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2・10 123回 ⇒リュウ復帰 + アサギ食べられる
2・17 124回 ⇒ミラボー倒す
2・24 125回 ⇒クレロから話をきいて、地球に帰る
とにかく、間に合わない(’’)
イラストは、201302に描いたララ。※ドリランド
ココアをこぼしたので、紙を切って貼るという悲惨な状態に(’’)
やはりアナログは危険でござるな。
※零すな。
どういうことなのか、殺したはずの小国の姫は生きていたし、破壊したはずの剣もトビィの手にある。
分けがわからず、オジロンは絶叫する。発狂しそうだった、身体は震えるばかりで動かない。
「殺しそこなったんだろうな、生きているから。オレを殺せるほど優秀な奴じゃないだろ、お前」
「死んだ、確かに死んだ、殺したんだ! 剣も破壊した!」
「幻覚でも見たんだろう、こうして剣は無事だ、オレも無事だ。……さぁ、昔話はここで終わらせる。生憎オレはお前の様に甘くはない。心臓を切り開いて地面に捨ててやろう、足で踏み潰してやろう。
ロザリンドの、ジュリエッタの仇! 取らせて貰うっ」
「悪かったぁあ!」
命乞いをしたオジロンだが、トビィは容赦しなかった。鼻水と涙で汚れた顔を蔑んだ瞳で見つめると一気に剣を横に振る、軽々と首が飛んだ。砂に埋もれて首は転がる、そのままトビィは心臓を一突きし何度か剣を左右に動かした。
「腑に落ちない点はあるが。ロザリンドがお前ごときに殺られるわけがない……」
真実は、ビアンカと対峙し相撃ちだったのだが、そこまでトビィは知らない。
引き抜いた剣の血を、オジロンの衣服で拭うとトビィはアサギの名を呼びながら歩き出す。
と、上空に気配を感じ見上げ、声をかけた。
「クレシダか!」
「主、よう御座いました。ご無事で」
砂埃から巨体が現れる、無傷のクレシダが降りて来て会釈する。直様背に乗り込むと、クレシダは上空に浮上した。
「何事ですか。寝ていましたらば騒音で起きましたが」
「寝ていたのか。……状況が掴めないが、アサギが心配だ。アサギを捜す」
「御意」
中庭で眠っていたクレシダは、城が崩壊する音で目が覚めた。自身にも瓦礫が降りかかってきたのだが、慌てて上空へと非難した為無事だった。砂埃で周囲は包まれ、トビィを捜そうにもどうにもならず、ただ上空を旋回していたのだ。
何度か見知らぬ魔物に襲われたが、相手ではない。ただ、前方に何か強大なモノがいることだけは解ったので近寄らなかった。
「デズとオフィは無事だろうか」
「大丈夫でしょう、攻撃を受けているのは城が中心です。デズ達は離れた海岸におります故」
アサギの名を叫びながら、トビィはクレシダと共に上空を旋回した。時折派手な音が聴こえてくるが四方から届く気がする。酷く、不気味だった。
低く呻きながら倒れているホーチミンを発見したのは、サイゴンだった。腹部に穴が空いており、息も絶え絶えに瓦礫の下敷きになっていた。顔と腕が見えたので、発見できたのだ。
「ミン! しっかりしろ! 回復魔法は、回復魔法はどうした!?」
瓦礫を蹴り上げ、ホーチミンを救出すると青褪めながら必死に声をかける。姿を見て、嬉しそうにホーチミンは微笑む。唇は真っ青で体温はすでに冷たくなっていた。
回復魔法を唱えられるほど、力は残っていなかった。
先程、奇襲に会ってから弾き飛ばされたホーチミンは、運悪く倒れていた柱に身体が突き刺さったのだ。
それでも、動かねばと必死で身体を動かし、魔法で柱を崩壊させてから、引き抜いた。
思った以上に体力の消耗は激しく、回復の魔法を使おうとしたのだが、柱を壊した衝撃で他の壁が倒れてきたのである。それで、下敷きになってしまった。
