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そしてトレベレス、というか、トランシスを上げられる話があれば、ここしかないっ。(無意味な気合)
KOCに転載すると、手直しできて良いですね。
でも、その手直しをこちらやあちらに手直しするのが、面倒ですね(貴様)。
今日のおやつは、紅茶クッキー。
三重県の桑名市で、プリンがおいしかったカフェで購入したもの。
うん、美味!
静まり返った、亡国の民はクーリヤの発言を信じられず。
一人トモハラだけが朦朧としながら、それでもクーリヤへと足を伸ばす。
「マロー姫様は? マロー姫様は?」
「動くなトモハラ! まだ本調子じゃないだろ!」
必死に押さえるミノリを振り払うように、トモハラは進む。
ミノリは思った、もし先程トモハラが起きていたならば自分に代わってアイラの前に立っただろう。
マローでなくともアイラを護っただろう、騎士として、マローの大事な姉と知って、そして”人として”。
クーリヤは静かに口を開いた、トライにはほぼ明確に解っていた。
「・・・あの日。姫様方が産まれた日。女王様は最期のお力で私にのみ、本当のことを話されました。
皆に伝えたことは”逆”、緑が繁栄、黒が破滅」
どうしてそんなことを、リュイが呟いた、解っては居たが。
「緑の子を護る為に。こうして破壊の黒の姫君が攫われても緑の姫様だけは、アイラ姫様だけは取り残されると解ったからです」
あの日。
参謀にのみ、伝えた真実。
六人で他言無用としたにも関わらず、城内は愚か国民までも、そして他国にまでも広まった双子の話。
全てクーリヤが流したのである。
他の五人は守ったのだ、守秘したのである。
本当の女王であるアイラを護る為に、立派な女王になるべくクーリヤはアイラに本を贈った。
童話に混じって、城内の見取り図、他国の勢力図、歴史、魔法の使い方、植物の育て方、種類。
知識を与えるべく代々伝わる本を、ひっそりとアイラに送り届けたのである。
アイラは疑うことなくそれを読み耽っていた、ゆえに、城内に詳しく、薬草にも詳しく、虐げられていたからこそ、民の痛みが解った。
ベルガー王子だけは最後まで双子を疑っていた様子で、クーリヤは手から逃れる為に一人随分と前から身を潜めていた。
あとは行動を起こした二人の浅はかな王子に、破壊の妹姫を連れて行かせ、姉姫は保護すれば。
・・・それだけでよかった。
クーリヤは唖然としているミノリに視線を流す、心底残念そうに。
「アイラ姫がこうして繁栄の姫だと解る前に。知る前に。呪われた姫でもそれでもアイラ姫を愛してくれていたならば、たかが一階の騎士であれとも、アイラの夫としてもよかったのですよ」
かっとなるミノリ、自分に言われたのだと解った、自分は騎士ではなく王子になりたいと願ったが、騎士でもアイラ姫の傍に居てもよかったのだ。
自分が、あの日姫を裏切らなければ。
ミノリは震えながら落胆し、地面に倒れ込む。
一瞥しクーリヤは続けた。
「女王の専制国家ですから、夫の血筋は望みません。ただ、ラファーガ国の民であればよかったのです、そしてアイラ姫を見極め、愛した人物であるならば、ね。
そこでお願いです。
ラファーガ国唯一の生き残りである騎士・トモハラ。
水の国ブリューゲルの王子・トライ様。
風の国ラスカサスの皇子・リュイ様。
大地の国の偉大なる女王となるべく生まれたアイラ姫様の救出を願います、無事に救出していただけた方には、アイラ姫の夫となる権利が御座います。
そして産まれるお子は、間違いなく覇王。どうかどうか、アイラ姫をお助け下さい」
騎士からミノリが外された、名指しされたのはトモハラ。
「誤算がありました。皆の先頭に立ち導く力量があれどもアイラ様が、まさかお一人でマローの救出に向かうだなんて・・・。”あれ”は捨て置けば良いのです」
”あれ”?
迷わずトモハラはクーリヤの胸倉を掴んだ、トライが剣を引き抜きかけた、リュイが思わず足を踏み出した。
皆それぞれ激怒している、当然だろう。
言いたいことはあった、が、トライはトモハラに任せて剣を震える手で押し戻す。
「・・・今、何と? マロー姫を何と!?」
「騎士、トモハラ。解ったでしょう、貴方が護るべき姫はアイラ姫。気付いていたでしょう、優しく恩恵を誰にでも振りまくアイラ姫を。マロー姫の魔性に惑わされてはなりません、あれは破滅の・・・」
「国の参謀様でも、言っていいことと悪いことがありますっ!」
殴りかかったトモハラを、観念したようにトライが押し留めた。
暴れるトモハラを引き摺る、一人では力が足りずにリュイも必死に押し留めた。
伏せていたとは思えない腕力は、愛しい人を侮辱されたからか。
「俺は! マロー姫様の騎士です! 護るべきはマロー姫、愛するのはマロー姫、俺が必ずマロー姫を救出します、呪いの姫など知ったことではありません!」
「いけません、トモハラ。貴方の正義感はラファーガ国を創るに相応しいのです、アイラ姫の夫となりなさい」
「俺は! アイラ姫様は尊敬しますが、愛するのはマロー姫ですから! 愛する姫君以外、夫になる気はありません!」
トモハラの絶叫。
二人掛りで抑えていても、今にもクーリヤに剣を抜きそうな勢いである。
トライは不謹慎だが、微笑した。
愉快そうに笑った、徐々に大きくなる笑い声に、怪訝にトモハラも動きを止めてトライを見上げる。
「よく言った、トモハラ。・・・ついて来い、二人の姫君を救出する」
マントを翻し、トモハラを解放。
皆にわざと聴こえるように剣を抜きかけたトモハラに、笑った。
「そんな卑劣な老婆を斬るとお前の光る剣が台無しだ、”それ”は”捨て置け”」
リュイがトモハラの肩を叩く、はっとしてトモハラも震える手で剣を離し憎々しげにクーリヤを見つめ。
口を噤むとトライの後をふらつきながら、追う。
