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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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2・3    122回 ⇒勇者到着 + アイセル&スリザ + ホーチミン&サイゴン + トビィ
2・10   123回 ⇒リュウ復帰 + アサギ食べられる
2・17   124回 ⇒ミラボー倒す
2・24   125回 ⇒クレロから話をきいて、地球に帰る


いよいよ、間に合わない(’’)

そして気が付いた。
昔リュウを 皇子 にしていたけど、近頃は 王子 にしていた(おぃ)。
さて、どっちに直そうか(><)

王子に統一します(’’)

 血塗れのアイセルに言葉を失ったアサギ。額や頬の血痕を拭うとアイセルは直様駆け寄ったが、目に見えない壁に隔たれて唖然とする。
 あぁ、それで出られないのか。納得したアイセルは壁を叩いた。

「落ち着きましょう、アサギ様。この血は自分のものではありません、ここへ来る途中に襲われたので、その……返り血です。この壁、一体何が?」

 アイセルのものではない、と知ったのでアサギの頬に笑みが戻った。蒼白だったのでアイセルは咄嗟に嘘をついたのだ。確かに、返り血もあるのだが、自身も傷ついていた。痛む右脚を悟られないように笑みを浮かべるとアサギを励ます。

「その、リュウ様が。リュウ様に閉じ込められてしまって……。あ、でも、見てください! 多分これ、私のものではないけれど勇者の剣です。これを置いてくれたんです、きっと、私の為に。だから、敵ではなくて、えっと」

 リュウの行動にアイセルは顔を顰める。舌打ちし、壁を思い切り殴った。

「ミラボーと共謀していたのか、やはりっ」
「ち、違います! 多分それは違うんです、リュウ様、ご自分でも何がしたいのか解らないんだと思います。
 それより、何がどうしてどうなったんですか? 他の皆さんは……」

 リュウを庇い続けるアサギに、アイセルは苦笑するしかなかったが、周囲を窺うと気配がないことを確認し、口を開いた。自身の武器である手甲ランボルキーニを装着し直しながら。

「アレク様に先導されて歩いていたところまでは覚えていますか?」

 神妙に頷いたアサギに、頷き返したアイセルは唇を舌で濡らして続ける。

「アサギ様が後方から来ていた魔族達に捕えられました。ホーチミンが魔法を放ち、俺もその輪の中に飛び込んだのですが……。外からの攻撃で気がついたら瓦礫の中に埋もれていました。そこから、1人です。先程アサギ様が以前も放った光の魔法、あれのお陰でここへ辿り着けたのです。
 どうにも、皆が狂っているようで。以前スリザちゃんが意識を奪われたように、魔族の大半が操られているように思えました。アサギ様を襲った魔族達も、何処か瞳が虚ろで」
「だとしたら、誰これ構わず倒してはいけない、ということですね」
「いえ、こちらの命が優先です。申し訳ないのですが、操られていようとも目の前に立ちはだかるのであれば、消すしかないですよ。アサギ様、今は甘いことを言っている場合ではないのです」
「……スリザ様の様に正気に戻せば良いのですよね? 私、やってみます」

 言うと思いました、と小さく溢したアイセルは深く溜息を吐いた。ともかく、まずはこの目の前にある見えない壁を撤去しなければならない。アイセルはアサギに壁から離れるように伝えると、渾身の一撃を加える。
 が、当然罅すら入らない。いや、罅が入ろうとも見えないだろう。

