別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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ベシュタ、アースに会いに行く (団栗)
トリプトル拘束 ⇒ エロースの手中へ
トリプトル拘束 ⇒ エロースの手中へ
低く呻いたアースの声を聴いたトロイとリュミは、祈る眼差しで見つめている。知識の限り、薬草を煎じて飲ませて回復へと向かうように全力を注いだ。若干表情の痣が薄くなったような気がしていたし、頬に赤みが戻ってきた気がした。
瞼を痙攣させ、ようやく重い瞼を久しぶりに開いたアースに、二人が歓声を上げる。
「ここ、は」
呟いたアースの髪を撫でながら、トロイは極力震える声を押し殺し語りかける。
「野菜のスープは飲むか? アースが作るまでとはいかないが、なかなか旨く出来た」
リュミも大きく頷くと、上ずった声で同意する。
「そうだよ、飲みなよ! 温まるよ」
起き上がろうとしたアースの顔が歪む、身体が痛んだのだろう。歯を食いしばってベッドの上で悶える、慌ててトロイがその上半身を優しく抱き上げた。痛まないように、確認しながらゆっくりと誘導する。
「大丈夫か?」
「……あの、私は一体どうして」
記憶がないのだろうか、二人は不思議そうに痛む身体を不安そうに見つめているアースを息を飲んで見つめる。瞬時に好都合だ、と思った。覚えていない方が幸せだろう、そのほうが良いと判断した二人は、咄嗟にごまかす。
「崖から……落ちた。その、珍しい花が咲いていたから、小さな黄色い花が見えた為に身を乗り出して、落下した」
「そ、そうだよ、それで助けたけど……」
上手くごまかすことが出来ただろうか? 二人は目配せする、背筋を嫌な汗が伝う。嘘はよくないが、時には必要だ。
それは、優しい嘘だと二人は思い込んだ。
「黄色の、お花……。崖から、落ちる」
必死に思い出そうとしているようだが、そのような記憶があるわけない。トロイは話を逸した、スープを口元に運ぶ。
「口内が切れているから、痛むかもしれない。少しずつお飲み」
「……はい」
言われるがまま素直にスープを口にしたアースは、それ以上の熱を口内に感じたようで眉を顰めたが必死に飲み込んだ。焼けるように熱かった、吐き出したかったが今の自分には体力が必要だと脳が判断したのか、身体が欲したのか痛みを堪えて飲み込み続ける。
時間はかかったが全て飲み干したアースに、安堵の笑みを浮かべたトロイは他に何か欲しいものはないかと尋ねる。遠慮がちにアースは「マスカット」と小さく告げた。
嬉しそうに頷いたトロイは早速マスカットを採りに行く、以前皆で食べたことがあるので場所は把握していた。今のところアースが錯乱していなかったので、心底嬉しかった。このまま三人で育成が出来れば、と願いつつ小屋を出たトロイは胸の前で拳を堅く握り締める。
アースを二度と傷つけまいと、自身に誓った。必ず傍にいて守り続けると、誓った。
マスカットを運んできたトロイに深く感謝をしたアースは、力なくだが涙を瞳に浮かべながら、手を伸ばす。
トリプトルの声が聞こえた。『アースの髪の色に似てる。ほら、陽が当たるとそっくりだ』『あぁ、アースの髪のほうがもっと綺麗だよ。オレは、好きだな』
口にすることなくマスカットを見つめるアースに、二人は声をかけられなかった。「食べないのか?」それすらも訊くことが出来なかった。
物悲しい横顔は見ているだけで胸が締め付けられる、名前は口に出さないが、愛する男を思い浮かべての女の表情だ。若干口元に笑みを浮かべているのは、何故だろうか。酷く情けなくも見えた、自嘲気味に笑っているだけのような気もした。
結局アースは口にすることなく、思い出に浸るようにマスカットを見つめていただけだ。ベッドから降りようとしたので、険しい顔付きでトロイが止めたが、悲しそうに首を横に振ったアースはその手をすり抜けて、床に足をつける。足首に激痛が走ったが転倒を辛うじて堪えると、怖々と歩き出す。
「何処へ」
「立派な、団栗がなるコナラの樹があるでしょう? あそこに。あそこに行きます」
『アース、もし何か困ったことがあれば。あの団栗の大木の下で待つが良い、私は会いに行こう。忙しくなるので早々戻れないかもしれないが、あの場に居てくれ』
ベシュタに言われたことを思い出していた、薄く微笑むと外を目指すアースだが腕を掴まれる。若干不服そうに見上げると、トロイが苦笑して髪を書き上げていた。
