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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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マダーニとて、それは薄々思っていたことだけれど、考えても解らなかった、解るわけがなかった。
苦笑い、小さく溜息、困ったように妹のミシアを見つめたが、俯いたままのミシア。
アサギが再度口を開く。


「2星からはムーンさんと、サマルトさん。3星からはアーサーさん。4星からはマダーニさん達。勇者がもう必要ないから来なかった、とかでしょうか。それならそれでよいと思います」
「・・・それは違うはね。1星の魔王も4星に来ているらしいから。魔王の手中に入ってしまって身動きが取れない、と考える方が自然かも。で、石なんだけど、『世界が混沌の危機に陥った時、伝説の勇者が石に選ばれ世界に光をもたらす』っていう言い伝えがあるのね。それからも解る様に1星にも危機が迫っているだろうし、石は多分何処にあろうと、勇者を発見したら反応して飛んでくるのだと思うわ。憶測だけどね。で、何故勇者が中途半端に6人なのかっていうのは・・・私にも解らないわね。4星クレオの勇者は代々男女一人っていう言い伝えなら何かの本で読んだことがあるかな」

マダーニは皆の表情を伺うが、それ以上の答えは出ない様子である。

「実際私もクレオ以外の星の住人に会うのは初めてだし」
「・・・私は以前ムーン殿、サマルト殿にもお会いしておりますね。ハンニバルとチュザーレは古来より交流があったと聞いております。まぁ、魔王が活発に動いていないときでしたが。それでネロの話ですが。魔王が現れるより以前に、勇者が存在していた地ですね。ですがその勇者は魔王リュウによって破れ、彼の愛する姫君も亡くなられたと聞いております。主要国は『カエサル』。今から何百年も前の話です。以上の点を踏まえまして私の勝手な憶測でしかありませんが・・・今回二人現れた勇者と言うのは、過去において魔王に敗れた勇者と、その姫君の生まれ変わりなのかもしれません」

アーサーが口を開いた、特に感情を込めずに淡々と語りだしたが内容はあまりにも衝撃的である。
勇者全員が声を揃えて「え」と叫んだが、それもそのはずだろう。

「え、今なんて言った!? 勇者が亡くなったって!?」

ミノルが立ち上がりアーサーに掴みかかろうとする、それをトモハルが制した。
全員動揺したが、一番大きく動揺したのは他でもないミノルだろう、1星ネロの勇者は現在ミノルとユキなのだから。

「勇者が死ぬなんて聞いたことないっ! 何とかなるんじゃないのか!?」
「勇者は人間です、人間は何れ死にます。死なない保障は何処にもありません」
「はー!? 俺は帰るっ! 今すぐ地球に帰るっ! 冗談じゃないっ」

青褪めた後に憤慨して真っ赤になったミノルは、ダイキとケンイチに宥められつつも、必死にアーサーに掴みかかっていた。
手に取るように解るミノルの行動、後悔の波、落ち込む代わりに他人に当り散らす・・・トモハルは溜息を吐く。

「あの、確認しますね。ネロの魔王が『リュウ』で、ハンニバルの魔王が『ハイ・ラゥ・シュリップ』、チュザーレの魔王が『ミラボー』で、ええとクレオの魔王は?」

アサギが小声でマダーニに詰め寄って聞いた、トモハルとユキが密かに聞き耳を立てる。

「魔王アレク。高貴なる魔族の長、風の噂によると美形の男らしいわよ。噂では、ね」

すんなりとアサギの問いに返答するマダーニ、口元は勝気に微笑んでいた。
教えたわけでもないのに、会話から魔王の名を記憶し完璧に把握している。
積極的に話に加わるのは、最初に選ばれた責任感からなのか、それとも。
マダーニはユキとトモハルと三人で会話を始めたアサギを、探るように見つめ続ける。

