別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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(’’)
翌日も近郊を2人で歩き回った。見たことのない花が咲いている、アースは後で調査しようと紙にさらりと姿絵を残した。
どちらが言うでもなく、手を繋いで川を渡り、大木にトリプトルが登ってアースを引き上げる。
寄り添って、周囲を見渡して2人は微笑した。
2人しかいない世界のようだった、もし、楽園というものがあるのならばそれはここで間違いないと思った。
川が流れる水の音、風に揺れる木々の囁き、太陽の光が降り注ぎながら何か話しかけてくる。
まだ動物が存在しないこの惑星だ、トロイとリュミの存在を感じない遠い場所に来れば、それはもう、2人だけの世界。
互いに想いなど口にはしていなかった、が、傍にいる温もりを感じられるだけで十分な気がした。
視線が交差すると、微笑み合う。
アースを膝の上に乗せ、背後から抱き締めたトリプトルは愛おしそうに髪に頬を摺り寄せる。
ふわりと香る、花。甘い香りが、鼻先をくすぐった。
「古の、光を。
遠き遠き、懐かしき場所から。
今、この場所へ。
暖かな、光を分け与えたまえ。
回帰せよ、命。
柔らかで暖かな光は、ココに。
全身全霊をかけて、召喚するは膨大な光の破片」
小さくアースが呟いた、土の精霊特有の言葉かと思い気にしなかったトリプトルは、髪にそっと口付けた。
指を絡ませ、頬を撫でながら、名前を呼び続ける。
やがて陽は落ち、周囲は闇夜に包まれた。月光が2人を包む、眩く煌く星達を眺めながらまだ、そこにいた。
あぁ、ずっとこのままでいられたら。2人でこのままいられたらどれだけ幸せだろう。
飽きることなく、トリプトルはアースを抱き締め口付け続ける。アースも、それが心地良かった。
『見て見て、幸せそう! よかったね、よかったね』
『ねぇねぇ、まだ不機嫌な調子でいようか。そうしたら2人はこのままいられるよね』
『そうしようか』
『……これこれ、それは間違っているよ。そろそろ悪戯はもうお止め』
翌朝、眠っているトリプトルの腕からそっと抜け出したアースは、小屋から出てすぐ生えていた草に声をかける。
「1つ、訊いても良いかな? 私が喜ぶから、トリプトルと一
緒に居たいって思ったから、もしかしてご機嫌斜めにしてくれてるの? わざとなの?」
名も無き草は、くすくす、と笑う。アースは軽く赤面すると、頬に手を当て俯いた。
「あ、ありがとう……。私、とっても幸せだった。でも、そろそろお仕事頑張らないと」
腕の、トリプトルが作ってくれた花の腕輪を撫でながらアースは微笑む。ふわりと甘い香りが漂った。
起きて来たトリプトルと共に食事を摂ると、一転して一気に成長を始めた植物達に安堵し、2人は名残惜しかったが帰ることにした。トロイとリュミに、手土産だとマスカットを一房手にして。
本当は戻りたくなど、なかった。
このままで良いと思ってしまった、戻ってしまえば部屋も違う。互いに寄り添って眠る事など、出来るわけがない。
一瞬、帰りたくないと言い出しそうになったトリプトルだが唇を噛締めると率先して帰り支度を始めた。
それは、禁忌だ。自分達に任された使命は、この惑星の育成である。
土の精霊アース・ブリュンヒルデの惑星スクルドを成長させ、人間を移住させること……。
神に愛された期待の娘・アース。彼女の名に泥を塗ってはならないと、トリプトルは必死に言い聞かせた。
「あぁ、でも。本当に帰りたくなど……ない」
切なそうに見つめる瞳の先には、アース。マスカットを見つめながら、嬉しそうに微笑んでいる。
嬉しいだろう、この惑星で出来た果物だ。自分の惑星の成長を見ているのが楽しいのだろう。
苦笑すると、トリプトルは気持ちを入れ替えることにした。
が、知らなかった。何故、アースがマスカットを見て微笑んでいたのか。
―――アースの髪の色に似てる。ほら、陽が当たるとそっくりだ。あぁ、アースの髪のほうがもっと綺麗だよ。オレは、好きだな。―――
トリプトルがそう言ってくれたので、思い出していた。綺麗な髪だと、好きな髪だと言ってくれた。
