別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
暗黒の中に、微かに浮かび上がる建物。
昨夜より降り続いた雨によって発生した霧が、不気味にその建物・・・城を包み込んでいる。
その城の中心、厳重に魔族達に警護された一室から、妙に高いトーンの声が漏れている。
けれども、警護している者達は顔色一つ変えずに、その内容を聞き取るわけでもなく、ただ神経を張り巡らしていた。
今、各星の魔王達がこの一室に集結しているのである。
部屋の外の武装し、張り詰めた空気に包まれている魔族達とは裏腹に、中で熱弁しているのは魔王ハイだった。
艶やかな長い黒髪を揺らめかせつつ、数日前まで淀んでいた瞳に、小さな光を甦らせてハイは口元に笑みを浮かべていた。
勇者アサギを魅入った男。
他の魔王達と連絡がつき、召集出来たのは数日後だった。
昨夜より降り続いた雨によって発生した霧が、不気味にその建物・・・城を包み込んでいる。
その城の中心、厳重に魔族達に警護された一室から、妙に高いトーンの声が漏れている。
けれども、警護している者達は顔色一つ変えずに、その内容を聞き取るわけでもなく、ただ神経を張り巡らしていた。
今、各星の魔王達がこの一室に集結しているのである。
部屋の外の武装し、張り詰めた空気に包まれている魔族達とは裏腹に、中で熱弁しているのは魔王ハイだった。
艶やかな長い黒髪を揺らめかせつつ、数日前まで淀んでいた瞳に、小さな光を甦らせてハイは口元に笑みを浮かべていた。
勇者アサギを魅入った男。
他の魔王達と連絡がつき、召集出来たのは数日後だった。
「というわけだ、私はどうしても、あの娘が欲しい」
他の魔王達にアサギの事を話していたようだ、一気に語ったのか軽く呼吸が荒い。
「・・・ふーん」
流れる髪を鬱陶しそうにかき上げながら、もう1人の黒髪の男が気だるそうに返事をした。
頭部から突き出た二本の角が印象的だ、この男が1星ネロの魔王・リュウ。
聞いていたのかいないのか、リュウは手元に持っている皿から、何かを摘んで口元に運んだ。
軽く瞳を閉じてから、嬉しそうに微笑んで、再度摘んで口に運ぶ。
中身は苺である、リュウは苺が大好物だった。
全く話に乗る気のない魔王達に微かな苛立ちを感じながら、それでもハイは再び熱弁を振るった。
2星の魔王、ハイ・ラゥ・シュリップは何処をどう見ても、何の変哲も無い人間である。
リュウの様に角もなければ、耳とて普通の人間の形、当たり前だハイは人間なのだから。
その人間であるはずのハイが、何故魔王と呼ばれ人間達を恐怖に貶めているのか。
ハイは、2星のある高位な神官の家系に産まれた、だが、産まれながらにしてその身体に宿っていた魔力は闇の属性。
けれども、誰もそんなことに気がつかなかった、由緒ある神官の子供なのだから、考えもしなかったのだろう。
賢かったハイは、自分が神官の子供であると悟っていたし、その闇の力を表に出そうともせず、周囲の期待通り勤勉に励んだ。
もしかしたら、ハイには魔王になる道と、最高位の神官の座を手に入れる道が用意されていたのかもしれない。
今となっては悔やんでも仕方が無いのだが、『あの出来事』さえなければ、ハイは魔王ではなく、聖王になっていた。
彼は、優し過ぎた。
彼は、許せなかった。
彼は、人間が嫌いになった。
14歳の時だった、子供から大人への儀式の年齢、2星ハンニバルでは14歳で執り行う。
成人の儀を家庭で祝うのが常識である。
ハイ程名の知れ渡っている者ならば、その儀式は盛大なものだった。
各大陸から由緒ある神官の自慢の1人息子を見る為に、大勢の人々が続々と訪れた。
そう、手を煩わせることなく有数の神官や聖職者達が一箇所に集まってきたのだ。
こんな機会は滅多にない、一網打尽にする絶好の状況である。
神官である両親、周りの聖職者達が汚れてしまい、堕落し、偽善者ぶっている様子が、ハイには解ってしまったのだ。
そもそも、自分とて現在の父親の息子ではない、母の浮気相手の別の神官がハイの本当の父親だった。
・・・だから私が闇の属性なのだ、不埒な母の罪の結果がこの私なのだから。
ハイの中に眠っていた闇の力が、快楽や怠惰、憎悪、偽善という周囲の人間の持つ罪によって眠りから覚めていく。
両親はハイを可愛がりながらも、その愛情は如何に将来、自分達の名を轟かせるかという名誉と地位の為だけに注がれた。
祝いの席の真っ只中、冷めた瞳で客観的に傍観しているハイ。
・・・せいぜい束の間のこの時間を楽しむが良い・・・
立派になったわねぇ、と話しかけてきた神官の女、清楚に振舞っているが彼女は夜な夜な若い男を寝所に連れ込んでいる。
あの司祭は相当なサディストで、いたいけな巫女を甚振っていた。
向こうの姉妹の巫女は同性愛者、祭壇の下で秘め事を。
純粋そうなあの巫女とて、処女ではない。
胸の中で爆笑する、唾を吐き捨てる、罵声を浴びさせる。
ハイは一人一人を皮肉めいた瞳で、ゆっくりと見つめていく。
無機質に流れいく時間を、ハイは微かに頷き、会話に適当に応対しながら過ごす。
そろそろ会場の流れが変わる、奈落の底へ落ちた神官達は、ハイの許婚にと娘達を露骨なほど売り込んできた。
容姿端麗で、有能な神官・ハイ。
娘達とて乗り気だった、自ら色気を出し、稀に清純に振る舞い、ハイに群がる。
酒に溺れ、その場は無防備な聖職者達で溢れている。
ハイはいい加減嫌気が差し、一人輪を離れて、遠くへ歩く。
縋りつくように娘達がハイの後を追った。
非常に、面倒だ。
舌打ちすると、ハイは足を止め、小さく詠唱を始める。
・・・闇より来たれ、我の守護者・・・
気分が高揚しており、ハイの僅かな魔力の高まりに気がつかない聖職者達。
必死にその魔力を最大限押し殺しながら、詠唱を完成させる。
・・・我に応えよ、その力を示せ、存分に喰らい尽くせ・・・
詠唱が完成に近づき、ようやくほんの一握りの聖職者がそれに気がついた。
ハイの魔力の高ぶりに気がついた、暗雲が立ち込めた空、生ぬるい空気、寄って来たカラスの群れ。
純白の衣装を風にはためかせながら、ハイはゆっくりと微笑む。
その笑顔が、あまりにも無邪気で、それでいて残忍で、瞳に光を宿すことなくハイは振り向く。
どこかで叫び声が上がった、呆然とハイを見つめ続ける聖職者達。
彼を、止めるんだ!
