別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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続きですー、連休中に外伝は終わらせる予定っ。
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薬草を取り出し、出血している騎士達に手当てを施すアイラを、ミノリは見ていた。
何と勇敢で大胆、そして完璧な姫だろう。
恐れもなく、堂々としている、それに比べて自分達騎士は何も出来ない・・・。
恥じて俯いていたが、手伝いくらいなら出来るだろう。
アイラに近寄るミノリだが、先に気付いたアイラが薄っすらと笑みを浮かべて話しかける。
「ミノリ、水もありますから飲んでおいて。干し肉もあるのです、食べられるときに口にしておいてください」
「は、はい。・・・でも」
「大丈夫です、水は古くはないのです。定期的に交換されていますから、安心してくださいね」
「あ、はい」
自分も手伝う、と言いたかったのだが、大人しく先に食事をすることにした。
しかし、何故このような場所を、そして定期的に食料が交換されていることまで知っているのだろうか。
と、誰もそのような疑問が頭に浮かばない。
状況が状況なだけに、未だに皆混乱中なのだ。
アイラだけが冷静に、一人忙しなく動き回る部屋。
マロー付きの騎士の治療を終える、傷口に薬草を塗りこみ包帯で固定し、薬湯を飲ませるべく水を沸かし始める。
「トモハラ、マローは大丈夫ですか?」
「あ、はい」
部屋で最も座り心地が良さそうなソファにマローを座らせて、ワインを勧めていたトモハラのもとへ、アイラが駆け寄る。
微量のワインならば身体も温まるだろう、アイラはお湯で割って、マローに勧める。
軽く溜息を吐くと、アイラは立ち上がり小声ながらも威厳ある低みの声で語り出した。
「簡単に説明します。
現在、ここは城のほぼ中心に位置しています。表と裏は危険と判断し、使用人が出入りする、食物庫から逃亡を考えています。あそこならば近くに荷物を運ぶだけの荷馬車があります、馬車は目立つので馬を使います。
食物庫までの道程ですが、狭い通路なので何分時間がかかります。また、壁を一枚隔てて敵がいるかもしれないので無言で移動しましょう、物音も厳禁です。
私たちの部屋からの抜け道など、簡単に見つけられるでしょうが、通路は入り組んでいるので敵は簡単にはこちらに追いつけない筈。
・・・敵はベルガー様及び、トレベレス様。我国に侵略攻撃を仕掛けたものとします。
他の者達の安否も気がかりですが、一先ずこのメンバーで逃げ切りましょう。・・・良いでしょうか」
ミノリ、トモハラ、そしてアイラ付きの騎士であるキルフェは深く頷いた、しかし、女官のエレナは呆けており返事がない。
ぶつぶつ、と小声で何か言っている。
「あぁ、これだから・・・呪いの姫君は・・・。災いを・・・城内に持ち込んで・・・」
かっとしたミノリがエレナの胸倉を掴む、怒りで肩を震わしながら止めるトモハラを振り払って叫んだ。
「アイラ様のせいじゃないだろう!? 今必死にみんなを救おうとしてくださっているのに、その態度は何なんだ!?」
「やめて、ミノリ! 声を出しては気付かれますっ」
アイラに背後から抱きつかれ、ようやく我に返ったミノリ。
赤面して悔しそうに俯くと、小声で謝罪する。
静まり返る室内、遠くで何か物音がしていた。
「皆、今のうちに食事だけでも。長期戦です、ここから暫くは歩かねばなりません。
ミノリ、キルフェ。ここにある使えそうな道具を一緒に運んでください」
「承知いたしました」
アイラの指示で、薬草を所持し、皆で簡素な食事をした。
マローは震えながらアイラに寄り添っている。
黙々と干し肉を噛みながら、物音に怯え、一同はワインを啜り終える。
アイラは立ち上がり、部屋を見渡した。
「出口は、先程入ってきた場所も含めて三箇所あります」
「え、何処に・・・」
「・・・どちらが安全かしら・・・。どうしよう、判別が出来ない」
此処へきて、アイラの焦りが顔に浮かぶ。
マローをちらり、と見てからアイラは唇を噛んだ。
「・・・こちらへ行きます、皆、準備は良いですね?」
「はっ!」
再びトモハラはマローを背負おうとした、だが。
「ここから生きて逃げても。・・・国の復興は難しい。けれど、マロー姫さえ無事であれば国家は存続出来る。しかし・・・ラファーガ国の血筋の者が必要ではありませんか? ならば、今此処で!」
マロー付きの騎士が一人、トモハラを投げ飛ばしマローを奪い取るとソファにそのまま押し倒した。
「何をしている!」
