別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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別サイトで大失敗を犯しました。
タイヘンです。
直したいけど、直せないのーですよ。
昔描いた絵に色をつけてみました。
色鉛筆は楽しいです。
しかし・・・。
このメンツに何故クレシダとハイなんだ、過去の私よ。
トーマかデズが妥当だろう、私よ。
左から一応 アサギ・クレシダ・トランシス・トモハル・ハイ・マビル・トビィ です。
タイヘンです。
直したいけど、直せないのーですよ。
昔描いた絵に色をつけてみました。
色鉛筆は楽しいです。
しかし・・・。
このメンツに何故クレシダとハイなんだ、過去の私よ。
トーマかデズが妥当だろう、私よ。
左から一応 アサギ・クレシダ・トランシス・トモハル・ハイ・マビル・トビィ です。
早朝、部屋に訪れたのは意外にも魔王アレクだった。
アサギがドアを開くと、無表情でアレクが立っている。
「自室から出てくるとは珍しいな、アレク。何か用か?」
以前のハイも自室に籠もっていたが、自分は棚に上げての発言だ。
気にせずアレクはアサギに目を落とした、小首傾げているアサギを目を細めて見る。
「・・・今日は・・・何をしている? 時間があれば紹介したい人がいる」
アサギの保護者はハイだ、ローブを羽織って欠伸しつつアサギの背後に立ったハイは、腕を組みつつアサギから目を離さないアレクに多少の苛立ちを感じつつ返答。
「誰だ?」
「・・・私の、恋人だ」
「あぁ。なら良い。アサギ、今日はアレクと共に過ごそう」
ロシファならば、ハイとて知っている。
興味がなかったので顔はうろ覚えだが、女だったので快く了承。
「アレク様の恋人ですか?」
「あぁ、ロシファという。アサギの話をしたら、会いたいと言っていたのだが、良いだろうか」
「はい! 楽しみです」
魔王の恋人とは、どんな人だろうとアサギは興奮した面持ちで勢い良く返事。
微かに口元が綻んだアレクは、ハイに手短に詳細を伝える。
「ふむ、午後からか。ならばそれまでは、ゆるりと過ごそう。昨日の買い物で多少身体に軋みが」
ジジくさい発言のハイはさておき、アレクは静かに一礼すると立ち去った。
今日のアサギは萌黄色のワンピースだ、大きなリボンが背中についていて、ふわふわゆれるスカートが森の妖精を連想させる。
昨日買って貰った商品たちを部屋に片付けつつ、ハイと談笑しながら時を待つ。
一方アレクは早急にロシファを連れ出すために、転移を急いでいた。
「あら、アレク。どうしたの?」
忙しいのでなかなか会えないアレクとロシファだが、今回間もなく会いに来たので思わずすっとんきょうな声を上げるロシファ。
草木染をしていた最中だった、どうやらそれで新しく衣服を作るつもりなのだろう。
「アサギに会わせる。会いたがっていただろう?」
「会いたいけど、もう、会えるの? アレクあなた仕事は?」
「早いほうがいいだろう、ハイには約束を取り付けた、今日の午後から会えるから急ごう」
「・・・え、え?」
ロシファの腕を強引に引っ張る、ほほほ、と笑いながら乳母は二人を見送った。
「ま、待って! 正装させてよ、これ、普段着よ!?」
汚すまいとロシファが着ていた衣服は、何の変哲もない麻のワンピースだった。
おまけに、髪とて結っていない。
「いいじゃないか、君らしい」
「はぁ!? 私一応エルフの姫君なのに」
「有りの侭の私達を見てもらおう、そのほうがいいと思うんだ」
無邪気に笑ったアレクに、怒る気を失くしたロシファはそっと溜息を吐き。
そうね、と小さく呟く。
魔界イヴァンで。
魔王と勇者とエルフの姫君が、出会う。
有り得ない事だった、普通ならば絶対に。
不可能を可能にしたのは、無論異界から来た勇者。
ロシファを連れて魔界に戻ったアレク、スリザが護衛をし、万が一に備えてこの日はアイセルもサイゴンもホーチミンも護衛についた。
ロシファの存在は、良くも悪くも魔界に波紋を齎す。
魔王アレクの恋人がエルフであることは、大概皆知っていた。