サイゴンも無傷ではない、自慢の右腕は骨折していた。弾き飛ばされ、身体を受け止めようとした際に利き腕で受身を取ったのが間違いだった。左腕でも大剣を振るうことは出来たが、上手く得意の技が出せない。
アレクを、アサギを、トビィを、そして何より幼馴染のホーチミンを捜さねばと躍起になっていた。自分が何者かであるかも解らないような虚ろな瞳で飛びかかってくる、数時間前までは同僚だった魔族達を切り捨てながら、捜した。声を荒げていたので、サイゴンの居場所は直ぐに察知され、溢れるように魔族達が押し寄せた。
これではまるで、意志を持たず肉だけ喰らい続けるゾンビではないか。
「いま……かいふくまほう、かけてあげる。あさぎちゃん、たすけに、いって……つたえて。とびぃちゃんに、にたおとこのひと、みても、ちかよらないで、って」
サイゴンの回復を試みるホーチミンに、怒鳴りつける。瀕死のホーチミンの頬に触れ、震えながら首を横に振った。
「い、行けない……ミンを置いては、行けない」
「いって。やくそく。……だいじょうぶ、よ。すぐに、おいつく」
「喋るな、ミン! 解ったから、解ったから! 待ってろ、今直ぐに救援を呼ぶからな、アサギ様やハイ様なら助けられるはずだ!」
「……ごめんねぇ、かのじょ、つくらせなく、て。おんなのこに、うまれたかった、な」
「そんなことはどうでもいいだろう! 解ったから、もう口を開くなっ」
けれども、ホーチミンは語ることをやめなかった。最早、自分の命が尽きようとしているのを知っていたからだ。言いたいことは、伝えたかった。瞳に光はなく、サイゴンの姿すら見えない。話す事など、不可能に近かった。
「めんどうな、おさななじみ、なんて、むし、してくれて、よかった、の」
「面倒だなんて思ってない、無視なんて出来るわけないだろう!? ……大事な幼馴染だ、それに、大事な……大事な奴なんだ。恋かどうかわからないけれど、それでも、俺はミンが」
好きだったんだ。と、唇が動いた。悔しそうに唇を噛み、震える身体でホーチミンを抱き締めた。
聴こえてはいないだろう、途中で息絶えていた。
「ご、ごめんな。もっと、俺が意地を張らずに優しくしてやれば。男同士だったから、どうしてよいのか解らなくて。居て辛かったら逃げてるさ。彼女作らなかったのは……ミン以上に可愛い子がいなかったからだよ」
告げても、ホーチミンには聴こえない。サイゴンはそれでもホーチミンの身体を抱えると、泣きながら歩き出す。
「待ってろ、ミン。アサギ様は救える、きっと救ってくれる。あの子は、何でも出来るんだ。さぁ、行こう。一緒に、行こう」
最愛の人を目の前で失い、後悔の念が押し寄せてどこかサイゴンも狂っていたのだろう。ぶつぶつとホーチミンに語りかけながら、死体を大事そうに抱えて歩いた。両腕で抱きながら歩いていたので、自慢の大剣は持っておらず。ただ、優しい眼差しで歩き回った。何処からか、弓が飛んで来た。背に足に突き刺さり、動きが徐々に鈍くなり、ゆっくりと倒れる。それでも、ホーチミンの亡骸だけは護る様に必死で腕に抱えた。
「行こう、ミン。大丈夫、アサギ様なら……」
サイゴンの周囲に魔族達が集まってきていた、スリザ直属の部下だが、武器を持っていないと知ると一斉に剣を構える。そのまま、突き刺した。
カン。
硬い音がした、見ればサイゴンに剣が刺さっていない。不思議そうに魔族達は顔を見合わせると、再度剣を突き刺そうとした。しかし、同じ様に弾かれる。
「もう、事切れている……。無意味な事はしてはいけない」
何時の間に来たのか、アサギが立っていた。魔族達には見慣れた武器を腕に抱えている。スリザの剣に、アイセルの手甲だ。顔を見合わせ、アサギに向かって剣を構えるが皆力が抜けたように静かに地面に倒れ込んだ。