床に叩きつけられても、必死にトモハラは立ち上がり、騎士を殴りつけた。
「マロー姫様さえ無事なれば、国家安泰!」
「解っている、だから今から逃げようと・・・」
「だが、お子が居らねばどうにもならぬ! 生きて皆逃げ切れると思うかトモハラ? ラファーガ国の血筋の者がマロー様以外に必要なのだ。解るだろう?」
「・・・だからどうしたと」
「今此処で、誰かの子をマロー様に孕んでいただかねば、ラファーガ国は全滅するっ」
「な、何馬鹿な事言ってるんだっ」
小さく悲鳴を上げたマローに、多い被さる騎士、逆上してトモハラが掴みかかったが振り払われる。
「失礼、姫様! こうするより方法がないのです」
「・・・おやめなさい」
騎士の首元に、剣先。
背後からアイラが剣を構えていた、瞬時に静まり返る室内。
騎士の荒い呼吸だけが響く中で、剣の光が妙に神々しく。
「先程から、いえ、以前から。呪いだとか繁栄だとか・・・何を皆言っているのか気になってました。が、今はそれどころではありません、無事に身を潜めたら訊きます。
国家を再建するのに必要なのは指導者と人です、貴方方が必要です。今この人数でせめて逃げ切ることが大事なのです、解ってください、大声出さないで下さい」
「・・・」
アイラ姫は、本当に破滅と繁栄の予言を知らないようだった、それだけはミノリにもトモハラにも解る。
項垂れた騎士を、トモハラがゆっくりとはがし、マローを救い出す。
手を軽く握り、ソファに丁重に座らせるとトモハラはマローの正面に背を向けて立った。
「恐怖で・・・混乱するのは解るけれど・・・。姫様を護衛するのが俺達の役職、怖がらせてはいけない、傷つかせてもいけない。俺は、そう思う」
項垂れている騎士にそう静かに告げたトモハラは、「申し訳ありませんでした」と、はっきりとマローに告げた。
「・・・」
マローは、混乱気味で震えたまま姉を探して視線を彷徨わせている。
静かに剣を下ろしたアイラは、クローゼットから一枚のシーツを取り出した。
防寒用だろうがそれを一気に切り裂き、二枚にすると一枚は自分が被る。
もう一枚をマローに被せ、きゅ、と首元で結んだ。
「・・・マロー、逃げる為に汚い格好になりますが我慢してね。私達は目立ちすぎるのかもしれません、こうして身なりを変えましょうね」
「うん、わかった」
大人しく姉の言葉に頷いたマロー、こくん、と首を下げてアイラに撫でられている。
と、そこへ。
急に険しくなったアイラの瞳、右手にしっかりと剣を携えて一方の壁を見据えた。
唇に指を一本、喋るな、ということだ。
皆、騎士は剣を構えトモハラはマローを隠すように右手を広げる。
左利きのトモハラ、アイラと同じ様に剣を構えた。
近づく足音、皆が悲鳴を上げそうになりながら必死に堪える。
足音は一つ、アイラは両手で剣を構えている。
ギ・・・
壁が、開いた。
先程入ってきた壁ではない、別の壁だった。
明るい光が漏れる、そして、女の声。
「姫様・・・姫様方ですか?」
「・・・! クーリヤ!?」
安堵し剣を下ろしたアイラは、人物を室内へ引き込み、慌てて壁を閉じる。
そこに居たのは、白髪の老婆、しかし名前だけならば皆知っている。
元女王の宰相である、クーリヤだった。
姫達の無事な姿を確認すると、緊張の糸が切れて床に倒れ込むクーリヤ、歓喜の涙を流しながら嗚咽する。
「よく、よくご無事で・・・! 信じておりましたよ、何処かに逃げ隠れていると」
「クーリヤもよく無事で! よかった、知恵者の貴女が居れば心強いです」
女官・エレナもようやく正気に戻ったようだ、クーリヤの姿を瞳に入れた瞬間に安堵で床に倒れ込む。
騎士達はそこまで面識がないが、元女王の親友でもあり名前だけは知っている。
ほとんど姿も見せていないが、幼い姫に代わって裏で国内を制圧しているのはクーリヤ他ならない。
口出しはせず、見守っているだけだが最高峰の人物だ。
ベルガーが探していた、最後の一人でもある、”双子が生まれた際に立ち会っていた”人物だった。
「こちらは危険です、別の場所から移動しましょう」
老体ながらも機敏に動いたクーリヤ、マローが座っていたソファへ近寄ると、トモハラとマローをそこから離れさせる。
ソファを軽く動かせば、アイラも同じ様に手を添えた。
ソファを動かせば新たな隠し階段だ、皆息を飲んだ。
アイラだけは知っていたので驚きもせずに神妙に頷くと、手を差し伸べる。
「行きましょう! 仲間が増え、これ以上心強いことはありません。私などよりクーリヤのほうが城内には長けています」
クーリヤの出現で皆、希望を見出した。
大人しくアイラの言葉に従い、そっと階段を下りていく。
狭いのでマローも一人で歩いた、アイラと手を繋ぎながら必死に下りていく。
時折、壁の向こうから敵兵と思われる声が聴こえたので、必死に息を押し殺した。
