別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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目の前の火球は、灼熱だ。触れずとも、火傷を負うだろう。向こうで余裕めいて嗤うトランシスに挑むような視線を向けたトビィは、両手で掴んだ木刀に力を籠めた。
愛剣ブリュンヒルデであれば、宿る水の力にあやかれたかもしれない。しかし、今は単なる木刀だ。
今まで魔法の類を羨ましいと思った事はなかったが、初めて渇望した。
トビィに魔力は宿っていない。扱い方も、知らない。
はずだった。
――何者でしょうなぁ、人間殿。しかし、我らが水の眷属の根本は、あなた様に繋がっていると……確信してしまいました――
水竜族の長が、数年前トビィに伝えた言葉が甦る。
掴んでいた木刀が、急速に冷え始める。
掌を伝わり、心地よい研ぎ澄まされた感覚が、身体中を駆け巡る。
それは、何処か懐かしいものだった。山に染み込んだ雨が、浄化されて湧いて出た清水の様に。喉を潤す鮮烈な、あの爽やかな水を含んだ時の様に。
ピリリ、と皮膚が突っ張る。頭部が引っ張られ、耳元で誰かが何かを囁く。
トビィは、大きく双眸を開くと素早く木刀を振り下ろした。
逃げもせず受け止めようとしたトビィに、周囲は慌てふためき救出に向かうべく走り出していた。
けれども。
アサギは身動きせず、じっとしている。それが何より、トビィが無事である証拠だ。
トランシスが大きく顔を歪めて、激昂する。
今にもトビィを飲み込まんとしていた火球は、水蒸気と盛大な蒸発音を上げている。まるで、岩が真っ二つに割れるかのように、球がゆっくりとずれていく。
徐々に消えていく火球と、周囲を覆い尽くしていた水蒸気、その間から不敵に微笑むトビィの姿が現れる。
木刀は、若干焦げていた。一部煤けているが、形はそのままだ。
「ぅ、あ」
言葉にならない悔しまぎれの声を発したトランシスに、トビィが迫る。間合いを詰め、左半身から木刀を薙ぎ払ったトビィは、真顔で告げた。
「火は、草木の命を奪う。水は、草木を育てる。火は、何も産まない。ただ跡形もなく消し去ることしか出来ない。多大な犠牲を出して」
メキィ、と鈍い音が響く。トランシスの脇腹に、木刀が抉り込んだ。
……オレは、火から護る水。
唇を若干動かしトランシスに視線を投げかけたトビィは、すぐに木刀を軽く振ると踵を返した。
勝負は、すでについている。
受ける、いや、構えることすら出来なかったトランシスは、白目を剥くとそのまま地面に倒れ込む。確実に肋骨が折れただろう。
地面に崩れ落ちたトランシスに、待機していたアサギがすかさず駆け寄ると回復の魔法を放った。
アサギが全力で治療にあたるのだから、すぐに感知するだろう。トビィは、温かな光を背中に受けながら、真顔で目を白黒させているアリナに片手を上げる。
「……流石トビィ。炎をたかが木刀で斬るなんて荒業、普通出来ないヨ」
「だろうな、オレにも不思議だ」
すすけた木刀を太陽に翳す、焦げた臭いが鼻に纏わりつく。
「ご謙遜を」
肩を竦めたアリナは、アサギに抱えられているトランシスに目を移す。「で、あれはどうなのさ。期待出来そうかな? アサギの隣に立つ以上、それ相応の力は必要だと思うけどね」期待は薄い、とばかりに首を横に振るアリナに、トビィが同意する。
「てんで素人だ、炎を扱えたところで技量が追いついていない。この場にいる面子なら、誰でも勝てる」
さり気無くミノルに視線を移したトビィだが、生憎ミノルは気を失ったままだった。
「ただ……」
表情を曇らせ、眉を顰めたトビィは木刀を弄びながら府に落ちないとばかりにしかめっ面をする。
「アイツ……食事の後、力が跳ね上がった」
「腹が減ってたから、早朝は元気がなかったんじゃないの?」
「いや、単純にそんなものではなく」
馬鹿馬鹿しい、とばかりに相手にせず軽口叩くアリナだが、それは対峙したトビィにしか解らない事だった。
普通ならば有り得ない事だが、確実にトランシスの力が増していた。移動速度にしろ、炎を扱う技量にしろ、無鉄砲な虚勢にしろ。