「アサギ様、これはリュウ様の魔力の賜物ですよね? 相殺するように魔力で対抗してみては?」
「私が、ですか!? ……やってみます」

 ホーチミンがこの場に居てくれたら心強かったのだが、仕方がない。アサギは壁に両手を添えて瞳を閉じると、神経を集中させる。頭をかきながらアイセルはその場から数歩、離れた。
 と。人気に気付き右を向けば数人の魔族がこちらへ駆け寄ってきていた、明らかに味方ではなさそうだ。
 集中しているアサギに悟られまいと、アイセルは静かに移動し、壁を蹴り上げて魔族達の輪に飛び込む。数は、4。集中すれば容易く倒せる相手だろう、問題は右脚の痛みがどこまで足を引っ張るかだ。
 身を大きく捻って、飛んで来た火炎を避ける。皮肉めいて笑ったアイセルは、一旦地面に着地するとそのまま火炎を投げつけてきた魔法使いの腹に、強烈な拳を叩き込む。
 面倒な魔法使いから倒しておきたい、何が起こるか解らないからだ。
 右脚が、ズキン、と痛んだ。一瞬遅れるが、剣を振り翳してきた魔族を寸でのところで避け、掛け声と共に再び拳を横腹に叩き込む。骨が、砕ける音がした。
 手甲で、剣を受け止め気合で跳ね返す。魔法使いが1人だったことが幸いした、これならもうすぐ倒せるだろう。
 ほっと一息ついたアイセルの後方から再び火炎が飛んでくる、頬を掠めて廊下のカーテンに燃え移った火を忌々しく見つめ、アイセルは絶句した。
 援軍だ、魔法使い一行のようだった。皆、両手を突き出して詠唱を開始した。
 流石にあれを一度に避けられない、アイセルは倒れていた魔族を掴むと、楯にするつもりで素早く後方へと移動する。

「魔法は苦手なんだよっ」

 小さく叫び、防御の姿勢をとったアイセルの耳にアサギの声が聴こえた。

「遥かなる天空に溢れる、眩い光よこの手に来たれ。我の声と共に光を抱きし雲に覆われた天は、応えたまえ。今、ここへその光を放ちたまえっ!」

 歌うようなアサギの声、思わずアイセルは笑みを溢し瞳を閉じる。大丈夫だと、確信した。
 後方からの暖かな光に、身を委ねる。誰一人、悲鳴も上げずその場に佇んだまま唖然と息を切らせているアサギを見た。剣を両手で掲げて、汗を溢しながら半泣きでアサギは立っている。

「間に、合いました……」

 嬉しそうに笑ったアサギに、思わずアイセルは駆け寄る。右脚の痛みが、消えていた。抱き上げると、そのまま強く抱き締める。魔王リュウの壁は、見事にアサギが消去した。相殺、したのだ。ただ、願っただけで壁は消えた。

「やはり、貴女こそが、求めていた!」

 間違いなく、勇者だ。人間にとっても、魔族にとっても。幸せを届ける、幸福の使者に違いないと。
 アイセルは確信し、震える身体を必死に押さえてアサギを抱き締める。困惑気味に笑うアサギの傍に、先程の魔族達が駆け寄ってきた。

「も、申し訳ありません、アイセル様、アサギ様! その、言い訳がましいのですが、記憶が無くて」

 周囲の惨状に怯えながら、今後の身の振り方が解らず、魔族達はアイセルとアサギに縋るしかない。
 恐らく、先程のアサギの放った魔法により洗脳が解けたのだろう。アイセルは深く頷くと、項垂れていた魔族達を叱咤した。

「どうやら皆は操られていたようだ。個別で行動するな、一丸となって何処か安全な場所へ避難しろ! 誰が敵で味方が最早解らぬ、命を落とさずに逃げるんだ! 敵は魔王ミラボー、決して深追いしてはならない」
「は、はい! アイセル様はどちらへ?」
「私はアサギ様を御守りしながら、アレク様を探す。皆も避難しながら傷ついたものがいたならば、助けてくれ」