「俺とアサギの敵がアレク、って男なわけだ」
「そうだね。どんな人だろうね」
「あ、アサギちゃん。私の敵はリュウって人だよね。怖いかなぁ・・・」

敵について語り始めた3人と、暴れるミノルを必死で押さえつけているダイキ、ケンイチ。
ミノルは恨めしそうに唇を噛み締めながら、元凶になったアサギを睨みつけていた。

「もっと他に情報ないの? 仲間の事も知りたいしさ」

トモハルがマダーニにそう告げる、どうやら勇者間では考えるのが限界に達したらしい。
照れくさそうにマダーニは、トモハルの頭を撫でる。

「じゃあ、折角なので私達から話しましょうか。私はマダーニ、そしてミシアが妹」

しなやかに流れる紫の髪を軽く掻き揚げながら、マダーニはそっと瞳を閉じる。

「辛気臭い話でごめんね」

マダーニとミシア、二人は当然ここ、4星クレオに存在する二番目に大きな都市ドゥルモで生活していた。
確か産まれは違うのだが、物心ついていなかった為記憶がない。
父はおらず、母と2人姉妹の3人暮らし、父の話は母から聞いた記憶もなく生きているのか死んでいるのか、詳細は不明のままだった。
母は娘達から見ても自慢の美人で明るく、逞しい人だった。
少々乱暴な物言いで、近所の同じ年頃の娘を持つお堅い母親達は、そんな自由奔放な母の事を悪く言っていたようだが、それが姉妹には滑稽に思えた。
きっと羨ましいのだ、自分達には出来ないことだから、皮肉を言っているだけだろう。
人間は自分自身の負けを素直に認められない生き物だということを、微かに感じ取る。
そんな母の職業はなんだったかというと、踊り子なのか歌い手なのか、はたまた傭兵なのか占い師なのか、多彩な不思議な人だった。
数多の顔を持つ母親に憧れ、姉妹は揃って羨望した。
故に自分達も将来はそうなるべく、母親の真似をすることにしたのである。
マダーニは踊りながら歌を、ミシアは占いを憶え始める。
せめて二人で一つの、二人揃えば母と同等の事が出来るようになろうと、それぞれ違う事を憶え始めた。
姉妹でありながら、まるで双子のように顔の作りが似た二人は自分達の役柄を分担し始める。
姉のマダーニが派手で豪快、大雑把な盛り上げ役を。
妹のミシアが清楚で神秘的、御淑やかな癒し役を。
幸い最高の先生は母親なのだから、厳しく辛く、それでも全力で教える母に、必死で二人ともついていった。
今覚えばその時何故母が『傭兵』までもやっていたのか、疑問に思うべきだった。
家計が苦しいわけではない、呪文が使えたのも、剣が使いこなせれたのも、全てはある目的の為であったのだが、そんなこと姉妹は知らなかった。
母の七光りで舞台に立ったマダーニも、天性の度胸、持ち前の愛嬌、そして母譲りの豊満な身体つきに、男性客を虜にする。
母と違って野生的で粗野な部分もあるが、それがまた彼女の魅力となる。
同じ踊り手は2人といらない。
ミシアのほうも、そこそこ仕事は上場で持ち前の器用さから、服の仕立て屋を開いたり、家計をやりくりし、家族3人で満足な生活をしていたのである。
そんな生活が崩れたのが約1年前のこと。
新年を向かえ、世間が騒ぎたち、人々が裕福な時期。
連日の疲れから、ミシアがマダーニよりも先に心身ともに疲れ果てて自宅へ帰宅した。
月が雲隠れをし、露天の店では明かりが足りずに満足に占いができなくなった為、多少早目に切り上げたその日。
疲れた身体に鞭打って、ミシアは3人で購入した高級茶を煎れた、1人で暖かな茶を啜る。

「マダーニ姉さんは朝方帰宅だろうから・・・母さんは今日は何やってるのかしら。そういえば予定を聞いてなかった」

姉妹が立派に成長したので、母は最近は家事に精を出していたはずだが、今日に限って家にいない。
古くからの友人と呑みに行っているのだろうか?
近所の子供に魔法の指導もしていたけれど、こんな夜分遅くまでそんなことはしないだろう。
ミシアは急に焦りを感じて、席を立つ、母親の部屋の前へと歩く。
・・・ドアが微かに開いたままだった。
几帳面な母は、決してドアを開いて出掛けることはない、ので、もしかして帰宅していたのだろうか、とミシアは首を傾げた。
いや、帰宅していたとしても、部屋の中にいるのならドアが閉まっているはずだ。
部屋の中から微かな光の漏れ、ミシアは乾いた唇を舌で湿らせた。