不自然な歩き方にトライが不審に思った。
「お前・・・」
「目が。目を、トレベレスに斬られました。微かにしか・・・視界が」
盲目ではない、瞳は傷もなく光っているが、視力が格段に奪われていた。
ミノリは息を飲んだ、あの状況で盲目ではないなど・・・ありえないだろう。
それは、アイラのお蔭。
アイラの看病と治癒魔法の賜物だった。
ミノリは必死に立ち上がった、自分も行かなければ、謝らなければ。
「トライ王子! 俺も・・・俺も一緒に!」
「腑抜けた騎士は・・・必要ない」
「もう一度、もう一度俺に! せ、折角忠告してくれたのに、俺は・・・」
土下座したミノリを、トライは冷めた瞳で見下ろす。
「あぁ、謝るな。オレがイラついているのはお前の下卑た本質を見抜けなかったオレ自身にだから、な。気にするな」
トモハラは視線を細めて土下座しているミノリを見ていた、困惑気味に会話を聴いていた。
トモハラは、アイラにミノリが叫んだ言葉を知らないのだ。
屈辱感、だが、それは自分が犯した罪故。
ミノリはそれでも地面に額を擦り付けて、必死に願う。
呪いの姫君だと知っても、愛していると叫んだトモハラ。
瞳に光が消え行こうとも、伏せっていた身体で起きたばかりにも関わらず、必死にマローを探したあの熱意と想い。
嫉妬心。
自分もあれくらいの想いがあれば、アイラを・・・護れたのに。
いっそのこと、瞳を斬られたのが自分であればよかったのに。
「ミノリ?」
トモハラに声をかけられ、引き攣ったミノリ。
震えながらそれでも、トライに土下座を。
重苦しい溜息に、トライは私兵達に出撃の準備を伝える。
「母上に毒を盛った、指示者がトレベレス。十分戦争を仕掛ける口実だ。証拠の品も手に入れた」
指示した書簡に、偽者の書簡、指示されていた書簡には間違いなくトレベレスの印が。
「僕も、私兵を殺され。もしかしたら妻となっていた姫君の国を滅亡に追いやった者達として口実は出来ていますから」
街中にある剣や弓矢、それらは形や創りで何処の国かを示してくれる。
大規模な戦争が始まる。
発端は双子の姫君。
「マロー姫を捕らえたのはトレベレスとベルガーの二人だ、国を潰す前に姫達を救出する」
トライの一声に、皆が歓声を上げる。
民の瞳に、この他国の王子がなんと雄雄しく見えただろう。
「もはや、光の国フリューゲル、火の国ネーデルラントのどちらかは災難に見舞われますよ。マローの・・・呪いの姫君の子の父親とどちらかがなっているでしょうから」
クーリヤの声。
簡易れずトモハラが絶叫した。
攫われた、ということは、そういうことだろう。
腹の底から込上げる吐き気、憤怒、憎悪、殺意。
自分の不甲斐無さも加わってトモハラは宥めるリュイの片割ら、自身の頬を何度も殴った。
「姫が! 姫が攫われてから一体どのくらい月日が?」
トモハラの問いに、民の一人がおずおずと進み出る。
「ほぼ・・・二月です・・・」
二月。
マローがどのような扱いを受けているのかそれが恐ろしいトモハラ、あの笑顔が泣き崩れていたらどうしたらよいのだろう。
「アイラ姫が一人で旅立ったのが、約半月前・・・」
ぼそ、っとミノリが呟いた。
途端、トモハラがミノリの胸倉を掴む。
「どうして知ってるんだ!? ミノリ、お前一緒に行かなかったのか!?」
口走った瞬間、ミノリにも焦りが見えた。
トモハラにだけは、知られたくなかった、親友だからこそ、見られたくなかった。
騎士として最低な行為をした自分を、知られたくなかった。
唇を噛みながら、揺さ振られているミノリ。
リュイに止められたが、ミノリを渾身の一撃で殴りつけたトモハラ。
吹き飛び、低く呻いたがミノリは今度こそ立ち上がった。
死に物狂いで立ち上がると再びトライに土下座する、もう、間違わないように。
「どうか、どうか! 俺も連れて行ってくれ!」
「・・・」
トライは無視し、発つ準備を始めている。
リュイだけが気の毒そうに見ていたが、トモハラも腸が煮えくり返っているのか声をかけない。
知っていたのに止めなかった、後を追わなかったことが、何を意味するのか。
そしてミノリのあの謝罪、何が半月前に起きたのか、トモハラは知りたくもなく。
「噂では。両国の境に不自然な建物が数ヶ月前に立ったと。
警備も厳重で不可解な塔の四階に、黒髪の少女が捕らえられていると。
塔に立ち寄る馬車には某両国の紋があり・・・」
トライの淡々とした説明、地図をリュイと見つめながら剣を握り締めている。
「アイラがその場所へ辿り着けるかどうかが・・・問題だ」
「俺は! 一人でその場所へ行く!」
トモハラが喰いかかるようにトライににじり寄った、アイラ優先のトライとリュイとは行動を共に出来ない。
マロー優先なのは、トモハラ唯一人。
「ほぼ盲目のお前が単身乗り込んでも殺されるだけだぞ」
「それでも! マロー姫が今にもどんな辱めを受けているか・・・」
「助けたいのなら、お前が死なずに救出しろ。無下に命を散らすな、たわけ」
大声のトモハラに、匹敵するトライの咆哮。
静まり返る皆、トモハラもその言葉にアイラに言われたことを思い出していた。
”護り抜くと誓うなら、トモハラ、貴方自身も死なないで下さい”
そうだった。
死んではいけないのだ、確実にマロー姫を救出するまでは。
「安心しろ、マロー姫も必ず救出に向かう」
更に落ち着かせるように、大人しくなったトモハラにトライは視線は送らず声だけかけた。
「なりません、トライ王子。救出はアイラ姫様だけで良いのです」
クーリヤが杖をついて諦めずに歩いて来ていた、なんという執着。
呆れ返ってトライは視線を参謀に送る、無表情でトライは冷ややかに睨みつけ。
「アイラが幾ら利巧で偉大で、絶大な力を持とうとも。・・・元側近がこのように他人の命を軽んじていてはラファーガ国も落ちぶれたもの。女王とてそうだ、我が子をそこまで勝手に運命の渦に引き込むか?