誰かが叫んだ、が、酒に酔った者達は正確に歩くことも、まして詠唱に入ることも出来ない。
「我の名において許す! 来たれ死霊、叫び狂え恐怖の風を巻き起こせ。混沌と絶望の場をここにっ」
引き攣った人々の顔を見つめ、ハイは満足そうに爆笑しながら呪文を完成させた。
死霊召喚。
魂を喰らう奈落の底の住人達をこの世に召喚する、暗黒魔法である。
術者のレベルによって、当然召喚できる死霊の数が変化する、ハイは自身の全魔力を駆使して多大な来訪者を招き寄せた。
闇から姿を現し、手当たり次第喰らい尽くす死霊に、その場はハイの望んだとおり混沌の場と化す。
両親が、驚愕の瞳でハイを見つめていた。
唇が「なぜ」と、動いたのを確認しハイは嘲り笑う。
「胸に手を当てれば解ることだろうに?」
断末魔がいくつも耳に届くが、興味を持たずハイは満足そうにその場を悠然と歩き回る。
眼球がずるりと抜け落ちる、髪が抜ける、腕がもげる、腹に穴が開く。
こうなってしまっては聖職者だろうがなんであろうが、関係ない。
その場に残ったのは無数の無残な死骸でしかなく、ハイは愉快そうにその場で高笑いをしていた。
が。
不意に笑い声を止めて、ある方向へと歩き出した。
ゆっくりと、拍手をする。
次第に大きく手を叩き、辺りに小気味良い音が響き渡った。
「素晴らしいな、君。立派だ」
1人の人間に向かって近寄っていくハイ。
そう、この場で1人生存者が存在した。
喰われながら、嘆き苦しみながら死んでいった人間達ばかりかと思えば、正常に脳が働いた聖職者が存在したのだ。
彼女は必死に防御壁を張り巡らせ、迫り来る亡者達から身を護っている。
宴の酒を飲まず、浮かれていた者達と離れ、一人で居た故に状況把握が出来たようだった。
明るい金髪、全てを見透かす様な碧い瞳、髪を後ろで一つに束ねた、質素な衣服の少女が立っている。
歳はハイと同じくらいだろうが、化粧もせずにいるため、子供に見えなくもない。
足元に転がっていた、高等な神官の銀の杖を右手に、首から提げていた十字架を左手で掲げ、懸命に亡者を撃退している。
彼女自体は、相対して魔力が高くなさそうだったが、手にしている装備品が優れている為に亡者と対等に戦っているようだ。
近寄ってきたハイに、彼女は力なく微笑むと全神経を杖へ集中し、ハイ目掛けて杖を突き出した。
「何の真似だ」
解ってはいたが、念の為聞いてみる。
元凶であるハイと一戦交えようというのだろう、ただハイはこんな娘にやられるつもりもなかったので反撃の態勢はとらなかった。
彼女の意思が正気か確認する為に口を開いた、全くの無駄足であるのだと教えるために。
「勝てないのは百も承知。ですが残った神官としてはこうするのが義務では? ハイ様を巨大な魔力の持ち主だと痛感していたとしても」
「立派だな、神官の義務。そうか、腐った神官しか存在しないと思っていた」
彼女が杖を振り下ろした、ハイの周囲の亡者が一瞬で掻き消えていったが、ハイは薄く微笑むばかり。
長い黒髪が風になびいて揺れながら、余裕の笑みでハイは右手を前に突き出す。
「さようなら、名もなき神官の娘。最期に良い言葉を有難う」
彼女が目の前で悔しそうに、切なそうに顔を歪める。
ハイの後方から新たな亡者が疾風の様に現れ、彼女に襲い掛かった。
無数の黒い塊、懸命に張られた防御壁を幾度も打ち付けて彼女に負荷をかけていく。
手にした十字架をハイ目掛けて投げつけたが、生憎ハイには全く効果がなかった。
闇の属性の、神官である彼にはそんなもの効果がない。
穏やかに微笑むハイを最期に、彼女の絶叫が周囲に響き渡る。
防御壁が破壊され、彼女の身体を無数の亡者が取り囲み、魂を食らっている。
綺麗な神官の魂は、亡者にとって麻薬のようなご馳走であり。
死に際に彼女は何か唇を動かしたのだが、全くハイには届かなかった。
彼女の言葉は、「ハイ様、お慕いしていたのです」。
汚れた瞳で人間を見ることしか出来なかったハイは、彼女の澄んだ心を汲み取ることが出来なかった。
彼女の両親は確かに堕落していたかもしれない、けれどもその娘までが堕落しているとは限らない。
彼女は弱き人々を助け、誠意で弱き者と共にし、懸命に神に祈りを捧げていた。
ハイを数年前に見かけ、綺麗な容姿と優しそうな瞳に心を奪われた。
昨今の神官が堕落していることは、彼女とて知っていた、故にハイに期待をしていたのだ。
彼ならば、正すことが出来るのではないか、彼ならば人々を導けるのではないか、と。
確かに彼は人々を導いた、破滅の道へと。
彼女の躯が崩れ落ち、屍が散乱したその場をつまらなそうに一瞥すると、ハイは踵を返す。