何分歩いただろうか、すでに一時間経過しているような錯覚。
多少広まった通路に出たので皆深呼吸である、久々に手を伸ばし、額の汗を拭う。
「アイラ姫様、相談があります」
「どうしました、クーリヤ」
「二手に分かれましょう、そのほうが速く進めます」
「・・・え?」
意外なクーリヤの提案にアイラは首を傾げる、確かに少人数のほうが行動は楽だが。
「でも・・・」
「この場所、お分かりですね? ここから何処へでも移動できます。落ち合う場所を決め、逃げましょう。撹乱の為、アイラ様、マロー様は別行動です」
「えぇ!?」
クーリヤは自分のつけていたエプロンをはずし、傍にいたエレナの頭に被せると自分もスカーフを頭部に巻きつける。
姫を四人に見立てる、ということだろうか。
「あ、あたしは、嫌っ!」
マローが不意に叫んだ、久し振りに言葉を発した。
「あ、あたしは姉様と一緒じゃなきゃ、嫌!」
「落ち着いて、マロー。・・・クーリヤ、私も同感です、マローと離れたくありません」
「ですが姫様が二人で行動していては危険に御座います」
「しかし・・・」
ぎゅぅ、とアイラの腕を掴んでいるマローを困惑気味に見つめ、アイラは決定出来ないで居る。
皆で逃げたほうが、心強い。
機敏性をとるならば確かに少人数のほうが、楽に決まっているのだが・・・。
アイラはやはり、クーリヤに反論した。
「でも、二人で安全な道を考えれば。皆逃げられます、一緒に行きましょう」
「いいえ」
ぴしゃり、と老婆とは思えぬ声で断固否定したクーリヤ。
エレナ、及びマロー付きの騎士二人はクーリヤに賛成な用だった。
つまり、こういうことなのだろう。
髪の色を隠した女が四人で撹乱、本命のマローを逃がし、アイラに囮になってもらう、ということだ。
ミノリとキルフェも覚悟を決めた、二分の意見に押し切られるだろうから、自分達は囮のアイラ姫と共に傍に居るつもりだ。
「大丈夫です、アイラ姫。必ず御守りしますから。・・・ここは、別れましょう」
「ミノリまで・・・」
寂しそうに瞳を伏せたアイラだが、皆が助かる方法を選択し続けなければいけない。
いや。
・・・アイラ付きの騎士以外、アイラはどうなっても良いと思っているのだろう。
ならば、信頼できる二人の騎士で、アイラを護り抜くしかないのだと、ミノリは決心した。
決断を迫られたアイラ、しかし、震えるマローをとても放すことなど出来ない。
「クーリヤ様に従いなさいませ、アイラ様。今此処での最高権力者はクーリヤ様です」
エレナの妙な勝ち誇った口調にカチン、ときたミノリだったが、それどころではない。
アイラが諦めかけ、マローを説得しようとした時だった。
「居たぞー! 姫と残党だー!」
「!?」
壁の向こうで爆音、衝撃に皆瞳を瞑ると、煙立つ中で互いに仲間を探す。
「アイラ様!」
「マロー様!」
むせながら、マローの手を離さなかったアイラ、どうやら声から察するにトモハラもミノリも近くに居るようだ。
「何故・・・何故解ったのでしょうっ!?」
来た方角からではない攻撃に、狼狽するアイラだったが切り替える。
新たな逃げ道を脳内に描くと、マローの腕を引っ張り上げて駆け出した。
爆音の壁から、数人の敵兵が身を乗り出していた、おぼろげに見えるその廊下、まだ包囲はされていない。
「こちらへ、アイラ様!」
急に腕を引っ張られた、見ればクーリヤだ。
クーリヤがいつの間にか、爆音と反対側の床から下へと逃げようとしている。
しかし、その場所はアイラには眼中にない場所だった。
ただの部屋とは呼べない空間だ、入れても二人が限度の。
「早く!」
「でも、そこは二人程しか身を潜められませんっ」
「いいから早く!」
「皆、逃げられません!」
「アイラ様! 良いから貴女様だけこちらに! アイラ様! アイラ姫様!」
クーリヤの手を解いて、アイラは必死に駆ける、新たな道へと。
「アイラ!? アイラ姫様!?」
クーリヤの叫びも虚しく、消えて行くアイラ。
エレナの悲鳴、騎士の断末魔、クーリヤは祈りながらそっと身を潜める。
「居ますね、トモハラ、ミノリ、キルフェ!」
「はっ、お傍におります」
アイラに付き添っているのはもはや騎士三名だった、そして泣いているマロー。
五人となった今、敵兵がエレナに気を取られている間に一刻も早く脱出ルートを見出さねばならない。
「何故・・・解ったのでしょう。あんな隠し扉から・・・何故こちら側が・・・」
焦燥感に駆られ、アイラは乾いた喉と切れる息を必死に押し殺して走った。
しかし、アイラは乗馬も得意で体力には自信があったのだ。
寧ろ、ないのは。
「もう駄目、あたし走れないっ」
転ぶように立ち止まったマロー、アイラは剣でマローの裾を切り裂き短くすると、軽く両手で頬を叩く。
