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毛布に包まっている仲の良い姉妹、ベッドの上に寝転んで、何やら談話していた。
不意にドアがノックされる、1人が顔を上げてどうぞ、と小さく言った。
「入るよー、浅葱ちゃん、真昼ちゃん。ホットカモミールミルクティ作ったんだけど、寝る前にどうかな? あったまるよ」
片手でプレートを運んできた奈留に、浅葱はありがとう、と微笑む。
ゆっくりと奈留は2人のベッドの傍らのテーブルにお揃いのマグカップを置いた。
「奈留、邪魔、お姉ちゃんと一緒に居る時は邪魔しないで」
「ごめんごめん、でも、会話に飲み物はつき物じゃんね?」
苦笑いして2人の会話を聞く浅葱に、奈留は片目を瞑るとそのまま部屋を出ようとする。
不意に浅葱が声をかけた。
「あ、奈留」
「ん?」
「明日、例の札を出しておいてくれない? ちょっと強化したいから」
「え、札を? いいけど・・・」
「うん、よろしくね。おやすみ」
「おやすみ、浅葱ちゃん、真昼ちゃん」
奈留は訝しげに浅葱を見つめたが、浅葱は軽く微笑むばかりで何も表情からは感じ取れなかった。
静かにドアを閉めて、部屋から離れていく。
「さ、マビル。飲んで寝ようか」
「うん。あ、今日は何読んでくれる?」
マグカップに手を伸ばし、2人は同時に飲み始めた。
熱くもなく、温くもなく、丁度良い加減である。
カモミールの良い香りと、甘みのあるミルクが溶け込んで、非常に眠気を誘った。
「今日は人魚姫でも読もうか」
「人魚姫? 何それ、楽しみ!」
真昼は嬉しそうに一気に喉の奥に流し込むと、再び毛布に包まる。
真昼は姉の浅葱の声が好きだった、寝る前に様々な童話を読んでくれるのがとても嬉しかった。
真昼は地球で産まれていないので、こういった童話を知らず、最近面白いので浅葱に読んでもらっていた。
浅葱がゆっくりと飲み干すのを見届けてから、2人は一冊の本を手に取り、仲良く毛布に包まった。
子供向けの本なので、字も大きく絵が殆んど。
浅葱は妹に優しく読み聞かせ、大人しく真昼は姉の声に耳を傾け、必死で絵を目で追った。
暫くして本が閉じられる。
「おしまい、さ、寝よう」
「・・・あのさ」
本を傍らに置き、不機嫌そうな声の真昼に、浅葱は首を傾げる。
「変、今の物語。自分が死ぬって解ってるのなら、王子殺せばいいじゃん。だってさ、その人恋人じゃないんでしょ? 自分が助けたのに他の女を好きになってさ、すっごいムカツク。なんで殺さないの? あたしにはわかんない」
言い放った真昼に、浅葱は苦笑いした。
頭をあやす様に撫でながら、こう切り出す。
「トモハルを殺すのと、マビルが死ぬのと、どっちが良い?」
「え、トモハル殺すほうが良い。あたし、死にたくないもん」
即答した真昼に、頭を抱える浅葱、小さな溜息の後、哀しそうに笑う。
「そうかな、多分マビルはトモハルを殺せないと思うよ」
「えー、幾らお姉ちゃんの言い分でもそれは正しくないよ」
「そのうち、今の人魚姫の気持ちが、マビルにも解るよ」
「・・・」
反論しようとした真昼だが、浅葱があまりにも切なく笑っていたので、口篭った。
「とても、大事なの。大事で幸せで居て欲しいから、そのために自分が出来ることを考えるの。人魚姫も最初は王子様を殺そうとした、だって自分が死ななきゃいけないから。でも。眠って、あどけなく微かに微笑んでいる王子様の姿を見たら。・・・殺せないよね、無理だよね。だって人魚姫は王子様が大好きなんだもの。他の誰を選んでも、自分じゃなくても王子様が好きなんだもの。好きな人には幸せになってもらいたいでしょ? だから、人魚姫は自分が死ぬことなんて怖くないの。それは、愛する人を幸せに出来る自分に出来る最大のことなのだから。・・・マビルにも、きっとそれが解るよ」
「ただの自己犠牲だよ、それ」
「愛する人を殺すくらいなら、自分が死んだほうが良いよ」
「でも、それはっ」
浅葱がうとうとと瞬きを始め、すーっと眠りへと落ちていく。
おやすみ、マビル・・・。口元を動かした姉に、唇を噛む。
浅葱の前髪をそっと触って、真昼は頭を撫でた。
「でも、それは残された人の気持ちを考えてない行為だよ。人魚姫のお姉さん達は悲しんだよ。あたしは。あたしなら。2人が生きられる道を探すよ」
真昼は項垂れて、窓から差し込む微かな月の光を見つめた。
なんだろう、胸騒ぎがする。
隣で眠っている浅葱が、儚く海の泡となって消えていった人魚姫に見えてしまって。
「何これ、嫌な感じ」
真昼は浅葱に抱きつくと、無理やり瞳を閉じる。
ダメだよ、それはダメなんだよ。
残されたものが一番嘆き悲しむ行動なんだよ。
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