用意されていた祝いの食事を館で食べた、譲り受けた聖衣を羽織ってみた、受け継がれてきた銀の杖を手にしてみた。
笑う、ただ、笑う。
1人きりの館で、ハイは笑った。
14歳の誕生日、ハイは暗黒神官に即位した。
暗黒面が強かったが、聖なる力も多少は兼ね備えていたため、特に弱点が見当たらず、魔族すらその力量に魅了されて数名が集ってきた。
何度か人間が攻めてきたのだが、数年経過した後のことであり、その時はすでにハイの元に有能な魔族が揃っていた為人間達は手も足も出すことが出来ず惨敗。
こうして魔王ハイという呼び名がハンニバルへと流れ始めた。
ある日、館の一角で封印された異空間への道を発見した。
両親すらその存在を教えることがなかった、作為的に閉鎖された場所。
好奇心ではなく、単調になっていた生活に何か変化を、と思いその封印を解除した。
別に死を怖がることがなかった、むしろ死を望んでいたハイにとって何も恐怖はなく、真っ暗なその道を進む。
辿り着いた先にハイの瞳に飛び込んできた風景は、見るからに不気味な城。
目の前に薄い青白い膜のようなものが張っている、それに手を伸ばすと、奇妙な感覚に襲われた。
肌に纏わりつく生暖かいへどろのような、決して気分の良いものではない感覚に眉を潜めるハイ。
けれどもその膜に身体を投じ、怯む事無く突き抜けた。
この場所が何処かは解らなかったが、その威圧感に包まれた城が、この場所の支配者の住処でありハイと同等、もしくはそれ以上の力の持ち主であることは理解した。
城の正面の扉を開き、中へと進入した。
階段までの道に左右に数人の人間・・・いや、魔族だろうか、微動出せずにそこに佇んでいるのだが、その前をハイは通り抜けた。
無関心でその者達はハイを通らせた、別に人形ではないが、硬く態勢を崩していない。
階段を上って達したのは、大きな広間であり、そこがこの城の所有者である者の間である。
「客人」
遠い場所で、豪華な椅子に深く腰掛けていた人物が、一言そう呟いた。
静か過ぎるその場所は、声が良く通る。
椅子に座っている男は、自分と同じ漆黒の瞳と長い髪で、頭部から二本角が生えていた。
雰囲気的に何か似たものを感じたハイ、何をするでもなくゆっくりとその間を歩き回りながら鑑賞した。
男にも瞳を走らせ、真紅の簡単な衣に身を包んでいるが、その整った顔立ちと品格の漂う仕草、微かに口元に笑みを浮かべているその男に軽く興味を持った。
「茶菓子でも、どうぞ」
男が椅子を立ち、ハイから向かって右側の一角を指した、小さなテーブルがあり、上に何か乗っている。
すたすたとテーブルへと移動した男は、ティーポットから液体をカップに流し入れるとハイを手招きした。
折角なので、と疑いもせずハイも同意する。
「私は、リュウというんだ」
カップを近寄ってきたハイに差し出す。
受け取り、まぁ無難に返答を、とハイは口を開いた。
「私はハイ。2星ハンニバルの神官」
聴くなり、瞳を丸くして興味深そうにリュウは小さく笑う。
「神官? 暗黒神官の間違いだろ? 久しぶりに可笑しな冗談を聴いたよ。そうか、2星の魔王かな。私は1星の魔王なんだ。多分同質で同位」
ほぅ、瞳を細めて腕を組み、壁にもたれたハイは居心地良さそうに笑みを浮かべた。
まさかここが1星ネロとは思いもしなかったが、当面退屈しのぎは出来そうだった。
受け取ったカップの中身を口に含む、やたらと甘い液体にハイは眉を顰める。
「あぁ、ごめん。私甘党なんだ」
「これはなんだ?」
「苺のフレバーティー。砂糖たっぷり、蜂蜜多目。あ、苺もあるよ」
「・・・」
にこやかに苺を勧めるリュウに、苦笑いでハイは丁重に断った。
残念そうに肩を竦めるが、退屈しのぎなのかリュウは語りだす。
人間が嫌いで、人間の城を攻め落とした、ここは主力国だったカエサル。
ここには勇者の称号を得た勇者・ナチスという若者と、その妻のマリーという姫が居たのだが、思ったより弱かった。
「人間って身勝手だなー。勇者が殺されては不甲斐無いって彼の墓を作るどころか弔いもなくてね。勇者の彼に同情したよ」
「人間とは堕落すると底まで落ちる。ある意味、我らよりも心が病んでいるのだよ」
「ぶはっ。ハイとて人間だろうにー」
「私は人間だが、人間ではない。人間という種族を放棄した。ハイという名の個別な生物だ」
「へーえ、面白いな」
けたけた笑うリュウに、何かハイは違和感を感じたが口には出さなかった、二人の魔王は特に張り合うこともなく意気投合し、他愛のない話を楽しむ。
未練も興味も全くない1星ネロのカエサル城を後にして、ハイが通ってきた異空間を戻り、リュウは2星へと移住する。
数人の従者を連れて、リュウは物珍しそうにハンニバルの地を踏んだ。
