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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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2・17   124回 ⇒リュウ復帰 + アサギ食べられる
                                 ⇒ミラボー倒す
2・24   125回 ⇒クレロから話をきいて、地球に帰る

本格的に、間に合わない(’’)

整理。

エーアの洗脳を解く
ハイとアサギが合流する、トビィとも合流する
アレクとミラボーが対峙する
勇者達駆けつける
マビルが森から解き放たれる
リュウがアサギの邪魔をする、バジル達を召喚し、リングルス達が仲間になる

……ウボァー

 胸を張って堂々と姉の前に立ちはだかったメアリだが、エーアは面倒そうに一瞥すると軽く火炎球を投げつける。

「ひぃやぁぁあ!」

 盛大な悲鳴を上げてそれを避けたメアリは、泣きながら姉に杖を向けた。足が震えている、皆が思った。
 駄目かもしれない、と。

「おねえちゃま! ほらこれ、この杖! 覚えてませんか、我が家に伝わる家宝です! デュオマーキュリー!」

 杖を振って、そう叫ぶがエーアは無表情のまま再び火炎球を投げつける。悲鳴を上げてメアリは転げまわった。

「ダイキ、無理だった!」
「え、諦めるの早くない!?」

 助けに来たダイキに、爽やかに言い放つメアリに、流石に面食らう。舌打ちしてダイキは剣を強く握ると、エーアに向き直る。メアリを背に隠すようにして。
 そんな背後で、うっとりとメアリは大きな背中を見つめていた。アーサー達が、頭を抱えていることなど、露知らず。

「エーアさん、だっけ。ミラボーの味方をしているのは何故だろう。と、訊いたところで洗脳されているのなら答えないか」
「洗脳などされてはいないわ、可愛らしい勇者の坊や。私は私の一存でミラボー様に傅いているの」

 くすくすと微笑みながら、再びエーアは杖を振り翳す。空中に火炎が舞う、凄まじい魔力だ。
 全く疲労している気配がない、強力な魔法を連発すれば普通は呼吸があがるはずなのだが。
 まさかエーアが、エルフの血液を体内に若干取り入れているとは思うまい。思ったところで、どうにかなるものでもないが。余裕の笑みを浮かべているエーアが、人間ではないように思える。

「ライアン殿、状況を手短に」

 ゆっくりと距離を縮めたアーサーは、剣を構えたままのライアンに声をかけた。苦笑し、剣を構えたままライアンは告げる。魔法、というものが苦手なライアンは先程から防御に徹するばかりだ。

「魔王ミラボーが単独で反乱を起こしたらしく、魔界の城があのように崩壊したらしい。魔王アレク、魔王ハイ、そしてアサギの生存が現在不明。魔王ミラボー側に就く者達のみが、このように攻撃を仕掛けてくる。全ての魔族が敵ではないようだ」
「アサギの安否確認を急がねばならない、と。……解りました、エーアは捻じ伏せましょう。ナスカ、セーラ、行きますよ」
 
 アーサーが淡々と告げると、困惑気味にセーラとナスカが歩み出る。
 エーアの存在は、3人共知っていた。偉大な魔法使いだ、既に戦死している筈だったが。
 顔見知りである筈の3人を見ても、当然エーアは眉1つ動かさず、ただ薄っすらと微笑む。
 杖を振り翳す、得意の火炎の魔法を連打する。容赦しない、本当に覚えていないのだろう。

「賢者の称号、伊達に戴いているわけではありませんので、エーア殿」

 セーラが結界を張り、アーサーとナスカが呼吸を合わせて詠唱に入る。ナスカの風の魔法とアーサーの炎の魔法を合わせ、エーアに対抗した。
 ここぞとばかりに、マダーニも火炎の魔法で応戦する。ムーンも風の魔法を詠唱し、威力が増すように呼吸を合わせる。波長を合わせねばならないので、勇者達では無理だったが、腕に覚えのある者達は力を貸した。
 流石にエーアの眉が釣り上がる、忌々しそうに舌打ちをした表情をアーサーは見逃さない。

「畳み掛けます! 多少の犠牲は仕方が無いのです」
「それは間違ってるよ」

 叫んだアーサーに簡易れずダイキも叫んでいた、トモハルも頷くと首を横に振る。

「甘いです、勇者。先に進まねばならないので」
「でも、この子のお姉さんなんだろう? そんな、言い方は」
「背負う任務があるのです、魔王ミラボーを倒さねばなりません。アサギの安否確認も急がねばならないでしょう。時間など我らにはないのですよ。アサギかエーアか、と訊かれたら、勇者よ、アサギと答えるのでは?」