寝息が聞こえる、その空間でアサギはようやく寄り添って死んでいるサイゴンとホーチミンに近寄る。
「サイゴン様、ホーチミン様……間に合わなかった。ごめんなさい……。運命の、恋人達」
ぺたん、と座り込み2人の亡骸にそっと触れるとその姿が掻き消える。預かります、とだけ告げると溢れていた涙を拭い、険しい面持ちで周囲の様子を窺った。気になる方向へ足を速めると、サイゴンの大剣とホーチミンの杖を発見する。それらを抱え、アサギは飛んだ。城から離れ、砂埃は舞っているが木々は倒れていない森の中、それぞれの武器をそっと横たえる。
手をふわり、と動かせば、その空間が何かに護られているように青白く光り輝いた。地面に手をつける、小さく呟くと地中から棘が生え、さらにそこを護るように囲い始める。瞳を閉じ、念じ続ければ、棘は赤色の花を咲かせた。
「起きろ、アサギ。お前でないと救えない……。間に合わない、私では”遅すぎる”」
小さく呟くと、アサギは深く頭を下げ棘の墓地を後にした。
途中、先程まで眠っていた魔族達に出会ったが正気に戻っていたので攻撃される事はなく。ただアサギは自分が来た方向を指し示し「逃げなさい、遠くへ」とだけ、伝えた。魔族達は深く礼をすると、皆で手を取り合って逃亡する。
島、アレクセイ。アレクと通信していたナスタチュームは、金きり声を上げた。転移しようとしたのだが、出来ないのだ。
魔界イヴァンにある、アレクの室内が破壊され、転送陣も当然消えたからだった。本来ならば知らずに転送陣に足を踏み入れれば、異空間に弾き飛ばされ出られないのだが、ナスタチュームが気付いた。寸でのところで踏み止まった為、捕らわれなかったのだ。
何かがおかしい……、小さく漏らす。サーラもオークスも気付かなかったのだが、顔面蒼白で自室に戻ったナスタチュームは杞憂であれば良いと、アレクと更新を試みたが、直感通り反応はない。
舌打ちし、ナスタチュームが自身の杖を床に突き立てて怒鳴る。
「これは……非常に危険です。時間はかかりますが、飛行しましょう!」
それしか方法はない。ナスタチューム、オークス、サーラの3人は島を飛び立った。不安そうに残った魔族達は見送る。最悪の事態が起きても良いように、島も厳戒態勢に入った。幼いラキも、警備の為武器を手にした。
風が、島中の植物を吹き飛ばす勢いで、吹き荒れた。
そんな魔界が混沌に包まれている中、勇者達の船はようやく到着したのだ。初めて皆、魔界を見た。喉を鳴らして唾を飲み込み、妙に騒がしい魔界を見つめる。
何処から上陸したものか、と思案していたが、砂浜を見つけたので近づき、座礁する寸前で小船を下ろして勇者達はそれで上陸を試みる。
「にしても、妙だな。この船見えてないのか? ありがたいが攻撃が何故こない?」
魔界の状況を知らないライアンは、不審がってそう呟くが、乗り込むより他ない。皆で何槽かに分かれ、上陸すると船はゆっくりと離れた場所で待機した。食料等限界がくるまで浮遊はするが、命が優先な為、制限時間がある。
急がねばならない。緊張した面持ちで皆は砂浜から上陸すると、小船の縄を近くの岩や木に縛りつけ固定した。
魔物の鳴き声が遠くから聞こえる、いつでも斬りかかれる様に心し、固まって行動する。
何しろ地形が全く分からない、地図などあるわけがない。砂浜からすぐ森になった、薄暗い森を進んでいくと地響きがする。恐怖で神経が麻痺しそうだ、勇者達は震えながらも進む。仲間が居るから、友達がいるから、辛うじて耐えられた。何よりここに、アサギがいる筈だった。