他に手立てはあったろう、最初から同等に育てるべきだったろう。
そうすれば、他国に一方的にここまで攻め落とされることもなかったろうに・・・」
「愚弄するか、女王を! 栄華の繁栄を誇った偉大なる女王を!」
老婆とは思えないクーリヤの一声、流石は参謀か。
しかし。
「馬鹿らしい! 民をここまで追い込み、騎士達を全滅に導き、二人の姫君を手放したのはお前と女王! これの何処を誉めろと? オレはアイラ姫を娶りたいが、こんなふざけた国の王になどなるつもりはさらさらない!
民は気の毒だがな、だが、民とて噂に翻弄され愚かの極み。
アイラは・・・こんな国に置いてはおけない!」
そう、そこまで妄信的に信頼している女王ならば。
他に回避できただろうに。
双子姫をどうにか他の道へと、導けたのではないのか。
金きり声を上げるクーリヤに、もはや言葉など通じない。
「クレシダ!」
愛馬の名を呼ぶと颯爽と跳ぶ様に駆ける、俊敏な馬が。
リュイが軍を整え、指揮官として馬に乗ればトライもクレシダに跨る。
「指示通り! 国へ戻り、兄上達に増援の願いを」
「はっ!」
先にリュイの一声で一隊が駆け出す、それは本格的な戦争の知らせ。
「来い、トモハラ」
トモハラの腕を掴み、クレシダの後方に乗せたトライ。
「クレシダは、最速の馬だ。お前を乗せることで若干落ちるだろうが、盲目に等しいお前では一頭与えると足手纏い。瞳が慣れれば自分で馬に乗るが良い」
「・・・はい」
姫君の為に、最善を。
トモハラはトライの意見をすんなりと、受け入れる。
そして次に視線は未だに這い蹲っているミノリへ、トライは溜息を吐いた。
「オフィを出せ」
その一声に連れてこられたのはまだ幼い、純白の馬。
クレシダよりも二まわり程小さな、それでも筋肉が逞しい馬であった。
「乗れ、ミノリ。二度はない」
唖然としていたミノリだが、直様泣き顔でオフィ、と呼ばれた馬に跨る。
「クレシダやデズデモーナより幼いが、今後期待できる愛馬だ。名をオフィーリア。気に入らない者は容赦なく地面に叩き落すから注意しろ」
冗談か本気か、トライの表情からは判らないがミノリは必死で祈った。
アイラ姫を助ける為に、足手纏いになりたくないから、助けてくれ、と。
オフィーリアは、ミノリを落とさなかった。
「問題はアイラの馬だ。デズは・・・クレシダより速度は落ちるが上等の軍馬。おまけに賢い。あれにアイラの知識が加わると間違いなく目的地に確実に到着出来る・・・」
太陽の昇り具合、星の位置、世界の地図が頭に入っているであろうアイラは、何処へでも行けるだろう。
デズデモーナ、という最強の相棒がいる。
何処へ、行くかが問題だ。
マロー姫の捕らえられている場所さえ判明すれば、確実にアイラはそこへ行くだろう。
何処で、その情報を手に入れるか、だ。
「両国に探りを入れろ! 商人を偽り歩兵の半数は二分し両国へ入れ! アイラ姫の情報を掴めば伝令を送ると共に救出へ!」
「はっ!」
アイラが情報を手に入れていた場合。
向かう先はマローが幽閉されている、塔とやら。
トライは、空を見上げた。
リュイが、風を感じた。
「塔へ向かう」
トモハラは感謝した、マローの許へ真っ先に向う事が出来る。
こうして。
二人の姫君を救出すべく、二国が動く。
トライとリュイは数人の兵を残していったので、街の復旧は以前に増して進んだ。
人々はアイラに石を投げつけたことを恐れおののき、悔い、夜星に向かい懺悔を誰が言うわけでもなく皆始める。
そして、妹姫の安否も願った。
発狂したクーリヤは、簡易な牢に入れられ、人々は叫び声を恐れて近寄らず。
「おぉ、おぉ! 女王よ、ラファーガの偉大なる女王よ! 私のしたことは間違っていましたか!?」
女王は数年前に死んでいる、答えはない。
双子の姫は、魔性の姫君。
近寄る男を虜にし、戦乱を撒き散らす。
―――姉が勝てば、繁栄の国家を創る子が産まれるだろう―――
―――妹が勝てば、滅亡に行き着く国家が産まれるだろう―――
どのみち。
光と影は、紙一重。
国が大きくなるということは、消える国が出るということ。
混乱と殺戮の末に出来るのは、新たな国家。
”全てを一掃し、新たな国を創り上げる”
ラファーガ国の女王は、全魔力を振り絞り、神聖なる森で祈りを捧げた。
自分の魔力も無きに等しく、近年勢力を伸ばす他国から、自国を護る為に。
森で願ったのは、絶大な魔力を秘める次期女王。
その父親は今となっては解らない、人か、精霊か、魔物か、神かも解らない男。
森で出遭った男により身ごもったのは、双子。
女王は、激震した。
腹から湧き出る、膨大な魔力。
間違いなく、脅威の魔力を秘めた子供だった。
だが、それは二つ。
双子なのだ。
女王は焦った、自分の魔力を超える双子が腹に居るのだ。
おまけに、聖か邪か、どう出るか解らない。
産んで良いのか女王はうろたえた、しかし、もはや神通力もなく答えが出ない。
焦った女王、森で声を聴いた。
間違いなく、それは声だった。
木々のざわめきで最初は聴こえなかったが、神の声だった。
風で泉の水面が荒立ち、木々の枝が音を立てる中、必死で女王は声を聴いた。
神の声だと、信じていた。
・・・それは。
・・・後に解る、いや、誰も分からないかもしれないが。