館の部屋は腐るほど余っている、部屋を幾つか貰ってリュウは勝手気ままに暮らし始めた。
1星の魔王であるリュウが移住してきた、という噂は流れなかった、が、代わりに1星が壊滅状態である、という真実は流れ始める。
人間達の中には絶望し、自ら命を絶つ者も増えてきた。
リュウを尻目に、ハイは退屈しのぎにと、残り少ない聖職者達を抹消すべく、集ってきた魔族や魔物に主要国を襲わせ始めた。
人間達も抵抗していたが、魔王軍と対等に戦える力量は持ち合わせておらず、統括された魔王軍の前にはなすすべがない。
故にいとも簡単に主要国を4つ、攻め落とした。
砂浜に作った砂の城を、波が崩して持ち帰るように、自然に簡単に。
残りは一国、楽しみを失くさない為に、別に苦戦しているとかそういうことではなくて、放置している。
このまま潰してしまったら、何もすることがなくなってしまう、それ故に。
余興として気にかかっていた「伝説の勇者」の存在も確かめたかった。
1星の勇者は、魔王リュウの元へ現れたという、ならばハイの前にも現れてもいいはずだ。
人間達に最大の屈辱を味わってもらうため、勇者を見つけ出すため、ハイは気まぐれで選んだ一国を手をつけずに残している。
その国には若い王子が1人居た、彼に勇者を捜してもらうのだ。
手間が省けるし、何より工程を見ているのは面白そうだ。
勇者が見つかったら、適当に殺してしまおう、公開処刑してしまおう。
勇者の力なんて特に怯えていないが、芽が伸びる前に潰してしまえ、ハイはそう思っていた。
一国の王子が勇者を探し出すのには時間がかかる、暇な時間を弄び、2人の魔王は別の星への移住計画を思いついた。
1星と2星が通じていたのだから、他の星にも行ける気がする、と2人は思っていた。
思惑通り、2人の力量からなのか偶然にも異界への道を難なく手に入れてしまったのだ。
見つけたのは、3・4星への通路であり、2人は他の星の魔王達に遭遇した。
そして現在この場に終結した魔王が、4人、正確には3人と1体。
1星の魔王リュウ、2星の魔王ハイ、3星の魔王ミラボー、4星の魔王アレク。
人型のリュウ、ハイ、アレクに反してミラボーだけが明らかに人外な容貌だった。
イボ蛙が巨大化した感じだろうか、腐敗した緑色、毒々しく光る真紅の瞳、背丈は人間の少年程だが、横が広く肥満なのかそういう種族なのか、幅をやたら取る。
頭部の触角らしきものが、時折何かを探るように動くのが不気味である。
アレクは非常に美男子で、正真正銘、4星の魔族の長であり正当な魔王だった。
後に魔王と呼ばれることになったハイとは、全く持って経緯が違う。
魔王を名乗るには歳が若いのかもしれないが、それでも残った王族はアレク1人であり、従兄弟がいたのだが消息不明となっている。
血縁から成り行きで即位した魔王かと思いきや、類まれなる魔力も兼ね備えており、無口で虚無の瞳、静かに佇む沈黙の魔王である。
「美しいだろう、可愛いのだ、この娘」
絵描きに描かせたアサギの肖像画を手にし、熱弁を止めないハイに、いい加減うんざりしてきたリュウは苺を食べていた手を休めると、話をする為に向き直る。
アレクは窓から外を見下ろしているばかりで、ミラボーは自身の洋服に縫い付けてある煌びやかな宝石を、うっとりと見つめていた。
「で、名前は?」
「知らん。寧ろ知りたい」
「今何処にいるの?」
「知らん。寧ろ知りたい」
「ハイは、勇者に見つけたら公開処刑って言ってたよね? するんだよねー?」
「しない。寧ろ会いたい」
腹を抱えて爆笑するリュウに、怪訝にハイは青筋立てて悔しそうに眉顰める。
そのリュウの態度がハイを苛立たせるものでしかなく、拳を握り締め身体を小刻みに震わし歯軋りして必死に怒鳴りたいのを堪えていた。
リュウは涙を流しながら、ハイの背を勢い良く平手打ちしている。
「壮健そうな美しい娘じゃないかー。いや、ハイに色恋ごとがあるなんて思いもしなかったよー」
「でも、勇者なんだろう?」
不意に窓を見つめていたアレクが喋った。
静まり返る一室、まさかアレクが何も問いかけていないのに、会話に参加するとは誰も思わなかった。
意外そうに好奇心を丸出しにしてアレクを見つめていたリュウだが、どう返答するのかとハイに視線を移した。
寧ろ会いたい、と言い放った魔王、会いたいのは勇者。
あぁそうだね、公開処刑よりもっと魅力的な愉快な出来事が起こりそうだよね、リュウは口元に笑みを浮かべ、妖しく光る瞳でハイの言葉が口から飛び出るその前に。
「勇者を手に入れてみるのも、一種の余興なんじゃないかなー、なんて?」
退屈凌ぎに、魔王が勇者を手に入れる。
