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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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イラストは2013年2月に描いたやつー(’’)

 その後も、度々アサギは遊びに来てくれた。勇者が来たのだからと、上等な部屋で持て成そうとしたのだが遠慮し、普通に娼婦の食堂で皆と一緒に食事を摂る。特に何があるわけでもなかったのだが、アサギは嬉しそうにパンとスープを戴くと世間話を始めた。

「それにしても、美味しいパンですね。焼き加減が絶妙ですし、塩味もほんのり。こんな美味しいパン、滅多に食べられないです」
「よかったわ、気に入ってもらえて。この子が作っているのよ」
「わぁ、とても素晴らしいです。あの、朝食用に買いたいのですが幾らあれば足りますか」

 がさごそと鞄から財布を取り出した勇者に、娼館の主人が顔色を変えて押し留めた。
 街を救った勇者から御代を戴くなどと、そんなことでもしたら市長から何か言われ営業停止にでもされそうだ。
 渋々パンを受け取ったアサギだが、帰宅間際にさり気無くガーベラの手に何かを握らせ、大きく一礼をして去っていく。
 予想はついたのだが、手を広げてみれば金貨が一枚、そこにあった。
 ガーベラは皆に説明し、折角だからとその金貨で看板を作ることにした。
 誰でも寄り易い様に、娼館ではなく、パン屋を強調した看板を作って貰ったのだ。
 実は、そんな看板がなくとも勇者が通っているらしい美味いパン屋があると巷で噂になっており、客は鰻上りになっていたのだが。
 変わった勇者だと、ガーベラは溜息を吐く。勇者など他に知らないが、勇者のイメージが狂ってしまった。
 窓から海を見つめ、一人小声で歌う。潮の香りと、波の音に瞳を閉じ、アサギを思い浮かべた。

「……私も、何か始めようかしら」

 ぼそ、っと誰に言うでもなく、呟く。真下の階でそれをエミィが聴いていたのだが、それはガーベラは知らない。
 思い立ったので、不意に身体を翻すと、自分の手持ちの衣服の中で華美ではなく、動き易そうなものを鞄に詰め込んでいく。最低限の持ち物を、いつでも旅立てるように準備してしまった。
 自分で言うのもなんだが、唐突に思い立ち勢いでよくココまで出来たと苦笑し、ガーベラは就寝する。
 ベッドにもぐりこむのだが、なかなか寝付けなかった。興奮して、眠れなかった。

 翌朝、目が覚めるとガーベラの意志は強まっており、用意された鞄を握り締め館の主人の部屋を訪れる。
 緊張した面持ちでノックし、一礼して入ると、困惑気味に主人は出迎えてくれた。
 不思議そうに見上げたガーベラに、主人は小さく頷くと棚にある金庫から何かを取り出しガーベラに手渡す。

「行くんだな、解っている。何か始めたいのだろう。これは今までの給料から積み立てておいた貯金だよ。持って行きなさい。戻って来るなら連絡をくれ、部屋はそのままにしておくしな」

 唖然と、ずっしり重い封筒を見た。本当に高額なのだが、それ以上にまさかそんな金を用意していてくれたとは、と主人の懐の大きさに思わず涙腺が緩む。何も言わず、黙って見送ってくれる主人に、震えながら再度一礼すると「お世話になりました」とだけ伝えて静かに部屋を立ち去った。
 エミィが、ニキが待っていた。怒った顔で2人は仁王立ちしていたのだが、すぐに頬を赤くし涙を溢すとガーベラに抱きつく。何も言わずとも解ってくれたようで、ガーベラは堪えていた涙が溢れてきた。
 静かに頷きあい、手を取り合って歩き出す。
 娼婦の仲間達も、涙ながらに見送ってくれた。こんなに温かい場所を離れる自分は愚かなのかもしれない、それでも、やってみたいことが出来た。
 ガーベラは唇を噛締め、娼館の敷地から足を踏み出すと、振り返って静かに、建物を見つめる。
 もし、ここの花壇に捨てられていなかったら今頃命はなかったかもしれない。
 見上げて、静かに深く頭を下げる。数分、下げたままで泣いた。
 自分の名を呼ぶ仲間達の声を背に、ガーベラは軽く手を振ると、微笑し港へと向かう。
 旅立ちだ。