「誰? 誰かいるの?」

緊張し、震える手でそっち近づくとミシアは右手で壁に立てかけてあった箒を手にすると勢い良くドアを開く。
両の手で箒を硬く握り締めて振りかぶるが、中には何もない、誰もいない。
消えかけの蝋燭が不気味に揺らめいている。
安堵したのもつかの間、ミシアは机の上の光る球体・・・水晶球に釘付けになった。
眩暈がする、足が竦む、なぜならば母は絶対に水晶球を置いて出掛けたりはしない。
急速に顔が青褪めるのがわかった、別のものがミシアの視界に入る。
水晶の隣にタロットカード、きちんと重ねられていたそれを見つめ、唖然とミシアはその場に座り込んだ。
間違いない、おかしい、異常な光景だ。
ミシアは震える足で足で立ち上がると何か手がかりを掴むべく、部屋を捜索する。
ミシアの胸に渦巻く小さな黒い影が、焦りとともに広がっていく。
逸る気持ちで机の引き出しを盛大に引き抜き、引っ掻き回し、クローゼットを開いた。

「ない」

母の傭兵時の戦闘服が、一式丸々存在しない。
防具と、紫水晶が先端に施された杖がない。
誰かに仕事を依頼されたのか? いや、そんな話は聞いてないし、何よりあの机の上の水晶とタロットカードは何だ。
ミシアは水晶とタロットを抱き締めて、姉を捜しに街へと飛び出す。
何処にいるか分からなかった、それでも行きそうな酒場を渡り歩いて姉の姿を追いかける。

「マダーニ姉さんっ」
「ミシア!? どしたの、その格好」

部屋履きのまま息を切らせて走ってきた妹の姿を視界に入れるなり、マダーニは手にしていたワイングラスを乱暴にテーブルに置くと、共に飲んでいた仲間に会釈を軽くし、輪を抜ける。
後ろから悲痛な仲間達の声が聞こえてきたが、それどころではなさそうだ。
あの妹の、こんな姿を見ては一大事にしか取れない。
姉妹揃って無言で自宅へ帰り、母の部屋へと。

「母さんの傭兵時の服がないの。それから、机の上に水晶とタロット」

怯えて微かに涙交じりの声の妹に代わり、マダーニが家の中を捜索した、誰か来た形跡はないのか。
母の部屋からは何も見つからなかった。

「落ち着いて考えよう。ここ最近何か母さんに変わったことあった?」
「私、占ってみようと思うの母さんの行方。落ち着いてきたし、なんとか占えそうだから」
「よし、無理ない程度にね。私は思い出してみるからさ」

ミシアはマダーニに御茶を煎れ、そのまま自室に消えた。
項垂れつつマダーニは茶を啜る、瞳を閉じて天井へと顔を向けた。

「朝、母さんに『いってらっしゃい』と声をかけられた。そう、夕飯は遅くなるけど3人で食べましょうね、って言われた。昨日、近所の人に魔法を教えてた。一昨日、一昨日・・・そういえば、手紙が来てた・・・?」

椅子を倒して勢い良く母の部屋へと戻り、隈なく手紙を探す。
が、案の定何の収穫もないまま再び部屋を後にすると、茶を啜った。
すっかり冷え切ってしまっている。

「姉さん、出たわ。水晶から、母さんが知らない男の人と会話してる姿が見えたの。タロットからは『過去の過ち、愚かな行動』なんて意味が出てるんだけど・・・」
「その男の顔、憶えてな。絶対後で役に立つ」

自室から出てきたミシアの占い結果、それを聞いてから2人は向かい合って椅子に座り項垂れる。
唇を噛み締めて2人はその場で浅い眠りについた。
朝方、名前を呼ぶ声が聞こえたので、2人はぼんやりと起き上がる。
ドアを叩く音、2人は慌てて立ち上がると勢い良くドアを開く。

「あぁ、よかった留守かと」

黒い服を着た数人の男達に眉を顰める姉妹、一礼をして男達は何かを運んできた。
母は、戻ってきた、死体となって。
旅の商人が道中で見つけ、顔の広い母を知っていた為にこうして届けられたらしい。