それは非常に愉快な事だった。
他の魔王達にアサギの事を話していたようだ、一気に語ったのか軽く呼吸が荒い。
「・・・ふーん」
流れる髪を鬱陶しそうにかき上げながら、もう1人の黒髪の男が気だるそうに返事をした。
頭部から突き出た二本の角が印象的だ、この男が1星ネロの魔王・リュウ。
聞いていたのかいないのか、リュウは手元に持っている皿から、何かを摘んで口元に運んだ。
軽く瞳を閉じてから、嬉しそうに微笑んで、再度摘んで口に運ぶ。
中身は苺である、リュウは苺が大好物だった。
全く話に乗る気のない魔王達に微かな苛立ちを感じながら、それでもハイは再び熱弁を振るった。
2星の魔王、ハイ・ラゥ・シュリップは何処をどう見ても、何の変哲も無い人間である。
リュウの様に角もなければ、耳とて普通の人間の形、当たり前だハイは人間なのだから。
その人間であるはずのハイが、何故魔王と呼ばれ人間達を恐怖に貶めているのか。
ハイは、2星のある高位な神官の家系に産まれた、だが、産まれながらにしてその身体に宿っていた魔力は闇の属性。
けれども、誰もそんなことに気がつかなかった、由緒ある神官の子供なのだから、考えもしなかったのだろう。
賢かったハイは、自分が神官の子供であると悟っていたし、その闇の力を表に出そうともせず、周囲の期待通り勤勉に励んだ。
もしかしたら、ハイには魔王になる道と、最高位の神官の座を手に入れる道が用意されていたのかもしれない。
今となっては悔やんでも仕方が無いのだが、『あの出来事』さえなければ、ハイは魔王ではなく、聖王になっていた。
彼は、優し過ぎた。
彼は、許せなかった。
彼は、人間が嫌いになった。
14歳の時だった、子供から大人への儀式の年齢、2星ハンニバルでは14歳で執り行う。
成人の儀を家庭で祝うのが常識である。
ハイ程名の知れ渡っている者ならば、その儀式は盛大なものだった。
各大陸から由緒ある神官の自慢の1人息子を見る為に、大勢の人々が続々と訪れた。
そう、手を煩わせることなく有数の神官や聖職者達が一箇所に集まってきたのだ。
こんな機会は滅多にない、一網打尽にする絶好の状況である。
神官である両親、周りの聖職者達が汚れてしまい、堕落し、偽善者ぶっている様子が、ハイには解ってしまったのだ。
そもそも、自分とて現在の父親の息子ではない、母の浮気相手の別の神官がハイの本当の父親だった。
・・・だから私が闇の属性なのだ、不埒な母の罪の結果がこの私なのだから。
ハイの中に眠っていた闇の力が、快楽や怠惰、憎悪、偽善という周囲の人間の持つ罪によって眠りから覚めていく。
両親はハイを可愛がりながらも、その愛情は如何に将来、自分達の名を轟かせるかという名誉と地位の為だけに注がれた。
祝いの席の真っ只中、冷めた瞳で客観的に傍観しているハイ。
・・・せいぜい束の間のこの時間を楽しむが良い・・・
立派になったわねぇ、と話しかけてきた神官の女、清楚に振舞っているが彼女は夜な夜な若い男を寝所に連れ込んでいる。
あの司祭は相当なサディストで、いたいけな巫女を甚振っていた。
向こうの姉妹の巫女は同性愛者、祭壇の下で秘め事を。
純粋そうなあの巫女とて、処女ではない。
胸の中で爆笑する、唾を吐き捨てる、罵声を浴びさせる。
ハイは一人一人を皮肉めいた瞳で、ゆっくりと見つめていく。
無機質に流れいく時間を、ハイは微かに頷き、会話に適当に応対しながら過ごす。
そろそろ会場の流れが変わる、奈落の底へ落ちた神官達は、ハイの許婚にと娘達を露骨なほど売り込んできた。
容姿端麗で、有能な神官・ハイ。
娘達とて乗り気だった、自ら色気を出し、稀に清純に振る舞い、ハイに群がる。
酒に溺れ、その場は無防備な聖職者達で溢れている。
ハイはいい加減嫌気が差し、一人輪を離れて、遠くへ歩く。
縋りつくように娘達がハイの後を追った。
非常に、面倒だ。
舌打ちすると、ハイは足を止め、小さく詠唱を始める。
・・・闇より来たれ、我の守護者・・・
気分が高揚しており、ハイの僅かな魔力の高まりに気がつかない聖職者達。
必死にその魔力を最大限押し殺しながら、詠唱を完成させる。
・・・我に応えよ、その力を示せ、存分に喰らい尽くせ・・・
詠唱が完成に近づき、ようやくほんの一握りの聖職者がそれに気がついた。
ハイの魔力の高ぶりに気がついた、暗雲が立ち込めた空、生ぬるい空気、寄って来たカラスの群れ。
純白の衣装を風にはためかせながら、ハイはゆっくりと微笑む。
その笑顔が、あまりにも無邪気で、それでいて残忍で、瞳に光を宿すことなくハイは振り向く。
どこかで叫び声が上がった、呆然とハイを見つめ続ける聖職者達。
彼を、止めるんだ!