・・・確かに”神”の声だった。
・・・だが、聴いてはならない”神”の声だった。
だから、風が邪魔をしたのだ、女王に声を聞かせないように必死で声を掻き消すように荒れた。
それを、魔力を失った女王は勘違いしたのである、神の降臨だと。
魔力を失った女王に、神の声など聴こえない。
吹き込んだのは、神にして、神にあらず。
もし。
普通に双子が産まれていたならば。
忌み嫌われる双子とて、慈愛に満ちた人の手に渡り、片方は街でひっそりと暮らしたろう。
もしかしたら、それは一般人として暮らしたかもしれない。
そうすれば、一般人の子供達と共に過ごせたかもしれない。
その街には、トモハラとミノリという子供が居た。
片方の姫は、どちらかと出会っていただろう。
姫として育てられることになった片方は、美しさゆえに吐いて捨てるほどの求愛を受けただろう。
やがて、トモハラとミノリのどちらかが、姫に惹かれて騎士になったろう。
騎士が、姫と民になった姫を繋ぐ。
四人は。
地位など関係なく、過ごせただろう。
それは、どちらがどちらでも構わなかった。
繁栄も、破滅も、関係ないのだ。
ただ、二人が巨大な魔力を所持している、というだけのことで。
そう。
魔力を失った女王が聞いた声こそが。
・・・まさに、破滅への声だったのだ。
その”声”に抗える人物こそ、唯の一人。
彼女は、一人で抗う。
今も抗っている。
繁栄と破滅、身に覚えのない謂れを受け、それでも抗う。
愛する妹を助ける為に、民を導く為に。
「デズデモーナ、ごめんね。本当ならばあなたも置いて、一人で行かなければ行けないのでしょうが、やっぱり・・・。一人は・・・怖いのです」
満天の空の下、漆黒の馬を走らせるアイラ姫。
脳裏に描くは近隣の地図。
マローは、トレベレスとベルガー、どちらに連れ去られたのか。
何処に行けば会えるのか。
眠るときは、デズデモーナに包まって眠る。
山を走り、温泉を見つけてはデズデモーナと共に入り身体の休息を。
食べられる草木は、頭に入っていた。
最低限で、飢えを凌ぐ。
体力が持つように逸る気持ちを抑えて温存しながら、向かう。
やがて、山中に寂れた村を見つけ、アイラはそこで話を聴いた。
アイラの姿を見て、何処かで強姦されたと勘違いした村人は、流行のものではないが、と衣服を与え、暖かなスープを飲ませる。
最近、山を降りた村人が高貴な人物が居るという建物を教えてくれたのでアイラは一晩そこに止まったが翌朝、まだ太陽が昇りかけた頃ひっそりと旅立った。
アイラに宝石の価値はわからなかったが、身につけていた腕輪を一つ、置いて。
それは、村人達には高額すぎるもので、街で金と交換しその村は一気に裕福な暮らしになったという。
「デズデモーナ。私・・・みんなが言う通り災いを与えると思う?」
新しくなった衣服に身を包み、アイラはぼそ、っと語る。
デズデモーナは必死に返答した、が、馬と人間言葉は交せなかった。
違う、違うと懸命に伝えるデズデモーナ、アイラは軽く笑うと、そっとデズデモーナを撫でる。
「励ましてくれているのですね、ありがとう。・・・」
ミノリを思い出す。
助けたのは大事な人だからだ、一番親しんで話してくれた人だった。
だが、確かに言われた通り。
「私は何も出来なかったし、マロー救出にミノリやトモハラを使う気だったのかもしれない・・・」
結局城内から生きて逃がすことが出来たのは、ミノリとトモハラの二人きり。
マローとて護ることが出来ず、しかし自分は無傷。
「なんとか、しなくては。私が、マローを助けなくては!」
アイラは、懸命に噂の建物を探した。
北北西に向かって、ひっそりとした森の中にあるという、建物。
実は、そこからさらに北に向かえばマローが幽閉されている塔があった。
建物に到着したのは、トライ達がラファーガを旅立ったほぼ直後。
高い塀に囲まれた屋敷、アイラは正々堂々と正面から入り込む。
当然門は閉じられていたので、必死で人を呼んだ。
だが、薄汚れた女には誰も目も止めない。
風呂に入ったのは一週間ほど前だった。
仕方なくアイラは夜を待ち、暗闇に紛れて木々を上り、壁へと飛び降りる。
静まり返る屋敷、明かりが所々。
ふと、馬車の紋章を見れば間違いなくトレベレスの紋だった。
「トレベレス様、お酒は?」
「もう良い、下がれ。明日はマロー姫の許へ行く」
「畏まりました。そういえば本日、門を小汚い物乞いがうろついておりましたので追い払いました」
「こんな山中に? 妙な物乞いだな・・・」
「捕らえるべきでしたか? 女でしたが」
興味なさそうに首を振ったトレベレスは、その後部屋で一人瞳を閉じ、ソファに座って夜風に当たっていた。
酔っていたこともあってか、近づく気配には気づかず。
背後から伸びた剣が首に触れるまで、全く侵入者に気付かなかったのだ。
アイラは、身軽に壁を伝って一番明るい部屋を目指した、物音に影に身を潜め覗き込めば、誰かがソファに座っている。
綺麗な紫銀の髪に、思わず息を飲み込み。
間違いない、探していた相手だと確信する。
そっと忍び寄り、剣を引き抜き、アイラは呟いたのだ。
「マローを、返して下さい」
「!?」
思わず傍らの剣を抜きかけたが、首の剣が軽く動いたので舌打ちして手を止めた。
胸が高鳴った、聞き覚えのある声だった。
