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徐々に森から飛び出してくるその魔物に、勇者達は言葉を失う。
というのも。
「ア、アサギちゃん・・・。私はちょっと・・・無理」
馬車を飛び出し呪文を放った二人の勇者、アサギとトモハルの姿を確認し、一行は護るべく徐々に二人へと近寄りつつあった。
呪文で二羽のレイブンを地上へ落下させた二人は、剣を引き抜いて身構えると、止めを刺すべく互いに反対方向へ走っていく。
「っ、あまり前に出ないでっ」
昨夜より降り続いた雨によって発生した霧が、不気味にその建物・・・城を包み込んでいる。
その城の中心、厳重に魔族達に警護された一室から、妙に高いトーンの声が漏れている。
けれども、警護している者達は顔色一つ変えずに、その内容を聞き取るわけでもなく、ただ神経を張り巡らしていた。
今、各星の魔王達がこの一室に集結しているのである。
部屋の外の武装し、張り詰めた空気に包まれている魔族達とは裏腹に、中で熱弁しているのは魔王ハイだった。
艶やかな長い黒髪を揺らめかせつつ、数日前まで淀んでいた瞳に、小さな光を甦らせてハイは口元に笑みを浮かべていた。
勇者アサギを魅入った男。
他の魔王達と連絡がつき、召集出来たのは数日後だった。
ガーベラは微かに苦笑いを見せると、小さく溜息を吐きつつ語る。
「ほんっと、似てるわよね二人って」
「似てるって? 誰と誰が?」
「だから、アサギとトランシス」
「そ?」
きょとんとして、トランシスは首を傾げる、腕を組んで深く考え込んだ。
「お互いの事を話す時とかそっくり。テンション超高いし、言うこと一緒。常に一緒に居る恋人同士って似てくるものなのかしらね」
毛先を指に巻きつけながら、ガーベラはアサギを思い出して小さく笑う。
そう、二人から惚気を聞かされているガーベラだからこそ、二人が似ている、と思えた。
「うん、まぁオレとアサギは、超仲良しらぶらぶカップルだから。似てて当然? だってアサギ可愛いだろー、超好き。見てると苛めたくなるよね、泣きそうになる顔がまたイイんだよね」
「や、そんなことはアサギ言わないけど・・・」
「思いっきり突き放しても、必死でついてくる姿がまたイイんだ。だから、更に酷いことしちゃうんだよねー、だって可愛いんだもん。人前でキスすると、パニクって暴れるのも可愛いしさ。夜も色々と可愛いから、ついつい」
「・・・アサギは12歳よ」
まぁ、確かに私も12歳なら店に出て娼婦としてやってたけど、とガーベラは頭で付け加える。
これ以上聞いても、またただの惚気だろう、ガーベラは長々とアサギについて語りだしたトランシスの口元を両手で塞いだ。
不服そうに顔を顰めるトランシス。
「いいわよ、トランシスとアサギがお互いの事をとっても好きなのは解ってるから」
「オレにはさ、アサギが必要なんだよね。居ないと生きていけないんだ、多分」
不意に真面目な顔つきでトランシスが何処か遠くを見て、呟く。
「アサギに居なくなられると、ホント困る。多分オレの正気が保てない」
「大丈夫よ、アサギは何処にも行かないから」
「・・・なら、いいけど」
居なくなるなら、縛り付けて殺す気だけどね。
ガーベラに聞こえない声量で、トランシスは呟いた。
※実はこの台詞、本編でも何度かトランシスは言うのです。
ガーベラとかトビィとかに。
でも、肝心のアサギには言った事がなかったのでしたー。
ので、二人は一緒に居られないのでしたー。
毛布に包まっている仲の良い姉妹、ベッドの上に寝転んで、何やら談話していた。
不意にドアがノックされる、1人が顔を上げてどうぞ、と小さく言った。
「入るよー、浅葱ちゃん、真昼ちゃん。ホットカモミールミルクティ作ったんだけど、寝る前にどうかな? あったまるよ」
片手でプレートを運んできた奈留に、浅葱はありがとう、と微笑む。
ゆっくりと奈留は2人のベッドの傍らのテーブルにお揃いのマグカップを置いた。
「奈留、邪魔、お姉ちゃんと一緒に居る時は邪魔しないで」
「ごめんごめん、でも、会話に飲み物はつき物じゃんね?」