誰かが叫んだ、が、酒に酔った者達は正確に歩くことも、まして詠唱に入ることも出来ない。
「我の名において許す! 来たれ死霊、叫び狂え恐怖の風を巻き起こせ。混沌と絶望の場をここにっ」
引き攣った人々の顔を見つめ、ハイは満足そうに爆笑しながら呪文を完成させた。
死霊召喚。
魂を喰らう奈落の底の住人達をこの世に召喚する、暗黒魔法である。
術者のレベルによって、当然召喚できる死霊の数が変化する、ハイは自身の全魔力を駆使して多大な来訪者を招き寄せた。
闇から姿を現し、手当たり次第喰らい尽くす死霊に、その場はハイの望んだとおり混沌の場と化す。
両親が、驚愕の瞳でハイを見つめていた。
唇が「なぜ」と、動いたのを確認しハイは嘲り笑う。
「胸に手を当てれば解ることだろうに?」
断末魔がいくつも耳に届くが、興味を持たずハイは満足そうにその場を悠然と歩き回る。
眼球がずるりと抜け落ちる、髪が抜ける、腕がもげる、腹に穴が開く。
こうなってしまっては聖職者だろうがなんであろうが、関係ない。
その場に残ったのは無数の無残な死骸でしかなく、ハイは愉快そうにその場で高笑いをしていた。
が。
不意に笑い声を止めて、ある方向へと歩き出した。
ゆっくりと、拍手をする。
次第に大きく手を叩き、辺りに小気味良い音が響き渡った。
「素晴らしいな、君。立派だ」
1人の人間に向かって近寄っていくハイ。
そう、この場で1人生存者が存在した。
喰われながら、嘆き苦しみながら死んでいった人間達ばかりかと思えば、正常に脳が働いた聖職者が存在したのだ。
彼女は必死に防御壁を張り巡らせ、迫り来る亡者達から身を護っている。
宴の酒を飲まず、浮かれていた者達と離れ、一人で居た故に状況把握が出来たようだった。
明るい金髪、全てを見透かす様な碧い瞳、髪を後ろで一つに束ねた、質素な衣服の少女が立っている。
歳はハイと同じくらいだろうが、化粧もせずにいるため、子供に見えなくもない。
足元に転がっていた、高等な神官の銀の杖を右手に、首から提げていた十字架を左手で掲げ、懸命に亡者を撃退している。
彼女自体は、相対して魔力が高くなさそうだったが、手にしている装備品が優れている為に亡者と対等に戦っているようだ。
近寄ってきたハイに、彼女は力なく微笑むと全神経を杖へ集中し、ハイ目掛けて杖を突き出した。
「何の真似だ」
解ってはいたが、念の為聞いてみる。
元凶であるハイと一戦交えようというのだろう、ただハイはこんな娘にやられるつもりもなかったので反撃の態勢はとらなかった。
彼女の意思が正気か確認する為に口を開いた、全くの無駄足であるのだと教えるために。
「勝てないのは百も承知。ですが残った神官としてはこうするのが義務では? ハイ様を巨大な魔力の持ち主だと痛感していたとしても」
「立派だな、神官の義務。そうか、腐った神官しか存在しないと思っていた」
彼女が杖を振り下ろした、ハイの周囲の亡者が一瞬で掻き消えていったが、ハイは薄く微笑むばかり。
長い黒髪が風になびいて揺れながら、余裕の笑みでハイは右手を前に突き出す。
「さようなら、名もなき神官の娘。最期に良い言葉を有難う」
彼女が目の前で悔しそうに、切なそうに顔を歪める。
ハイの後方から新たな亡者が疾風の様に現れ、彼女に襲い掛かった。
無数の黒い塊、懸命に張られた防御壁を幾度も打ち付けて彼女に負荷をかけていく。
手にした十字架をハイ目掛けて投げつけたが、生憎ハイには全く効果がなかった。
闇の属性の、神官である彼にはそんなもの効果がない。
穏やかに微笑むハイを最期に、彼女の絶叫が周囲に響き渡る。
防御壁が破壊され、彼女の身体を無数の亡者が取り囲み、魂を食らっている。
綺麗な神官の魂は、亡者にとって麻薬のようなご馳走であり。
死に際に彼女は何か唇を動かしたのだが、全くハイには届かなかった。
彼女の言葉は、「ハイ様、お慕いしていたのです」。
汚れた瞳で人間を見ることしか出来なかったハイは、彼女の澄んだ心を汲み取ることが出来なかった。
彼女の両親は確かに堕落していたかもしれない、けれどもその娘までが堕落しているとは限らない。
彼女は弱き人々を助け、誠意で弱き者と共にし、懸命に神に祈りを捧げていた。
ハイを数年前に見かけ、綺麗な容姿と優しそうな瞳に心を奪われた。
昨今の神官が堕落していることは、彼女とて知っていた、故にハイに期待をしていたのだ。
彼ならば、正すことが出来るのではないか、彼ならば人々を導けるのではないか、と。
確かに彼は人々を導いた、破滅の道へと。
彼女の躯が崩れ落ち、屍が散乱したその場をつまらなそうに一瞥すると、ハイは踵を返す。
用意されていた祝いの食事を館で食べた、譲り受けた聖衣を羽織ってみた、受け継がれてきた銀の杖を手にしてみた。
笑う、ただ、笑う。
1人きりの館で、ハイは笑った。
14歳の誕生日、ハイは暗黒神官に即位した。