「一人行くな、連れて行く。少し位頼れ、一人で何でもやろうとするな」
「そうだよ、友達だろ?」
「……ありがとうトロイ、リュミ。こんな私を友達、だと」
涙が溢れるアースの背を撫で、三人は向かう。まさか、ベシュタと待ち合わせをしている場所だとは、トロイもリュミも思わなかった。ただ、その場所が落ち着くのだと思っていた。
ベシュタが惑星スクルドへと向かうと、見計らって妻のガーリャが姿を現す。女神エロースの姪なので皆顔は知っていたが、このような場所にいる人物ではないので首を傾げる。しかし、にこやかに微笑むと「夫はこちらに来ましたか、上着を忘れたので届けに来たのですが」と、ベシュタの衣服を皆に軽く見せる。
それで納得した、夫婦間は良好なのだろうと皆思い、惑星スクルドへ出向いたと簡単に情報を教える。
そうは言われてもピンとこないガーリャに、事細かに説明をした。退屈であったこともあるが、美しい異性と話すことは大抵皆嬉しいものだ。豊満な胸を僅かに隠しているだけの薄布に、皆釘付けになりつつ鼻の下を伸ばして流れるように余計な事を話す。
「あぁ、今噂の土の精霊の惑星ですか。確か夫は婚約前にそこに育成へ出向いていたのですね、熱心な方ですこと、益々惚れてしまいましたわ」
軽く頬を染めてそう告げると、身を翻し残念そうな男達を尻目にガーリャは立ち去る。
女神と違い、姪のガーリャは親しげな方だと男達は惚けて先程の妖艶な姿を思い浮かべた。人妻だということが、余計に魅力的に感じた。
男達から離れると、すぐさまその表情が氷の様に冷ややかなものに変わる。感情などないような、それでいて何処かに怒りを秘めているようにも見える。氷で覆い尽くされているからこそ見えないが、溶けて水になれば本心が顕になる。今はまだ、氷という仮面で隠しているようだ。
夫が自分に無関心なことは知っていた、自分以外興味がないつまらない男だとコロコロ甘い笑い声を出して説明してくれた叔母である女神エロースを思い出す。そうだと思っていたのだが、時折優しそうな寂しそうな憂いを見せるので気になっていた。
一体何がそのような表情を引き出しているのか……女だと直感していた。
女の勘は鋭い、特に男も女も汚い部分を幼い頃から散々見てきたガーリャにとってそれは容易いことだった。勘ではなく、真実だろうと確信していた。
相手は話題の土の精霊アース、小さくその名を呼ぶと叔母に顔でも出そうと謁見を申し出ることにする。親族であれど、女神には簡単には会うことが出来ないが、ここまで足を運んだのならば、と思った。別にこの縁談を持ちかけてきた女神に皮肉を言うつもりはない。
そんなことをしたら怒りを買う以前に、自分の自尊心が傷つくことを知っていた。男が他所に女を作るなど、よくあることだ。芯の通った女は、夫の浮気を広い目で見なければならないと習った。嫉妬は醜いものだと。男にとってはただの気まぐれな遊びであるから、気にせずどっしりと構えるようにと、教えられている。
どのみち、戻ってくる。
……本当にそうだろうかとガーリャは唇を噛み締めるが、そのようなつまらぬことで悩むのも馬鹿馬鹿しかったので、口にはしなかった。
『その娘を、愛しているのですね』
脳内では声が響くが、声に出したら終わりだと思った。
謁見申請をし、許可が降りるまで待合室で待っていたが、ふと気まぐれで近くの庭園へと足を伸ばした。どのみちすぐには呼ばれないだろう、女神は忙しいのだ。「仕事ではなく、美容にでしょう、叔母様」小さく悪態づくと、花が溢れる庭園を瞳を細めて見つめる。
中央に東屋があるので、そこへ向かうと人影が見えた。先客がいるならば、と引き返そうとしたのだが、人目につかないようにフードを被っている怪しい人物達である。面倒事には関わりたくなかったが、暇であるし何よりそれが叔母である女神な気がしてこっそり追跡した。一人だったら分からなかったが、傍に二人女を連れている。背格好からして、女神が連れ立っている巫女二人にしか見えなかったのだ。
庭園を抜けてひっそりとした建物へ向かっているようだ、秘密を持ってしまうことに不安と優越感を覚えつつ、高揚状態でガーリャは震えつつも引き返さなかった。
周囲を伺いつつ中に入っていったので、そっと壁に寄り添い耳を傾ける。
男の声が、した。
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