高揚感に耐え切れずに、武者震い。
笑い出したくなるのを必死に押し殺してトレベレスは背後に居る、娘を思い描いた。
「トレベレス様ですよね、マローを返して下さい」
「よくここまで辿り着けたな、アイラ姫」
死んでなかった、生きていた。
生きていてこうして、剣を自分に突きつけているアイラに、どうしようもなく身体が震える。
歓喜で心が砕けそうだ。
「そうです、マローを返して下さい」
「返さないと言ったら?」
愉快で、トレベレスは言葉を交し続けることにした。
平坦な毎日で突如現れた、思いもよらない授かり者。
「殺します」
言葉とは裏腹に、焦燥感と狼狽の声、そして震える剣。
殺せない、とトレベレスは笑う。
あの日、兵達を薙ぎ倒したときでさえ、アイラは一人も殺していなかった。
「アイラ姫には殺せない」
「殺せます」
「しかし殺したらマロー姫の居場所が解らなくなるが?」
引き攣ったアイラの一瞬の隙を見て、トレベレスは剣を引き抜き、剣を弾き返す。
小さな悲鳴と共にアイラの剣は床に転がり、代わりに喉元に剣。
「形勢逆転、さぁどうしようか」
部屋の外から数人の足音、今の音に兵が動いた。
青褪めるアイラを他所に、愉快そうにトレベレスは声を出す。
「気にするな、迷子の仔猫だ」
兵達が遠ざかっていった、意外そうにアイラは軽く力を抜く。
爪先から頭部まで、ゆっくりと眺めていたトレベレス、確かにアイラなのだろうが薄汚れている。
「さて、本当にアイラ姫か?」
アイラ以外ありえないが、会話がしたいので問う。
「アイラです」
「姫様にしては汚い格好だ」
「それは必死でここまで来たからです! 」
「馬車で来たのだろう?」
「馬車などありません! 国は貴方方が滅ぼしたじゃないですかっ、私は一人でここまで来たんですっ」
ニヤリ、と微笑むトレベレス。
嘘はなさそうだ、つまり、トライが加担しているわけでも罠でもない。
「アイラ姫は見事な新緑の髪の、麗しい姫だ。・・・そのように薄汚れてはいない」
汚れていても、内から出る美しさは紛れもなくアイラのものだ、解ってはいるが、わざとらしくトレベレスは周囲を歩きながら値踏みする。
「・・・もう、私は姫ではありません。国は今、ありません。でも、マローさえ返してくだされば国は元に戻るんです」
トレベレスは、剣を突きつけたまま自分のローブを縛っていた腰布でアイラの両手を縛り上げると、自分を睨みつけているアイラに愉快そうに笑い。
両足も縛って床に転がせて暫し思案していたが、そのまま。
部屋を出て行った。
アイラは懸命に床で身をよじり、なんとか縄を解こうと必死だ。
焦燥感に駆られながら部屋を辛うじて見渡し、何か切れそうな道具がないか、目を凝らした。
やがてトレベレスが戻ってきた時、アイラは這い蹲って移動した先のテーブルの柱で縄を切ろうとしていたところで。
「・・・愉快なくらいに楽しい仔猫が飛んで来たな」
爆笑。
無視してそれでも必死に逃げようとしているアイラに、トレベレスが用意したもの、それは。
転がっているアイラを抱き抱えて隣に移動する、そこにあったのはバスタブだ。
「姫だと証明できれば、話を聴く。汚れを落とすがいいよ」
剣で紐を切ったトレベレス、「逃げないようにここに居るがな」と一言告げて近くの椅子に腰掛けて愉快そうに笑う。
意外そうにトレベレスを見たアイラ、それでも部屋を見渡し状況を把握する。
出口は、二箇所。
窓が一つ、手は届きそうなので逃げられそうだがその前にはトレベレスが座っている。
先程入ってきたドアには鍵が先程かけられた、逃げ場はないらしい。
「夜中なので女中の用意が出来ない。自分で洗え」
「・・・いつも入浴くらい一人でしてましたから、出来ます」
マローは日頃から誰かに身体を洗ってもらい、花の香を風呂上りにマッサージと共に塗りこんでもらっていたが、アイラは一人きりだった。
世話などしてもらった記憶が、ない。
姫がどうするかと興味本位に見ていたトレベレスだが、真っ直ぐに見つめてきたアイラに一瞬たじろぐ。
「ちゃんと話を聴いてくださいね」
大胆にも堂々と衣服を脱ぎ捨てて、思い切りバスタブに入る。
唖然。
恥ずかしがって布で身体を覆い、バスタブに浸かるのだと思ったが、迷うことなく裸になった。
というのも、アイラは異性の区別があまりついていないので裸を見られて恥ずかしいという意識が全くなかったのである。
傍らの石鹸を使い、懸命に汚れを落とすアイラ。
良い香りがしてくる。
泡に塗れて洗っている姿が、扇情的で。
トレベレスは思わず立ち上がると窓へと向かって、風に当たる。
「拙い・・・」
顔を赤らめた。
挑戦的な態度にしかとれないアイラに、胸が早鐘の様に。
これ以上見ていたら、呪いの姫君を押し倒して強引に身体を奪ってしまいそうだった。
唇を噛み、俯いて額の汗を拭えば。
「どうしたんですか、トレベレス様。剣を手放されては駄目ですよ」
背中に、何かが当たった。
剣先だ。
振り返った瞬間、トレベレスの目に飛び込んできたのは。
「・・・っ!」
泡を身体につけてはいるが汚れを落とし、映える見事な新緑の髪とうっすらと逆上せたピンクの頬と肌、身体を覆い隠すことなく剣を突きつけていたアイラだった。
眩暈。
なんだ、この姫!?
