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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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現在のBGM.

w-inds.の12月の新曲。


時刻は、数ヶ月前。
トレベレスとベルガーが、ラファーガ国を滅亡へと追いやった愚行の後。
城下町では悲鳴が絶えず、火災に追われて皆が逃げ惑っていた。
城内では生存者が、それでも数名。
運よく逃れた者達は懸命に食物や財宝を手にすると、一目散に城から我が身を護る為に飛び出した。
そして。

トモハラ、壁に叩きつけられ両目を剣にて殺傷。
ミノリ、腹部を槍にて貫かれ瀕死。
アイラ、壁に叩きつけられ槍で・・・。

「マロー・・・。マロー・・・」

息苦しさに、アイラは霞む瞳を必死にこじ開け、震える手足を必死に押さえつけ。
ようやく意識を取り戻した。
思わず、咳き込む。
息を大きく吸いかけて、肺の激痛に耐えられずに。
そして、一面を覆い尽くしている煙を吸い込み、酸素不足で喉を二酸化炭素と煤に侵されて。
熱いのは、城が燃えているからだ。
額から流れる何か、手をやればどうも出血しているらしい。
呻きながら壁を助けに立ち上がれば、ミノリにトモハラが倒れこんでいる姿を見つける。
駆け寄りたいが、脚が上手く、思うように動いてくれない。
唇を噛締めながら、アイラは必死で震える右脚をゆっくりと、前へ出し。

「手当て・・・手当てを・・・二人を・・・助けなきゃ・・・いけないの・・・です」

煙で、視界が遮られていく。
炎の広がりが速いのだろう、狭い通路に押し寄せる煙、酸素を確実に奪っていく。
悔しそうに、それでもアイラは必死に脚を動かした。
二人の元へ辿り着き、何が出来るというわけではないのだが、それでも。

「待ってて・・・ミノリ、トモハラ・・・。必ず、私が、あな、た、たち・・・を・・・」

ぐらり。

アイラの身体が大きく揺れる、階段を転げ落ちるように落下してしまう。
フッ、と無茶をしていた身体に脳がついていかず、そのまま意識を失った。
しかし。
まるで、誰かが支えたように。
空気の抵抗、柔らかな風が。
アイラの身体をゆっくりと、二人の元へと届くように、運ぶように、静かに優しく倒れ込んだ。
遠くで、近くで、爆音が響き渡る。
現在、城の位置でいうなれば4階。
窓から飛び降りれば、下は木も草も生えている地上である。
燃え盛る城内、黒煙渦巻き、身動きすら出来ない瀕死の三人。
姫と、騎士二人。
絶望的なこの状況下で、奇跡は起きた。
起きたのか、”起した”のか。
奇跡”ではない”のかもしれないが。
城は、崩壊を始める。
三人は、崩れ行く天井に押し潰されてもおかしくはなかった。
いや、むしろそれが普通だろう。
炎の勢い、爆発の衝撃で壁は内部から哀しくも脆く、壊れ行く。
しかし、暴落を始めた城、三人の居た位置だけが斜めにするり、と。
何かに護られながら、その空間だけ全く炎すら寄せ付けず、瓦礫すら跳ね返すように。
波が攫っていく砂の様に、徐々に徐々に滑るように、静かに地面へと向かう。
上手い具合に壁が炎を遮断し、三人を護るように、個室を造る様に倒れた壁が取り囲んだ。
倒れこんでいたミノリとトモハラの上に、覆い被さるように崩れているアイラ。
地面に辿り着いたその一角、アイラの指先が地表に、草に触れた、その瞬間に。
蛍の光のような、弱々しく、儚い小さな光であれども。
無数に地面から湧き上がるように、静かに、静かに、雪が降り積もるとは間逆に。
仄かな無数の光の珠が、三人の周囲の地面から湧き上がり、空へと昇って行った。
アイラの唇が、微かに震えるように動く。
ミノリの腹部の傷口に、右手を。
トモハラの両目に、左手を。
無意識の内に腕を動かしたアイラ、やんわりと、両の手の平が光り始めていた。
静かなる、空間の中で。
すぐ傍で燃え盛る炎など、気にも留めず。
隔離された、異空間。
数時間の事だった、その状態のまま、三人はそこで眠りについていたのだ。
無数の発光体は、消えることなく。
三人を守護するようにその場に留まり、水の中で揺らめくように、浮くように。
聖域。
不可思議な、何か。
人知を超えたもの。
そんな場所で三人は、眠りについている。
暫くして、何かが近づいてくる音が、微かに炎が破壊している音に混じって辺りに響き始めていた。
一瞬、発光体は停止したが再びゆらゆら、と漂い始める。
まるで、近づいてきた”もの”が何かを識別し、害はないと判断したかのように。
蹄の音、漆黒の馬が一頭。
それは、トライがアイラに譲渡したデズデモーナだった。
馬小屋から逃げ出したのだろう、アイラを探していたのかもしれない。
アイラを見つけると、邪魔な壁を取り除き、口で衣服を咥え必死にデズデモーナはアイラを揺り起こし始める。