 確かにそうだ、ダイキは口を噤んだ。トモハルは唇を尖らせ、悔しそうに剣を握る。言い返すことなど、出来ない。
 それは、真実だ。

「メアリ。覚悟を決めてください、貴女の姉は何年か前に亡くなりました。魔王ミラボーを討伐する為に赴き、敗北したのです。立派な最期でした」
「…………」

 立ち尽くしているメアリは、何も言わなかった。ただ、遠くを見ていた。
 自慢の美しく聡明な姉、いつかは近づきたいと思って居た姉。

「お、おねぇちゃまは! おねぇちゃまは、ソルティさんと生き延びてっ」

 絞り出した声に、初めてエーアが動揺した。その瞬間を見逃さなかったのはセーラだ。
 額を押さえ、青褪めた様子のエーア。魔法の威力が薄れている、このまま行けば押し返す事が出来る。

「ソルティ?」

 エーアが呟いた、その単語を聞き取り弾かれたように叫んだセーラは、必死にエーアに向けて防御壁を詠唱する。
 アーサー達の放った魔法が、エーアを飲み込んだ。混乱している様子で頭を抱えて蹲るエーアにメアリが悲鳴を上げる。セーラの行動に慌ててブジャタもエーアに防御壁を張り巡らせた。
 大地が揺れる、エーアを飲み込んだ火炎は地面を抉り、木々を薙ぎ倒す。その場にいた魔法使い達が詠唱した、膨れ上がった風と火炎は勢いを弱めながらも、ゆるりと大地を進んでいった。

「ソルティ=シェルキア。エーアの恋人だった男性ですわね、彼を失った衝撃でミラボーに捕らわれたのかもしれません。メアリ、ソルティさんとエーアの思い出話を聴かせて。思い出すかもしれないわ」

 全身を震わせながらセーラがメアリに苦し紛れに伝えた、防御壁を張ることで、精一杯である。ブジャタが協力していなければ、すでにエーアは炭になっているだろう。
 だが、セーラは感じていた。微力ながらもエーアがあの中で生きていることを。
 エーア自身も必死に抵抗を試みているのだろう、だが時間の問題かもしれない。

「アーサー! あれは解除出来ませんの!?」
「出来ませんよ。……脅威は去りました、先を急ぎます」
「私は、エーアを」

 淡々とした様子で語ったアーサーは気にせずにそのまま先を急いだ、気まずそうにナスカも続く。
 ばらばらと、アーサーを先頭に皆が移動した。
 唖然と、勇者達はどうすべきかその場で狼狽する。ここにいても、何も出来ないのは確かだがそれでも動けない。
 かつての仲間だったであろう、女性をいとも容易く切り捨てたアーサーに、侮蔑の視線を送る。しかし、どちらの行動が間違っているのか勇者達には判断が出来なかった。

「……俺は、行く」

 戸惑いながらもミノルが駆け出した、ケンイチとユキも共に走り出した。ダイキとトモハルは顔を見合わせ、微かに頷き合う。
 トモハルが、駆け出していた。ダイキは放心状態のメアリに、そっと寄り添う。声などかけることが出来ないが、ただ、隣に立つ。
 その場に残った者は、セーラとメアリ、そしてダイキだけだ。
 泣きもせず、メアリは突っ立っている。ただ、黒く焦げている木々を見つめていた、焦げ臭い香りで頭痛がする。
 周囲の空気は澱み、それだけで体力も精神も消耗する。

「メアリ、行きましょう。エーアは貴女のお姉様よ、助けましょう。それがきっと、貴女がここへ来ることになった最大の理由よ。全ては必然、きっと何か意味があるわ」

 そっとメアリの腕を引いて、セーラは歩き出す。ダイキも剣を握り締めて付き添った、本来ならばアサギを捜しに行きたかったのだが、彼女達は一応3星チュザーレの住人である。自分がその惑星の勇者であったので、責任を感じた。
 何より、メアリにダイキは約束したのだ。「必ず助ける」と。
 3人が進むと、うつ伏せになってエーアが倒れていた。悲鳴を上げて駆け寄るメアリの腕をセーラが力強く掴む。
 万が一だ、突然襲い掛かってきてはメアリでは対応出来ない。
 必死に名前を呼ぶメアリだが、エーアは微動だしなかった。もがきながら、束縛を払おうとするメアリだがそれを許さないセーラ。気持ちは解るが、万が一がある。