「何処で母を?」
「シポラからの途中の道端に、うつ伏せで倒れていたそうですが」

質問しながら、マダーニはミシアに例の男はこの中にいるかどうかを探らせる、が、ミシアは小さく首を横に振った。
火葬の儀が伝わっているこの地では、遺体を街の一角へと運び香草、木の実、遺品を亡骸の周りに敷き詰めて一気に焼く。
燃え上がる炎を見つめながら二人の姉妹は、手を握り締める。
一瞬、妹の瞳が大きく見開かれたのをマダーニは見逃さなかった。
天へと上る火と煙、姉妹は別れの唄を紡ぐ。
姉妹は静まり返った自宅へと戻ったが、お茶を煎れる気にもならずぼんやりと虚無の瞳で天井を見つめる。
やがてミシアが力なく立ち上がり、自室へと引きこもったが、声をかけることもできずその動作を目で追うばかり。
自分も部屋へと戻ろうか、そう情けなく呟いてマダーニが椅子を引いた時、微かな音と共にミシアが部屋から出てきて徐に紙を差し出した。
怪訝にそれを受け取る。

『シャルマ・ドライ・レイジ殿
お久しぶりで御座います、お元気だと便りで伺っております。
さて、今回はお願いがありましてこうして連絡を取らさせていただきました。そろそろ返していただきたいのです、もともとアレは私達の主人のものでしてあなたの所有物ではありません。何かと言いたい事もあるでしょうから、二日後村の外れの墓地にてお待ちいたしております』

「・・・ミシア、何これ?」

震える手で読み終えたマダーニは乾いた声を出した。
シャルマとは、母の名だ。

「母さんからさっきこれを受け取ったの、言霊として。それを文面にしてみたのだけど」
「この間来てた手紙の内容、かな」
「あともう一つ。・・・勇者様を捜して共に居なさい、って」

ミシアが困惑気味にそう吐き出す。
マダーニとて、瞳を白黒させてすっとんきょうな声を上げた。

「大掛かりな話しになってきたね。勇者? 伝説の? なんでまた?」
「母さんがそう言ったの、だから、私は行くわよ」
「いや、私も行くけどさ・・・。勇者様って、何処にいるのさ」
「勇者は石に導かれし者、まず最初に『神聖城クリストバル』へ訪れると言われてるの。だからそこへ行きましょう」
「よしっ。早速行動を開始しようか!」

2人は溜め込んだ金を全額懐に仕舞い込み、家の鍵を閉めて旅立ちの用意をする。
控え目に旅の馬車の待合室で、ミシアがマダーニの服を引っ張った。
何か言いたいことがあるらしい、言葉を飲み込むべきか、吐き出すべきか困惑気味な様子だ。
優しくマダーニはミシアの髪を撫でる。

「言ってごらん。2人で共有しようよ。今度の秘密は何?」
「母さんは、父さんを助けに行ったらしいの。生きてるみたい」
「じゃ、父さん捜さないとね。・・・辛気臭い顔しない、前を向いていきまっしょいっ」

長い旅路を得て、ようやく姉妹は神聖城クリストバルへと到着した。
そこで初めて先に同じように勇者と出会うべく、そこで待っていたライアン、アリナ、クラフト、ブジャタの4人に出会ったのだという。

「で、現在に至る、と。ごめんね、暗くってさー。あ、気は遣わなくていいからね、遣われると困るし」

どう声をかけてよいのか分からずに沈黙したままの一同に、マダーニがあはは、と大声で笑った。

「私達は。父さんの居所と母さんの死の真相が知りたいです。それから手紙に書かれていた『返すもの』ですが、全く心当たりがなくて」
「まぁ、あれだよね。勇者と共にってことは、なんだ、うちらの追っているものは魔王の手先である可能性もあるよね」

深い溜息を吐くミシア、爪を噛むマダーニ。
マダーニは視線をアリナにうつした。
きょとん、と首を傾げてアリナは隣に座り込んでいたクラフトを突く。
どうやら代わりに説明しろ、ということらしい。
クラフトは項垂れながら、軽くお辞儀をした。