ふと、上空を何かが横切る。小さく叫び、アリナが手を振ってみるが生憎気がつかれない。
「トビィの竜だろ、あれ! 黒いやつ!」
「あ、あぁ! そうだ、きっとそうだ! トビィだ!」
アリナとサマルトが騒ぎ出し、皆が唖然と上空を見たが、デズデモーナは知る由もなく通り過ぎる。気付いていたとしても、トビィ以外の人間の言葉に耳を傾けなかっただろう。木々の間から見えた巨体に、アリナが興奮気味に走り出していた。久し振りに敵友と出会えるのだ、こんなときだからこそ、胸が躍った。
森を抜け、一本の道が目の前に広がる。風が左から吹いた、潮風だ。迷うことなく、アリナは右へと進んだ。
慌てて追いかける一行、走りやすい道ではあるが、アリナは速過ぎる。
「にしても、おかしくないか? なんにも居ないんだが?」
だが地響きは止まらない、直下型地震じゃないかと思うほどに足元は揺れる。
「そんなことないわよ……みんな、構えて! お客さんよ!」
ライアンの言葉に皮肉めいて笑ったマダーニは、大声で叫んだ。率先して魔法を放つ。
上空から喚きながら舞い降りてきた飛行型の魔物に、炎を喰らわせた。先程アサギが襲われていた魔物だ。強くはないが、数が多い。
「力を温存して戦え、無理はしなくて良い! そして離れるな、道から逸れるな!」
ライアンが剣を振り回しながら叫ぶと、皆が一斉に返事をした。自信のあるアリナとマダーニ、ライアンが先陣を切る。後方をブジャタ、ミシア、ムーンが固めながら、護られている勇者たちも懸命に魔法で応戦した。
「マ」
舞い降りてきた魔物を一突きしたトモハルは、何故かふと、道から逸れ様と森へと進む。が、ミノルが慌てて腕を掴んだ。我に返ったトモハルは苦笑すると、怪訝そうなミノルに軽く謝る。引き寄せられるように森へと進んだのは、何か、行かなければ行けないような気がしたからだ。
トモハルは知らなかった、その先に、マビルが居た事を。マビルは知らなかった、直ぐ傍に過去、想いを秘めていた相手が居た事を。
「魔界らしいじゃーん! そぉいやっ!」
明らかに愉しんでいるアリナを溜息混じりに見つめ、マダーニは軽く額を押さえた。そんな余裕があるとは、羨ましい限りである。こちらは湧いてくる魔物に、息が上がっているというのに。
ようやく最後の一羽を倒したので、皆は集合し無事を確認し合った。全員居る。多少の傷は負ったが、魔法で回復出来る程度だ、問題はない。
息を整えてから、再び出発する。
「ねぇ、ボクら以外にも魔王を倒そうとしてるやつがいるの? なんか城が崩壊してない?」
「……なんてことなの」
勇者達は見た、唖然と見上げるしかなかった。この辺りから急に砂埃が舞っていて、視界が悪くなった。それでも浮かぶ巨大な城は半分崩壊しており、悲鳴が聴こえ始める。
左前方に、広範囲で攻撃を放っている”何か”がいるようだった、何か判らない上に、その圧倒的破壊力に皆足が竦む。流石にアリナも軽口叩けず、息を飲むしかない。
「あれは味方なのかしら」
ようやくマダーニが絞り出した声に、ライアンが反応するが首を横に振る。
「違うだろうな」
「よねぇ」
どう戦えば良いのやら、進む一行の前から魔族達が押し寄せてくる。慌てて構えるが皆必死の形相で突き進んでくるだけで、攻撃などしてこなかった。邪魔だと言う様に、弾き飛ばして一目散に逃げていく。
慌てて道の端に固まった一行は、いよいよ顔を見合わせて引き攣った笑みを浮かべるしかない。
「ま、魔族達が逃げているってことは……み、味方じゃないかしらぁ、あれ?」
「……いや、絶対違うだろう」
苦し紛れにマダーニが再度懇願するように口にしたが、あっさりとライアンが斬り捨てた。
恐る恐る、一行は魔族達の勘に触らないように、静かに移動をする。