思わず瞳を見開いて、凝視。
確実に男を知らない、美しい裸体だった。
先の侵略で出来たのかもしれない傷跡が微かに見られたが、それが逆に良い。
マローに確かに体型は良く似ているが、決定的に違ったもの。
二人の明暗を分けたもの、それは。
”トレベレスが気になった女か、女でないか”。
最初に見て、気になったのはこのアイラ。
マローと共に居ても惹かれていたのは、このアイラ。
「私は、アイラです。答えてください、双子の妹のマローは何処に居ますか?」頭に血が上る、沸騰する。
朦朧とする意識、だがアイラの姿だけは鮮明に。
挑発的で挑戦的、躊躇のない大胆な行動、真っ直ぐな瞳と声。
沈黙するトレベレスに、苛立ったアイラは一歩詰め寄る。
トレベレスは一歩後退したが、壁だ。
理性が、保てない。
相手は、呪いの姫。
戯れに抱けない娘だ、性欲に支配されるわけにはいかない。
「トレベレス様」
詰め寄ったアイラ、ぽたり、と水滴がトレベレスの足元に。
これが、魔性の呪いの姫君かっ。
トレベレスは、打ち震える興奮にアイラを見下ろし微笑む。
悟られないように深呼吸、肩を震わさずに深呼吸。
冷静になれ、と何度も自分に言い聞かせた。
一瞬、何故か顔を赤らめたアイラの隙をついてアイラの右手の甲を叩き、剣を落とすとそのまま左手を掴んで自分の胸に抱き寄せる。
小さく悲鳴を上げたアイラ、やはり腕力ではどう足掻いても男には勝てず。
本来ならば再び「形勢逆転」というつもりだったトレベレス、だが。
見上げたアイラと見下ろしたトレベレス、二人の視線が交差。
何故か、数秒見つめ合う。
何か言わねばならない、と互いに思った。
だが、何を言えばいいのか。
二人して口が半開き、そのまま、数秒時が止まる。
舌打ちし、腕に力を入れたトレベレスは密着する温もりに思わず赤面したアイラが、慌てて顔を背けた瞬間に。
「アイラ」
名を愛しそうに呼ぶと、迷うことなくトレベレスは唇を重ねる。
それは数分に、いや、数十分に及ぶもので。
初めての口付け、アイラはなすがままで呼吸も上手く出来ず。
だが、抱き締めている腕があまりにも優しく、暖かく、切なくて。
懐かしいと、思った。
以前も抱き上げられて、こうされなかっただろうか。
キィィィ、カトン・・・
何か音が聴こえた気がしたが、うっとりと身を任せていた。
互いの鼓動が、体温が心地良く、こうしていたいと願う。
ようやく唇が離れた時、二人は視線を合わせると同時に赤面した。
「・・・あ、あの・・・」
躊躇いがちに声をかけたアイラ、急に恥ずかしさが込上げたトレベレスは自分のローブを羽織らせると抱き抱え自室に向かう。
ベッドにアイラを放り投げ何をするかと思えば数枚のタオルを、その上に投げ。
「は、肌を拭け、濡れている」
「え、はい、拭きます」
「・・・腹は減ってないか?」
「え?」
「な、何か食事を用意させるからっ」
「あ、あの、話を・・・」
「食べたら聴く! 逃げるなよ、タオルで拭いたらこれに着替えろ」
ベッドに投げこんだのは、ドレスだ。
マローに贈る為に購入し、そのままにしてあったドレスを思い出した。
仕舞い込んであったが、慌てて引っ張り出し投げつけると、アイラを見ずに走り去るトレベレス。
唖然と一人取り残されたアイラは、タオルをとりあえず被った。
唇にそっと手を触れて、再び赤面。
”好きな相手をキスをした、甘美な時間だった”
こんな時に思い出したのは女中の言葉だ、震える身体を押さえてトレベレスを思い出した。
うろたえ、アイラはタオルで全身を覆う。
胸が突如として高鳴る、間近で見たトレベレスはとても綺麗で、強引な腕が何故か心地良く。
名前を呼ばれた瞬間、心が躍った。
あの瞳のせいか、あの鋭くも強引でしかし可愛らしくも思えてしまう瞳が。
アイラは、微動だせずにタオルを被ってベッドの上に。
「くそっ」
部屋を出て数歩、壁に拳を叩きつけるトレベレス、怒りに打ち震える。
それは、自身への戒め。
「ガキじゃないんだ、なんだこのオレの・・・」
女の裸体など、見慣れている。
だが、一気に身体中の血液が沸騰した。
名前を呼び、抱き寄せたかった。
顔が火照る、アイラを思い出した瞬間に胸が痛む。
欲しい。
どうしてもあの娘が欲しい。
呪いの姫君だとは解っているが、あれが欲しい。
手に入れてはいけないと思うから、余計に欲しいのか?