「頑張って! 捕まってはいけないのです」
「何で逃げなきゃいけないの? あたし達、何か悪いこと、した?」
「・・・」
「ねぇ、姿を見せればいいんじゃない? ベルガー様もトレベレス様も酷いことなんてしないわよ」
「駄目です、マロー・・・。見たでしょう、そうなれば、火を放ったり皆を殺したりしません・・・」
「何が目的なの?」
「解りません、手厚くもてなしていたつもりだったのですが・・・」
ふと、アイラは顔を歪めた。
「もしかして・・・先程私が断ったから?」
「断った? 何を?」
夜伽のことだ。
先程、突っぱねたのは確か。
ミノリが割ってはいる、それは違うと懸命にアイラを説得する。
苛立ちながらトモハラが皆を叱咤した、どうやら過酷な状況下で冷静さを失わなかったようだ。
「後で考えましょう! 今は逃げるのです。・・・マロー様、ご無礼をお許し下さい」
「きゃっ」
正面から抱き抱え、マローを抱いたまま走るトモハラ。
「ぶ、無礼者!」
「お叱りは後で受けますから、どうかご辛抱してください」
密着する肌に赤面したマローは、突き放そうと暴れるのだがトモハラは俄然として離さず、それどころかきつく抱き締める。
「・・・必ず、命に代えても御守致しますから。マロー様だけは護り抜きますから」
「あ、当たり前でしょ! あんたあたしの騎士なんだからっ。あたしに代わって敵の攻撃受けてよね」
「そのつもりです。マロー様の為ならば死んでも構いません」
トモハラの顔を見ながら、真剣にそう言い放った時、マローは一気に力が抜けるのを感じた。
悪態ついて当たり前でしょ、を連呼していたが顔の火照りが治まらない。
「・・・トモハラ」
「あ。はい、アイラ様」
「訂正してください。マローを護って頂くのはとても感謝しています、ですが死んでも構わないというのは賛同出来ません。
トモハラが死んでしまったら、次は誰がマローを護ってくれるのですか?
護り抜くと誓うなら、トモハラ、貴方自身も死なないで下さい」
どこか、怒った様な口調のアイラに、はっとしてトモハラは謝罪した。
しかし、死んでもいいと思って居たのは確かだ。
こうして今、会話し、そして抱き締めているのだから。
それだけで、トモハラはよかったのだ。
もう、これ以上はないという至福だったのだ。
「トモハラ」
「はい、アイラ様」
「マローを、宜しくお願いしますね」
「解りました」
緑の髪の姫君は、茶色の髪の騎士に、愛する黒髪の妹を、託した。
信頼しているようだった、城内で何度もみかけたトモハラのマローを見つめる瞳に、偽りはないと判断したのだ。
抱き締めながら、トモハラは走る。剣が抜けないので後方にキルフェとミノリ、先頭にアイラだ。
「この先に再び、部屋があります。誰か怪我は?」
「皆無事です」
「わかりました、では喉だけ潤しましょう」
逸る気持ちを抑えつつ。
あと数十分走れば、馬車小屋に行くことが出来る筈だった。
そっと隠し部屋へと侵入し、敵に見られていないことを確認、五人は溜息を吐くと床に座り込む。
特にマローを抱えているトモハラは体力の消耗が激しい、項垂れて壁に寄りかかり、気だるそうに俯いていた。
「これを、トモハラ」
無言で差し出された水を飲むトモハラ、アイラはここでも皆に一定の水分を補給させ、疲労に良いとされる薬草を噛ませる。
もはや、湯など沸かしている有余がないので、水だけだ。
ワインもこれ以上は思考を鈍らせるだろう、次の道をアイラは思案する。
数分後、再び室内を後にする皆、ほぼ真下に食物庫がある。
だが、簡単に下へは行けなかった、登って下らなければ辿り着けない道になっていた。
階段なので一人で歩くことになったマロー、アイラに手を握ってもらい懸命に痛んだ足で歩き続ける。
泣きながら、必死だった。
「こっちだー! 居たぞー!」
「!?」
先程来た方角から声がする、舌打ちし、アイラは足を速めた。松明が投げられる、明るく階段の下が照らされている。
キルフェが意を決し、立ち止まると剣を抜き抜いた、足止め覚悟で死ぬつもりだった。
「お逃げ下さい、アイラ様!」
「キルフェ、未だです! 敵の姿が見えるまでは皆で逃げるのです!」
怒鳴ってアイラはそれを止める、ミノリにキルフェを引っ張ってもらい、阻止。
階段を、上り続ける。
息も上がり、五人はそれでも必死に走っていた。
万が一交戦しても、階段の上部がこちら側だ、有利に戦える。
問題は追っ手が何人居るか、によるのだが。
数人あれば確実に今倒しておくが利巧かもしれない、しかし、どんな些細なことでも、確実に逃げ切る為に。
無傷で、皆を逃がす為に。
明るい上部、アイラはそこから外を見た。
そう、空気の為に小さな窓があったのだ。
街も、業火に包まれている。
