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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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「神から聞いたわ、アサギ、貴女……時間を戻すことも出来るのですってね。  何故、変えなかったの? 変えたほうが楽でしょう、何時にでも戻れるのでしょう?」 「……戻せる、のですが」 「まさか、私達を気遣って……」 「いえ、そうでは、ありません」
「運命の恋人は、私が干渉せずとも出会えます。  そうでは、なくて。  ただ。  ただ。  嫌われていても、疎まれても、彼がどれだけ苦痛を味わおうとも、私は。  彼に、出逢い。  彼の、隣で。  居られた時間が嬉しくて幸せで消したくなかったのです」
「おかしいでしょう、彼に嫌われることばかりやってるのです。  最低でしょう、それが分かっているのに、私は」 ……戻そうと思えば、それこそアースの時代、それより前の、愚かな過ちを選択する前にも戻れる。けれど、出来なかった。幾多の惑星と命が犠牲になったとしても、優先したのは、彼との出遭い。



 鼻を摘まんでも効果がなさそうな悪臭に、顔を顰める。
 
「ちょ、なんなわけー!?」
 唖然とするマビルの目の前には、奇怪な魔物が蠢いていた。
 触れたら数日臭いがとれなさそうな涎を垂れ流し、暗闇を見通せそうな光る瞳がマビルを捕えている。
 六つに光る瞳に、最初は三体いるのだと思っていた。顔も三つある、けれども、瞳を凝らせば身体が一つしかない。
 三頭を持つ目の前の犬の魔物は、値踏みするようにマビルを見ていた。小柄なマビルを丸呑み出来そうなその巨体は、餌だと認識したのか血走った瞳を向けると低く唸り声を上げた。
 傷だらけの身体を震わすと、糞尿まみれの毛が舞う。
 慌てたマビルは距離を取った、周囲には鼻のもげそうな異臭が充満している。確認の為、思わず自分の身体を嗅いだ。
 臭いが移ったりでもしたら大変だ。
 逃亡しようかとも思ったが、マビルは腕に自信がある。貧相な村の人間達がどうなろうとも知ったことではないが、退屈しのぎに目の前の犬を倒すことにした。
 不敵に微笑むと、両手を掲げて魔力を集注させる。面倒な事が嫌いなマビルは、一気に派手な魔法でカタをつけるつもりだった。
 周囲に風が舞う、美しい黒髪が怪しく揺れ動く。口元に笑みを浮かべ、大きな瞳を悪戯っぽく光らせると頭上で完成させた禁呪を魔物目掛けて解き放った。
 稲妻が迸り、投げつけた魔力の塊が爆発する。避ける事をしなかった魔物は、苦しそうに吼え喚いた。肉が焦げる臭いがするが、ちっとも食欲がわかない。
 優雅に微笑み、巨体を地面に横たえて痙攣している魔物を見下すと、愉快そうに舌を出す。
 久し振りに膨大な魔力を消費して、すっきりしたので大きく伸びをする。
 田舎くさい場所だったが、寝床が必要なので先程の村へ戻ろうとした。アサギと間違えられていることには腹が立つが、折角なので利用しようとした。盛大にもてなしてくれるであろう村をそのままにしておくのは惜しい、とことん甘えることにした。
 寝心地良い寝具に包まれて、翌朝目を醒ましたら、美味しい食事が待っているに違いない。
 食べ終えたら、片っ端から人間を殺して違う場所に行けばいい。
 もしくは、アサギのフリをして一人か二人殺して立ち去ろうか……胸を躍らせて踵を返した。 
 可憐に翻った筈だったが、目の前には泥臭い地面がある。自慢の肌に腐った落ち葉が付着し、悲鳴を上げた。
 右足に激痛が走りもがけば、小枝で頬を引っ掻く。小さく悲鳴を上げれば、魔界イヴァンでの出来事を思い出した。
 あの日も、こうして無様に地面にのたうち回っていた。
 一人きり、寂しい森で。
 恐怖が甦り、痛みを堪えて起き上がろうとした時、生温かい風を感じ顔を上げる。
 顔が引き攣る、どろりとした粘着液が髪に垂れた。喉の奥で悲鳴を上げた、おぞましい汚臭に身の毛がよだつ。
「っ、あぁっ」
 背中を強打した、前足でマビルを転がすように弾き飛ばしたのだ。じゃれているのだろうか、いたぶっているのだろうか。
 大木に激突したマビルは、脳震盪を起こしかける。けれども、じんわりと肌に広がる痛みに目を醒ます。
 自慢の柔肌には、爪傷が出来ていた。滲み出す血に、痛みも増していく。パニックに陥った。
 死んだと思っていた魔物は、生きていた。
「思わぬ収穫」
 傷跡が残ったらそれこそ生きていはいけない、マビルは逃げる事も忘れて回復魔法に専念する。しかし、上手く出来ない。半泣きで歯を鳴らしていたが、不意に聞こえた言葉に反応した。
 魔物は言葉を話せたのか。
 唖然と見上げた先で、喋ったのは犬ではない事に気づいた。
 犬の横に、誰かが立っている。
 整った顔立ちの男に、喉を鳴らす。そして悟った、同じ魔族であることを。自分と同じ空気を持つその男に、慌てて睨みを利かせる。
 
「ひょっとして、貴女。予言家とかいう一族が唱えた”影武者”でしょうか。非常にアサギ様に似ておられますので」
 耳に心地良い男の声に、一瞬聞き惚れた。こんな出会い方をしていなければ、マビルのストライクゾーンだ。すらりとした細身の長身、綺麗な長い指に艶を覚えた。
 しかし頬を怒りで真っ赤にすると、歯を剥き出して威嚇する。美形に弱い自分に、少しだけ腹が立った。
 今はそれどころではない、自分の事を知っている魔族に出会ったのは初めてだ。それは有り得ない事だ。
 唇を噛み締めると、土の味がした。口内がジャリジャリト不愉快な音を立てる。 
「生きていたとは意外、てっきりあの魔王戦で巻き添え喰らって死んだものだとばかり。……まぁ良いでしょう、今、死んでください」
 淡々と呟く口調に、背筋が凍りつく。
 いきなり死の宣告をされ、態勢を整えるべくマビルは気合で立ち上がった。
 戦える、と言い聞かせる。たかが魔族一人と、犬の魔物一匹だ。這い蹲らせて詫びを入れた後に嬲り殺してやる、と意気込む。
 冷静になるように、呼吸を正常に戻そうとした。 
 
「実戦は、あまり体験していないようですな。回復する時間を与えると思って?」
 言うが早いか、魔物が突進してくる。舌打ちして全力で空に跳ね上がったマビルは、激痛に顔を歪めた。
 回復が間に合わない。
「さようなら、アサギ様の”影武者”」
 耳元で官能的にも聞こえた重低音の声に、マビルは仰け反る。
 甘い言葉を囁かれていた夜が、走馬灯のように甦った。このままでは『私の腕の中でゆっくりおやすみ』になってしまう。
 永久に。
 
「ぅああああああっ!」
 振り返り、右手に出現させた火炎を叩きこもうとした。
 冷静にマビルを射すくめるように見つめていた男の顔が、消える。
 再び地面に落下したマビルの身体には、小枝が数本刺さっていた。意識が遠のいていく、視界も薄れていく。魔物の異臭ですら、気にならないほどに。
 顔中を舐められていたが、もう、逃げる事など出来なかった。
 全身が軋む、知らず涙が零れていく。
 
 ……だれか、たすけ。
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