「えー・・・あまり人と話すことが得意ではありませんが・・・ご了承を。我々は」

話し始めてから、急にアリナがクラフトを勢い良く引っ張る。
ごはっ、と小さく叫んでクラフトは後ろに転がった。

「やっぱ、ボクが話すー。えっと、ボクがアリナね。で、これがクラフト、ボクの幼馴染。で、ブジャタが保護者。よろしく。他、話すこと何もなしっ」

自身の事を明らかにしたくないのだろうか、あまりにも簡単すぎる自己紹介だった。
え、それだけ? とトモハルが呟く。
頭を掻きながら再度アリナが口を開いた。

「あー、ボクが打撃系の戦闘家で、クラフトが回復呪文を得意とする男で、ブジャタが攻撃補助呪文が得意なじーちゃん。悪いけどこの中で一番強いのはボクだと思うんだ」
「で、アリナさんは何故勇者を捜してたわけ?」

トモハルの突っ込みに、アリナがたじろぐ。

「・・・そうストレートに聞かれると困るんだー。・・・暇潰しっていうか、退屈しのぎっていうか、面白いこと捜してたらさ、こうなっちゃったんだよね」
「なんですか、その言い草はっ」

苛立ちながら聞いていたムーンが、アリナの胸座を掴みかかる勢いで馬車の中で立ち上がる。
それもそうだろう、ムーンは故郷を滅ぼされ、魔王を倒すべく勇者を捜していたのだから。
安易なただの気まぐれで共にしているアリナに、嫌悪感を覚えても仕方がない。

「あー、ごめんごめん。勘に触ったのなら謝るよ」

長くふわふわな亜麻色の髪を無造作に掻きあげ、情熱的な真紅の瞳で、申し訳なさそうにムーンに謝るアリナ。
後方でクラフトとブジャタが平謝りをしている。

「じゃ、ボクの好きなものでも。可愛い女の子と、同等に戦ってくれる男、かな」

言うなりアサギのほうを向いて、嬉しそうに手を振るアリナ。
こんないい加減な人と旅をしなきゃいけないなんてっ、と憤慨しながらぶつぶつ小声で身体を震わせるムーンに、サマルトが宥めに入った。

「ライアンは、軍国ジョリロシャの宮廷騎士団第二部隊隊長、だったらしいわ」

馬車を操っているライアンに代わり、マダーニが紹介を始める。

「その地位を捨てて、勇者を捜してここへ来たみたいね」

マダーニの説明を聞いて、大きく頷くライアン、何故そのような行動に出たのかはマダーニも知らない。
まぁ、話したところでどうにもならないしな、とライアンが零したのをサマルトが聞き取った。
彼にも何か事情があるようだったので、それ以上詮索しなかった。
どうやら一通り4星クレオの者達の紹介が終わったので、アーサーが軽く周りを見渡しながら右手を上げた。

「では、次は私が。まずは3星チュザーレの現状をお伝えしましょう。見た限り、聞いた限り。クレオは安全で羨ましく思いますね、本当に魔王の侵略を受けているのかすら疑問です」

口調に微かな怒気が含まれていたのを、大体の人間が感じ取った、がアーサーの立場を尊重し言葉を飲み込む。

「チュザーレの魔王の名はミラボー。闇の奥底欲望渦巻く破壊と混沌の邪悪なモノ、大の男でもその姿に恐怖に怯える・・・そんなモノに支配されつつあります、チュザーレは、ね」