苦笑いして2人の会話を聞く浅葱に、奈留は片目を瞑るとそのまま部屋を出ようとする。
不意に浅葱が声をかけた。
「あ、奈留」
「ん?」
「明日、例の札を出しておいてくれない? ちょっと強化したいから」
「え、札を? いいけど・・・」
「うん、よろしくね。おやすみ」
「おやすみ、浅葱ちゃん、真昼ちゃん」
奈留は訝しげに浅葱を見つめたが、浅葱は軽く微笑むばかりで何も表情からは感じ取れなかった。
静かにドアを閉めて、部屋から離れていく。
「さ、マビル。飲んで寝ようか」
「うん。あ、今日は何読んでくれる?」
マグカップに手を伸ばし、2人は同時に飲み始めた。
熱くもなく、温くもなく、丁度良い加減である。
カモミールの良い香りと、甘みのあるミルクが溶け込んで、非常に眠気を誘った。
「今日は人魚姫でも読もうか」
「人魚姫? 何それ、楽しみ!」
真昼は嬉しそうに一気に喉の奥に流し込むと、再び毛布に包まる。
真昼は姉の浅葱の声が好きだった、寝る前に様々な童話を読んでくれるのがとても嬉しかった。
真昼は地球で産まれていないので、こういった童話を知らず、最近面白いので浅葱に読んでもらっていた。
浅葱がゆっくりと飲み干すのを見届けてから、2人は一冊の本を手に取り、仲良く毛布に包まった。
子供向けの本なので、字も大きく絵が殆んど。
浅葱は妹に優しく読み聞かせ、大人しく真昼は姉の声に耳を傾け、必死で絵を目で追った。
暫くして本が閉じられる。
「おしまい、さ、寝よう」
「・・・あのさ」
本を傍らに置き、不機嫌そうな声の真昼に、浅葱は首を傾げる。
「変、今の物語。自分が死ぬって解ってるのなら、王子殺せばいいじゃん。だってさ、その人恋人じゃないんでしょ? 自分が助けたのに他の女を好きになってさ、すっごいムカツク。なんで殺さないの? あたしにはわかんない」
言い放った真昼に、浅葱は苦笑いした。
頭をあやす様に撫でながら、こう切り出す。
「トモハルを殺すのと、マビルが死ぬのと、どっちが良い?」
「え、トモハル殺すほうが良い。あたし、死にたくないもん」
即答した真昼に、頭を抱える浅葱、小さな溜息の後、哀しそうに笑う。
「そうかな、多分マビルはトモハルを殺せないと思うよ」
「えー、幾らお姉ちゃんの言い分でもそれは正しくないよ」
「そのうち、今の人魚姫の気持ちが、マビルにも解るよ」
「・・・」
反論しようとした真昼だが、浅葱があまりにも切なく笑っていたので、口篭った。
「とても、大事なの。大事で幸せで居て欲しいから、そのために自分が出来ることを考えるの。人魚姫も最初は王子様を殺そうとした、だって自分が死ななきゃいけないから。でも。眠って、あどけなく微かに微笑んでいる王子様の姿を見たら。・・・殺せないよね、無理だよね。だって人魚姫は王子様が大好きなんだもの。他の誰を選んでも、自分じゃなくても王子様が好きなんだもの。好きな人には幸せになってもらいたいでしょ? だから、人魚姫は自分が死ぬことなんて怖くないの。それは、愛する人を幸せに出来る自分に出来る最大のことなのだから。・・・マビルにも、きっとそれが解るよ」
「ただの自己犠牲だよ、それ」
「愛する人を殺すくらいなら、自分が死んだほうが良いよ」
「でも、それはっ」
浅葱がうとうとと瞬きを始め、すーっと眠りへと落ちていく。
おやすみ、マビル・・・。口元を動かした姉に、唇を噛む。
浅葱の前髪をそっと触って、真昼は頭を撫でた。
「でも、それは残された人の気持ちを考えてない行為だよ。人魚姫のお姉さん達は悲しんだよ。あたしは。あたしなら。2人が生きられる道を探すよ」
真昼は項垂れて、窓から差し込む微かな月の光を見つめた。
なんだろう、胸騒ぎがする。
隣で眠っている浅葱が、儚く海の泡となって消えていった人魚姫に見えてしまって。
「何これ、嫌な感じ」
真昼は浅葱に抱きつくと、無理やり瞳を閉じる。
ダメだよ、それはダメなんだよ。
残されたものが一番嘆き悲しむ行動なんだよ。
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