質素なサンダルにワンピース、髪とて慌てて結っただけ。
とても姫君には思えないロシファに、思わず小声でホーチミンはサイゴンに告げた。
「あの人・・・綺麗だけど、エルフって身なりを整えないの?」
「お前と違って、化粧して見た目を着飾らなくても美しいんだ・・・ガッ」
聞き終える前にサイゴンの脚を踏みつけホーチミン、静かに睨みを利かせたスリザに肩を竦めた。
大広間ではなく、小さな庭を選んだアレク。
運ばれてきた菓子と茶、小さなテーブル。
庭への入口は四箇所、そのドアに各々スリザ達四人を配置する。
侵入者を、拒む。
やがてハイがアサギを連れて、庭へとやってきた。
菓子を摘んでいたロシファ、思わず食い入る様にアサギを見つめる。
「すまんな、少し遅れてしまった」
漆黒の長い髪、全身を覆い隠す異国の衣服の魔王ハイを見てロシファは息を飲む。
別人かと、思った。
以前紹介された時とは全く空気が違う、身に纏う空気がもはや別人だ。
緊張し、張り巡らされていた糸など、何処へか。
柔らかな光のベールにしか見えないハイ、思わず手の菓子を滑り落とす。
「スリザ様、アイセル様、ホーチミン様、サイゴン様、こんにちは!」
そのハイの影から躍り出たのが、アサギだった。
丁寧に四人の魔族に挨拶をし、朗らかに笑う勇者。
他の魔族達も、釣られて笑っている。
細身の身体、大きな瞳、愛らしい顔立ち・・・の、勇者。
すらりとした脚でハイの前に躍り出たアサギは、アレクに深く会釈をする。
「アレク様、遅れてしまってごめんなさい」
「いや、構わない。私達も先程来たばかりだ。早速紹介しよう、私の恋人のロシファだよ」
トン、と背中を押されるロシファ、アサギと視線が交差する。
ふんわり、と微笑み駆け寄ってきて手を差し出したアサギ、ぎこちなくロシファは自分も手を差し出した。
「初めまして、アサギです」
「・・・初めまして、小さな勇者さん。ロシファです」
ここは、魔界か。
この勇者が来ただけでこの変わりようはなんなのか?
二人の手が、接触した瞬間だった。
ロシファの身体中に電撃が走る、痛いわけではない、ただ一陣の風が吹きぬけるような、身体中が痺れるような。
勇者!? これが勇者!?
「ロシファ? どうした?」
「え、ううん、なんでもないの・・・」
目の前で微笑んでいるアサギを、見つめる。
勇者など、初めて見たが。
・・・勇者なのか? と疑念を抱いた。
確かに異質だった、”人間ではない”気がした。
聴きたい事は多々あったが、上手く言葉が出てこないロシファ。
立食で皆で菓子を食べ、他愛のない話をする。
「どうだい、ロシファ」
「どうって、言われても・・・」
ハイとホーチミンと話しているアサギを、ちらり、と見つめるホーチミン。
出された茶は先日ロシファがアレクに渡した、ハーブティだ。
「・・・ある意味、凄い光景よねこれ。魔界の中心部で魔王二人に勇者一人、エルフの姫が一人・・・」
小さな魔界の一角の庭。
上空を仰げば陽が差し込んでいる、結界がなければ上から誰でも侵入可能な場所だ。
「勇者の神器さえ、ここにあれば奇跡が起こるのに」
「奇跡? 奇跡はもう、起こっているよ」
瞳を細めて穏やかに笑うアレク、遠目で見ていたスリザは弾かれたように身体を硬直したが、情けなく俯いて笑う。
あんな表情を魔界でアレクがするなんて・・・、そういうことだった。
「勇者の神器」
声を張り上げたロシファに、その場に居た全員が驚いて一斉に注目する。
「セントラヴァーズとセントガーディアン。太古の昔、神と魔族とエルフが創り上げた代物。人間の手に預けた代物」
「え、そうなんですか!?」
駆け寄ってきたアサギ、勇者の武器だ気になるに決まっている。
「あなたが所持するべき武器は、どちらなのかしら? 勇者アサギ」
微かにアレクは眉を顰めた、勇者も魔王も関係なく語りたかったのだ。
だが、ロシファは鋭い眼差しでアサギを見つめたまま。
「セントガーディアンは、私の友達のトモハルが持っています。私はセントラヴァーズの所持者なのだと思ってました」
「トモハル?」
「あ、はい。私と一緒にこっちに来た友達で、みんな勇者です」
「みんな?」