「・・・違う」
トレベレスは、自身に投げかけ、そしてはっきりと答えた。
違う。
最初から、欲していた。
歯止めは呪いの姫君と知ってからだ、最初から気になっていた。
傍に居るトライが疎ましく、羨ましく、嫉ましく。
「アイラ」
トレベレスは、悩ましげに名を呼ぶと壁にもたれて荒い呼吸を繰り返す。
口付けて、解った。
確かに、魔性の姫だった。
どうしても、抱きたい。
欲しくて欲しくて堪らない、けれど。
葛藤が続く、トレベレスは必死に壁を伝って移動し、料理人を叩き起こしたのである。
部屋に戻ればアイラは惚けてそのままだった、タオルを纏ってベッドに座り込んでいる艶やかな色香。
逃げていないか些か不安だったが、そこに居た。
居るには、居たが。
料理を運んできた料理人を振り返り物凄い形相で部屋から締め出すと、怒鳴り声でアイラを叱咤する。
「な、何をしている! ドレスはどうした、男に肌を見せるな」
「え、は、はい、ごめんなさい・・・」
おたおたとタオルを脱ぎ、ドレスを手に取るアイラ。
その間もトレベレスを意識せずに堂々と裸体を見せるので、トレベレスは眩暈。
「だからっ! 年頃の娘が人前で堂々と裸になるなっ」
「ご、ごめんなさい・・・」
別に見なければいいだけの話なのだが、赤面しながらトレベレスは強引にアイラにドレスを着せた、初めてドレスを人に着せた。
運ばれてきた夕食は豪華で、アイラは不審に思いつつもトレベレスと食事を摂る。
「美味いか?」
「はい。あの、トレベレス様、話を・・・」
「食べてからだ」
問答無用で、即答されたアイラは諦めて、一生懸命食事を喉に通す。
久し振りのまともな食事、急いで用意されたものはどれも美味しく、味付けもアイラ好みな薄味である。
トレベレスは果実を齧り、ワインとチーズを口にしているだけで後は何も語ろうとしない。
オリーブオイルとニンニク、ベーコンの細切りに鷹の爪、ペペロンチーノベースだがたっぷりとレモン汁がかけてあるパスタに、カボチャのマリネのベビーリーフサラダ、ホウレン草のポタージュスープ。
非常に美味しく、アイラは夢中で食べ続ける。
おまけにデザートはマンゴープリンにアッサムティ。
「あの。外にデズデモーナが居るのであの子にもご飯を」
「デズデモーナ?」
「漆黒の馬です」
「あぁ」
トレベレスはデズデモーナを館に引き入れるように指示し、たくさんの飼葉を与えさせるよう命令している。
安堵し食事を終えたアイラは、今度こそ話をしようと正面に両手を広げた。
「マローの話を、します」
「・・・」
ワインを飲んでいるトレベレスの傍らで、アイラは必死に身振り手振り、それまでの話をした。
どうやってここまで来たのか、何故マローが必要なのか。
自分が呪いの姫で皆に疎まれている為、国の復興にはマローが必要なのだと。
微かにトレベレスは眉を寄せたが、沈黙してワインを口にしている。
「マローは、何処ですか」
荒い呼吸で、アイラは語尾を強めてトレベレスに詰め寄る。
舌打ちし、トレベレスは立ち上がるとアイラを避けるように窓辺へと。
射すような視線を背に浴びながら、トレベレスは何度も口を開きかけた、だが上手く言葉が出てこない。
手に汗が吹き出る、どう説明すれば良いのか逸る気持ちを抑えて必死に考えた。
「・・・マロー姫は。ベルガー殿と出掛けた。オレは置いてけぼりだ、行き先は知らない」
苦し紛れの嘘、多少声色が冷静さにかけている。
静まり返ったアイラ、そっと後ろを振り返れば。
「嘘です」
直ぐ傍にアイラは立っていた、思わず反射的に悲鳴を上げそうになったトレベレス。
「マローは・・・トレベレス様に懐いてました。あの子、寂しがり屋なんです。ベルガー様と二人で出掛けるなんて・・・ありえません」
「そ、そう言われても本当のことで・・・」
「それで、何処に居るんですか? そこへ行きます」
「ま、待て待て待て! つ、遣いを出してやろう、アイラ姫が滞在しているから戻って欲しいと書簡を送るから」
「本当ですか!?」
「あぁ、ほ、本当だ。それまで、ここで待つと良い」
必死に取り繕うトレベレス、些か不審に、それでも信じるべきかとアイラは困惑している。
目の前にいるのは、あの日城を、国を崩壊させた人物の一人である。
アイラとて、トレベレスの行動は見た。
トモハラを、ミノリを斬り捨てたのはベルガー及び、このトレベレス。
それは、理解していた、しかし。
「あの」
「何だ」
「何故、ラファーガをあのように破壊されたのですか?」
直球。
原因を知らないアイラは、訊いてみることにしたのだ。
言葉を飲み込むしかない、トレベレス。
何故と言われても、マローを手に入れたかったからで。
そんな理由で目の前のアイラの気分を害したくない、というよりも。
トレベレスは、我に返った。
何故、嘘を告げるのか。
美しい娘だ、だが、呪いの娘だ。
牢に入れれば良い、本当の話をしてやればいい。
だが。
トレベレスは無言のまま、不審そうに自分を見ているアイラを無理やり引き寄せると再び唇を重ねる。
驚いてもがくアイラを、力で押さえつけ、唇を吸い続けた。
こういうことだ。
嫌われたくないのだ。
「っ、ふ・・・」
唇を離す、赤面し濡れた瞳に唇、震える身体、首筋から立ち昇る甘い香り。
トレベレスの血が逆流した、再び唇を塞いで、暫しの時。
「必ず、マロー姫をアイラの許に戻すから、少し、待て。ベルガー殿はオレよりも立場が上のお方だ」
力が抜け、ぐったりとしているアイラを強く抱き締める。
これ以上は、無理だ。