「ん・・・」

眉を潜め、唇を動かし、ぴくぴくと瞼を動かしたアイラ。
デズデモーナは器用にアイラを背中に首を使って、滑るように乗せるとそのままその場を後にした。
それでも無数の発光体は、ミノリとトモハラを包み込んだままだった。

絶対治癒領域。

その場に居れば、自然と体調も怪我も治癒出来る。
そう、ミノリの腹部の傷はほぼ完治している。
トモハラとて、今は静かに寝息を立てているのだ。
瞳の傷は徐々に癒え、本人達が起きてこそ、何が起こったのか理解出来るのだろうが。
 
デズデモーナはアイラを乗せてゆったりと森の中を歩いてたが、不意に歩みを止めるとアイラを背から下ろす。
それはとても器用で、まるで大人の男性がアイラを背負い、そして優しく下ろしたように見えた。
下ろされた場所は、柔らかな苔が一面に生えている森の最深部。
老木ながら、溢れる威厳に満ちたその神聖なる場所の前に、50センチほどだが湧き水が。
木々に遮断されながらも辿り着いた陽射しが、キラキラと水面に反射していた。

「ん・・・」

アイラは触れている地面の感触に気付き、薄っすらと瞳を開くと身体を恐る恐る動かす。
まず、仰向けに。
心配そうに覗き込んでいるデズデモーナに薄く笑うと、右手を延ばして鼻を撫でた。

「ここ、何処?」

左の肘に、力を籠めて上半身を起き上がらせる。
擦り寄ってきたデズデモーナの頭を両手で抱き締めながら、隣の湧き水に視線を移していた。
あまりに、甘くて美味しそうな水。

―――お飲みなさい。お帰りなさい―――

脳内に、突如として響いた声に驚き、アイラは小さく悲鳴を上げると周囲を見渡した。
敵意のない声で、どこか、懐かしい老人の声だ。
アイラはギュ、とデズデモーナを震えながら抱き締めていたが、周囲には何の気配もない。
デズデモーナが先に水を飲み始める、アイラは暫し水面に映る眩い光を見ていたが、満足そうに飲み終えたデズデモーナに微笑すると、自分も両手で水を掬い、口へと運ぶ。
空から降った恵みの雨が、森林の恩恵に抱かれて地中を潜り抜け、風ある地表に顔を出し、光を受けた水。
ぶるり、と鳥肌が立つ冷たさとそして、洗練された美味さ。
アイラは、乾ききっていた喉を、無我夢中で潤していた。
静かに、森の中で水音だけが響き渡っている。
口を拭い、満足そうに顔をあげたアイラ。
余裕が出来たのだろう、不意に見れば近くの木に何やら実がなっていた。
必死に、図鑑を思い描いた。

「林檎」

デズデモーナの背に立ち上がり、林檎を数個木から戴く。
短かったドレスの裾を破いて、簡易な風呂敷にして持ち帰るのだ。
見れば、他にも実がなっていた。

「瓢箪」

中を掻き出し、洗えば簡易な水筒である。
アイラは持てるだけ瓢箪をもぎ取り、水をありったけ詰め込むと雄大に佇んでいる老木に深く頭を垂れ、恩恵の森に感謝の祈りを捧げると、デズデモーナと歩き出す。
さわさわさわ。
風が、老木たちの木の葉を揺らしていた。