「俺が行くよ」

 ダイキが歩き出した、震えるメアリの横を擦り抜けて、祈るように見つめているセーラに軽く微笑み、エーアの傍に跪いた。
 全く動かないエーアを、じっと見つめる。
 そっと、身体に触れたダイキは唇を噛み締めるとエーアを仰向けにした。真っ青な唇で、瞳を閉じている。
 死んでいるのか、と思った。皮膚は火傷し、所々爛れている。ようやくセーラが全力で駆けて来ると、治癒の魔法を詠唱し始めた。ダイキも唱える、微力であるがそれでもしないよりマシだろう。

「おねぇちゃま、おねぇちゃま! しっかりして、おねぇちゃま!」

 必死に叫ぶが、エーアは動かない。涙がエーアの身体に幾つも幾つも零れ落ちた。

「ダイキ、だったかしら。貴方は先を急いで。ここは、私とメアリが。……後から、行きますから」
「……何も出来ず、ごめんなさい」
「素直な良い子なのですね、ダイキ。貴方が私達の勇者で、よかった」

 ダイキは小さく頷くと、剣を握り締め唇を噛む。勇者の剣、らしいがもし、本当にそうならば今ここで何か奇跡を起こして欲しいと思った。例えば、都合が良い話だが回復魔法の能力を上げる、等。
 ぼんやりと、青白く光る剣を見つめてダイキは小さく溜息を吐く。この剣の能力など全く解らないが、トモハルの所持する剣とて、同じ様なものだ。

「説明書、ないのかな」

 思わず、本音を漏らした。が、泣いているメアリと、必死に回復に専念しているセーラに頭を深く下げると走り出す。
 追いつかなければならない、ダイキは剣を背に装着すると、懸命に皆を追いかけた。
 走り去るダイキに安堵し、セーラは泣いているメアリを見つめる。
 恐らく、エーアはもう、駄目だろう。万が一があるので、こうして回復魔法を詠唱しているが、生命力が無きに等しい事などセーラには最初から解っていた。ただ、”無きに等しい”そこに賭けてみた。
 無いわけではない、まだ、息があるのだ。虫の息だが。

「おねぇちゃまぁ……1人に、しないで」

 メアリが泣きじゃくるが、時間だけがただ過ぎていく。セーラの疲労も、限界に達した。
 身体に手を翳し、懸命に詠唱を繰り返していたセーラだったが、徐々に声が小さくなる。
 歯を食いしばり、最後の詠唱を開始したセーラは、不意に何か声を聞いた気がして視線を他に向けた。
 メアリも何か、声が聞こえた気がして思わず首を回す。

「……ここは、何処? メアリ? 私は一体何を」

 聞き覚えのある声に、2人が揃って悲鳴を上げる。歓喜の悲鳴だった。
 ゆっくりと瞳を開いたエーアは、メアリを見て不思議そうに弱々しく笑ったのだ。

「おねぇちゃま! あぁ、あぁっ! う、うわああああああん!」

 抱きつき、再び号泣するメアリの背をセーラが撫でる。困惑気味に視線をセーラに移したエーアは、小さく、首を動かした。瞳に涙を浮かべ、セーラが大きく頷くとそっとエーアの頬を撫でる。

「奇跡、だわ。精霊神エアリー様のご加護よ……」

 まさかの、エーアの帰還。3人はただ、暫しその場で泣くしかなかった。
 ようやく半身を起き上がらせたエーアは、額を押さえながらたどたどしく言葉を紡ぐ。
 何時だったか、魔王ミラボーそのものに遭遇したエーアは、必死に抵抗を試みた。恋仲であったソルティは、無残にもエーアの目の前でミラボーのおぞましい魔力に飲まれ、身体中の毛穴から瘴気を吐き出し、転げまわって死んだ。
 それでもエーアは必死に戦い抜いたのだ、ソルティの死に様を目にしても、揺らがなかった精神力にミラボーが目をつけた。美しい、人間の魔術師。恋人を殺されても悲鳴を上げず、攻撃の手を一瞬たりとも緩めなかった人間の女。
 珍しい人間だと、ミラボーは微笑む。
 産まれて初めて興味を持った人間の美女を、殺すことなく捕らえた。
 そうして自らが調合した薬と魔力でエーアの記憶を一部書き換え、常に傍にいる腹心にしてしまった。
 一度記憶が甦れば、エーアは発狂しそうな程、自分が犯した罪に嘔吐する。
 悪魔テンザと何度も身体を重ねた、罪の無いエルフの姫君を捕らえ、ミラボーに差し出した……。
 けれども、エーアは鬼のような形相で立ち上がると髪をかき上げる。絶望した、汚れた自分を殺したかった。
 それでも、今現時点でミラボーについて詳細を知っているのは自分である。それを生かさねばと杖を握り、メアリとセーラに手を伸ばす。真っ直ぐな瞳は、汚れていない。光り輝く、紅玉石の様だ。