首をかしげて、じっとりとアレクを見るロシファ。
アサギの説明は受けたが、”みんな”は知らない。
せっかくなので、とアサギはそっとワンピースからあるものを取り出す。
「私の友達の話、してなかったですよね。話してもいいですか?」
写真だった。
写真など無論、ハイ達は知らない。
鮮明な絵画にしか思えなかったが、興味本位で皆写真を除きこむ。
それは、アサギがずっと持ち歩いている写真だ。
一昨年のクラスの劇の最後に撮った写真である、そう、ミノルが所持している写真と全く同じものだ。
現勇者全員が同じクラスだった、一昨年。
自分が中央に、ユキにミノル、ダイキにケンイチ、トモハル。
そして、実は目を凝らさないと解らないが小さく幼馴染のリョウも写っている。
キィィィ、カトン・・・。
何か、音がした。
聞き覚えのある音に反射的にサイゴンは剣を引き抜き、構える。
「失礼、何か妙な音が聞こえたので」
「大丈夫だ、案ずるなサイゴン」
訝しげに注意深く辺りを見回しているサイゴンに、微かにアレクは微笑む。
だが確かに、皆音を聞いた気がした。
「一緒に来た、勇者です」
「あぁ、そういえば、そうだったな」
アサギを攫った時に確かに見た覚えがあったので、ハイは軽く頷いた。
「綺麗なドレスを着ているのね、アサギちゃんはお姫様だったの?」
最も興味を示したのはホーチミン、すっかり打ち解けているのかアサギにくっついて身を乗り出す。
「あ、これは劇をした後なのでドレスを着ているのです。お姫様じゃないですよ」
勇者の話に皆興味津々だ、アサギは一生懸命話を聞かせる。
「ええと、この人がセントガーディアンを持っているトモハルです」
「勇者の片割れ・・・」
ロシファが目を細める、幼すぎて良く解らない。
「あら、でも、大人になったらイイ男になりそうじゃない」
と、ホーチミン。
苦笑いするサイゴンはさておき、アサギは一人一人紹介していった。
「ダイキがチュザーレの勇者、ケンイチがハンニバルの勇者です」
「ふむ、こやつが・・・。とすると、私はこの勇者と対峙する予定なのか」
ケンイチを見たハイ、率直な感想。
もはや対峙する必要はないと思うが、予定ではその筈だった。
ガサガサ・・・。
和気藹々と語る皆、だが、物音に一斉に武器を構えた。
最も速かったのはスリザ、次いでサイゴン。
アレクはロシファを庇い、ハイがアサギを庇い。
ホーチミンとアイセルはアサギの傍らに立つと、構える。
「・・・おぉ、怖い怖い。っていうか、虐めだぐーよ、どして呼んでくれないぐーか?」
にょこ、っと草むらから出てきたのはリュウだった。
肩の力を抜く皆、慌ててアサギが弁解を。
「はう、ごめんなさい、リュウ様」
「ひどいぐー、混ぜて欲しいぐー。楽しそうだぐー」
「あ、はい、どうぞ」
拗ねた振りをしていたので無視を決めたハイだが、アサギはわたわたとリュウに近寄ると連れてくる。
深い溜息で武器を仕舞う一同を見つつ、リュウは不意に冷えた視線で皆を一瞥した。
「・・・揃いも揃って慣れ親しんで。容易くこれなら殺せそうだね」
小言。
きょとん、と上を向いたアサギに、いつものようににっこりと笑うリュウ。
ふと、威圧を感じリュウは視線を追う。
ロシファが、じっと自分を見ていた。
彼女だけが、構えを解いていなかった。
アレクの影で、両足を肩幅に広げて両腕を構えたままだった。
思わず、口笛。
不敵に微笑んでリュウは鼻で笑うと、刹那、鋭く獲物を値踏みするようにロシファを見る。
「なんの話をしていたぐーか?」
「えっと、友達の話です」
「友達?」
「はい、一緒に来た勇者の」
写真を見せ、微笑むアサギに凍りつくリュウ。
「ゆうしゃ? ・・・アサギ以外にもいるぐーか?」
「はい。ええっと、ここに映っている私の幼馴染の亮以外、皆勇者です。1星ネロの勇者は、ミノルとユキです。可愛い女の子なんですよ、私の親友です。ミノルは、ええとー・・・」
引き攣った表情のリュウ、気にせずハイが話しかける。
「あぁ、そういえば。リュウは勇者に会ったことがあるんだったな? 同じ人物か?」
数年前に聞いたことがあったので、口にした。
ビクリ、とリュウが引き攣る。