唖然として足を止めたが、唇を強く強く噛締めて走った。
「もうすぐ下ります! あと少しですからね!」
「はっ!」
だが。
悲鳴と共に何かが倒れる音。
「キルフェ!」
何と勇敢で大胆、そして完璧な姫だろう。
恐れもなく、堂々としている、それに比べて自分達騎士は何も出来ない・・・。
恥じて俯いていたが、手伝いくらいなら出来るだろう。
アイラに近寄るミノリだが、先に気付いたアイラが薄っすらと笑みを浮かべて話しかける。
「ミノリ、水もありますから飲んでおいて。干し肉もあるのです、食べられるときに口にしておいてください」
「は、はい。・・・でも」
「大丈夫です、水は古くはないのです。定期的に交換されていますから、安心してくださいね」
「あ、はい」
自分も手伝う、と言いたかったのだが、大人しく先に食事をすることにした。
しかし、何故このような場所を、そして定期的に食料が交換されていることまで知っているのだろうか。
と、誰もそのような疑問が頭に浮かばない。
状況が状況なだけに、未だに皆混乱中なのだ。
アイラだけが冷静に、一人忙しなく動き回る部屋。
マロー付きの騎士の治療を終える、傷口に薬草を塗りこみ包帯で固定し、薬湯を飲ませるべく水を沸かし始める。
「トモハラ、マローは大丈夫ですか?」
「あ、はい」
部屋で最も座り心地が良さそうなソファにマローを座らせて、ワインを勧めていたトモハラのもとへ、アイラが駆け寄る。
微量のワインならば身体も温まるだろう、アイラはお湯で割って、マローに勧める。
軽く溜息を吐くと、アイラは立ち上がり小声ながらも威厳ある低みの声で語り出した。
「簡単に説明します。
現在、ここは城のほぼ中心に位置しています。表と裏は危険と判断し、使用人が出入りする、食物庫から逃亡を考えています。あそこならば近くに荷物を運ぶだけの荷馬車があります、馬車は目立つので馬を使います。
食物庫までの道程ですが、狭い通路なので何分時間がかかります。また、壁を一枚隔てて敵がいるかもしれないので無言で移動しましょう、物音も厳禁です。
私たちの部屋からの抜け道など、簡単に見つけられるでしょうが、通路は入り組んでいるので敵は簡単にはこちらに追いつけない筈。
・・・敵はベルガー様及び、トレベレス様。我国に侵略攻撃を仕掛けたものとします。
他の者達の安否も気がかりですが、一先ずこのメンバーで逃げ切りましょう。・・・良いでしょうか」
ミノリ、トモハラ、そしてアイラ付きの騎士であるキルフェは深く頷いた、しかし、女官のエレナは呆けており返事がない。
ぶつぶつ、と小声で何か言っている。
「あぁ、これだから・・・呪いの姫君は・・・。災いを・・・城内に持ち込んで・・・」
かっとしたミノリがエレナの胸倉を掴む、怒りで肩を震わしながら止めるトモハラを振り払って叫んだ。
「アイラ様のせいじゃないだろう!? 今必死にみんなを救おうとしてくださっているのに、その態度は何なんだ!?」
「やめて、ミノリ! 声を出しては気付かれますっ」
アイラに背後から抱きつかれ、ようやく我に返ったミノリ。
赤面して悔しそうに俯くと、小声で謝罪する。
静まり返る室内、遠くで何か物音がしていた。
「皆、今のうちに食事だけでも。長期戦です、ここから暫くは歩かねばなりません。
ミノリ、キルフェ。ここにある使えそうな道具を一緒に運んでください」
「承知いたしました」
アイラの指示で、薬草を所持し、皆で簡素な食事をした。
マローは震えながらアイラに寄り添っている。
黙々と干し肉を噛みながら、物音に怯え、一同はワインを啜り終える。
アイラは立ち上がり、部屋を見渡した。
「出口は、先程入ってきた場所も含めて三箇所あります」
「え、何処に・・・」
「・・・どちらが安全かしら・・・。どうしよう、判別が出来ない」
此処へきて、アイラの焦りが顔に浮かぶ。
マローをちらり、と見てからアイラは唇を噛んだ。
「・・・こちらへ行きます、皆、準備は良いですね?」
「はっ!」
再びトモハラはマローを背負おうとした、だが。
「ここから生きて逃げても。・・・国の復興は難しい。けれど、マロー姫さえ無事であれば国家は存続出来る。しかし・・・ラファーガ国の血筋の者が必要ではありませんか? ならば、今此処で!」
マロー付きの騎士が一人、トモハラを投げ飛ばしマローを奪い取るとソファにそのまま押し倒した。
「何をしている!」
床に叩きつけられても、必死にトモハラは立ち上がり、騎士を殴りつけた。
「マロー姫様さえ無事なれば、国家安泰!」
「解っている、だから今から逃げようと・・・」
「だが、お子が居らねばどうにもならぬ! 生きて皆逃げ切れると思うかトモハラ? ラファーガ国の血筋の者がマロー様以外に必要なのだ。解るだろう?」