炎を操る事は知っていたが、巨大な塊を意のままにする能力は最初から備え持っていたものなのか。
「何故だ……」
トビィは、忌々しいと思いながらも、アサギの腕の中にいるトランシスを一瞥する。
寝息を立てているところを見ると、すでに術が施されたのだろう。鼻っ柱を折りたくなるほど、癪に障る表情だった。
その顔が、一瞬だけ瞳をカッと見開き、トビィに笑いかける。
唇を噛み、反射的に木刀を構えようとしたトビィだが、力を籠めて握った頃にはすでにトランシスの表情はもとに戻っている。
錯覚か、それとも現実か。
「相変わらず、不気味な奴」
心底嫌そうに零し、トビィはその場から離れていく。トランシスを多少気にしつつも、他の皆も散って行った。
気絶したままのミノルをどうにか背負い、トモハルも一旦部屋へ退却する。戻り際に、アサギに声をかける。
膝枕をしてトランシスの髪を撫でていたアサギは、近寄ってきたトモハルに微笑したが、背中のミノルに不思議そうに首を傾げる。
「ミノルはどうしたの?」
「な、なんでもない。それにしても、トビィに喧嘩売るその人はある意味凄いよね。俺は絶対無理、勝てるわけがない」
「そうかな、トモハルも頑張れば並べそうだよ」
「はは、冗談だろ。……で、彼氏さん大丈夫?」
「うん、大丈夫。トビィお兄様、少しは手加減するかと思ってた」
するわけない! と心の中で叫んだトモハルは、ぷくっ、と頬を膨らませているアサギに苦笑する。二人の仲に亀裂が走っている事を、アサギが何故解らないのか。
「お大事に」
「ありがとう」
やがて、目を醒ましたトランシスは極まり悪そうにそっぽを向くと舌打ちする。
「悔しいな、アサギの目の前で負けてさ。情けない」
「仕方がないよ、トビィお兄様はこの世界で一番強い人だもの。それにしても、トランシスは炎をあんなふうに操ることが出来たんだね」
「ああ、あれ」
炎を飛ばすことならば、アサギにも可能だ。大きさも変える事が出来る。
しかし、先程の様に進路を変更させることは、おそらく不可能だ。やろうと思ったこともない。追撃出来る魔法は便利だと、アサギは感心して顔を綻ばせる。
「オレも初めて知った、あんなことが出来るなんて」
「え!? そうなの!?」
「そうだよ」
「天性の素質なんだね! やっぱりトランシスは強い人なんだね」
無邪気に微笑み、褒めちぎるアサギに、トランシスは頬を赤らめる。嬉しそうに興奮しているアサギの表情は、見ていてとても可愛く、先程の胸糞悪い出来事すら吹っ飛んだ。
「アサギの為に、オレはもっと、もっと強くなる。そうしたら、いつかアイツを倒してやるよ」
「ふふ、頑張ってね」
「ん」
スカートの布越しに伝わる柔らかなアサギの太腿を堪能し、トランシスは上機嫌だった。
「負けたところで、オレにはこういうご褒美も待ってるし」
アサギの手首を捕まえると、そっと唇を寄せる。ぴくん、と反応したアサギに悪戯っぽい視線を投げると、そのまま甘噛みした。
「っ!」
歯を小刻みに動かし、幾重にも歯形をつける。窪んだそこを、舌でなぞる。
アサギの頬が上気し、恥ずかしそうに俯いたのを確認すると、トランシスは甘えた声を出した。
「アサギ」
「な、なぁに?」
上擦った声のアサギに、挑戦的な瞳を向ける。それは、抗えない呪縛だ。
「口付けして、頑張った褒美頂戴。今、ここで。今度こそ、アサギからして」
身体を強張らせたアサギだが、周囲を窺い誰も見ていないことを確認すると、ゆっくりと腰を曲げて唇を合わせる。
トランシスは、優越感に見たされた顔で、笑いを零しながら口付けを堪能した。
「あ、あのっ」
「ん、何?」
「トランシスに、武器を用意しようと、思って。その、今度会う時までには」
「へぇ? それは嬉しいな。トビィが不思議な剣持ってるだろ? あれに匹敵するくらいの、欲しいなぁ」
子供が通りすがりのウインドウに飾られている玩具を強請るように、トランシスは何気なく言う。
トビィの剣ブリュンヒルデは、唯一無二の特殊な剣だ。勇者の武器に匹敵すると言っても過言ではない。それと同等のものとなると、そこらにはない。
アサギは粘着音を聴きながら、思い当たる剣を思い浮かべる。
トランシスに、相応しい剣。火を操る想い人に持って欲しい剣。