 アサギが歩み寄ると、魔族達の頬に触れた。ゆっくりと微笑むと、瞳を見て微笑む。

「どうか、ご無事でありますように。綺麗な魔界を、これ以上失いませんように」

 言ったアサギに涙ぐんだ魔族達は、深く頭を垂れるとアイセルに先導されて去っていったアサギを何時までも見送っていた。やがて、皆は武器を手にすると頷き合って城からの脱出を試みる。
 その魔族達は無事に城を出て、魔界の端で生き長らえた。やがて、来るべき時まで身を潜めていた。
 皆、無事だった。逃げる途中に数人の魔族達を保護し、必死に連れて行ったが誰一人として命を落とした者は居なかった。不思議な魔法に包まれているように、敵対する魔族には、一度も遭遇しなかったのだ。
 彼らは、魔界の端でアサギの身を案じ、魔王アレクと共に魔界を再建してくれると。そう……願っていた。

 呆れ顔でスリザは唾を地面に吐き捨てた、目の前には厭らしい笑みを浮かべている魔族の男達が立っている。自慢の双剣を両手に構えて、スリザは大袈裟に落胆した。
 先程、ミラボーからの攻撃により皆が散った。スリザはアイセルを求めながらも直様切り替え、アレクを探した。弾き飛ばされた衝撃で、左足を骨折し、恐らく肋骨も骨折している。が、動けるだけでも幸いだとスリザは思った。
 よろめきながら歩き、気がつけば下卑た男達に囲まれた。それでも怯むことなく凛とした態度で、剣を構える。

「綺麗になったよなぁ、隊長さんよぉ。少し前までは、男にしか見えなかったのに」
「いやいや、綺麗な男よりか、劣ってたな。ひゃあっはっはっはっは! 筋肉質だし、胸もない、女らしさが微塵もない」
「だが、なぁ?」

 男達は舐めるような目つきでスリザを見つめた。冷ややかな瞳でスリザは睨み返すが、流石に気味が悪い。思わず、唇を噛締めると瞳を細めて睨みつける。

「綺麗になったんだよ、アンタ。いやぁ、よかったよかった!」
「お前達ごときに誉められても、全く嬉しくないな」

 低音で切り替えすスリザに男達は再び笑う、大袈裟に顔を歪め、喉の奥で笑う。
 この男達、知っていた。自分の部下だからだ、地位は低いが、それでも仕事熱心なスリザは顔を把握している。

「色気が出た、さぞかし愉しませてくれるんだろうなぁ、隊長様よ」
「……アイセルに逢ったら、謝罪しなければならないな。今まで悪かった、と。変態で下卑ており醜悪で修正出来そうも無い変態大馬鹿男というのは、お前達のような男を指すのだろう。
 良かった、私の愛すべき男はお前達とは違うようだ」

 淡々と言い続けるスリザに、男達が口を噤む。小声で何やら相談している男達に、不思議と心が落ち着いてきたスリザはゆっくりと足を進めた。手負いであれども、こんな男達に負けるわけがなかった。自信があった。

「茶番はここまでだ、その綺麗な顔が歪むのが愉しみだなぁ、隊長様よ。泣き喚いて謝罪して、罵った男達に蹂躙される地獄が待ってるよ。侮辱されたんだ、覚悟しときな」

 鼻で笑い、右脚で地面を蹴り上げたスリザは掛け声と共に剣を迅速に振るった。風の刃が数人の男に直撃し、首を撥ねる。ボールの様に飛んだ首、身体から血液が噴水の様に勢い良く飛び散る。
 流石に怯む男達だったが、狼狽しながらスリザの前に必死に何かを突き出した。
 再び剣を振るおうとしたスリザだが、唖然とその地面に投げ捨てられたものに釘付けになったのだ。

「と、父様!? 母様!」

 思わず、悲鳴を上げる。男達は脂汗を拭いながらようやく勝ち誇った笑みを浮かべた。
 震えるスリザを愉快そうに見つめる男達、口笛を吹きながら近寄っていく。

「可愛い声じゃないか、隊長さんよ。そういう風に鳴いてくれると嬉しいねぇ? アンタの屈辱を浮かべた表情は、さぞかし色っぽいんだろうなぁ。へっへっへ。胸がないのが、多少つまらんが」

