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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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やはりねむい。


部屋の窓から優雅に侵入したアサギは、すぐに卵を見つける事が出来た。大事な宝だったが、やはり命が惜しかったのだろう、避難の際に持ち出さなかったようだ。
 光沢のある桃色の卵を抱き留めたアサギは、耳を寄せる。微かに啼いた気がしたので、笑みが零れた。

「大丈夫、生きてる」
 
 卵から感じる生命の波動に胸が震える、どれくらいの間ワイバーンから離れていたのか知らないが、力強さに圧倒された。
 励ますように、アサギは抱きしめると「頑張って」と囁く。淡く卵は光り輝き、それに応えた。
 すぐに窓から飛び出したアサギを、ワイバーンが咆哮を上げて出迎える。

「無事ですよ! さぁ、帰りましょう」

 そう言うと、ワイバーン達が一斉に方向を変えた。ここに用はない、住処へと戻るのだろう。

「見つけたんだ、よかったね」

 グランディーナがまばらな拍手を贈ると、嬉しそうに笑ってアサギはそっと手を伸ばした。

「ありがとうございました、助かりました」
「私は何もしていないけど」

 伸ばされた手に躊躇いがちに触れたグランディーナの身体が、宙に浮く。悲鳴を上げる間もなく、気が付けば地上に降りていた。

「お父さんに、今後は気を付けて買い物をするように伝えてください」
「う、うん……解った」

 中庭の芝生に降ろされたグランディーナは、唖然と返事をし、去っていくアサギを見つめる。
 やがて駆け寄ってきた人々に囲まれて、遅れて両親がやって来た。根掘り葉掘り訊かれたが、答えたのは「勇者様が助けてくれたのよ」ということだけ。
 放心状態の娘を心配して、医師を呼んだ両親に眉を寄せたが、大人しく部屋で手厚く看病を受ける事にした。身体は何処も痛くはない、ただ、疲れた。
 色々と考えることがあった、親友だと思っていた友達は消えてしまい、馬鹿にして蔑んでいた娼婦に助けられた。

「あの人達にも、お礼を言わないと」

 グランディーナは、小声でそう呟きながら、いつしか夜の帳が降りてきていた空を見上げる。窓から見える夜空は、普段よりも明るく、煌びやかに見えた。
 あの不思議な勇者達が去って行った空を見上げて、口元に笑みを浮かべる。

「変な勇者」

 また、逢いたいと思っていた。市長の娘だからと、変に壁を作って接しなかった少女達の存在を嬉しく感じるとは、自分も思わなかった。
 ワイバーンの襲撃で街は混乱に陥ったが、甚大な被害はなく、国から派遣された救援部隊により活気を取り戻していく事になる。
 グランディーナはガーベラ達に謝罪をしに出向き、友達ではないかもしれないが、以前のように見下げることはなかった。自分の身を優先し、市民の避難を率先して行わなかった市長は罪に問われたが、賢者アーサーの助言により再選挙は免れ、監視されるということで収束する。娘であるグランディーナが父に口を出し始めたことも、大きく影響した。卵の件を全て明るみにし、今回の原因が父にあると言及した上で、真面目に政治に取り組む様にと懇願した。娘に言われては流石に心が痛んだのか、自発的に娼館通いも止めたようだ。街の復興で人の出入りは激しくなり、商売がより盛んになった街は、全てが良い事に思えた。
 ただ、一つを除いて。
 善かったのか、悪かったのか。
 強いて言うならば、それは善かったのだろう。運命に抗ったところで、それは必然。誰にも変えられないのだから。
 美しい金の髪が、海風に流される。寂しい歌声が、騒がしい街とは反対側で響いていた。

真っ赤に染まった自分の手 生暖かい感触に身を沈める
 目の前で愛しい貴方は その綺麗な紫銀の髪を赤く染めて
 私を見下ろし 嗤ってた
 あなたの居ない世界に 私は必要ない
 動いていた時計の針は止まったの
 回っていた歯車は壊れたの
 溢れて湧き出た清水は枯れてしまったの
 太陽は汚染された大気に隠されたの
 風が止み 大地が荒れ 水は枯れ果て 
 火は業火となり 全てを飲み込む

 光は届かず 闇が支配する
 この世界に私は要らない
 貴方に私は要らない
 貴方が欲するのは 金の光
 眩いばかりの 流れる金」

 ガーベラは、海を見据えて歌った。
 消えていった不思議な勇者を思い描きながら、歌った。
 美しい勇者、輝かしく自分とは正反対の娘。
 何もかも全てを持ち、自分の意思で何でも出来てしまう、自由の娘。

「羨ましい子」

 潮の香りが移ってしまった金の髪を指に巻きながら、ガーベラは自嘲気味に笑った。

 アサギが卵を大事に抱えてデズデモーナと共に上空を駆けると、クレシダがやってくる。背に乗ったトビィとオフィ―リアが手を振っていた。

「無事か、アサギ」
「はい! 今からワイバーンさんの卵を届けに行くところです」

 アサギとトビィは簡単に経緯を話す。トビィは、海からやって来た魔物を対峙し、一掃してきたところだった。「ボクが海を凍らせたんだよ」と無邪気に話し出したオフィ―リアに、ギョッとしたアサギがその方向を見やると、確かに海が一部凍っている。
 すぐに溶ける、とは言われたが、なかなかに恐ろしい破壊力を持っているオフィ―リアにアサギは苦笑するしかなかった。凍った海を足場にしてトビィが斬り込み、簡単に一掃したという。

「ワイバーンに触発されて街に襲撃しただけだろう。ここは惑星チュザーレだ、今後の事はアーサーに任せよう」

 すでに街には国から救援部隊が向かっていると、クレロから伝言があったので、トビィは面倒そうに頭をかく。「最初からオレ達に頼むのが筋違いだ」ぼやいた。

「けれど、惑星クレオでの戦いでアーサー様達は協力してくれました。今後も互いに協力し合うべきだと思います」
「アサギが言うなら、そうしよう」
 
 あっさりとトビィが受け入れたので聞いていたクレシダが咽た。物言いたげに首を持ち上げたが、何も言わずに飛行を続ける。
 卵を送り届け、ワイバーンに見送られながらアサギ達は惑星チュザーレを後にした。

「そうそう、とても綺麗な方に出逢ったのですよ」

 一息つき、クレロに全てを報告した後、天界城でトビィに嬉しそうに話し出したアサギは、興奮気味だった。一室を与えられたので、茶を飲みながら瞳を輝かせている。

「おとぎ話に出て来る、お姫様みたいでした。金の髪が美しくて、なんだかもう、お人形みたいな感じの」
「へぇ」

 トビィは興味を抱かなかったが、アサギが懸命に話す姿が可愛らしかったので聴いていた。

「また、お会いしたいと思うのです。何をやっている方なのでしょう、凛々しい感じで、貴族の令嬢にも見えました」
「会いたいのか?」
「はい! とにかくとーっても綺麗なんですっ」

 スーパーモデルのようだ、と言いたかったのだが言ったところでトビィには通じないだろうと思ったので言わなかった。
 
「アサギ以上に綺麗な女は、いないがな」

 茶を啜りながらぼそっと零したトビィの真向いで、頬杖ついたアサギはガーベラを思い出す。

「お友達に、というか、仲良くなりたいな、思うのです。あんな女性になりたいです、憧れます。無理でしょうけど」

 キィィィ、カトン……。
 


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