DESTINY外伝1 【ＴＨＥ・ＢＩＲＴＨ】 27､憎悪を押さえ込むのは、愛のみ

早く書きたい、しかし本編が全く追いついていない。

「っ！？　どうした、何があったアース！　しっかりしろっ」

「トロイ……トロイ？　たすけ、て、トロイ」

　床から、必死に顔を持ち上げて入ってきた人物を見やる。声が何重にも聴こえた、鼓膜が片耳破れていたので上手く聞き取れなかったのだ。

　だが、トリプトルではなくトロイであるということは直ぐに解った。

　愛しい男を、間違えたりはしない。　

　アースの変わり果てた姿を見ると、顔面を引き攣らせてトロイは早急に抱き起こす。焦燥感に駆られながらも、痛みを伴わないように優しく触れた。

　何度も「アース」と呼びながら、抱きかかえたままトロイは小屋を飛び出し、川の水でアースを丁寧に洗う。

　

「沁みるか？　痛むか？　こ、これは」

　痛々しい身体の痣と、歪んだ顔から思わず視線を逸らし、唇を噛み締める。身体を小刻みに震わせて、トロイは怒りを鎮める他なかった。

　

「ころ、転んでしま、って。えへ、へ、ごめん、な、さい」

　転倒してこのような大怪我する筈がない、トロイは沸きあがる怒りを押し殺すことに必死だった。

　アースが庇っていることなど、お見通しだ。これは、誰かに暴行されて出来た怪我である。ここまで痛めつけられて、それでも尚嘘をつき庇う相手は一人しかいない。

「トリプトル……！」

　親友の名を呼んだ、身体中を支配する憎悪は、標的の名を呼んだことで歯止めが効かなくなる。咆哮し、今すぐにでも見つけて殴り殺したい衝動に駆られたが、それでも理性が働いた。

　今、アースを置いてトリプトルを捜すことなど、トロイには出来なかった。

　苦痛に顔を歪め、身体中を痙攣させているアースの名を呼びながら、思い切り抱き締める。

「トロイ、トロイ……」

「何も話さなくても良い、アース。眠るんだ、忘れて眠るんだ。鎮痛剤を飲もう、小屋へ」

　意識が朦朧としているのか、それでも痛みに呻きながらアースは名を呼び続ける。

「トロイ、トロイ、お願いが、お願いがあります」

「喋るな、アース」

　再び抱き抱えて小屋に戻ると、そっとベッドに寝かせた。柔らかな布を出し、寒くないようにアースに上からかける際、不自然な染みに気づく。

　独特の異臭を放つ、白濁した液体が、薄暗い部屋のベッドに浮かび上がっていた。

　それが何を意味するものなのか、トロイは瞬時に理解した。

「アース、まさか」

　口元を押さえ、低く呻きながら横たわっているアースを見つめる。

「トリプトル、お前は……！」

　信じたくはなかったが、目の前の現実からは逃れられない。

　共に成長してきた幼馴染の親友は、そこまで外道ではないと思っていた。短気な男だが、善悪の区別くらいは出来る筈だった。

　アースを強姦し、暴行を加えた。

「愛する……女だろう！？　何をやっている、トリプトル！」

　アースの唇が「あ・い」と動いたが、ゆっくりと身体が闇へ引き摺られていく。限界だった、考えることもトロイの名を呼ぶことも、身体を動かすことも、何も出来ず、ただ沈むしかなかった。

　……ごめんなさい、ごめんなさい、私、愛しているって言いたかったのです。

　眠ったアースに勢いよく駆け寄ると、トロイは自らの衣服を引きちぎり、小屋にあった深皿を手にして川へと急ぐ。水を汲み、布を濡らしながらアースの看護に入った。

「純潔を、失ったのか……道理で空気が澱んでいる、と」

　アースの周囲には、常に何か暖かなモノが流れていた。近寄るだけで心地良い香りと空気に包まれ、安堵し眠ってしまうようなそんな癒しの空間だった。しかし、今はどうだろうか。全く流れを感じない。

「これが、力を失うということ」

　聞いてはいたが、ここまでとは思わなかったトロイは頭を抱えアースの隣に蹲る。数秒そうしていたが、唇を噛み締め、拳を震えながら握り締めると早足で小屋を出た。

　今は、アースの治療が先決だと判断した。考えている時間などない。

　アースであれば、周辺に生えている野草で怪我を治すことも出来るが生憎トロイにはそのような知識がなかった。拠点へ戻り、医師を派遣してもらうべきか、鎮痛剤を取りに戻り、極秘に看護すべきか。

「リュミ、リュミ！」

　頼れる男の名を、情けなく呼ぶことしか出来なかった。