「えぇ!? 勇者!? ミノルとユキ以外にですか!?」
アサギが思わずリュウにしがみ付く、貴重な情報だ、勇者はどうやって選ばれるのか。
「私達みたいに、召喚されたんですか? リュウ様を倒すためにですか!? 今何処にいるんですか!? ・・・あれ、でも、勇者の石はミノルとユキが持ってるし・・・」
沈黙のリュウ、唇を噛締める。
絞り出した声は、若干擦れていた。
「アサギ。私は随分と長生きしているぐーよ、人間達とは時間軸が違うぐ。・・・大昔の話だぐ」
「戦ったんですか?」
視線を反らさずに訊いて来たアサギ、リュウは、口篭った。
戦ったのだろう、皆、そう思った。
ハイは聞いていたので知っている、勇者は弱かったのだと、聞いた。
目の前の小さな勇者、魔王に護られ魔界に一人きり。
けれど。
「・・・はは、あーっはっはっは!」
突如高笑いしたリュウ、軽々とアサギを抱き抱えると、首筋に爪を当てる。
「な!? リュウ!?」
驚愕の瞳でリュウを見たハイ、思わず構えたアレク一同。
「アサギ。憶えておくと良い、君は今、魔界の魔王の元にいる。殺されても文句は言えない状況下だ」
小声で告げたリュウ、ハイが喚きながら何か呪文を発動しかけていた。
けれども、アサギは何も動じていなかった。
「はい、知ってます。けど、私は殺されないと思うんです」
「おや? 君は自分の”勇者の立場”を過信しすぎていないかな」
「違います、今この場に、私を殺そうとしている人がいないんです。そう思うんです」
「おやや? 私がこの爪先を一気に押し込めばアサギのか細いクビなど一撃だよ? 鮮血が溢れ、綺麗だろうね」
くい、と首元に爪が刺さる、が、痛くはない。
「リュウ様」
「ん?」
それは、吸い込まれるような大きな瞳だった。
アサギの瞳に、リュウが映っていた。
何故か、半泣きの自分の顔が映っていた。
「リュウ様は、ミノルとユキの前の勇者を殺していないんですよね? どうなったんですか?」
言われた瞬間、弾かれたようにアサギを突き飛ばしたリュウ。
瞬時にハイがアサギを抱き抱え、サイゴンとスリザがリュウを囲む。
「あ・・・」
震える身体、蹲るように片膝ついたリュウ。
思わず、胸を掻き毟る。
身の毛がよだつ、脳内でざわめく。
冷汗が流れ出た、全身が一気にべたつくように。
「リュウ! 貴様どういうことだ! アサギに危害を加えるなどとっ」
「待って、待って、ハイ様! リュウ様は別に何も」
怒涛の勢いで歩み寄るハイを、必死にすがり付いて止めるアサギ。
ロシファを連れて、アレクも歩み寄る。
「・・・冗談なのか、リュウ。アサギは大事な客人だ、以後、謹んでくれ」
甘い、とロシファは鋭くリュウを睨む。
アレクの発言に反論しようとしたが、魔王アレクの言葉は絶対だ。
今のが冗談には、ロシファには見えなかった。
あのまま、アサギを殺してしまいそうだった。
だが、しなかったのはアサギの発言に揺さ振られたからだろう。
最も危険視すべき魔王は、リュウだったのでは、と唇を噛締めるロシファ。
アサギが全く警戒していない点が、不安だ。
だが、警戒していないからこそ、無事なのかもしれない。
「悪かったぐ、冗談だぐ。仲間はずれにするから意地悪したくなったんだぐ」
「やっていいことと、悪いことがあるだろう!? 」
牙をむくハイ、項垂れてリュウはそっぽを向いた。
「ごめんだぐ、アサギ」
「いえ、私は大丈夫です」
「・・・勇者には会ったぐ、でも、戦ってはいないぐ。・・・弱かったから、私の前に来る前に、他の者に殺されたんだぐ」
「・・・」
1星ネロの前の勇者は、死んだのだ。
沈黙。
「あの。辛いところ申し訳ないのですけど・・・。前のその勇者も、二人でした?」
「辛くはないぐ」
「いえ、なんだか勇者の話になると、リュウ様酷く痛々しく悲しそうに見えるんです」
「き、気のせいだぐ。っていうか、二人ってなんだぐ?」
見抜かれた、リュウは顔を顰めるがすぐに作り笑いを浮かべる。
「今の勇者、ミノルとユキで二人なんです」
「いや、勇者は一人だったぐ。強いて言うなら勇者の傍らに妻の姫が居たぐ」
「・・・前の勇者、結婚していたんですか?」
「そうだぐ、夫婦だったぐ」
「・・・」