アーサーはもともと、宮廷に使えてきた家系なのだが、それは魔導ではなく剣技のほうであった。
父親、兄、共に宮廷騎士である。
が、アーサーは自分の進むべき路は騎士ではなく魔導であると幼い頃から解っており、父親の反対を受けながらも必死に勤勉に励み、異例の若さで『賢者』の称号を得た。
その称号を得たことで、父親からも騎士の道を外れたことを許されたのである。
騎士の道を選ぶと何かと兄と比較され、面倒でもあっただろうし、それならば違う道で共に褒め称えられたほうが何かと気分も良い、そう思って必死になった。
賢者の称号は魔導学校を一定の成績で卒業し、卒業後の社会への貢献及び指示で魔導協会が認めた者に与えられる。
アーサーの場合、学校始まって依頼の優秀な成績、そして卒論の文献、禁呪の解読が認められ得ることが出来た。
現在、アーサーと同じ歳で賢者の称号を得た少女がいた。
幼馴染のナスカである。
彼女の場合は両親が共に位の高い宮廷魔導師であったので、期待も高く、そうなる道が最初から決まっていたように思えた。
どれだけ有能な人材が生まれてこようとも、ミラボー率いる魔王軍の前には歯が立たず、それでも人間たちは懸命に戦い続ける。
やがて、ミラボーが人間たちの崇拝している、精霊神エアリーを祀っている神殿プロセインを攻め落とそうとしていることが判明し、なんとしても死守すべきだという結論に達した。
精神的に人間達を闇の底へと葬り去るつもりなのだろうか、人間たちの崇拝している神が如何に無力か思い知らせるために、魔王軍はそこを標的としたのだろう。
実際、精神的打撃を受ける人間が世界に溢れかえることも目に見えていた。
確かに、精霊神に祈りを捧げてきたとしても、全く意味を成さなかった。
奇跡が起こってきたわけではなく、ただ心の拠り所でしかない。
それでも、阻止するべく精鋭部隊を派遣する。
無論、その中にはアーサーの顔馴染みの者も数名いた。
幼馴染のナスカを筆頭に、口喧嘩相手の武術家ココ、何処か哀愁漂う剣士リンに、滅ぼされた名も無き村の唯一の生き残りメアリ。
異性の友人がアーサーに多かったのは、ナスカと共に行動していたからだった。
同姓からはその地位や正確ゆえに、敬遠されていたようだ。
その派遣をアーサーは最終的に反対としていたのだが、その願いは虚しく、仲間達は城を出て行く。
それから暫くして最初の伝令が戻ってきたかと思えば、『全滅』という内容だった。
静まり返った王宮の一室で、アーサーの声が無常に響く。

「生存者はっ」
「ですから、全滅です。恐らく」

少数で編成された伝令部隊、本体の部隊とは遠く離れて戦況を見守っていた。
幾日も続く爆音、立ち上る煙り、焼き払われる森、やがて賢者ナスカが所持していた光の玉が、空中で破裂したのと同時に、伝令部隊は諦めて引き返してきたらしい。
光の玉は『逃げろ』の意味、窮地に立たされるまで使用しない筈の代物。
それが使われたという事は・・・言わずも。
故にアーサーは1人、勇者を捜すことを決意した。
城の者も、もはや諦めつつある空気で、1人湧き上がる怒りを胸に、最終的に望みを『勇者』にかけた。
御伽噺の、勇者。
もっと早くに勇者なら駆けつけて欲しかった。
何故、勇者は自ら危機になったら現れないのか。
何故、迎えに行かなければいけないのか。 

「・・・」

沈黙するアーサー、言葉をかけられる者もおらず、気まず空気が一行を覆い尽くす。

「確かに、そうなのよね。どうして勇者を探しに行かなきゃいけないのかしら。勇者の器であるべき人物が、現われてもいいと思う」
「はい。捜しに行くだけで時間が消費されてしまいます。まぁ・・・今回は」

マダーニの素直に出た台詞に、アーサーもようやく軽い笑みを浮かべた。
アサギを見つめる。
不意に視線が交わりアサギは軽く首を傾げた。

「アサギに出会えて、安堵しました。アサギは間違いなく大いなる力を秘めている。確かに今はまだ小さな小さな力ですが、アサギ自身も気づいていないでしょうが私には解ります。本来ならば神憑り的な能力を秘めています」
「え、そうですか?」
「はい。ですから、私はアサギに出逢い、希望を持ちました。さぁ、早く能力の開花を急ぎましょうか。必ず私が力になります」

困惑気味に俯くアサギに、アーサーはひたすら優しく微笑み続ける。
・・・ただ単に自分好みの女の子だからじゃないのか、コイツ。
と、数人が思ったのだがあえて誰も口にしなかった。
苦笑いしつつも確かにそろそろ魔法の練習を始めておいたほうが良さそうだ。
マダーニは先程受け取った魔道書を、それぞれ勇者達に配る。

「ええと、サマルト君とムーンちゃん。あなた達の自己紹介は・・・」
「手短に話すと、オレの城以外はハンニバルも壊滅状態。ハイがこちらの星に来ているのなら、少しは時間稼ぎが出来るな。シーザー城王子・サマルトと・・・」
「ジャンヌ城王女。ムーンです。よろしくお願いいたします。真空の魔法及び攻撃補助、回復魔法が得意です」