仏頂面のトロイに、2人は申し訳なさそうに項垂れる。狼狽しているリュミを尻目に、トロイは1つ咳をするとアースが差し出したマスカットを手に取った。
「事情は解ったが、もう少し早めに連絡をくれてもいいだろう」
「ご、ごめんなさいトロイ。その、本当に、ごめんなさい」
「アース、君らしくもない……。まぁ、終わったことは仕方がないか、以後気をつけてくれ。こちらも心配していたんだ」
「本当にごめんなさい」
「ま、まぁまぁ! こうして2人は無事だったし、植物達も元気になったし。美味しそうなマスカット、食べようよ」
不貞腐れそっぽを向いているトリプトルに軽く睨みを利かせてから、必死に謝罪を繰り返すアースに苦笑する。見かねてリュミが、マスカットを一粒もぎ取って口に放り込んだ。
「あ、こら!」
「わぁ、甘い。何コレ美味しい」
手を伸ばしたリュミを、トロイが睨みつける。頭を抱えながらトロイはじっと、マスカットを見た。
「アース。君なら気付くだろう? 何故こうも早くマスカットが生る、妙じゃないか。植物は時間をかけて成長する……そもそも、受粉せねば実とて生らない。鳥やら昆虫が花粉を飛ばすことで受粉するはずだろう、まだこの惑星にはそれらがいない。
大体、この近辺は大木などないのに、そこだけ木々が生い茂るのは妙な話じゃないか。
……調査に行こう、全員で」
トロイに言われ、アースも我に返る。確かに、そうだが心当たりがあったのだ。
トリプトルといられたので、嬉しかったアースは知らず、あの近辺にのみ力を注ぎすぎたのではないか。そのため、植物達が急成長してしまったのではないか……。
それを伝えようとしたが、口篭ったアースは小さく頷く事しか出来なかった。
「そこまで完璧に植物達が生長しているのならば、惑星スクルドは次の段階に移る。昆虫や動物達を移住させなければならない。報告も急ごう。さぁ、皆長期滞在の準備を」
「トロイは真面目だなぁ。もっとゆっくり行こうよ」
何気なく言ったリュミに、トロイは眩暈がする、とばかり額を押さえる。そんな様子に小さく笑ったアースは、隣のトリプトルの手を見た。手を、前みたいに繋いでよいものか。
だが、何か気が引けて手を繋ぐ事が出来ない。
「腹減った」
「お前はどうして緊張感がないんだ……」
大きく伸びをして、空腹を訴えるトリプトルに、ますますトロイは項垂れる。すっかりこの4人のまとめ役になってしまっている自分にも驚いたが、意外とそれが嫌ではない。なんとなく、この関係が楽しく思えていた。
親友と、恋心を抱いている美しい娘、そして自分を剣の師と慕う少年……。いつまでも、この4人でいられたら良いのにと思った。共に、いるつもりではあったが。惑星が成長し、任務を終えて主星へと戻っても共にいれば良いのだ。
トロイは、そうだと思って疑問すら抱いていなかった。
出来ればその頃には、アースと寄り添っていられれば良いなとは思ったが。
男が3人に女が1人、恐らく何処かで均衡は崩れるだろう。しかし、それでもこの4人ならば絆に繋がれて共に居られると、そう信じていた。
「トリプトル、と、とりあえずどうぞ!」
しんみりとそうトロイが思っていたところへ目の前で繰り広げられる、目を疑う行為。
アースが何を思ったのか首筋をトリプトルに突き出している、綺麗なうなじが見えた。赤面するリュミと、唖然とするトロイ、そして青褪めるトリプトル。
「トリプトル? お前は一体何をアースに教えたんだ?」
ボキ、とトロイが指を鳴らし、微笑して近寄ってくる。瞳は微塵も笑っていない、口角は上がっているが妙に冷え切った口調だ。慌ててトリプトルは首を横に振るが、不思議そうに小首傾げて見ているアースには何も言えなかった。
「親友として問おう。……アースに何を教えたんだと訊いているっ」
「暴力反対!」
蹴りを放ったトロイの一撃を、辛うじて受け止めたトリプトルは引き攣った笑顔で笑い返した。
唖然と見ているアースの前の前で繰り広げられる2人の攻防、リュミは興奮し、浮き足立つ。
何か、駄目だったのだろうか。
アースは、残念そうに首筋をそっと、撫でた。
数十分経過し、トロイの蹴りを腹部にまともに喰らい、頬を殴られたトリプトルはアースに手当てを受けながらしかめっ面をしている。口内が切れて、血の味で満たされていた。唾液を吐き出すと、ようやく血の味が薄まる。
「全く、手加減を知らない奴」