デズデモーナが、ミノリとトモハラの居場所へ案内してくれたので、直様かけつけたアイラは二人の口元に、先程の水を流し込んだ。
懸命に飲もうとする二人、喉が当然乾燥し、渇いているので冷ややかな液体を感じ、無心で唇を動かしたのである。
安堵の溜息でアイラが持ってきた瓢箪の水を、全て二人に与えると、林檎を包みから出す。
一つ、齧りながらアイラは再びデズデモーナと歩き出した。
向かう先は、炎から逃れている城の一部。
何か、薬草や食料など残っていないか。
アイラは城内の地図を必死に脳裏に描いて、食料を探す。
食料と確かになるべく飼われていた、鳥の焼かれた姿を発見した。
焦げてはいない、裁けば食べられそうだ。
何でも良い、二人に何かを食べさせたい・・・。
アイラは四六時中何かを探し、森でキノコを見つけ、木の実を取り、果物を取り。
欠けた剣の先で懸命に木を彫りスプーンを作る、おわんを作る。
いつ、二人が起きても良いように。
城の火が耐えないので夜でも暖かいのは幸いだった、アイラは寝る間も惜しんで二人を看病する。
顔も全身も煤と泥まみれだ、拭えば余計に汚れが広がる。
それでも、そのままに。
緑の髪が、灰を被って白くなろうとも、二人の傍に。
三日後、鍋を見つけ自分でスープを作ることを憶えたアイラは、材料調達の為に再び森へと入った。
森で彷徨っている間に、炎が沈下しつつあり、善良なる街の人々が生存者を探し城までやってきていた。
当然、ミノリとトモハラの姿を見つけ、慌てて荷台に二人を乗せるとそのまま街へと戻って行く。
信じられないが、完治していたミノリは周囲の騒がしさに怪訝に瞳を開いた。

「あぁ、起きたかい!」
「さぁさ、これを」

数日、身体を動かさなかったので、感覚がなかったミノリは背を支えてもらい、スプーンで誰かに口までスープを運んでもらう。
・・・数時間前も、誰かがこうしてくれていたような気がしたが、朦朧としている意識では解らなかった。
トモハラはまだ、眠っていた。
数時間後、ようやく立ち上がったミノリは、近所の人達と再会し状況を聞いたのだ。
二人の王子率いる兵士達が、城下町にも押し入り火を放ち、破壊の限りを尽くしていった事を。
馬車に放り混まれた、黒の麗しの姫君の事を。
そして。

「ミノリ! あんた、騎士だったんだろ!? マロー様をお助けに行くのかい?」
「あの子が奪われたら、ラファーガはもうおしまいじゃて・・・」
「呪いの姫君は、何処に。この災いも嬉々として呼び入れたのじゃろうか」
「あぁ! 呪いの姫君のせいで!!」

そう、全ての不満がアイラへと向けられていることを知ったのだった。
不幸な目に合った人間は。
多くが不幸を誰かのせいに、したくなる。
そうすることで、気を紛らわせ、自分を少しでも助けようと防衛本能が働くのだ。
ミノリは。
まさか、自分はその呪いの姫君付きの騎士であったとは言えず。
言う精神も、まだ完全に戻っていなかったかもしれないのだが。
言えなかったのだ。
あまりに酷い、この惨状に自分もどうして良いか解らず。
そして一向に瞳を開かないトモハラが、心配で。
一人残った、騎士。
周囲から圧し掛かる期待は”麗しの妹姫の救出”。
たった一人で、どうしろと。
勇者でもないのに、どう戦えと。
ミノリは、人々の声を聞きながら、徐々に苛立ちを憶えていた。

「大変よ! ミノリ、あんたのトコの家族が死体で見つかったって!」
「えぇ!?」

救助活動は続けられていた。
本調子でないミノリは、ほとんど眠って数時間過ごしていたが、人同士助け合わねばと街の修復に取り掛かっている人々も無論存在する。
遺体は、街の端に集められ神父が日々祈りに追われていた。
ミノリは無我夢中でそこへと走り、家族の姿を確認したのだ。
間違いなく、家族だった。
焼かれたのではなく、建物に下敷きになり、押し潰されたのだろう。
懸命にもがいて、顔はほぼ無事だったので確認できたのだ。
茫然自失で、トモハラの隣へと戻ると、すとん、と腰を下ろし。
発狂しそうな勢いで、声にならない叫び声を上げた。
一人で、どうしたら良いのか。
そう、ミノリは”何故助かったのか”を、考える余裕がなかった。
腹部の傷を、忘れていた。
ただ、この惨劇の中央で、騎士だからと皆に期待の視線を投げかけられ。
頭を掻き毟りながら、地面を蹴り上げていれば。
一つの、ざわめき。
広がったかと思えば、小さく、小さく。
ミノリは、顔を上げた。
そして、見た。
そして、聴いた。

「ミノリ! あぁ良かった、無事でしたか!」

馬に乗って、緑の髪の娘が立っている、声をかけている。
緑の髪。
元気そうな、アイラの姿。
確かに身なりは汚いが、上等そうな布に、そこらの娘にはない、気品。
誰しもが解ったのである。

”呪いの緑の髪の姉姫”だと。

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