「・・・だからどうしたと」
「今此処で、誰かの子をマロー様に孕んでいただかねば、ラファーガ国は全滅するっ」
「な、何馬鹿な事言ってるんだっ」
小さく悲鳴を上げたマローに、多い被さる騎士、逆上してトモハラが掴みかかったが振り払われる。
「失礼、姫様! こうするより方法がないのです」
「・・・おやめなさい」
騎士の首元に、剣先。
背後からアイラが剣を構えていた、瞬時に静まり返る室内。
騎士の荒い呼吸だけが響く中で、剣の光が妙に神々しく。
「先程から、いえ、以前から。呪いだとか繁栄だとか・・・何を皆言っているのか気になってました。が、今はそれどころではありません、無事に身を潜めたら訊きます。
国家を再建するのに必要なのは指導者と人です、貴方方が必要です。今この人数でせめて逃げ切ることが大事なのです、解ってください、大声出さないで下さい」
「・・・」
アイラ姫は、本当に破滅と繁栄の予言を知らないようだった、それだけはミノリにもトモハラにも解る。
項垂れた騎士を、トモハラがゆっくりとはがし、マローを救い出す。
手を軽く握り、ソファに丁重に座らせるとトモハラはマローの正面に背を向けて立った。
「恐怖で・・・混乱するのは解るけれど・・・。姫様を護衛するのが俺達の役職、怖がらせてはいけない、傷つかせてもいけない。俺は、そう思う」
項垂れている騎士にそう静かに告げたトモハラは、「申し訳ありませんでした」と、はっきりとマローに告げた。
「・・・」
マローは、混乱気味で震えたまま姉を探して視線を彷徨わせている。
静かに剣を下ろしたアイラは、クローゼットから一枚のシーツを取り出した。
防寒用だろうがそれを一気に切り裂き、二枚にすると一枚は自分が被る。
もう一枚をマローに被せ、きゅ、と首元で結んだ。
「・・・マロー、逃げる為に汚い格好になりますが我慢してね。私達は目立ちすぎるのかもしれません、こうして身なりを変えましょうね」
「うん、わかった」
大人しく姉の言葉に頷いたマロー、こくん、と首を下げてアイラに撫でられている。
と、そこへ。
急に険しくなったアイラの瞳、右手にしっかりと剣を携えて一方の壁を見据えた。
唇に指を一本、喋るな、ということだ。
皆、騎士は剣を構えトモハラはマローを隠すように右手を広げる。
左利きのトモハラ、アイラと同じ様に剣を構えた。
近づく足音、皆が悲鳴を上げそうになりながら必死に堪える。
足音は一つ、アイラは両手で剣を構えている。
ギ・・・
壁が、開いた。
先程入ってきた壁ではない、別の壁だった。
明るい光が漏れる、そして、女の声。
「姫様・・・姫様方ですか?」
「・・・! クーリヤ!?」
安堵し剣を下ろしたアイラは、人物を室内へ引き込み、慌てて壁を閉じる。
そこに居たのは、白髪の老婆、しかし名前だけならば皆知っている。
元女王の宰相である、クーリヤだった。
姫達の無事な姿を確認すると、緊張の糸が切れて床に倒れ込むクーリヤ、歓喜の涙を流しながら嗚咽する。
「よく、よくご無事で・・・! 信じておりましたよ、何処かに逃げ隠れていると」
「クーリヤもよく無事で! よかった、知恵者の貴女が居れば心強いです」
女官・エレナもようやく正気に戻ったようだ、クーリヤの姿を瞳に入れた瞬間に安堵で床に倒れ込む。
騎士達はそこまで面識がないが、元女王の親友でもあり名前だけは知っている。
ほとんど姿も見せていないが、幼い姫に代わって裏で国内を制圧しているのはクーリヤ他ならない。
口出しはせず、見守っているだけだが最高峰の人物だ。
ベルガーが探していた、最後の一人でもある、”双子が生まれた際に立ち会っていた”人物だった。
「こちらは危険です、別の場所から移動しましょう」
老体ながらも機敏に動いたクーリヤ、マローが座っていたソファへ近寄ると、トモハラとマローをそこから離れさせる。
ソファを軽く動かせば、アイラも同じ様に手を添えた。
ソファを動かせば新たな隠し階段だ、皆息を飲んだ。
アイラだけは知っていたので驚きもせずに神妙に頷くと、手を差し伸べる。
「行きましょう! 仲間が増え、これ以上心強いことはありません。私などよりクーリヤのほうが城内には長けています」
クーリヤの出現で皆、希望を見出した。
大人しくアイラの言葉に従い、そっと階段を下りていく。
狭いのでマローも一人で歩いた、アイラと手を繋ぎながら必死に下りていく。
時折、壁の向こうから敵兵と思われる声が聴こえたので、必死に息を押し殺した。
何分歩いただろうか、すでに一時間経過しているような錯覚。
多少広まった通路に出たので皆深呼吸である、久々に手を伸ばし、額の汗を拭う。
「アイラ姫様、相談があります」
「どうしました、クーリヤ」
「二手に分かれましょう、そのほうが速く進めます」