2人は揃って頭を下げる、王子だろうが王女だろうが、この際関係ない。

「ムーンちゃんはかなりの魔法の達人っぽいわよね。さ、勇者ちゃん達に担当をつけるわね」

魔道書を物珍しそうに眺めている勇者達を一瞥し、マダーニは師匠となるべく人物達に目をうつす。

「あー、マダーニ、マダーニ、ボク、アサギの組み手相手でヨロシク。主に寝技の」
「・・・ちょっと黙ってアリナ」

流石に頬をひくつかせ、マダーニはこめかみを押さえて低く呻いた。
ちぇー、と、不貞腐れて腹いせにクラフトに殴りかかるアリナ。

「ミノルちゃんにはサマルト君」

うげー、と、双方から声が上がり、一発触発お互い反発しあったまま隣同士になる。
2人とも青筋立てながら、魔道書を開いた。

「ユキちゃんには、ムーンちゃん」

よろしくね、よろしくお願いします、と穏やかな2人の挨拶。
ロースペースの2人は、仲良く魔道書を開いた。

「ケンイチ君にはクラフトで」

穏やかに微笑んで近寄ってきたクラフトに、緊張気味にケンイチはお辞儀をした。
慌てふためきながら、ケンイチは魔道書を開いた。

「ダイキ君にミシアで」

優しく微笑んで近寄ってきたミシアに、戸惑い気味にダイキは会釈をした。
並んで魔道書を開いた。

「トモハル君には、ブジャタかしらね」

高齢の為、トモハルが移動した。
丁寧にお辞儀を述べ、魔道書を開き、早速読みふける。

「で、アサギちゃんが私ね。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」

アサギに教える前に、マダーニは手を叩いて注目を集め、意図を語った。

「現状では、勇者ちゃん達はあまりに無力。各自戦闘に入ったら担当の勇者を全力で護って。最悪身代わり。他の勇者の面倒はみないこと、責任持って自分の魔法を勇者に全部伝授する勢いで。・・・よいよね、それで」

マダーニの重い言葉に、それでも一行は頷く。
同意を得て、マダーニは担当をつけなかったアリナとアーサー、ライアンに向き直った。

「そちらは馬車操作をよろしく。各自、どんな時も全力で」

それが行動の合図だった、一斉に各々やるべきことを始める。
馬車の中では魔道書を読み、最初の戦闘で魔法を使わせてみる予定だった。
初歩の魔法は身を護るのに役に立つ、剣の練習が馬車の中では出来ないので、今は魔法が優先だ。
無論電気がないので暗くなったら就寝になる、代わりに早朝は地球では起きることのなかった時間に起きて、再び魔道書に没頭した。

「洞窟までは馬車だと二日ほどでしたかのう。洞窟を抜けてからも結界が張ってあるのじゃ、最初の戦闘はまだ先じゃよ。慌てずとも良い」

ブジャタにそう言われ、軽く半泣きのケンイチはぎこちなく頷いた。
異世界へ来てから、二日目の朝の光景である。
馬車の揺れで昨晩は上手く寝られず、些か勇者達は寝不足気味であり、塩辛い干し肉にビスケット、そして水を毎食食べ、ストレスが溜まっていた。
見かねて昼前馬車を降り、剣の練習にも励む。
適度な運動でストレスを発散し、勇者を飽きさせない為に。
ただ、ここへ来て明確に差が出てしまった。
勇者の要と推測されたアサギは二日目の昼過ぎ、予想通りに火炎呪文の初歩を習得、立て続けに氷水呪文、電雷呪文、爆発呪文、真空呪文を一気に成功させた。
唖然と見守る勇者はもちろん、一行。
まさかここまで幅広い属性の魔法を覚えてしまうとは。
人には得手不得手があるというのに、この勇者は・・・。
更に、「聖光」と呼ばれる邪悪なものにのみ有効な光の魔法を会得しつつあった。
マダーニすら目を丸くして、絶句してしまう。
この子・・・何?
あまりの急な対応ぶりに、背筋を汗が伝った。
勇者とは、そういうものなのか?
しかし、僅か一日で魔法を数種類覚えた人間の話など、聞いたことがなかった。
また、アサギは剣技のほうでも身軽に剣を使いこなしている。
剣はライアンに全員の勇者が習ったのだが、明らかに秀でていた。
三日目の朝になって、トモハル、ダイキが電雷の初歩呪文を取得、ユキが初歩の回復呪文を取得、辛うじてミノルが電雷の初歩呪文をおぼろげに習得した。
ケンイチのみが、焦っているのか芽が出てこない。
気まずそうにムーンが声をかける。