「何やってるんだ人間共! 死にたいのか!?」
「ひ、ひぇ!?」
「港へ急げ、船が出港しなくなるぞ、命が惜しかったらそっちへ行くな!」
ご丁寧にも、身を案じて話しかけてきた魔族が居た。話しかけられたミノルは口をパクパクさせながら、隣に居たトモハルのマントを引っ張る。マダーニが止めたが、トモハルは震えながら口を開いた。
「いえ、あの、状況を知らなくて。その、一体何が?」
「魔王ミラボーがやりやがった! アレク様のご好意でここに滞在していた癖に、寝返ったんだ! 城は見ての通り崩壊よ、噂ではアレク様にアサギ様、ハイ様達も吹き飛んだとか」
「アサギ様!?」
魔族が人間に話しかけてくるだけで驚きだったが、アサギが様付けで呼ばれたことに衝撃を覚えた一行は、全員で声を荒げる。その声に驚いたのは魔族のほうだった。
「な、なんだよ、アサギ様は知ってるのかよ……。ミラボーの魂胆は恐らく、この世界の掌握だろうな。逃げても無理かも知れねぇが、一旦は退散だ! あばよっ」
捲くし立てて走り去った魔族に、思わずトモハルは一礼する。つられてミノルも一礼した。
「な、何がどうなってるんだ……」
「っていうか、吹き飛んだって何だよ! どうするんだよっ」
「諦めるな、噂だ噂。行くぞっ」
混乱する一行にライアンが怒鳴る、自身も焦ってはいたが、ここで誰かが仕切らなければ進めない。震える足に爪を立て、寄り添ったマダーニに励まされライアンは歯を食いしばった。
のだが、立ち止まると乾いた笑い声を出す。後方から来た皆が、ライアンの背から顔を覗かせるとそこには一人の人間が立っていた。美しい艶やかな黒髪、深紅の瞳。かなり見事なプロポーションの美女。
エーアである。妖艶な笑みを讃えて、そこに立ちはだかっていた。
「人間、だ」
呟いたケンイチに、にこり、とエーアが微笑む。思わず顔を赤らめたケンイチの足を、ユキがすかさず踏みつける。
「見たことがあるわ。貴方達、あのお嬢ちゃんの仲間ね? ……面倒、ミラボー様の手を煩わせるならば廃除する」
ミラボーの水晶球で、勇者達を見たことがあったエーアは、直様火炎の魔法を放った。悲鳴を上げる勇者達に、後方から魔法組みが結界を張る。アリナが飛び出し、飛躍して蹴りを放つが俊敏に避けた。
「やるじゃん、綺麗なおねえちゃん」
「ふふ、有り難う。では、お礼にお返しを」
杖を地面に突き立て、邪悪に笑ったエーアは掌を何度も交互に打ち出した。杖から炎が迸る、何個も玉となってアリナに襲い掛かる。舌打ちし、アリナは避けながら近づこうとするが数が多過ぎる。後退するしかなかった。
「酷く強力な魔法使いね……。あちらの限界を待つべきかしら」
「悠長な事、言っていられませんぞぃ」
結界にも限度がある、額に汗を浮かべながらブジャタが苦笑した。飛んでくる魔法が想像以上に重いのだ、魔力の消耗も著しい。反してエーアは疲労していないように思える。
「剣よ、力を貸してくれないかな。そろそろ本当に必要なんだ」
小さく呟いたトモハルは、ミノルが止めるのも聞かずに走り出す。舌打ちし、アリナとライアンも飛び出したがエーアは不敵に微笑むとトモハル目掛けて火炎を投げつける。
掛け声と共にトモハルはそれを剣で叩き落した、地面に火炎が転がり落ち、跳ねる。唖然とそれを見たエーアは、憎々しげに睨み付けると再び火炎を放つ。だが、トモハルは器用にそれも弾き返した。それこそ、野球のバットで球を打ち返すように。
「あんなこと、出来るんだ」
呟いたケンイチは、意を決して剣を引き抜くと加勢すべく走り出す。剣が震え、熱を帯びる。飛んで来た火炎に精一杯剣を振り下ろすと、剣から発生した熱がその火炎を取り込んだ。霊剣の効力だった。