「ごめんね、トリプトル。私が何か失態を」
「あー、うん。……アース、おいで」
トロイとリュミは、忙しなく外で準備をしている。今、この場所には2人きりだ。
おいで、と言われ思わず微笑んだアースはそっと腫れているトリプトルの頬に手を添える。優しく擦って貰うと、痛みが和らぐ気がしてうっとりと瞳を閉じるトリプトル。
アースの手は、暖かい。柔らかくて、いつまでも触れていて欲しい。
「口付けを、しようかアース」
「口付け?」
アースを引き寄せたトリプトルは、細い腰を抱き締め軽く唇を重ねた。驚いて瞳を何度か瞬きしていたアースだが、そっと、閉じるとしがみ付く。
何度か音を立てて唇を重ねた、困惑気味にアースが視線を泳がす。思わず自分の胸にアースを押さえつけると、耳元で囁く。甘く、甘く。それでいて、はっきりと。
「アース。2人だけの秘密だ。いいね?」
「う、うん」
「この唇は、オレのもの。オレの唇は、アースのもの。だから、絶対に他の誰にも触れさせないで。オレも触れさせない。解る?」
「解ります」
再び、そっと口付ける。髪を撫でながら、外にトロイ達がいるのだがどうしても耐えられなかった。
2人きりでいたときは、ただ触れるだけで十分だったのだが近くに自分以外の誰かがいると、これは自分のモノだと主張したくなった。
「アース……これは、2人だけの秘密。2人でいると、落ち着くから。それを確かめる為に口付けよう」
2人でいると確かに落ち着くが、口付けすると妙に胸が高鳴るのは何故だろう。心音が煩いくらいに跳ね上がっているが、トリプトルは違うのだろうか。
何度か2人は唇を交わした、が、流石に長い時間は出来ない。最後にアースを抱き締めたトリプトルは、耳に口付けると自室へと歩いていく。
アースは、ぼうっと熱に浮かされた顔で、唇に指をあてた。
2人だけの、秘密……。
嬉しかった、特別な気がした。妙に身体が熱い、どうしてよいか解らず、アースは外へと飛び出すと両腕を空に掲げる。と、振り返ったトロイとリュミは見た。
周辺の木々が、突如として急成長していく過程を。
唖然と、それを見ていた。その中心には、頬を軽く染めて、うっとりと佇んでいるアース。
それが美しくて、儚くて瞳を逸らせない。光の粒子が彼女の周囲を取り囲んでいる気がした。
どちらが言うでもなく、手を繋いで川を渡り、大木にトリプトルが登ってアースを引き上げる。
寄り添って、周囲を見渡して2人は微笑した。
2人しかいない世界のようだった、もし、楽園というものがあるのならばそれはここで間違いないと思った。
川が流れる水の音、風に揺れる木々の囁き、太陽の光が降り注ぎながら何か話しかけてくる。
まだ動物が存在しないこの惑星だ、トロイとリュミの存在を感じない遠い場所に来れば、それはもう、2人だけの世界。
互いに想いなど口にはしていなかった、が、傍にいる温もりを感じられるだけで十分な気がした。
視線が交差すると、微笑み合う。
アースを膝の上に乗せ、背後から抱き締めたトリプトルは愛おしそうに髪に頬を摺り寄せる。
ふわりと香る、花。甘い香りが、鼻先をくすぐった。
「古の、光を。
遠き遠き、懐かしき場所から。
今、この場所へ。
暖かな、光を分け与えたまえ。
回帰せよ、命。
柔らかで暖かな光は、ココに。
全身全霊をかけて、召喚するは膨大な光の破片」
小さくアースが呟いた、土の精霊特有の言葉かと思い気にしなかったトリプトルは、髪にそっと口付けた。
指を絡ませ、頬を撫でながら、名前を呼び続ける。
やがて陽は落ち、周囲は闇夜に包まれた。月光が2人を包む、眩く煌く星達を眺めながらまだ、そこにいた。
あぁ、ずっとこのままでいられたら。2人でこのままいられたらどれだけ幸せだろう。
飽きることなく、トリプトルはアースを抱き締め口付け続ける。アースも、それが心地良かった。
『見て見て、幸せそう! よかったね、よかったね』
『ねぇねぇ、まだ不機嫌な調子でいようか。そうしたら2人はこのままいられるよね』
『そうしようか』
『……これこれ、それは間違っているよ。そろそろ悪戯はもうお止め』
翌朝、眠っているトリプトルの腕からそっと抜け出したアースは、小屋から出てすぐ生えていた草に声をかける。
「1つ、訊いても良いかな? 私が喜ぶから、トリプトルと一
