別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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ある者は目を逸らし、ある者は凝視し、ある者は気を失い、それでも共通することは『息を飲み、沈黙を守った』ということだ。
ミノルは現実逃避をして倒れ、トモハルはそれに付き添った。だから見ていない。
アリナとマダーニは、興味本位で穴が開くほど見入った。
免疫のないクラフトは顔を真っ赤にして俯く。
ガーベラは、真顔で皆の反応を眺めてからトビィの背中を通り越し、口付けしている二人を見やる。
それは、激しいものだった。
こちらにまで音が響いてくる勢いだ、余裕のない荒い息遣いが間近で聞こえた気がして身体が震える。
ガーベラは、微かに眉を寄せる。あのような情熱的な口づけなど最近したことがない。
いや、産まれてから経験したことがない。売春婦として身体の上を幾多の男が通過していったが、口付けた記憶は掠れている。挨拶程度に交わすことはあったし、雰囲気作りの為恋人の真似事をしたことはあった。
けれど、それらは目の前のトランシスとアサギの口付けとは違うものだ。
見せつける様に、それでも”普段通りの”口付けをしていることは言われなくても解る。
恥じらっていたアサギだが、トランシスの舌の動きに合わせて戸惑いながらも絡めている。ごく、自然に。慣らされている。
微かな抵抗を見せるアサギを、トランシスが抑え込み二人の指も身体も絡み合う。逃げ惑う指先を掴まえ捕え、掌に閉じ込めるトランシスはとても嬉しそうだった。
人がいてもいなくても、普段からあのように熱い口付けを交わしているのだろう。
少しだけ、羨ましかった。
あのような我を忘れる営みが羨ましいのか、周囲を気にせず二人の世界に入れる恋人が羨ましいのか。
何が羨ましいのか解らないが、ガーベラは目の前の情景に酷く焦がれた。じんわりと、下腹部が熱くなる。もどかしくて、腰を揺する。揺すってから、信じられないとばかりに瞳を開き、気まずそうにトビィの背中に視線を戻す。
それを見て、現実に引き戻された。
喉の奥で、ヒュ、と音が出た。
激怒している様は、全てを凍てつかせてしまいそうだった。小刻みに震える身体は、今にも手にした木刀で殴りかかりそうだ。
よく、耐えているとは思う。
誰の目に見ても明らかなトビィの想い人は、アサギ。知らないのは当の本人であるアサギだけ。
「んふっ、ぅっ」
ようやく、二人の長い口付けが終わった。
糸引く唇が微妙に離れると、熱に浮かされた顔をしたアサギの膝が折れる。力が抜けたのだろう、トランシスにもたれこみ、震えながら顔を胸に埋めた。
「ひどいっ、こ、こんな恥ずかしいこと、みんなの前で!」
小声で文句を告げたが、トランシスは顎に滴る混じり合った唾液を手首で拭い取ると、耳元に口を近づける。
「でも、アサギも気持ちよかっただろ? 恥ずかしいことなんて何もない、オレ達はいつもこうなんだから。見てもらわないと」
……アサギが誰の所有物なのか、はっきりさせておかないと。
唇を動かしてそう付け加えたトランシスは、アサギの頬に口付ける。過敏に反応し、甲高い声を上げて慌てて口元を押さえたアサギは、震える足で懸命に地面に立っている。
「さぁて、お待たせしましたトビィおにーさま。オレの愛するアサギから勝利の加護を貰ったことだし、そろそろ始めましょうかー!」
右手で木刀を振り回しながら、トランシスは爽やかに笑う。大きく伸びをしてから、両手で持つと、構えた。
「馬鹿じゃないの、アイツ! トビィに殺されるぞっ」
アリナが焦燥感に駆られた声を上げ、いつでも仲裁出来るように近寄ろうとした。だが、殺気に行く手を阻まれる。
トビィからの威圧が半端ない、邪魔立てするな、とこちらにまで気を送っている。あのアリナですら、気圧されて足が竦む。
「駄目だ、マジだ! 魔王戦よりも本気だっ」
「本気ではありません、あれはブチ切れているというのですっ」
クラフトがアリナの援護に入る、杖を振りかざし、トランシスを護る姿勢を見せる。
「感情の制御をしません、目に入る障害物を全て破壊してしまうでしょう」
「破壊の王子様……っていうかドラゴンナイト降臨だよ!」
それほどまでに、目の前のトビィは恐ろしい対象物だった。それこそ、魔王ミラボーに匹敵する、いや、絶望感だけならこちらが上だ。
しかし、標的にされているトランシスは飄々としている。流石にアリナが顔を引き攣らせた。
「アイツ馬鹿なの? なんなの!?」
「いえ、これはもしかして……」