息を切らせて肩を並べたケンイチとトモハルは互いに頷き合うと、エーアに近寄っていく。ムーンが援護し、火炎に氷柱を放って相殺した。じわじわと距離を縮めていくと、流石にエーアも気分悪そうに顔を歪める。
「普通の剣ではないからな、あれ。流石だ」
ライアンが頼もしそうに呟くと、自身の剣を情けなく見つめる。生憎、変哲もない剣だった。火炎を切るなど、出来ない。
「人間の分際で忌々しい!」
余裕がなくなり、声を荒げたエーアにトモハルが叫ぶ。
「貴女だって人間だろう! もう、やめるんだ。俺は女性である貴女を斬れないっ」
こんな時に何を言い出した。と、皆がトモハルを睨みつける。エーアも憤慨したのだろう、見くびられたと思ったのだろう。金切り声を上げると杖を翳して全力で詠唱を始めた。
「巡る鼓動、照らす紅き火、闇夜を切り裂き、灼熱の炎を絶える事無く。我の敵は目の前に、奈落の業火を呼び起こせ!全てを灰に、跡形もなく燃え尽くせっ!」
「キッター! 火炎呪文最強系っ」
いつぞやの洞窟でマダーニが放った魔法だ、だが、魔力が格段上なのでエーアのほうが破壊力がある。火柱が上がった、竜巻の如く突き進む。
慌てて皆が避ける、安堵したのも束の間、突き進んだ火柱が戻ってきた。悲鳴を上げて再び避けるが、それは延々と続く。ころころと笑いながら余裕を取り戻したエーアは、再度詠唱した。火柱が、二本。意志を持つような動きに逃げ惑うしかなく、エーアに近づこうにも火柱が邪魔をして来る。
本来エーアにもここまでの魔力はなかったのだが、ロシファを捕らえた際に数滴、血液を口に含んだ。そのため魔力が格段に上がっていたのだ。狼狽しながら逃げ惑う一行を、愉快そうに見つめると優雅に微笑む。完全に勝ったと、思い込んだ。
「たかが人間風情に、ミラボー様の邪魔立てなど出来るわけがない」
「だから、お姉さんも人間でしょーっ。綺麗なお姉さんは好きですかーっ」
流石に極太の火柱は斬れない、弾き返せない。悲鳴を上げてトモハルは必死に剣を振るが、剣はぼんやりと光ったままだ。まだ、意志を汲み取ってくれない。
「この剣、どうしたら本格的に発動するんだよ!?」
その頃、追ってきたアーサー達一行も魔界に到着していた。勇者達とはまた違った海岸に到着し、どうやって上陸しようかと悩んでいたところへ、たまたま通りかかったオフィーリアが顔を覗かせる。
「不審なものがいたら、攻撃」
水面から顔を出し、大きな口を開けて船目掛けて水を噴き出そうとしたのだが、大きな瞳をぱちぱちとさせると止めた。
首を傾げる、悲鳴を上げる甲板の一同に近づくと声をかける。今にも攻撃してきそうな得体の知れない竜に、ココとリンが飛びかかろうとしたが懸命にアーサーが押し留めた。
「君達は主の敵? 味方? 不審?」
「主、とはどなたでしょうか? 私はアーサー、チュザーレの賢者ですが」
「主はトビィっていうの」
トビィ!? と叫んだアーサーに、大きくオフィーリアは頷く、思わず駆け寄ったアーサーは手を伸ばした。
「トビィとは仲間です! お手数ですが、そこへ連れて行って貰えませんか」
「仲間なんだ、じゃあ、攻撃しない。連れて行ってあげたいけど、海から出られないんだよね。干からびちゃうと生きていけないの」
「な、ならばせめてその魔界とやらに運んでもらえませんか」
「それくらいなら、いいよ~」
目の前で繰り広げられている竜との会話に、皆唖然と大口を開く。流石は賢者アーサー、と息を飲んだ。
オフィーリアの行為により、その背に飛び移ったアーサー達は、近くの崖へと飛び移り、礼を言うとそのまま突き進む。
「全くトビィめ、竜と知り合いだなんて聞いていませんよ!」
「トビィって誰だっけ?」
「いけ好かない男の名です! 妙にアサギと親しい男です!」