緒に居たいって思ったから、もしかしてご機嫌斜めにしてくれてるの? わざとなの?」
名も無き草は、くすくす、と笑う。アースは軽く赤面すると、頬に手を当て俯いた。
「あ、ありがとう……。私、とっても幸せだった。でも、そろそろお仕事頑張らないと」
腕の、トリプトルが作ってくれた花の腕輪を撫でながらアースは微笑む。ふわりと甘い香りが漂った。
起きて来たトリプトルと共に食事を摂ると、一転して一気に成長を始めた植物達に安堵し、2人は名残惜しかったが帰ることにした。トロイとリュミに、手土産だとマスカットを一房手にして。
本当は戻りたくなど、なかった。
このままで良いと思ってしまった、戻ってしまえば部屋も違う。互いに寄り添って眠る事など、出来るわけがない。
一瞬、帰りたくないと言い出しそうになったトリプトルだが唇を噛締めると率先して帰り支度を始めた。
それは、禁忌だ。自分達に任された使命は、この惑星の育成である。
土の精霊アース・ブリュンヒルデの惑星スクルドを成長させ、人間を移住させること……。
神に愛された期待の娘・アース。彼女の名に泥を塗ってはならないと、トリプトルは必死に言い聞かせた。
「あぁ、でも。本当に帰りたくなど……ない」
切なそうに見つめる瞳の先には、アース。マスカットを見つめながら、嬉しそうに微笑んでいる。
嬉しいだろう、この惑星で出来た果物だ。自分の惑星の成長を見ているのが楽しいのだろう。
苦笑すると、トリプトルは気持ちを入れ替えることにした。
が、知らなかった。何故、アースがマスカットを見て微笑んでいたのか。
―――アースの髪の色に似てる。ほら、陽が当たるとそっくりだ。あぁ、アースの髪のほうがもっと綺麗だよ。オレは、好きだな。―――
トリプトルがそう言ってくれたので、思い出していた。綺麗な髪だと、好きな髪だと言ってくれた。
仏頂面のトロイに、2人は申し訳なさそうに項垂れる。狼狽しているリュミを尻目に、トロイは1つ咳をするとアースが差し出したマスカットを手に取った。
「事情は解ったが、もう少し早めに連絡をくれてもいいだろう」
「ご、ごめんなさいトロイ。その、本当に、ごめんなさい」
「アース、君らしくもない……。まぁ、終わったことは仕方がないか、以後気をつけてくれ。こちらも心配していたんだ」
「本当にごめんなさい」
「ま、まぁまぁ! こうして2人は無事だったし、植物達も元気になったし。美味しそうなマスカット、食べようよ」
不貞腐れそっぽを向いているトリプトルに軽く睨みを利かせてから、必死に謝罪を繰り返すアースに苦笑する。見かねてリュミが、マスカットを一粒もぎ取って口に放り込んだ。
「あ、こら!」
「わぁ、甘い。何コレ美味しい」
手を伸ばしたリュミを、トロイが睨みつける。頭を抱えながらトロイはじっと、マスカットを見た。
「アース。君なら気付くだろう? 何故こうも早くマスカットが生る、妙じゃないか。植物は時間をかけて成長する……そもそも、受粉せねば実とて生らない。鳥やら昆虫が花粉を飛ばすことで受粉するはずだろう、まだこの惑星にはそれらがいない。
大体、この近辺は大木などないのに、そこだけ木々が生い茂るのは妙な話じゃないか。
……調査に行こう、全員で」
トロイに言われ、アースも我に返る。確かに、そうだが心当たりがあったのだ。
トリプトルといられたので、嬉しかったアースは知らず、あの近辺にのみ力を注ぎすぎたのではないか。そのため、植物達が急成長してしまったのではないか……。
それを伝えようとしたが、口篭ったアースは小さく頷く事しか出来なかった。
「そこまで完璧に植物達が生長しているのならば、惑星スクルドは次の段階に移る。昆虫や動物達を移住させなければならない。報告も急ごう。さぁ、皆長期滞在の準備を」
「トロイは真面目だなぁ。もっとゆっくり行こうよ」
何気なく言ったリュミに、トロイは眩暈がする、とばかり額を押さえる。そんな様子に小さく笑ったアースは、隣のトリプトルの手を見た。手を、前みたいに繋いでよいものか。
だが、何か気が引けて手を繋ぐ事が出来ない。
「腹減った」
「お前はどうして緊張感がないんだ……」
大きく伸びをして、空腹を訴えるトリプトルに、ますますトロイは項垂れる。すっかりこの4人のまとめ役になってしまっている自分にも驚いたが、意外とそれが嫌ではない。なんとなく、この関係が楽しく思えていた。