 爆笑する男達の声が耳に途切れ途切れに聴こえる、眼球が飛び出ており、鬼のような形相の父と母の変わり果てた姿。首しかない、その姿。

「元隊長さんであるアンタの父親もな、俺達を散々愚弄してくれたんだよなぁ。強かったんだけどもなぁ? 娘のアンタを拘束している、なーんて嘘ついたら直様大人しくなってくれたんだよなぁ~。いいねぇ、家族愛」

 誇り高き一族、魔王を代々護衛してきた屈強の一族。幼い頃から厳しく育てられたスリザ、女としてではなく、男として育てられた。厳格な父が微笑んだ姿など一度も見たことが無い。
 だが、スリザの父は当然娘を愛していた。スリザが捕えられたと聞き、動揺した為に直様敗北したのだ。

「さぁさ、お楽しみの時間だ!」
「父様、母様!」

 無造作に転がっている首に手を伸ばしたが、口を塞がれ地面に押し倒される。男達が一斉に飛びかかった、愛剣は蹴られ手を離れて、遠くへ。両手両足を大きく広げられ、拘束されると鳥肌が一気に立った。暴れた為に、骨折した箇所に激痛が走る。
 それでも無事な右脚で、スリザは男を蹴り上げた。
 情けない声を出してひっくり返った一人の男に、呆れた溜息を漏らした男達は、必死に暴れるスリザの腹部に何度か拳を叩き込む。地面に挟まれて威力は増し、口から血と胃液を吐き出した。

「全く、ちょっと躾がなってねぇなぁ……。面倒だ、片足切り落とせ。なぁに、性器さえ無事ならいいだろ」

 全員でスリザの身体を押さえつけた、悲鳴を上げ続けるその姿を、さも楽しそうに見下ろしながら太腿に剣が添えられる。無事な右脚、引き締まった太腿に、ぷつり、と刃を突き立てると薄っすらと血が滲む。
 愉快そうに笑いながら、男は手に力を篭めた。

「あ、あぁぁぁぁぁああああっ!」
「ひゃぁっはっは! 可愛い声で鳴けるじゃねーか、隊長さまよぉっ!」

 ゴリゴリ、と骨が削れ、斬るというよりも砕くという表現のほうが似合っていた。血が噴き出す、周囲に溢れ返る香り。
 男が切り落とした右脚を放り投げる、偶然にも両親の首の目の前に転がった。

「ざまぁねぇな、隊長様よ?」

 顎を持ち、頬を舐めながら男は言った。
 それでも、スリザは激痛で意識を取り戻したのだ。必死の形相で口元に笑みを浮かべると、震える唇から唾を吐き出す。男の瞳に、唾液が飛んだ。

「情けないな、女1人に、多勢で」
「……許しを請えば少しは優しくしてやったものを」

 思い切り頬を殴りつけたが、スリザは唇を必死に噛んで叫ばなかった。奥歯が欠けたが、もう何処が痛むのか解らない。感覚が麻痺していた。
 身体が痛めつけられるよりも、こんな男に身体を穢されることのほうが耐え難い。舌を噛んで自害しようと思ったのだが、そうは出来なかった。男が口をこじ開け、布を入れてきたのだ。押し込まれて咽た、これで舌を噛めなくなった。
 
「さぁて」

 馬乗りになった男を、睨みつけるが効果はない。寧ろ、喜ばせただけだ。
 アイセル。アイセル。
 思わず、名前を呼んだスリザは。硬く瞳を閉じる。

 アサギとアイセルは必死に誰かを捜した、無事でいる筈だと、願った。聴こえた悲鳴にアイセルが直様反応し、無我夢中でアサギを引き摺りその方向へと向かう。
 
「スリザちゃんの、声だった!」

 耳が、愛しい女の声を捕えたのだ。アサギも必死に駆けるが、速度が速すぎる。

「アイセル様、先に行って下さい! 私追いつきますからっ、早く!」
「ッ、わかりました! 申し訳ありませんっ」

 今の悲鳴が、危機的状況にあることなど、誰にでも解るだろう。アサギの手を離し、全力で駆け出したアイセルを、アサギは追った。息は上がっている、口内には鉄の味が広がっていた。