クラフトは瞳を細める。隣でマダーニが腰に手をあてて、緩やかに右手を振った。
「計算したんでしょ。トビィちゃんが理性を失えば、隙が出ると思ったんじゃない? ワザと煽ったのよ。でも、彼には勝算があった」
低い唸り声を上げて、アリナが舌打ちする。目の前の光景に、頷くしかない。
「アサギ、か」
「えぇ。アサギちゃんが助けてくれるって解ってる。そしてアサギちゃんが助けに入れば、あのトビィちゃんも手を出せない」
アサギは、胸の前で手を組んでいた。ふわりとレースをふんだんにあしらったスカートが波打っている。緑の髪が、風になびく木の葉のように揺れている。
回復魔法の詠唱に入っていた。
恋人を護る為なのか、万が一に備えてなのか。
絶望的な結果は、回避されるだろう。
「トビィちゃんが圧倒的に不利よ。っていうか、屈辱よ。ここまで馬鹿にされたのに、一撃が与えられないかもしれない」
「与えたとしても、アサギによって一瞬のうちに回復される、ってことか。……気の毒なトビィ」
先に動いたのは、トランシスだった。走り出して大きく振りかぶる。
優越感に満ちた瞳で高らかに笑いながら振り下ろされた木刀は、トビィによって難なく弾かれた。下から上へ跳ね飛ばされ、右手がジン、と痺れる。思わず手放しそうになったが、堪えて強く握り締める。
しかし、間入れずトビィの回し蹴りが襲い掛かった。左足を軸にし、強烈だが華麗に放たれたそれはトランシスの腰を捕える。倒れ込むようにして後方に逃げたトランシスは、舌打ちした。
「残念だったな、冷静さを欠けば勝機があるとでも?」
息一つ乱れず、手の中で木刀を遊びながらトランシスを追撃するトビィの瞳は座っている。
背筋が凍り付いたトランシスは、防御に出遅れた。
「ガッ!」
がむしゃらに木刀を突き出したが、先端を弾かれて遠くへ飛ばされる。カラン、と虚しい音が響く。
喉元に、木刀が突き当てられた。冷たい感触に、喉が鳴る。
けれども、トランシスはぎこちなく笑った。嘲るように鼻で笑う。喉ぼとけに、ググッと先端が押し付けられるが止めなかった。
「オレより長く居たのに、お前は”お兄様”止まり。……同情してやるよ、可哀想に」
眉間に皺を寄せたトビィは、木刀をそのまま上げる。トランシスの顎骨が軋み、呻き声が漏れる。
このまま頭部に振り下ろせば、殺せる。
しかし、トビィには出来なかった。
アサギが瞳に映っている。
アサギの目の前で、この憎い相手の頭をかち割ることなど、出来るわけがない。
「クククッ……ホントお前、甘いよなぁっ」
トビィが攻撃してこないのをいいことに、トランシスは血走った瞳で見上げると手を突き出す。
「来いっ、オレの炎」
言うが早いか掌から炎の球が現れ、トビィに向かって放たれた。
周囲はどよめいたが、たかがそれくらい造作もないことで、トビィは無言で右に避ける。
何度炎を出したところで、同じだった。それどころか、間合いを縮めていく。
標的を失った炎が街中に飛び出すことを恐れ、慌てたアリナが消化活動に入る。「何アイツ、魔法使えんの!?」
連発するトランシスは、木刀を探した。追い詰められるフリをして、地面に転がる木刀の先端を勢いよく踏み、宙に浮かせて掴む。右足で踏み込んで、再び振りかぶる。
「アサギはな、オレのなんだよ。見てただろ?」
一歩も引かずに受け止めたトビィは、力で押し返した。負けじと両手で剣を押さえ、懸命に堪えるトランシスの右足が、徐々に砂に埋もれて下がっていく。身体中が軋んだ、信じられないほど強い力が襲い掛かる。岩山が上から降ってきたようだ。
しかし、脂汗を浮かせて息も切れ切れに笑った。
「可愛いんだ。知ってるか? 知らないだろ。恥ずかしそうに顔を背けるけど、唇を少し開いて、舌を少しだけ突き出す。恐る恐るオレの唇を舐めるのに、それも一瞬だ、すぐに大胆に絡めてくる」
限界がきて、木刀を手放すと大きく吼えるとトビィの懐に飛び込んだ。
「さっきもなっ!」
勝ち誇ったように顔を歪めて、胸の前で先程の火球とは比べ物にならない大きさの炎をトビィの腹目掛けて叩き付けた。
舌打ちし、後方に素早く飛んで、宙で一回転したトビィは下を通過する炎を睨み付ける。華麗に着地し、トランシスに剣を向けるが後方からの気配に間合いを取る。
放たれた炎が、戻ってきた。
余裕めいて、トランシスは欠伸をしながら指を動かしている。どうやら意のままに操れるようだ。
「アイツ……」
訝し気に見やったトビィだが、地面を焼き尽くしながら進んでくるそれに集中する。木刀に身を隠す様に身体を垂直に向けて立ち、深呼吸をして咆哮した。
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