それはメアリにとって大変刺激的な光景だった、刺激的……を通り越していた。
本来ならばメアリはその場には居てはならない人物だった、まだ、未熟な為だ。
だが、無理言ってついてきてしまった。彼女を守護する為に本来の力量を発揮できない者が出てくるであろうことが容易に推測された為、魔王討伐部隊からは外されていたのだ。
喧騒の中、自分の身は自分で護る為に懸命に集中していたメアリ。
だが、例えば狼の群れに放り投げられた子羊の如く。スズメバチの巣に単身で挑んだ、ミツバチの如く。ピラニアしかいない川に落下した子牛のごとく。
王宮のお抱え優秀賢者2人に、自他共に認める才能の剣士、拳闘士、神官が一人ずつ、と、ひよっこ魔術師。
メアリのすべき事は、背負っている勇者の剣を勇者に渡す事だった。
重すぎる剣は、運搬だけで体力消耗。
しかし、魔法を上手く発動できない魔術師メアリは戦闘において役に立たないので、荷物運び役に抜擢されたわけであり。本来ならば屈強な男戦士がその役目だったのだが、行きたいと駄々をこねたので仕方なく……という現状である。
「伏せろ、メアリ!」
「キャー!」
勇者は、魔界へ出向いた後だった。追いかけて、竜の助けを得て魔界に上陸した。
のは良いのだが、上陸したらば、すでに魔王戦が始まっているようで。いや、実際は違うのだがまさか魔王同士で戦っているとは露にも思わず。走って数分、魔族が魔物達が、行く手を塞いでいた。
しかし、状況を掴めないが魔族側も混乱気味な様子で、人間達に目もくれずに何処かへ去っていく者達がほとんどだったのだ。訝しげにそれらを素通りしつつ、魔族とは違い向かってくる魔物を斬り捨てつつ。
魔王の城は嫌でも目立つ、前方に聳え立つそれである。と言っても、半分崩壊しており廃墟のようだが。
置いてあった馬車を盗み、それに乗り込むと一気に城を目指し駆け巡った。魔族が乗ってきて、乗り捨てたらしいが馬車と言っても引いていたのは馬ではなく魔物なのだが、一か八かである。とりあえず鞭を打てば走り出したので、アーサーは引き攣った顔で懸命に走らせた。
その僅かな時間がメアリの休息で、必死に布に包まれた勇者の剣を抱き締める。
勇者とは、どんな人物なのか。賢者アーサー曰く、幼い少年なのだそうだ。
メアリよりも年下だと聞き、そんな少年が必死で戦っているのならば自分も出来るはずだと思い込んでの参戦。
胸が高鳴る、速まる。魔族など、遠目でしか見たことがなく。使える呪文は、簡単な氷の魔法のみ。
「メアリ、大丈夫? 落ち着いてね」
「ありがとう、セーラ。大丈夫」
心配そうに神官セーラが覗き込んできた、引き攣った笑みを浮かべるメアリは震える声でそう返答する。
大丈夫ではないが、大丈夫と返事するより他ない。心臓は今にも壊れそうだし、汗が吹き出て止まらない。
遠くで爆音が聞こえる、小さく悲鳴を上げてメアリは縮こまっていた。
「敵と接触! 戦闘準備!」
アーサーが怒鳴った、仲間達が力強い雄叫びを上げる中、メアリは再び剣を紐で身体にくくりつける。
馬車から転がるように飛び出れば、人間が戦っていた。
相手は相当な魔法使いである様子で、見たこともないような破壊力のある魔法を繰り出しそこらの森を崩壊させている。火柱が意志を持って蠢いていた、高度な魔法使いだろう。
見たことがない……息を飲んで、衝撃的な光景を瞳に入れたが首を傾げる。 小さく悲鳴を上げた。
「危ない!」
見覚えのある火炎の魔法、黒煙の中央に立つ人物に鳥肌が立つ。名を呼ぼうとした瞬間に、誰かに怒鳴られ気付けば地面に倒れこんでいた。
「っ、アーサーの知り合い?」