「スリザちゃんからぁ、離れろ、この大馬鹿野郎共っ!」

 上から聞こえた声に、男達は青褪めた。今にも崩壊しそうな城の一部、アイセルが怒りに震えて立っていた。
 その声に、思わずスリザは涙を流した。下半身の衣服は剥ぎ取られたが、まだ、何もされていない。
 が、露になっている下腹部、切り落とされた右脚、視界に入ってアイセルが逆上する。空気が、怒りで震えた。

「こんっのっ!」

 吼えて、そのままアイセルは飛び降りると男の顔面に蹴りを放つ。ぐしゃりと音を立てて、潰れた顔面でのた打ち回る男。悲鳴を上げながらも、男達は各自の武器を手にした。 が、怒涛の勢いで暴れるアイセルの勢いに押され、防御が精一杯だ。6人もいるというのに。
 アイセルの声を聞き、アサギも棒の様な足を必死で動かす。限界が来ていた、疲労もあるが度重なる緊張感で精神と気力が底を尽きそうなのだ。
 それでも、勇者だからと。勇者は皆を助けなければならないと。必死に力を振り絞る、恐らく勇者の剣であるそれを必死に握り締めて。
 ようやく淵まで来たアサギは、下りられる場所を探した。アイセルのように、飛び降りることは出来ない。無事ではすまないだろう、無謀すぎた。焦りながら、下へ行けないか動き回る。下ではアイセルが雄叫びを上げながら、戦闘していた。スリザは動けずに寝そべったままだ、早く行き、治療しなければならない。

「あれぇ、何処かで見たガキだな?」
「きゃあ!」

 急に髪を捕まれた、臭い息が鼻につく。思わず顔を顰めると、アサギは振り向いて相手を睨みつけた。
 酔っているのか、顔が赤い髭塗れの男が1人。顔に傷がある、お世辞にもかっこいいとは言えない顔立ちだ。

「あー、勇者様か! 勇者のガキだな、お前! おぉお、ついに運がきたぞきたぞ! ミラボーに手土産が出来た」
「は、離して!」
「よかったよかった、うろついていてくれて。なんでお前を探してるんだろうな? お前を連れてこれば、惑星を1つ貰えるんだってよ、ついに覇王として君臨する時が来たぜぇ! 惑星だぜ、惑星! 魔界じゃないんだぜ~、ひゃっはー!」
「貴方も、クレオの魔族でしょう!? アレク様ではなくて、どうしてミラボー様にっ!?」

 アサギの髪を引っ張り続ける魔族の男・オジロンは、甲高い声で笑った。

「アレクはなぁ、平和主義者でなぁ……。気に食わない魔族だって大勢いる。ミラボーが手を貸してくれるんだとよ、好き放題暴れる事が出来る世界を用意してくれるんだとよ! で、誘いに乗ったわけだ。ただなぁ、意外とアレクの信用が皆強くてなぁ……。ちょーっとばかり人数が足らないってんでぇ、妙な薬をそこら中に撒いたのよ。
 そしたらすげぇよ、少しでも不安要素があると、錯乱状態から魂が抜けたみたいに1つのことしか出来なくなる。
 操り人形だな、同じ匂いのしない者に攻撃を食らわすんだ。間近で見たが効果は抜群。ミラボー様様だぜ」