「・・・え?」
意外なクーリヤの提案にアイラは首を傾げる、確かに少人数のほうが行動は楽だが。
「でも・・・」
「この場所、お分かりですね? ここから何処へでも移動できます。落ち合う場所を決め、逃げましょう。撹乱の為、アイラ様、マロー様は別行動です」
「えぇ!?」
クーリヤは自分のつけていたエプロンをはずし、傍にいたエレナの頭に被せると自分もスカーフを頭部に巻きつける。
姫を四人に見立てる、ということだろうか。
「あ、あたしは、嫌っ!」
マローが不意に叫んだ、久し振りに言葉を発した。
「あ、あたしは姉様と一緒じゃなきゃ、嫌!」
「落ち着いて、マロー。・・・クーリヤ、私も同感です、マローと離れたくありません」
「ですが姫様が二人で行動していては危険に御座います」
「しかし・・・」
ぎゅぅ、とアイラの腕を掴んでいるマローを困惑気味に見つめ、アイラは決定出来ないで居る。
皆で逃げたほうが、心強い。
機敏性をとるならば確かに少人数のほうが、楽に決まっているのだが・・・。
アイラはやはり、クーリヤに反論した。
「でも、二人で安全な道を考えれば。皆逃げられます、一緒に行きましょう」
「いいえ」
ぴしゃり、と老婆とは思えぬ声で断固否定したクーリヤ。
エレナ、及びマロー付きの騎士二人はクーリヤに賛成な用だった。
つまり、こういうことなのだろう。
髪の色を隠した女が四人で撹乱、本命のマローを逃がし、アイラに囮になってもらう、ということだ。
ミノリとキルフェも覚悟を決めた、二分の意見に押し切られるだろうから、自分達は囮のアイラ姫と共に傍に居るつもりだ。
「大丈夫です、アイラ姫。必ず御守りしますから。・・・ここは、別れましょう」
「ミノリまで・・・」
寂しそうに瞳を伏せたアイラだが、皆が助かる方法を選択し続けなければいけない。
いや。
・・・アイラ付きの騎士以外、アイラはどうなっても良いと思っているのだろう。
ならば、信頼できる二人の騎士で、アイラを護り抜くしかないのだと、ミノリは決心した。
決断を迫られたアイラ、しかし、震えるマローをとても放すことなど出来ない。
「クーリヤ様に従いなさいませ、アイラ様。今此処での最高権力者はクーリヤ様です」
エレナの妙な勝ち誇った口調にカチン、ときたミノリだったが、それどころではない。
アイラが諦めかけ、マローを説得しようとした時だった。
「居たぞー! 姫と残党だー!」
「!?」
壁の向こうで爆音、衝撃に皆瞳を瞑ると、煙立つ中で互いに仲間を探す。
「アイラ様!」
「マロー様!」
むせながら、マローの手を離さなかったアイラ、どうやら声から察するにトモハラもミノリも近くに居るようだ。
「何故・・・何故解ったのでしょうっ!?」
来た方角からではない攻撃に、狼狽するアイラだったが切り替える。
新たな逃げ道を脳内に描くと、マローの腕を引っ張り上げて駆け出した。
爆音の壁から、数人の敵兵が身を乗り出していた、おぼろげに見えるその廊下、まだ包囲はされていない。
「こちらへ、アイラ様!」
急に腕を引っ張られた、見ればクーリヤだ。
クーリヤがいつの間にか、爆音と反対側の床から下へと逃げようとしている。
しかし、その場所はアイラには眼中にない場所だった。
ただの部屋とは呼べない空間だ、入れても二人が限度の。
「早く!」
「でも、そこは二人程しか身を潜められませんっ」
「いいから早く!」
「皆、逃げられません!」
「アイラ様! 良いから貴女様だけこちらに! アイラ様! アイラ姫様!」
クーリヤの手を解いて、アイラは必死に駆ける、新たな道へと。
「アイラ!? アイラ姫様!?」
クーリヤの叫びも虚しく、消えて行くアイラ。
エレナの悲鳴、騎士の断末魔、クーリヤは祈りながらそっと身を潜める。
「居ますね、トモハラ、ミノリ、キルフェ!」
「はっ、お傍におります」
アイラに付き添っているのはもはや騎士三名だった、そして泣いているマロー。
五人となった今、敵兵がエレナに気を取られている間に一刻も早く脱出ルートを見出さねばならない。
「何故・・・解ったのでしょう。あんな隠し扉から・・・何故こちら側が・・・」
焦燥感に駆られ、アイラは乾いた喉と切れる息を必死に押し殺して走った。
しかし、アイラは乗馬も得意で体力には自信があったのだ。
寧ろ、ないのは。
「もう駄目、あたし走れないっ」
転ぶように立ち止まったマロー、アイラは剣でマローの裾を切り裂き短くすると、軽く両手で頬を叩く。
「頑張って! 捕まってはいけないのです」
「何で逃げなきゃいけないの? あたし達、何か悪いこと、した?」
「・・・」
「ねぇ、姿を見せればいいんじゃない? ベルガー様もトレベレス様も酷いことなんてしないわよ」