黒髪の少年だった。土で顔がすすけていたが、がっしりとした身体つきの大人びた少年がメアリに飛んで来た木の破片を振り払ってくれたらしい。
唖然と、その少年を見上げるメアリ。汚れていてもマントをはためかせ、眉間に皺を寄せて立ち上がり剣を構えるその姿。
妙に眩しく感じられ、頼もしく感じられ。魅入った。不謹慎だが。
「メアリ、剣! 剣をダイキに渡してください! 勇者だから、勇者だから!」
「え、えぇ!?」
アーサーが防御壁を張りながら焦燥感に駆られた、裏返った声で叫んだので、ようやくメアリの意識が戻る。
見知らぬ土地で、見覚えのある魔法使いの呪文の威力を目の当たりにし、それから助けてもらった少年が……勇者。
アーサーから聞いている、勇者の名は”ダイキ”。メアリより年下の12歳、けれども大人びて身長もメアリより断然高い。
「あ、あの、ゆ、勇者ダイキ!?」
「え、あ、うん……一応」
金髪の少女に腕を捕まれ、叫ばれたのでダイキは尻込みした。
「こ、これ、勇者の剣なの! あ、あなたのなの!」
布をはらり、とはだけて剣を見せる、一瞬たじろぎダイキは息を飲む。
そっと、手が伸びる。
剣を抱えていたメアリの身体が一瞬大きく震える、まるで、正面から抱き締められるような錯覚に陥った。
「……間に合った、有難う。これで戦える」
力強く、剣を握るダイキ。息を押し殺し、アーサー達も見守った。もし、ダイキが勇者でなければ炎上している。
見上げたメアリが見たものは、柔らかに微笑み髪をかき上げ剣を掲げたダイキの姿だった。
アーサー達も胸を撫で下ろし、間違いではなかったと笑みを浮かべると各々ダイキの傍に駆け寄った。そして、不可解な音を聞いたのだ。
ときゅん……はにかんだような笑顔に、つられて笑うしかなかったメアリ。
直様ダイキは剣を握り締め立ち去ったのだが、メアリは力なくずるずると地面に座り込む。
様々な要因が重なって、胸の鼓動を恋と勘違いしたのか、本当に一目惚れだったのか。
例えばもし、助けてくれたのがトモハルだったならば、ミノルだったならば、ケンイチだったならばどうなっていたのかなど誰も知らず。
「メアリ、メアリ! 貴女の力が必要よ、戻って!」
「ふえ?」
セーラに肩を思い切り揺さ振られ、惚けていたメアリはようやく現実に引き戻される。
まさかこの緊急事態に恋に堕ちるとは。分かりやすいもので、メアリの態度はあからさまだった。ダイキは気付いていないが、それどころではないのだ。
そう、メアリの鼓動を早めた要因はもう一つ。
「……おねぇちゃま!?」
皆が戦っていた相手が、自分の姉だったからである。
黒煙の中、薄っすらと妖艶な笑みを浮かべて立っていたのは、殺されたと思っていた姉だった。
胸が、再び跳ね上がる。脳内整理が出来ない、が、隣に来たダイキがそっと囁いたのだ。
「操られているらしいんだ、妹なら、正気に戻す事が出来るかもしれない。君も、お姉さんも……必ず護る、説得してみてくれないか?」
必ず護る。必ず護る。必ず護る。
凛々しい面立ち、なんて心ときめく胸キュンワード。
「やってみるわ、ダイキ!」
ガッ、と愛用の杖を握り締め、メアリはザッ、と姉の前に立ちはだかった。
メアリの、そんな頼もしい様子を見たのは、皆、初めてであったという。
連れてきて正解だったみたいですね、小さく呟いたセーラに、心配そうにリンがメアリを見つめる。
だが、エーアを救い出せるのは実の妹でしかないと、その場に居た全員が思った。
久し振りの元仲間に、ライアンが背を叩くと軽く経緯を語る。小さな魔法使いは、偉大な魔法使いに杖を向ける。
「おねえちゃま、久し振りです、メアリです!」
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