暗黒面が強かったが、聖なる力も多少は兼ね備えていたため、特に弱点が見当たらず、魔族すらその力量に魅了されて数名が集ってきた。
何度か人間が攻めてきたのだが、数年経過した後のことであり、その時はすでにハイの元に有能な魔族が揃っていた為人間達は手も足も出すことが出来ず惨敗。
こうして魔王ハイという呼び名がハンニバルへと流れ始めた。
ある日、館の一角で封印された異空間への道を発見した。
両親すらその存在を教えることがなかった、作為的に閉鎖された場所。
好奇心ではなく、単調になっていた生活に何か変化を、と思いその封印を解除した。
別に死を怖がることがなかった、むしろ死を望んでいたハイにとって何も恐怖はなく、真っ暗なその道を進む。
辿り着いた先にハイの瞳に飛び込んできた風景は、見るからに不気味な城。
目の前に薄い青白い膜のようなものが張っている、それに手を伸ばすと、奇妙な感覚に襲われた。
肌に纏わりつく生暖かいへどろのような、決して気分の良いものではない感覚に眉を潜めるハイ。
けれどもその膜に身体を投じ、怯む事無く突き抜けた。
この場所が何処かは解らなかったが、その威圧感に包まれた城が、この場所の支配者の住処でありハイと同等、もしくはそれ以上の力の持ち主であることは理解した。
城の正面の扉を開き、中へと進入した。
階段までの道に左右に数人の人間・・・いや、魔族だろうか、微動出せずにそこに佇んでいるのだが、その前をハイは通り抜けた。
無関心でその者達はハイを通らせた、別に人形ではないが、硬く態勢を崩していない。
階段を上って達したのは、大きな広間であり、そこがこの城の所有者である者の間である。
「客人」
遠い場所で、豪華な椅子に深く腰掛けていた人物が、一言そう呟いた。
静か過ぎるその場所は、声が良く通る。
椅子に座っている男は、自分と同じ漆黒の瞳と長い髪で、頭部から二本角が生えていた。
雰囲気的に何か似たものを感じたハイ、何をするでもなくゆっくりとその間を歩き回りながら鑑賞した。
男にも瞳を走らせ、真紅の簡単な衣に身を包んでいるが、その整った顔立ちと品格の漂う仕草、微かに口元に笑みを浮かべているその男に軽く興味を持った。
「茶菓子でも、どうぞ」
男が椅子を立ち、ハイから向かって右側の一角を指した、小さなテーブルがあり、上に何か乗っている。
すたすたとテーブルへと移動した男は、ティーポットから液体をカップに流し入れるとハイを手招きした。
折角なので、と疑いもせずハイも同意する。
「私は、リュウというんだ」
カップを近寄ってきたハイに差し出す。
受け取り、まぁ無難に返答を、とハイは口を開いた。
「私はハイ。2星ハンニバルの神官」
聴くなり、瞳を丸くして興味深そうにリュウは小さく笑う。
「神官? 暗黒神官の間違いだろ? 久しぶりに可笑しな冗談を聴いたよ。そうか、2星の魔王かな。私は1星の魔王なんだ。多分同質で同位」
ほぅ、瞳を細めて腕を組み、壁にもたれたハイは居心地良さそうに笑みを浮かべた。
まさかここが1星ネロとは思いもしなかったが、当面退屈しのぎは出来そうだった。
受け取ったカップの中身を口に含む、やたらと甘い液体にハイは眉を顰める。
「あぁ、ごめん。私甘党なんだ」
「これはなんだ?」
「苺のフレバーティー。砂糖たっぷり、蜂蜜多目。あ、苺もあるよ」
「・・・」
にこやかに苺を勧めるリュウに、苦笑いでハイは丁重に断った。
残念そうに肩を竦めるが、退屈しのぎなのかリュウは語りだす。
人間が嫌いで、人間の城を攻め落とした、ここは主力国だったカエサル。
ここには勇者の称号を得た勇者・ナチスという若者と、その妻のマリーという姫が居たのだが、思ったより弱かった。
「人間って身勝手だなー。勇者が殺されては不甲斐無いって彼の墓を作るどころか弔いもなくてね。勇者の彼に同情したよ」
「人間とは堕落すると底まで落ちる。ある意味、我らよりも心が病んでいるのだよ」
「ぶはっ。ハイとて人間だろうにー」
「私は人間だが、人間ではない。人間という種族を放棄した。ハイという名の個別な生物だ」
「へーえ、面白いな」
けたけた笑うリュウに、何かハイは違和感を感じたが口には出さなかった、二人の魔王は特に張り合うこともなく意気投合し、他愛のない話を楽しむ。
未練も興味も全くない1星ネロのカエサル城を後にして、ハイが通ってきた異空間を戻り、リュウは2星へと移住する。
数人の従者を連れて、リュウは物珍しそうにハンニバルの地を踏んだ。
館の部屋は腐るほど余っている、部屋を幾つか貰ってリュウは勝手気ままに暮らし始めた。
1星の魔王であるリュウが移住してきた、という噂は流れなかった、が、代わりに1星が壊滅状態である、という真実は流れ始める。
人間達の中には絶望し、自ら命を絶つ者も増えてきた。
リュウを尻目に、ハイは退屈しのぎにと、残り少ない聖職者達を抹消すべく、集ってきた魔族や魔物に主要国を襲わせ始めた。