「行きましょう、勇者達と合流するのよ」
「ええ!」
「はいっ!」

 強靭な精神、それこそ、ミラボーが惹かれた所以である。絶望する前に、出来ることをする。例え目の前で恋人を失ったとしても、最後まで足掻く。自身の境遇に気がつき、この身を引き裂きたいと願っても、生きて出来ることがある以上は死なない。死んではならない、死んでしまえば楽だろうが、逃げたくは無かった。
 愛用の杖である菩提樹から作られたヘムロックを掲げ、先頭に立ち走り出すエーア。何と凛々しいのだろうと、2人は込み上げる涙を堪えるのに、必死だった。

「ミラボーは、エルフを喰らってしまった。魔王アレクの恋人である、エルフの姫君であるロシファを。
 その為にあそこまで魔力が飛躍したのよ、全力で一斉にかからねば、勝機はないわ」

 エーアは知り得ている情報を2人に話した、万が一、自分の身に何かあった時の為に。
 ミラボーは、リュウと仲間達を室内にて拘束した後、悠々と城を出たのだ。用意しておいた馬車に乗り込み、エーアの待つ海付近へと向かった。
 氷付けになっていたロシファの右脚を、左脚を、両手を齧った。甘い甘い、芳醇な香りにエーアも固唾を飲んで見守る。脳が蕩けそうなほど、良い香りが周囲に漂っていた。それだけで、力が抜けて悦楽出来た。
 ミラボーは、首と胴体だけになったロシファを片手で持ちながら、巨体を揺らす。その場で跳びはね、何か変化があったのか探っているようだった。醜いイボの皮膚が揺れ、肉がぶつかり合う音がしていたかと思えば、歓声を上げた。
 急に、ミラボーが凄まじい速さで城の方角へと飛んでいったのだ。唖然と、エーアはそれを見ていた。
 なんという俊敏な。そして肌の皮膚がちりちりと焦げるような、強い魔力だろうか。
 最早最強としかいい様子がないミラボーに、エーアは打ち震える。そして爆音が響き渡り、ミラボーが攻撃を開始したことを知った。城の大半が、崩れ去っていた。一撃ではないが、数発の魔法でその威力である。
 流石はエルフの姫、身体に秘めていた魔力も膨大だったのだろう。
 エーアは、ミラボーのその姿を間近で見ようと追いかけた。馬を見つけたのでそれに飛び乗り、走っていたところへ、トモハル達勇者が来たのである。
 非常に邪魔だった、早く傍に行き、秀でたその力を間近で確認したかった。
 そして、アーサー達がやって来た……。妹である、メアリを連れて。
 全く記憶がなく、妹であることすら忘れていたのだが、恋人の名を呼ばれて何か魂が揺さ振られるような。
 胸が苦しかった、抉られた様だった。そして声が聞こえた気がしたのだ。
 何処かで聞いたような、美しい音色の様な声を。
 瞳を開けば、メアリとセーラが、自分に寄り添っていた。それが、全てだ。
 不思議な声こそが、自分を救い、正気に戻してくれたのだろうが誰かが解らない。
 エーアはふと、思った。精霊神エアリーではないか、と。
 類稀なる美貌の、3星チュザーレの神である。まだ、ミラボーの呪縛に捕らわれていなかった頃、エーアは献身的に精霊神エアリーを崇拝していた。
 違うとしても、神を間近に感じた気がして、こんな自分にも誰かが微笑み手を差し伸べてくれた気がして、エーアは突き進む。負けはしない、過去の自分も受け入れ、先を目指す為に。

 アサギを呼ぶ声がする。ハイだった、先程から必死にアサギを呼んでいた。
 多少のかすり傷はあるものの、目立った外傷のないハイは只管歩き回る。何が起きたのか全く解らなかったが、時折襲い掛かってくる魔族を捻じ伏せ、襲われている魔族達を救出し、アサギを捜した。