「あの、もしかして。・・・私達の仲間、ロシアが、ケンイチに似ているのです。彼は魔法が使いこなせず、代わりに大剣を振るっていました。ひょっとして、ケンイチも剣に絶大な能力を持っているのかもしれません」

ケンイチが勇者である星の、死んだロシアという名の王子。
ムーンは軽く自嘲気味にそう語る。
ロシアと同質ならば、魔法が使えない・・・ので、気に病むことはない、といいたかったらしい。
それでも、ケンイチは懸命に覚えようと必死であった。
やはり、1人だけ魔法が使えないという劣等感に焦りを感じずにはいられない。
泣き出したいのを堪えながら、震える手でケンイチは魔道書を眺め続ける。

「っ!? みんな、武器を手に取れっ」

急に大声を出すライアンに、馬車の中のメンバーは硬直した。
その声色から何かしら敵に遭遇したように思えるのだが、まさか、と口元から言葉が零れた。
神聖城クリストバルまでの道のりへは、結界が張られているはずなのだ。
故に、魔物には襲われないはずだった、しかし。

「勇者を護れ、馬車から極力出るなっ!」

ライアンの姿が消える。
先陣切って、敵に攻撃を加えるべく降りたようだった。
代わりにアーサーが手綱を握っている。
慌ててトモハルが伝説の剣を手にした、手が震えて上手く握れない。
率先してマダーニ、アリナ、サマルト、ムーンが馬車から飛び出して行く。
残った者達はそっと隙間から様子を伺った。
万が一に備え、飛び出したいのを堪え、ミシアとクラフト、ブジャタが勇者の警護に当たっている。

「で、でかいカラス!!」

隙間から見えた敵を、ミノルはそう表現した。
隣でクラフトが詠唱を始めつつ、返答する。

「違います、レイブンといいます。体長約二メートル、地獄の使い魔と呼ばれる肉食。鋭い爪は一掻きで肉を捥ぎ取ります」
「・・・」

淡々とした敵の説明に、唖然とミノルはクラフトを見上げた。

「・・・馬車に簡易な防御壁を張りました、数回の攻撃ならこれで凌げます。あとは早急に一掃しましょうか」

言うなり、クラフトは馬車を降りていった。
残された勇者達は、呆然と座り込んでいる。
覗き見をしたが、とても今出て行ける状態ではなかった。
まだ、この世界へ来て三日目、そうだ、戦えなくて当然だ。
・・・それでいいのか、勇者なのに。
・・・それでいいんだよ、死んだら元も子もないのだから。
不意にアサギが剣を手に取る、その様子を見つめていたトモハルが、軽く微笑んで立ち上がった。

「行こう、アサギ。大丈夫だ」
「うん。私、行く」

他の勇者が止めるのも聞かずに、アサギとトモハルは馬車から飛び出す。

「ミシア殿、2人の守護を! 呪文の用意は良いですかな!?」
「お任せください、ブジャタさん」

飛び出した勇者を追うことなく、馬車からミシアとブジャタは呪文の詠唱に入る。
長距離になるが、先に勇者に近づく敵を排除するつもりだった。
駆け出した2人の勇者、死骸が散乱する道を、顔を顰めながら歩く。
状況は無論こちらが優勢だが、まだ数羽空中にレイブンが漂っていた。
アサギは剣を空に掲げ呪文の詠唱に入る。
アサギと背を合わせ、トモハルも詠唱に入った。
瞬間、その場に居た者全員が2人の勇者を目にした。
クレオの勇者、男女で対の勇者。

「天より来たれ、我の手中に」
「その裁きの雷で、我の敵を貫きたまえ」

憶え立ての魔法を同時に詠唱し、2人は互いの前方に居たレイブン目掛けて魔法を同時に放った。

「雷撃っ!」

声が揃う、二つの雷がレイブン目掛けて天から一直線に落下した。
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