 何処でもよかったので、最も早く出航する船に乗り込んだ。お嬢ではないが、確かに世間知らずであろう。知らない人と同室は流石に敬遠したかったので、一人部屋で最も安い場所を予約した。
 極力生活費を控えて、頑張ろうと腹を括る。
 初めての船だ、世界を知らないガーベラは、この船が何処へ行くかも知らないので地図を購入してみた。
 行き先を聞き、その街で生きていこうと決意する。
 何をして良いのか解らず、潮風に当たっていると金持ち風の男が近づいてきた。
 世間話を軽くし、食事に誘われたのだが遠慮する。自分が娼婦であると知らないだろうが、娼館に来る男達と同じ様な瞳をしていた。高い食事に酒を驕り、自室に連れ込んで身体を奪うのが目的だろうと直感した。
 以後も美しいガーベラは一目を惹き、何度も声をかけられたので、気持ちが落ち着かず軽く唇を尖らせ自室に籠もった。仕方なく、そこで歌った。
 甲板ではフルートを手にした青年が演奏をしていた、満足すると聴いていた人々は金を払う。
 ガーベラもそれを目撃していれば、甲板で歌うことを覚えたのだが、そういう見世物があることを理解していなかった。
 1週間程して、港に到着した船からガーベラは期待に胸を膨らませ降りる。
 着いた先は、港街カーツよりも小ぶりな街だった。特に際立って珍しいものがなさそうだった、直ぐに宿を探し、滞在を決め込む。小さい部屋だが眠る事が出来れば十分だ、初めて出来た自分だけの居場所に、思わず鼻を膨らますとベッドに転がる。
 自分を誰もが知らない街。そっと喉に手をあてて、声を発した。
 勢いよく起き上がると、鞄から衣装を取り出しクローゼットに仕舞って行く。寛いでいる暇はない、仕事を探さねばならない。観光に来たわけではないのだから。
 持って来たルクルーゼの竪琴をそっと胸に抱き、お守りの様に成功を祈るとガーベラは瞳を輝かせて部屋を後にする。
 背筋を伸ばし、美しいと誉められた歩き方で街中を彷徨った。小奇麗で洒落た店を見つけては入店し、歌に自信があるので雇ってもらえないかと交渉をする。
 甘く見ていた、すでに6件回ったのだが全て断られたのだ。
 実は、直ぐに見つかると思っていたガーベラは予測していなかった事態に、心が大きく揺れる。
 持て囃され、何もかもが保障されていたあの場所とは違うのだ。コネ、というものがない。
 初日は、不発に終わった。歩き疲れ、食事も摂らずにベッドに転がると眠りにつく。
 翌朝は、宿の朝食を摂って出掛けた。街の地図を頼りに、飲食店を歩き回った。
 ガーベラの容姿を見て、他の店が良いんじゃないかとニヤついた笑顔を浮かべる男達が殆んどだった。歌声ではなく、身体で稼げといいたいのだろう。屈辱に唇を噛締めるが、必死に堪えて頭を下げた。
 歌声を聴いてもらえば解ってもらえる、と思い、午後からは歌ったのだがすぐに止めさせられたり、聴いてなかったり。
 散々である。
 3日、4日、5日……。疲労と上手くいかない焦りから、やる気が減少してしまったガーベラは、昼間際に起床するようになってしまった。小さな欠伸で起き、大きく伸びをしてベッドから這い出す。
 描いていたことが、既に崩壊していた。
 そもそも、時間に厳しかったガーベラは、娼館では寝坊などしたことがなかった。それほど、1人での生活は怠惰になるものだ。恐ろしい。
 日々、生気を失って行く様なガーベラに見かねた宿の主人がうちで働くかい、と声をかけてくれた。
 忙しい午前中に、部屋を掃除するという仕事だ。他の時間は好きにして良いというので、瞳を輝かせガーベラはありがたくその申し出を受ける。華美な見た目とは裏腹に、正直で真っ直ぐなガーベラを、宿の主人は気に入ったのだ。
 給料は出ないが、その分、宿代が安くなった。それに、余った食材でまかない食を作ってくれたので食費も浮いた。
 忙しくはなったが、1人ではないという実感が得られ、ガーベラは笑顔で午後から、仕事を探す。
 そうだ、午前中はあの宿を手伝い、夜に飲食店で歌うことにしよう。それならば昼間の休息も取ることが出来る、仮眠も出来る……。新たな目標が出来たので、笑みが零れていた。
 やはり今日も断られたが、めげずに次の店へと出向く。
 次の店でも断られたのだが、入口を出た瞬間に声をかけられた。