離れられなくなる前に、離れなければならない。
抱くことは、禁忌。
自身の破滅を意味する。
けれど。
「約束、です」
アイラが小さく笑う。
「約束です、マローを、返してくださいね」
腕の中で微笑んだアイラ、愛しい愛しい呪いの姫君。
トレベレスは無言で頷いた、頷かざるを得なかった。
再び唇を奪い、背中に指をなぞらせる。
禁忌を犯しても構わない、それでもそれでも、この娘が欲しいと願い。
ベッドに優しく下ろして、着せたドレスを脱がせ始める。
ぎこちなく微笑んだアイラの髪を撫でながら、トレベレスは愛しそうに何度も何度も口付けた。
優しく優しく、懸命に抱き締めた、触れた。
呪いの姫君の鳴声は想像以上に甘美なもので、脳を溶かせるような。
トレベレスは、途中から意識がなくなった。
焦がれた姫を手に入れた、手に入れてはいけなかったが、手に入れた。
「アイラ、オレは」
「トレベレス様! トレベレス様!」
一線を越えようとしたその際に、ドアを叩くけたたましい音。
思わず我に返るトレベレスは、上気した息使いの自分とアイラを見て、赤面する。
ローブを乱暴に纏うと、ドアを開けば。
「い、一体誰を囲ったのですか!? 緑の髪って、まさかっ」
「やかましい」
「誰です! まさか亡国の姫君では・・・」
「表へ出ろっ」
料理人が密告したのだろう、館に広まったアイラの噂。
無論、トレベレスへの説教が開始された。
その間、アイラは一人きり。
気だるい身体をそのままに、天井を見つめている。
そっと、頬に触れれば耳元にトレベレスの声が。
びくり、と身体を引き攣らせて震える身体を抱き締める。
頬が、熱い、身体も、熱い。
もっと、触って欲しかった。
もっと、名前を呼んで欲しかった。
あの瞳と、強引な腕が好きだと思った。
そう、好きだと。
アイラは、困惑してベッドの上に。
年頃の娘が裸いてはいけないというので、急いでドレスを着てみる。
胸が、苦しい。
「あの姫、美しいですが、呪いの子を・・・」
「解っている、抱かなければ良いのだろう?」
「あんな色香のある娘、四六時中傍に置いておいたらっ」
「自制心は強いつもりだっ」
何処が、誰が! と叫びたくなる家臣達だが、ぐっと堪える。
トレベレスは部屋をイラつきながら右往左往、控え目に家臣が一人歩み寄る。
「本日はマロー姫の許へ行く予定ですよ。・・・似ていますし、良いではないですか」
「・・・ちっ」
テーブルの梨を壁に叩きつけると、部屋に勢い良く戻るトレベレス。
「アイラ姫、マロー姫を取り戻す為に書簡を書いた。信頼できる兵に渡しつつ、オレは・・・情報を探ってくるから、ここに居てくれないか。必ず戻るから」
「本当ですか!? 解りました、大人しく待ってます」
疑いもせずにアイラはトレベレスを信じる、 何故か胸が痛むトレベレス。
ようやく、以前城で見たような柔らかな笑みを浮かべたアイラに、思わず口付けを。
「数日で戻る、それまで皆に世話をさせるから、ここから出るな、いいな?」
「はいっ」
トレベレスは、恭しくお辞儀をしたアイラから顔を逸らした。
一日かけて、マローの塔へと。
マローは入ってきたトレベレスを見やると、唾を吐き捨てた。
幽閉してから、早二ヶ月、未だに子が宿らない。
身体は慣れたようだが、どうにも暴れ方が気に入らないうえに、懐かないし可愛げがない。
「あたしを、帰して」
姉は、すぐそこに居るよ。
と、言いたくなったが言えなかった。
無理やり押さえつけ、口に布を押し込んだ。
性格は違うが、体型は似ている。
アイラの代わりに、なってもらう。
アイラには、手が出せない。
抱きたくとも、抱けない。
ならば、似て非なるこの双子の妹を。
アイラの代わりに、抱き締める。
優しく優しく、してやろうと思ったが、暴れ方がアイラとは違った。
当たり前だ、双子とはいえ、そこまで似ない。
抱けば抱くほど鮮明に違いが現れる、満たされない、全くもって、満たされない。
泣きじゃくるマローを残して、早々にトレベレスは、塔を後にした。
早く帰りたい、アイラのいる自分の屋敷へ。
危うく二万文字超えするとこでした。
外伝4を本編に加えたことにより、本編第一章が500話達しないか、非常に不安です(おぃ)。
というか、面倒なので外伝1以外、全部挿入したい気分です(えぇ)。
8はもう、入ってるし、3は単独で入っているし。
そういえば、本編に最初から入っているはずの2が、今回は入れてないのですが。
(グレースとシンシアが出てきてないから)
何処かで入れたいです。
2
5
6
7
あと、四作品。
1は、単独でKOC内でやりたいのですが・・・。
もはや、掲載するスペースがないのですねぇ・・・。
ほっとみるくも、とてもSSとは言えない長さになってしまいましたしっ。
別大陸にでも移動しようかしら・・・。(そんなお金はない)
暇なときに適当に読んでくださいな♪
描写がどこまでいけるのか微妙なのですけども、どーにかこーにか流して書いた、外伝4。
・・・あっちのサイトで第一章終わらせて、裏DES始めたら、トレベレス×アイラのその流した部分を掲載予定です(あ)。
トモハル×マビルも異様に増えましたー。
で、トレベレスに関する感想を下さいですよ。
トライは、王道なので、あれです。
いいんです、この人は放っておいても人気だからっ。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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