 それで理解出来た。
 その妙な薬の効果で一部の魔族達が狂っているのだと。不安要素、というのはミラボーが作り出したものだ、この、魔界を破壊することで誰しもが不安を抱く。強靭な精神を持つ者には薬の効果がないのだろう。
 恐らく、以前スリザが飲まされた薬と同じものなのだと、アサギは判断した。
 それに加えて、アレクに仇名す者達が便乗し動けば、混乱しても仕方が無い。

「よぉし。名前は名乗ってやるよ、オジロンってーんだ。次期ドラゴンナイト部隊長になる予定だったんだぜぇ、もう、どうでもいいけどな。ひゃっはー!」

 イチイチ笑い方が癇に障る。アサギは眉を顰めたが、名前に聞き覚えがあった。一気に血が逆流する、そういえば声も顔も、覚えがあった。
 キィン……脳内で、金属音が鳴り響いている。激痛でアサギは悲鳴を上げた。

「アサギ様!?」

 その悲鳴に、アイセルとスリザが反応した。スリザから男達を引き離し、口にあてがわれた布を引き抜いたところだ。声にオジロンも気がつき、アサギを引き摺って2人に見せ付けるように首に手をかけると身体を宙に浮かせる。
 まさかの大物2人である、オジロンは鼻の穴を膨らますと満足そうに見下ろした。

「アイセルっ、行け! アサギ様を護れ!」

 けれども、スリザの周囲の男達はまだ、2人残っている。今、スリザを1人にしたら殺されるか犯されるのが目に見えていた。しかし、真上では苦しそうにもがくアサギが。

「アイセル、何をしているっ! アサギ様を守護するのだろう!? 早く、行けっ」

 予言家の末裔。次期魔王候補であるアサギを、守護する義務がある。それは、重々アイセルとて承知していた。
 魔界を救うことが出来る、唯一の希望が、目の前で苦しんでいる。しかし、同時に最愛の人も苦しんでいる。

「アイセル! 早く行けぇっ」
「……ごめん、アサギ様!」

 スリザの絶叫に反し、アイセルはその場に踏み止まると男を蹴り上げる。本能が知っていた、護るべき相手はスリザであると。愛した、女であると。

「ひゃっはー! お前、見捨てられたぜぇ? 可哀想な、勇者だなぁ、おい!」

 大笑いしたオジロンは、アサギを地面に放り捨てた。地面を転がり、何度も嘔吐しながらアサギは必死に剣を捜す。苦しくて、剣を落としてしまったのだ。拾わねば、戦えない。

「……いえ、これで良いのです」
「あ? なんか言ったか」

 這い蹲って剣を探すアサギは、腕に力を篭めて立ち上がると震えながら髪をかき上げた。

「これで良いのだ、あの2人は運命の恋人同士。アサギを護る必要など何処にもない」
「運命の恋人ぉ? 狂ったか、頭」

 笑いながら、オジロンは腹を抱えてアサギを見た。
 その笑い声が、止まる。瞳を何度か瞬きした、細めて見つめた。

「お前……そんな髪だったか?」

 豊かな新緑色の柔らかく艶やかな髪、オジロンは首を傾げた。先程まで、黒くなかったか、と付け加える。

「”お久しぶり”とでも言うのだろうか。相変わらずうだつの上がらない魔族であったようで」

 知らず、オジロンが一歩後退した。アサギの声色が変わったからだ、声質は同じだが妙に威圧感がある。
 
「覚えていないだろうな、小さな国だった。記憶の片隅にもないのだろう。しかし、サーラのことは忘れたくとも忘れまい 。ビアンカ、と言ったか。彼女は……死んだのか」

 サーラ。ビアンカ。知っている名前だった、オジロンは記憶を辿る。2人が絡み合ったのは、あの時だけだ。
 あの時。
 武装した人間に頼み込まれた、城に住みついた魔族を追い出して欲しい、と。
 その城の騎士団長だという男に軽く返事し、ここぞとばかりにゴブリンを引き連れて城に攻め入った。
 そこに居たのは紅蓮の覇者、という異名の美しき炎の魔族サーラ。勝てるわけが無い相手だった。
 記憶が甦ってくる、確か、あの場に……。
 奇怪なものでも見るように、オジロンはアサギを見つめた。足から、頭部を見つめた。悲鳴を、上げた。