ようやく二人の唇が離れると、アサギは空を仰ぐ。この空の何処かに、今も動いている天界の城・神の居城がある。
「宝物庫に、行かなくちゃ」
愛剣ブリュンヒルデであれば、宿る水の力にあやかれたかもしれない。しかし、今は単なる木刀だ。
今まで魔法の類を羨ましいと思った事はなかったが、初めて渇望した。
トビィに魔力は宿っていない。扱い方も、知らない。
はずだった。
――何者でしょうなぁ、人間殿。しかし、我らが水の眷属の根本は、あなた様に繋がっていると……確信してしまいました――
水竜族の長が、数年前トビィに伝えた言葉が甦る。
掴んでいた木刀が、急速に冷え始める。
掌を伝わり、心地よい研ぎ澄まされた感覚が、身体中を駆け巡る。
それは、何処か懐かしいものだった。山に染み込んだ雨が、浄化されて湧いて出た清水の様に。喉を潤す鮮烈な、あの爽やかな水を含んだ時の様に。
ピリリ、と皮膚が突っ張る。頭部が引っ張られ、耳元で誰かが何かを囁く。
トビィは、大きく双眸を開くと素早く木刀を振り下ろした。
逃げもせず受け止めようとしたトビィに、周囲は慌てふためき救出に向かうべく走り出していた。
けれども。
アサギは身動きせず、じっとしている。それが何より、トビィが無事である証拠だ。
トランシスが大きく顔を歪めて、激昂する。
今にもトビィを飲み込まんとしていた火球は、水蒸気と盛大な蒸発音を上げている。まるで、岩が真っ二つに割れるかのように、球がゆっくりとずれていく。
徐々に消えていく火球と、周囲を覆い尽くしていた水蒸気、その間から不敵に微笑むトビィの姿が現れる。
木刀は、若干焦げていた。一部煤けているが、形はそのままだ。
「ぅ、あ」
言葉にならない悔しまぎれの声を発したトランシスに、トビィが迫る。間合いを詰め、左半身から木刀を薙ぎ払ったトビィは、真顔で告げた。
「火は、草木の命を奪う。水は、草木を育てる。火は、何も産まない。ただ跡形もなく消し去ることしか出来ない。多大な犠牲を出して」
メキィ、と鈍い音が響く。トランシスの脇腹に、木刀が抉り込んだ。
……オレは、火から護る水。
唇を若干動かしトランシスに視線を投げかけたトビィは、すぐに木刀を軽く振ると踵を返した。
勝負は、すでについている。
受ける、いや、構えることすら出来なかったトランシスは、白目を剥くとそのまま地面に倒れ込む。確実に肋骨が折れただろう。
地面に崩れ落ちたトランシスに、待機していたアサギがすかさず駆け寄ると回復の魔法を放った。
アサギが全力で治療にあたるのだから、すぐに感知するだろう。トビィは、温かな光を背中に受けながら、真顔で目を白黒させているアリナに片手を上げる。
「……流石トビィ。炎をたかが木刀で斬るなんて荒業、普通出来ないヨ」
「だろうな、オレにも不思議だ」
すすけた木刀を太陽に翳す、焦げた臭いが鼻に纏わりつく。
「ご謙遜を」
肩を竦めたアリナは、アサギに抱えられているトランシスに目を移す。「で、あれはどうなのさ。期待出来そうかな? アサギの隣に立つ以上、それ相応の力は必要だと思うけどね」期待は薄い、とばかりに首を横に振るアリナに、トビィが同意する。
「てんで素人だ、炎を扱えたところで技量が追いついていない。この場にいる面子なら、誰でも勝てる」
さり気無くミノルに視線を移したトビィだが、生憎ミノルは気を失ったままだった。
「ただ……」
表情を曇らせ、眉を顰めたトビィは木刀を弄びながら府に落ちないとばかりにしかめっ面をする。
「アイツ……食事の後、力が跳ね上がった」
「腹が減ってたから、早朝は元気がなかったんじゃないの?」
「いや、単純にそんなものではなく」
馬鹿馬鹿しい、とばかりに相手にせず軽口叩くアリナだが、それは対峙したトビィにしか解らない事だった。
普通ならば有り得ない事だが、確実にトランシスの力が増していた。移動速度にしろ、炎を扱う技量にしろ、無鉄砲な虚勢にしろ。
炎を操る事は知っていたが、巨大な塊を意のままにする能力は最初から備え持っていたものなのか。
「何故だ……」
トビィは、忌々しいと思いながらも、アサギの腕の中にいるトランシスを一瞥する。
