忍者ブログ
別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
[883]  [878]  [880]  [879]  [882]  [877]  [881]  [874]  [875]  [862]  [866
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

さぁこい、王子様(’’)

 翌日は、自分の売り込みを止めた。体調不良だと、宿の主人にも無理を言って寝込んでいた。
 心配した主人は、暖かなスープを作ってきてくれたのだが、それが余計に申し訳なかった。
 確かに気分は優れない、身体も重い。だが動こうと思えば動く事が出来る、風邪ではない。
 病は気から、とはよく言ったものだ。
 丸一日、ベッドの上で眠っていたガーベラは、翌日は宿の手伝いを開始した。
 外に出たくはなかったが、部屋に居ても主人に心配されてしまう。下衆な男には出会わないよう、人が多い大通りを歩く事にした。
 やがて、公園に辿り着いたのでベンチに座ってみる。潮風が香る、深い溜息を知らず吐いていた。
 自分は何がしたかったのだろう。
 歌が上手いと言われ、その気になってしまった。簡単に歌うことを仕事に出来るわけなど、なかったのに。勢いで飛び出してきたが、帰りたくなっていた。
 あの娼館は、居心地が良かった。今になって、後悔の波が押し寄せる。

「私は、弱かった……」

 ぼそりと呟き、瞳を伏せる。今更、戻れない。まだ、旅立ってから一ヶ月も経過していない。
 呆れ返って苦笑されても、あの場所へ戻ったほうが自分の為だろうか。
 いや、もしかしてもう、自分の部屋すらなくなっているのではないか。
 考えていたら気分が悪くなってしまった、頭痛がする。もう、帰ろうと立ち上がった。
 今日も売り込みはやめにして、眠ろう。
 夕陽が沈みかけていた、ガーベラは静かに公園から立ち去る。

「春の息吹を待ち侘びる、暖かな日差しのその季節
 奏でる音は、天上の調べ
 眩いばかりの光が、恋人達に降り注ぐ
 愛しい愛しい、君よ
 どうか君の歩く路が、光溢れるものでありますように
 全ての影を跳ね返し、暖かな路を進めるように
 ここから願い続けよう」
「あら、綺麗な声ね」

 思わず歌いながら歩いていたが、我に返った。周囲に子供連れの女性が数人、集まっている。 
 妊婦やら、幼子を抱いた母やらが、ガーベラの歌を聴いていた。
 井戸端会議をしていた主婦達だったが、ガーベラは気まずくなり小さく会釈した。

「ねぇ、子守唄は歌えるのかしら? よかったら歌ってくれない?」
「え……」

 まさか、そんな事を言われるとは思わなかった。呆然と突っ立っていたが、控え目に会釈をすると姿勢を正す。大きく息を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出した。

「綺麗な声ね。助かるわー、この子がぐずって、なかなか眠ってくれないから」
「本当ね、綺麗な声だわ」

 主婦達のそんな感想を聴きながら、思わず頬を染めて声を張り上げる。
 金など貰えないが、満足した。自分の歌を聴きたいと、そう言ってくれた人がいたからだ。
 そして、歌うことが出来たから。
 手を振って去っていく主婦と幼子達に、ガーベラは深く頭を下げる。
 思わず、鼻がつん、として気がつけば涙が溢れていた。
 あぁ、歌ってよかった。歌が、やっぱり好きだ。
 歯を食い縛る、泣き笑いで瞬きをすれば、地面に涙が零れ落ちた。
 

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
[10/05 たまこ]
[08/11 たまこ]
[08/11 たまこ]
[05/06 たまこ]
[01/24 たまこ]
[01/07 たまこ]
[12/26 たまこ]
[11/19 たまこ]
[08/18 たまこ]
[07/22 たまこ]
フリーエリア
フリーエリア
最新トラックバック
プロフィール
HN:
把 多摩子
性別:
女性
ブログ内検索
カウンター
Copyright © あさぎるざ All Rights Reserved.
Designed by north sound
Powered by Ninja Blog

忍者ブログ [PR]