「アサギ、何処だ! アサギ、返事をしてくれ!」

 歩き回っているうちに、何か光るものを見つけ拾い上げる。アサギがアレクから受け取っていた、ロシファが所持していた短剣だった。ここに落ちているということは、アサギが近いのではないか……思わず希望を見出したハイは、必死にアサギの名を呼ぶ。神経を研ぎ澄まし、微かな物音を聴いた。
 しかし、アサギの声など聞こえない。落胆したが、短剣を片手に再び歩きまわる。
 半壊した城、ここが何処だったかなど解らず、上空を見れば崩壊しそうな城の一部がパラパラと落下していた。
 暫くして、竜が飛んでいるのを見つけたハイは、思わず叫んでいた。恐らく、トビィだろう。
 短剣を翳してみるが、上空に反射した光が届くだろうか。
 もしかしたら、すでにアサギはトビィと共にいるのかもしれない。そう思うと、合流しなければならなかった。
 他に剣はないかと、周囲を見渡す。折れた金属片などは転がっているが、流石に都合よく剣などない。
 のだが、瓦礫の下に、刀身が見えた。
 思わずハイは瓦礫を退かし、剣を手にする。手にした瞬間、痛みすら感じる高温に思わず手を離したが、地面に落下したそれを衣服を引き裂いて拾い上げる。
 不思議と、熱は伝わらず、布を取り払い直に持ってみたがもう、高温ではなかった。首を傾げながらも、ハイはそれをゆっくりと眺める。不思議な剣だった。
 ぼんやりと白く光放つその剣が、普通の剣ではないことくらいハイにも解る。何かしらの魔力を帯びていた。
 魔王アレクの居城跡地である、何が出てきてもおかしくはないか、と思ったハイはそれも掲げた。
 まさかそれが、2星ハンニバルに伝わっていたカラドボルグなる勇者の剣であるとは、思いもせず。
 魔王ハイに対抗していたロシア王子の城に代々伝わってきた剣で、止めを刺したテンザが拾ってきていたのだ。
 武勇伝代わりに使うつもりだったが、何しろ常に高温で手を焼いていた。その為、ひっそりと部屋に置き去りになっていたのである。
 カラドボルグ、聖水に漬されながら鍛錬された剣である。聖なる属性の為、邪悪なものが手にすれば高温の為焼け焦げる代物だ。
 魔王ハイを、その剣は邪とは見なさなかった。
 トビィに気付いてもらえず、ハイは舌打ちすると再び歩き回る。剣を二本掲げて、少しでも光を反射させながら歩いていた。と、何か物音が聞こえ、慎重に近寄っていく。崩れた壁の裏から聞こえた音、剣を構えながらそっと、覗きこんだ。

「アサギ!? アサギ、しっかりしろ、アサギ!」

 倒れているアサギを見つけ、顔面蒼白で近寄る。抱き起こし、全力で治癒の魔法を詠唱した。
 特に外傷はないようだが、苦しそうに何か呻いていた。
 名前を呼び続ける、震えるハイの身体は今にも崩れ落ちそうだった。
 髪を撫で、名を連呼する。その声に上空から魔物が急降下してきたのだが、血走った瞳を向けるとハイは死霊を召喚し撃退した。構っている余裕など、ない。

「っぅ、ハイ、様……」
「あぁ、アサギ! 気がついたか、よかった! 本当に、よかった」

 暫くしてゆっくりと瞳を開いたアサギに、思い切り抱きつくハイ。大きな身体が小刻みに震えていたので、アサギはそっとハイの背を擦る。子供をあやすように、優しく撫でた。

「お会いできて、よかったです。ご無事ですか」
「私は全くの無傷だ、運が良かったのだろう。面目ない、怖かったなアサギ。もう、大丈夫だ」
「……アイセル様、スリザ様、ホーチミン様、サイゴン様は。……亡くなられました」
「なっ」
「ハイ様、他の方を捜しましょう」

 直様起き上がったアサギは、唖然と見上げているハイの腕を引き上げると溢れてきた涙を拭う。
 
「私、勇者なのに、助けることが、出来ませんでした……」
「勇者だから、というのは間違っている。完璧な人間など、この世にはおらぬよ、アサギ。今はアサギが生きているそのことに感謝し、他のものを救出しよう。おいで、アサギ」

 大粒の涙を溢し、泣き出したアサギの手を引いてハイは上空を見上げる。

「アサギ、先程竜を見た。きっとそなたの兄のトビィが乗っている。さぁ、合流しよう」
「トビィ、お兄様……。そう、ですよね。今は他の皆を捜さなくては駄目ですよね。アレク様とトビィお兄様、ご無事だと信じていますから」
「うむ。……すまなかったな、アサギ。もっとそなたに剣術を教えてやればよかった。私が魔法ばかり優先した為に……。これを持ちなさい、アレクから預かった短剣を拾ったよ」

 アサギは短剣を受け取ると、腰に装着する。短剣と長剣が一本ずつ、心を静めるように深呼吸をする。

「勇者、私は勇者……。皆を助ける、助けるの……」

 呟くアサギに、ハイも使ったことの無い剣を構える。斬りかかる事は無理でも、防御には使えそうだった。

 
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