「あ、あの時の……小娘!」

 無表情で、アサギは立っていた。緑の髪と、瞳。先程までのアサギと違い妙に気高く、また冷徹な雰囲気をまとってそこに立っていた。少しも笑みを浮かべることなく、右手を伸ばす。地面に転がっていた剣が、不意に、その手に戻ってきた。首を微かに動かし、その剣を硬く握る。しっくりと、収まる。

「”エリシオン”。惑星ネロの勇者剣」

 剣を携えて、一歩歩み寄ってきたアサギに、オジロンは身を翻すと逃走した。

「小娘だ! あの時の小娘だ! 俺を馬鹿にした、人間の小娘だ!」

『なんということを!』
 亡国の小さな姫は隊長の頬を平手打ちした、涙を零してその腰の剣を抜くと率先してゴブリンへ向かう。その姿を見て豪快に笑ったオジロン、あまりに非力な小さな娘が威勢よくこちらへむかってくるのだ。笑いが止まらない。
『勇ましい姫さんだなぁ? その隊長さんより余程かっこいいぜ』
『うるさい! 即刻ここから立ち去りなさい!』
 ゴブリンを薙ぎ倒して突き進む様子を、下卑た笑みで見ていたオジロン。ようやく地に降り立つと恭しく礼をする。
『名前は名乗ってやるよ、オジロン。魔王アレク様直々の副隊長だ、次期ドラゴンナイト部隊長になる』
『まぁ、素敵な肩書きですねっ。でも、アナタみたいな卑怯なのが隊長だなんて、魔族には大した人がいないのねっ』
 恐れもせずに前に立ち塞がった姫、そして吐いたその台詞にオジロンは沸点に達した。確かに言う通りなのだが、小娘に言われては。そもそも、全くの出鱈目だった、何時までたってもうだつの上がらないしがない魔族のオジロンである。自分の見栄を否定されては、苛立ちも頂点に上るというもの。
 怒りで震えながら腰の剣を引き抜く、禍々しい光を放つそれに、それでも姫は屈しなかった。
 それがオジロンに更に苛立ちを覚えさせた、なんと生意気な小娘か。

「あ、あの小娘だ!」

 一致した、同一人物だった。忘れたかった記憶、忘れていた記憶、それでも、覚えていた記憶。
 虚勢を張って滅ぼした人間の一国の、姫。アサギの髪が黒だったので気がつかなかったが今、こうして緑になれば。
 本人以外の何者でもない。何より、アサギは自分を知っていた。

「あの時。民を、父親を、国を護る事が出来なかった。護れたのはサーラだけ。私が、愚かな願いをしたばかりに。
 例えばこれを、敵討ち、とでも言うのならば。……それでもきっと、それは出来ない。
 行くと良い、トビィお兄様が待っている。運命はそこに、あるのだろう」
 
 アサギが剣を一振りすれば、悲鳴を上げたオジロンの姿が目前から、掻き消えた。
 静まり返ったその場所で、アサギはエリシオンを握り直すと踵を返す。歩いている、いや、宙に浮いて進んだ。
 髪が頬を撫でる、微かに俯くとそのまま地面に片足をつき、跳躍するとふわり、と飛び降りた。

 血を吐きながらそれでもアイセルは立っている、スリザを必死に庇いながら、瞼が切れて見難い視界でも立っていた。
 普通ならば倒せる相手だった、が、手負いのスリザを気にして上手く力が発揮できないのだ。また、アサギを残してきたことも、引っかかっている。上手く、冷静を保てなかった。あろう事か、増援まで現れたのだ。
 足手纏いのスリザは、情けなく首を横に振ると死なせてくれとアイセルに懇願する。しかし、アイセルが聞き入れるわけがない。