「おぉい、待ってくれ! 仕事の依頼をさせてくれないか」

 その居酒屋の、隅の方で飲んでいた男だった。職業柄顔を覚えるのが得意だったので、ガーベラは軽く会釈をする。
 静かに立っていると、男は苦笑し、直ぐ傍の建物を指した。

「話が聴こえてきてな、今日限りだが歌ってくれないかい? 歌が好きな妹が風邪でな。代金も高いこと払えねえがどうだろう?」

 三十代前半の男だろうか、小太り気味だが、顔は優しそうで、照れたような笑みを浮かべている。
 まぁ、今日だけならとガーベラは快く了承した。ありがたい! と大喜びの男に、優しく頷くと自分の歌声が求められたことにガーベラこそ感謝した。
 男について、部屋に向かう。狭く汚い廊下を歩いて、3階へと進んだ。
 ドアが開き、失礼しますと足を踏み入れるガーベラは、眉を顰める。
 ベッドが1つ、妹など何処にもいない。散らかっている部屋に、他に誰がいるというのか。
 背後で男が低く笑う声が聴こえた、嵌められたと気付いたが、軽々とベッドに連れて行かれる。
 暴れたが、そのまま押し倒された。圧し掛かってきた男を睨み付けると、酒臭い息が吹きかけられる。

「あんた、カーツの人気娼婦だろ、見たことあるんだ。歌声っつーのは、こっちのことなんだろ? あんな店で客引きするよか、路上で太腿でも露にしたほうが早いぜ?」
「違います、私は身体は売りません。声を売るのです」
「だからぁ、嬌声のことだろう? 大丈夫、娼館の金額はだせねぇが、そこらの情婦に払うくらいの金なら払ってやるよ」
「なっ……!」

 怒りに身体を震わせても、無意味な事だった。
 娼館に来る男達は金もあり、ある程度の教養もあったのでそこまで手荒なことはしなかった。
 だが、この男はただ、乱暴にガーベラを抱くだけだ。悲鳴を上げても誰も助けに来ない、娼館であったならば非常事態に雇っている屈強な男達が助けに来てくれる。
 何日も風呂に入っていないのではないか、というほど汗臭い男の身体。無理やり咥えさせられ思い切り腰を振られ、恐怖に怯えながらガーベラは悲鳴を上げる。
 仕事だと割り切っていた数週間前とは違う、今ガーベラは娼婦ではない。ただの女だ。これは仕事ではない、強姦だ。
 二時間ほどして、金を渡されたガーベラは部屋から追い出された。
 震える足で、その場に蹲るがふと、視線を感じて顔を上げる。薄汚い男達が自分を見ている、喉の奥で悲鳴を上げると、ガーベラは一目散に逃げ出した。髪を振り乱して、必死に走った。
 宿に戻ると、涙を流し、それでも嗚咽を堪えて歯を食いしばり身体を洗う。
 まさか、この街に自分を知っている男がいただなんて。そして、運悪くそれが下衆男だった……。
 ガーベラは、皮膚が赤くなるまで身体を洗い続けた。吐き気が込み上げてきた。
 現実は、甘くなかったのだ。
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