人間達も抵抗していたが、魔王軍と対等に戦える力量は持ち合わせておらず、統括された魔王軍の前にはなすすべがない。
故にいとも簡単に主要国を4つ、攻め落とした。
砂浜に作った砂の城を、波が崩して持ち帰るように、自然に簡単に。
残りは一国、楽しみを失くさない為に、別に苦戦しているとかそういうことではなくて、放置している。
このまま潰してしまったら、何もすることがなくなってしまう、それ故に。
余興として気にかかっていた「伝説の勇者」の存在も確かめたかった。
1星の勇者は、魔王リュウの元へ現れたという、ならばハイの前にも現れてもいいはずだ。
人間達に最大の屈辱を味わってもらうため、勇者を見つけ出すため、ハイは気まぐれで選んだ一国を手をつけずに残している。
その国には若い王子が1人居た、彼に勇者を捜してもらうのだ。
手間が省けるし、何より工程を見ているのは面白そうだ。
勇者が見つかったら、適当に殺してしまおう、公開処刑してしまおう。
勇者の力なんて特に怯えていないが、芽が伸びる前に潰してしまえ、ハイはそう思っていた。
一国の王子が勇者を探し出すのには時間がかかる、暇な時間を弄び、2人の魔王は別の星への移住計画を思いついた。
1星と2星が通じていたのだから、他の星にも行ける気がする、と2人は思っていた。
思惑通り、2人の力量からなのか偶然にも異界への道を難なく手に入れてしまったのだ。
見つけたのは、3・4星への通路であり、2人は他の星の魔王達に遭遇した。
そして現在この場に終結した魔王が、4人、正確には3人と1体。
1星の魔王リュウ、2星の魔王ハイ、3星の魔王ミラボー、4星の魔王アレク。
人型のリュウ、ハイ、アレクに反してミラボーだけが明らかに人外な容貌だった。
イボ蛙が巨大化した感じだろうか、腐敗した緑色、毒々しく光る真紅の瞳、背丈は人間の少年程だが、横が広く肥満なのかそういう種族なのか、幅をやたら取る。
頭部の触角らしきものが、時折何かを探るように動くのが不気味である。
アレクは非常に美男子で、正真正銘、4星の魔族の長であり正当な魔王だった。
後に魔王と呼ばれることになったハイとは、全く持って経緯が違う。
魔王を名乗るには歳が若いのかもしれないが、それでも残った王族はアレク1人であり、従兄弟がいたのだが消息不明となっている。
血縁から成り行きで即位した魔王かと思いきや、類まれなる魔力も兼ね備えており、無口で虚無の瞳、静かに佇む沈黙の魔王である。
「美しいだろう、可愛いのだ、この娘」
絵描きに描かせたアサギの肖像画を手にし、熱弁を止めないハイに、いい加減うんざりしてきたリュウは苺を食べていた手を休めると、話をする為に向き直る。
アレクは窓から外を見下ろしているばかりで、ミラボーは自身の洋服に縫い付けてある煌びやかな宝石を、うっとりと見つめていた。
「で、名前は?」
「知らん。寧ろ知りたい」
「今何処にいるの?」
「知らん。寧ろ知りたい」
「ハイは、勇者に見つけたら公開処刑って言ってたよね? するんだよねー?」
「しない。寧ろ会いたい」
腹を抱えて爆笑するリュウに、怪訝にハイは青筋立てて悔しそうに眉顰める。
そのリュウの態度がハイを苛立たせるものでしかなく、拳を握り締め身体を小刻みに震わし歯軋りして必死に怒鳴りたいのを堪えていた。
リュウは涙を流しながら、ハイの背を勢い良く平手打ちしている。
「壮健そうな美しい娘じゃないかー。いや、ハイに色恋ごとがあるなんて思いもしなかったよー」
「でも、勇者なんだろう?」
不意に窓を見つめていたアレクが喋った。
静まり返る一室、まさかアレクが何も問いかけていないのに、会話に参加するとは誰も思わなかった。
意外そうに好奇心を丸出しにしてアレクを見つめていたリュウだが、どう返答するのかとハイに視線を移した。
寧ろ会いたい、と言い放った魔王、会いたいのは勇者。
あぁそうだね、公開処刑よりもっと魅力的な愉快な出来事が起こりそうだよね、リュウは口元に笑みを浮かべ、妖しく光る瞳でハイの言葉が口から飛び出るその前に。
「勇者を手に入れてみるのも、一種の余興なんじゃないかなー、なんて?」
退屈凌ぎに、魔王が勇者を手に入れる。
それは非常に愉快な事だった。
PR
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
最新コメント
[10/05 たまこ]
[08/11 たまこ]
[08/11 たまこ]
[05/06 たまこ]
[01/24 たまこ]
[01/07 たまこ]
[12/26 たまこ]
[11/19 たまこ]
[08/18 たまこ]
[07/22 たまこ]
カテゴリー
フリーエリア
フリーエリア
リンク
最新トラックバック
プロフィール
HN:
把 多摩子
性別:
女性
ブログ内検索
カウンター