寝息を立てているところを見ると、すでに術が施されたのだろう。鼻っ柱を折りたくなるほど、癪に障る表情だった。
その顔が、一瞬だけ瞳をカッと見開き、トビィに笑いかける。
唇を噛み、反射的に木刀を構えようとしたトビィだが、力を籠めて握った頃にはすでにトランシスの表情はもとに戻っている。
錯覚か、それとも現実か。
「相変わらず、不気味な奴」
心底嫌そうに零し、トビィはその場から離れていく。トランシスを多少気にしつつも、他の皆も散って行った。
気絶したままのミノルをどうにか背負い、トモハルも一旦部屋へ退却する。戻り際に、アサギに声をかける。
膝枕をしてトランシスの髪を撫でていたアサギは、近寄ってきたトモハルに微笑したが、背中のミノルに不思議そうに首を傾げる。
「ミノルはどうしたの?」
「な、なんでもない。それにしても、トビィに喧嘩売るその人はある意味凄いよね。俺は絶対無理、勝てるわけがない」
「そうかな、トモハルも頑張れば並べそうだよ」
「はは、冗談だろ。……で、彼氏さん大丈夫?」
「うん、大丈夫。トビィお兄様、少しは手加減するかと思ってた」
するわけない! と心の中で叫んだトモハルは、ぷくっ、と頬を膨らませているアサギに苦笑する。二人の仲に亀裂が走っている事を、アサギが何故解らないのか。
「お大事に」
「ありがとう」
やがて、目を醒ましたトランシスは極まり悪そうにそっぽを向くと舌打ちする。
「悔しいな、アサギの目の前で負けてさ。情けない」
「仕方がないよ、トビィお兄様はこの世界で一番強い人だもの。それにしても、トランシスは炎をあんなふうに操ることが出来たんだね」
「ああ、あれ」
炎を飛ばすことならば、アサギにも可能だ。大きさも変える事が出来る。
しかし、先程の様に進路を変更させることは、おそらく不可能だ。やろうと思ったこともない。追撃出来る魔法は便利だと、アサギは感心して顔を綻ばせる。
「オレも初めて知った、あんなことが出来るなんて」
「え!? そうなの!?」
「そうだよ」
「天性の素質なんだね! やっぱりトランシスは強い人なんだね」
無邪気に微笑み、褒めちぎるアサギに、トランシスは頬を赤らめる。嬉しそうに興奮しているアサギの表情は、見ていてとても可愛く、先程の胸糞悪い出来事すら吹っ飛んだ。
「アサギの為に、オレはもっと、もっと強くなる。そうしたら、いつかアイツを倒してやるよ」
「ふふ、頑張ってね」
「ん」
スカートの布越しに伝わる柔らかなアサギの太腿を堪能し、トランシスは上機嫌だった。
「負けたところで、オレにはこういうご褒美も待ってるし」
アサギの手首を捕まえると、そっと唇を寄せる。ぴくん、と反応したアサギに悪戯っぽい視線を投げると、そのまま甘噛みした。
「っ!」
歯を小刻みに動かし、幾重にも歯形をつける。窪んだそこを、舌でなぞる。
アサギの頬が上気し、恥ずかしそうに俯いたのを確認すると、トランシスは甘えた声を出した。
「アサギ」
「な、なぁに?」
上擦った声のアサギに、挑戦的な瞳を向ける。それは、抗えない呪縛だ。
「口付けして、頑張った褒美頂戴。今、ここで。今度こそ、アサギからして」
身体を強張らせたアサギだが、周囲を窺い誰も見ていないことを確認すると、ゆっくりと腰を曲げて唇を合わせる。
トランシスは、優越感に見たされた顔で、笑いを零しながら口付けを堪能した。
「あ、あのっ」
「ん、何?」
「トランシスに、武器を用意しようと、思って。その、今度会う時までには」
「へぇ? それは嬉しいな。トビィが不思議な剣持ってるだろ? あれに匹敵するくらいの、欲しいなぁ」
子供が通りすがりのウインドウに飾られている玩具を強請るように、トランシスは何気なく言う。
トビィの剣ブリュンヒルデは、唯一無二の特殊な剣だ。勇者の武器に匹敵すると言っても過言ではない。それと同等のものとなると、そこらにはない。
アサギは粘着音を聴きながら、思い当たる剣を思い浮かべる。
トランシスに、相応しい剣。火を操る想い人に持って欲しい剣。
ようやく二人の唇が離れると、アサギは空を仰ぐ。この空の何処かに、今も動いている天界の城・神の居城がある。
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