「駄目です、マロー・・・。見たでしょう、そうなれば、火を放ったり皆を殺したりしません・・・」
「何が目的なの?」
「解りません、手厚くもてなしていたつもりだったのですが・・・」
ふと、アイラは顔を歪めた。
「もしかして・・・先程私が断ったから?」
「断った? 何を?」
夜伽のことだ。
先程、突っぱねたのは確か。
ミノリが割ってはいる、それは違うと懸命にアイラを説得する。
苛立ちながらトモハラが皆を叱咤した、どうやら過酷な状況下で冷静さを失わなかったようだ。
「後で考えましょう! 今は逃げるのです。・・・マロー様、ご無礼をお許し下さい」
「きゃっ」
正面から抱き抱え、マローを抱いたまま走るトモハラ。
「ぶ、無礼者!」
「お叱りは後で受けますから、どうかご辛抱してください」
密着する肌に赤面したマローは、突き放そうと暴れるのだがトモハラは俄然として離さず、それどころかきつく抱き締める。
「・・・必ず、命に代えても御守致しますから。マロー様だけは護り抜きますから」
「あ、当たり前でしょ! あんたあたしの騎士なんだからっ。あたしに代わって敵の攻撃受けてよね」
「そのつもりです。マロー様の為ならば死んでも構いません」
トモハラの顔を見ながら、真剣にそう言い放った時、マローは一気に力が抜けるのを感じた。
悪態ついて当たり前でしょ、を連呼していたが顔の火照りが治まらない。
「・・・トモハラ」
「あ。はい、アイラ様」
「訂正してください。マローを護って頂くのはとても感謝しています、ですが死んでも構わないというのは賛同出来ません。
トモハラが死んでしまったら、次は誰がマローを護ってくれるのですか?
護り抜くと誓うなら、トモハラ、貴方自身も死なないで下さい」
どこか、怒った様な口調のアイラに、はっとしてトモハラは謝罪した。
しかし、死んでもいいと思って居たのは確かだ。
こうして今、会話し、そして抱き締めているのだから。
それだけで、トモハラはよかったのだ。
もう、これ以上はないという至福だったのだ。
「トモハラ」
「はい、アイラ様」
「マローを、宜しくお願いしますね」
「解りました」
緑の髪の姫君は、茶色の髪の騎士に、愛する黒髪の妹を、託した。
信頼しているようだった、城内で何度もみかけたトモハラのマローを見つめる瞳に、偽りはないと判断したのだ。
抱き締めながら、トモハラは走る。剣が抜けないので後方にキルフェとミノリ、先頭にアイラだ。
「この先に再び、部屋があります。誰か怪我は?」
「皆無事です」
「わかりました、では喉だけ潤しましょう」
逸る気持ちを抑えつつ。
あと数十分走れば、馬車小屋に行くことが出来る筈だった。
そっと隠し部屋へと侵入し、敵に見られていないことを確認、五人は溜息を吐くと床に座り込む。
特にマローを抱えているトモハラは体力の消耗が激しい、項垂れて壁に寄りかかり、気だるそうに俯いていた。
「これを、トモハラ」
無言で差し出された水を飲むトモハラ、アイラはここでも皆に一定の水分を補給させ、疲労に良いとされる薬草を噛ませる。
もはや、湯など沸かしている有余がないので、水だけだ。
ワインもこれ以上は思考を鈍らせるだろう、次の道をアイラは思案する。
数分後、再び室内を後にする皆、ほぼ真下に食物庫がある。
だが、簡単に下へは行けなかった、登って下らなければ辿り着けない道になっていた。
階段なので一人で歩くことになったマロー、アイラに手を握ってもらい懸命に痛んだ足で歩き続ける。
泣きながら、必死だった。
「こっちだー! 居たぞー!」
「!?」
先程来た方角から声がする、舌打ちし、アイラは足を速めた。松明が投げられる、明るく階段の下が照らされている。
キルフェが意を決し、立ち止まると剣を抜き抜いた、足止め覚悟で死ぬつもりだった。
「お逃げ下さい、アイラ様!」
「キルフェ、未だです! 敵の姿が見えるまでは皆で逃げるのです!」
怒鳴ってアイラはそれを止める、ミノリにキルフェを引っ張ってもらい、阻止。
階段を、上り続ける。
息も上がり、五人はそれでも必死に走っていた。
万が一交戦しても、階段の上部がこちら側だ、有利に戦える。
問題は追っ手が何人居るか、によるのだが。
数人あれば確実に今倒しておくが利巧かもしれない、しかし、どんな些細なことでも、確実に逃げ切る為に。
無傷で、皆を逃がす為に。
明るい上部、アイラはそこから外を見た。
そう、空気の為に小さな窓があったのだ。
街も、業火に包まれている。
唖然として足を止めたが、唇を強く強く噛締めて走った。
「もうすぐ下ります! あと少しですからね!」
「はっ!」
だが。
悲鳴と共に何かが倒れる音。
「キルフェ!」
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