし、肩にかかった手拭いで汗を拭う。重苦しい口を開いた。
「最近、妙な声がするんでさぁ……。近々、偉い戦士さんでも雇って警備していただこうかと話が持ち上がってましてねぇ」
「声?」
「へぇ……。姿が見えないし、実害もないんですが。女子供は恐怖に怯えておりますよ。アンタ方は腕利きなほうで?」
 トビィの剣を見てからアサギを見た村人は、小さな溜息を零す。トビィはともかく、か細く小さなアサギは美しいだけの娘にしか見えなかった。今は武器も所持していないので、当然か。
 話を聞いていたトビィは、微かに口角を上げる。勇者とドラゴンナイトを掴まえて”腕利き”とは面白い冗談だ。
「アサギ、どうする?」
 尋ねたところで、返事は一つしかないと思っていた。アサギがこの事態を放っておく筈がない。何より、今追っている事件と無関係とも思えない。
「調べましょう。おいで、セントラヴァーズ」
 言うが早いか、杖を出現させて構えたアサギに、村人は悲鳴を上げた。突然そんな物を取り出したら、驚いても仕方がない。
 そして、凡人ではないことくらいは疎い村人でも理解出来た。腰が抜けたらしく、地面に座り込んで震える声を出す。
「あ、アンタ方は……」
「おそらく、この世界で一、二を争う腕利きの二人だ。これも何かの縁だろう、調べてみよう」
 愉快そうにそう言ったトビィに、村人は歓声を上げた。久々に聞いた明るい声だったのか、何事かと集まって来た村人達に踵を返し、二人は外で待機していた竜に飛び乗ると颯爽と山へと向かう。
 下では臆することなく山へ向かった二人に、村人達が拍手喝采していた。まさかの幸運に、村は沸き立った。竜を使う戦士など、大金を積んでも捕まらないだろう。
 アサギとトビィは麓から山頂へと一気に駆け上がる、何かが蠢いているのは分かるが、正体は掴めない。
「……何かいますが、こちらを警戒しているというよりも」
 瞳を細めて、動きを探るアサギ。その下にいるデズデモーナが、威嚇の為吼えた。沈む夕日に、猛々しい黒竜の咆哮がこだまする。
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