親友と、恋心を抱いている美しい娘、そして自分を剣の師と慕う少年……。いつまでも、この4人でいられたら良いのにと思った。共に、いるつもりではあったが。惑星が成長し、任務を終えて主星へと戻っても共にいれば良いのだ。
トロイは、そうだと思って疑問すら抱いていなかった。
出来ればその頃には、アースと寄り添っていられれば良いなとは思ったが。
男が3人に女が1人、恐らく何処かで均衡は崩れるだろう。しかし、それでもこの4人ならば絆に繋がれて共に居られると、そう信じていた。
「トリプトル、と、とりあえずどうぞ!」
しんみりとそうトロイが思っていたところへ目の前で繰り広げられる、目を疑う行為。
アースが何を思ったのか首筋をトリプトルに突き出している、綺麗なうなじが見えた。赤面するリュミと、唖然とするトロイ、そして青褪めるトリプトル。
「トリプトル? お前は一体何をアースに教えたんだ?」
ボキ、とトロイが指を鳴らし、微笑して近寄ってくる。瞳は微塵も笑っていない、口角は上がっているが妙に冷え切った口調だ。慌ててトリプトルは首を横に振るが、不思議そうに小首傾げて見ているアースには何も言えなかった。
「親友として問おう。……アースに何を教えたんだと訊いているっ」
「暴力反対!」
蹴りを放ったトロイの一撃を、辛うじて受け止めたトリプトルは引き攣った笑顔で笑い返した。
唖然と見ているアースの前の前で繰り広げられる2人の攻防、リュミは興奮し、浮き足立つ。
何か、駄目だったのだろうか。
アースは、残念そうに首筋をそっと、撫でた。
数十分経過し、トロイの蹴りを腹部にまともに喰らい、頬を殴られたトリプトルはアースに手当てを受けながらしかめっ面をしている。口内が切れて、血の味で満たされていた。唾液を吐き出すと、ようやく血の味が薄まる。
「全く、手加減を知らない奴」
「ごめんね、トリプトル。私が何か失態を」
「あー、うん。……アース、おいで」
トロイとリュミは、忙しなく外で準備をしている。今、この場所には2人きりだ。
おいで、と言われ思わず微笑んだアースはそっと腫れているトリプトルの頬に手を添える。優しく擦って貰うと、痛みが和らぐ気がしてうっとりと瞳を閉じるトリプトル。
アースの手は、暖かい。柔らかくて、いつまでも触れていて欲しい。
「口付けを、しようかアース」
「口付け?」
アースを引き寄せたトリプトルは、細い腰を抱き締め軽く唇を重ねた。驚いて瞳を何度か瞬きしていたアースだが、そっと、閉じるとしがみ付く。
何度か音を立てて唇を重ねた、困惑気味にアースが視線を泳がす。思わず自分の胸にアースを押さえつけると、耳元で囁く。甘く、甘く。それでいて、はっきりと。
「アース。2人だけの秘密だ。いいね?」
「う、うん」
「この唇は、オレのもの。オレの唇は、アースのもの。だから、絶対に他の誰にも触れさせないで。オレも触れさせない。解る?」
「解ります」
再び、そっと口付ける。髪を撫でながら、外にトロイ達がいるのだがどうしても耐えられなかった。
2人きりでいたときは、ただ触れるだけで十分だったのだが近くに自分以外の誰かがいると、これは自分のモノだと主張したくなった。
「アース……これは、2人だけの秘密。2人でいると、落ち着くから。それを確かめる為に口付けよう」
2人でいると確かに落ち着くが、口付けすると妙に胸が高鳴るのは何故だろう。心音が煩いくらいに跳ね上がっているが、トリプトルは違うのだろうか。
何度か2人は唇を交わした、が、流石に長い時間は出来ない。最後にアースを抱き締めたトリプトルは、耳に口付けると自室へと歩いていく。
アースは、ぼうっと熱に浮かされた顔で、唇に指をあてた。
2人だけの、秘密……。
嬉しかった、特別な気がした。妙に身体が熱い、どうしてよいか解らず、アースは外へと飛び出すと両腕を空に掲げる。と、振り返ったトロイとリュミは見た。
周辺の木々が、突如として急成長していく過程を。
唖然と、それを見ていた。その中心には、頬を軽く染めて、うっとりと佇んでいるアース。
それが美しくて、儚くて瞳を逸らせない。光の粒子が彼女の周囲を取り囲んでいる気がした。
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