「アサギ様がいない、と。アレク様が」
「魔界が滅んでも、世界が滅ぶことになったとしても。それでも俺は護りたい女を護りたい、それがきっと、俺の運命で進むべき路だから」

 スリザを庇い続けたので、アイセルは深手を負った。必死に、スリザがこれ以上苦痛を得ないように庇い続けた。
 そんなアイセルを見て、スリザがどれだけ心を痛ませたかを、知らず。
 流れすぎた血液でスリザは昏睡状態に陥り、アイセルもまた、限界が来た。互いの指を絡めあって、その場に静かに崩れ落ちた。
 
「愛しているよ、スリザ」

 唇から零れたアイセルの言葉が、聞こえたのか。偶然か。スリザが微笑む、小さく頷く。
 何か告げようとしたが、唇を動かす力が残っていなかった。
 動かなくなった2人を忌々しそうに見た、辛うじて生きていた男達は、剣を構える。死んだのかもしれないが、このままでは気がすまない。ジリジリと近寄っていく中、後方から声が聴こえた。

「止めなさい。もう、命は消えている」

 宙に浮いているアサギを唖然と見た男達は、その美しい姿に引き攣った笑みを浮かべた。スリザを強姦出来なかったのだ、今目の前に相応しい女がいる。相手は小さな女、ただ1人。そう思い取り囲んだ、誰が言うでもなく。
 アサギは微動だせず、アイセルとスリザを見ていた。寄り添っている、2人を見ていた。

「運命の恋人。本来ならばここで命を落とす筈が無い。本当ならば」

 静かに瞳を閉じる。
 アイセルに手を引かれ、スリザが照れたような表情で街を歩いていた。長いスリットの入ったワンピースを着て、髪に大きな薄桃の花を差し、首には上品な真珠。
 
「……ごめんなさい、私のせいで」

 顔を上げたアサギの瞳から、大粒の涙が零れた。震える腕で、剣を掲げる。

「数年、時間を。数年、待って欲しい。本来あるべき姿に、戻すから。
 ごめんなさい、アイセル様、スリザ様。必ず、戻しますから。
 それまで、……預からせて欲しい」

 男達の後方で、奇怪な音がした。2人の遺体が、透けて消えていったのを目撃した瞬間。

「そなたらを殺して良いのかどうか、解らない。いや、殺してはいけないのだろう」 

 アサギの声が聴こえたと思えば、その姿が消えていた。呆然と、その場に立ち尽くしていた男達は、急に眠気に襲われて倒れ込む。
 数分後に起き上がると、顔を見合わせて肩を貸し合い歩き出す。
 何をやっていたのか、記憶がなかった。ただ、何故か涙が止まらなくて泣き続けた。胸に何か、温かいものが流れ込んできた。

「運命の恋人、捜さねば。サイゴン様、ホーチミン様。何処」

 アサギの腕に、スリザの双剣カストール・とポルックス。そしてアイセルのランボルキーニを抱えて、ふわりと浮かびながら2人を捜した。

 ぐしゃり、と何かが振ってきた音にトビィは剣を引き抜く。砂埃が舞う中で、低く呻いているそれ。全身の毛が、逆立った。剣を構えると相手が何か知っているように、トビィは俊敏に近づく。

「トビィ!? トビィなのか!?」
「久しいな、オジロン」

 言いながら斬りかかる、悲鳴を上げて避けたオジロンは光り輝く剣を見て絶叫した。

「トビィ!? と、剣!? 馬鹿な、そんな馬鹿な!? 死人が2人も!」
「死んでない、残念だったな」

 淡く光る、水竜の加護を受けた剣を構えて。美貌のドラゴンナイトは笑みを浮かべることなく、仇を見下ろした。
 
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