もし。
ミノルとユキがそういった仲になっていたらどうしようかと、アサギは思わず顔色を変える。
離れて旅を始めたことなど知らないアサギ、二人が苦難を乗り越えていることを想像したらば、胸が痛く。
「アサギ?」
静かになったアサギ、ハイが不安そうに声をかけるが、アサギはぎこちなく笑った。
間近で見ていたリュウ、思ってしまった。
あぁ、なるほど、アサギの弱点はその”1星ネロの勇者”だ、と。
「どうして、勇者って一つの星で二人も存在するんですか? 2星と3星は一人なのに」
ぼそ、とアサギ。
「1星は知らないけれど、4星は同時に二人というわけでもないの。今回は偶然のはずよ。常に対であるわけではないわ」
「え・・・?」
す、っと躍り出たロシファ、アサギの頬を撫でる。
「セントラヴァーズとセントガーディアン、どちらか相応しいほうの武器を手にするの。ただ、各々その力を発揮出切るかは解らないわよ? もう一人の勇者はもう武器を手にしているのよね? でも、恐らく解放されていない筈」
「・・・そうなんですか・・・」
分けがわからない、勇者に選ばれたからとはしゃいでいたが、謎が増えてしまった。
「あの、私はもう戦う必要がないと思っているんですけど、それでも武器は必要なんでしょうか?」
戸惑いがちにロシファに聞いた、即答される。
「必要よ、あなたが真の勇者ならば。・・・セントラヴァーズを私も観てみたいし、受け取るべきだわ」
「・・・じゃあ私、ここに居ちゃいけないから、みんなのところへ戻らなきゃ」
申し訳なさそうにハイを見るアサギ、絶句するしかなかったハイ。
沈黙。
とんだ顔合わせになってしまった。
気まずそうにホーチミンはサイゴンに寄り添い、スリザは不安そうにアレクを見つめる。
「急がなくてもいいと思うの、でも、もし、本当に貴女が勇者ならば、セントラヴァーズから貴女の元へやってくる筈」
「・・・そうなんですか? みんなが取りに行っているから、それでかな・・・」
「人間界の何処かにあるのよね?」
「あ、はい、ピ」
地名を言いかけたアサギの口を、ロシファが即座に塞ぐ。
怒った様な口調でアサギを制し、ゆっくりと手を離す。
「魔界で、言わないで。誰が聞いているとも限らない」
「ご、ごめんなさい・・・」
「・・・貴女の使命は何かしら? 魔王を倒すことかしら?」
「違います! 最近思うんですけど、私がここに来た理由って、人間と魔族の戦いを止める為なのかなって。勘違いしてると思うから・・・」
それしかないと、アサギは判断した。
戸惑いがちにアレクを見上げた、ハイを見上げた、リュウを見上げた。
満足そうにロシファは微笑むと、そっと髪を撫でる。
「・・・ならば、その為に武器が必要ね。魔界の先導者、人間の要の勇者、エルフの長の姫、三者が揃っても他に圧力をかけておかないといけないものね。
改めて始めまして、勇者アサギ。私の名はロシファ=リサ。現エルフの長を勤めております」
地面に、両手をつけたロシファ、軽く微笑む。
ズア・・・!
小さな悲鳴を上げたホーチミン、突如として足元で花が咲いたからだ。
ポポン、と木に花が咲き乱れ、草木が一斉に伸びる。
「わぁ・・・!」
感嘆の声を漏らしたアサギ、ハイも唖然と成り行きを見守る。
「ロシファ、不用意に力を使うな!」
「あらアレク、いいじゃない細かいこと言わなくても」
焦燥感に駆られて止めに入ったアレク、破壊とは正反対の力をエルフは持っている。
くすくすと笑うロシファ、これがエルフの力である。
生命の源を増幅させられるからこそ、体内に湧き出るモノを摂取すれば、その者は力を増幅させられるのだろう。
美しき庭に、色取り取りの華が。
興奮する一同の中で、一人アイセルがそっと写真を眺めていた。
目に焼き付ける、マビルに教える為に。
不意に、トモハルが気になり食い入る様に見つめるが、何故かは解らず。
百花繚乱、魔界の箱庭。
麗しき三人の魔王に囲まれた、幼き美貌の勇者一人。
凛々しいエルフの姫君と、肩を並べて空を仰ぐ。
傍らに四人の精鋭魔族を、花乱れる香る庭。
「また、会いたいわ。貴女と話がしたいの」
「はい、また遊んでください」
花弁が、アサギの唇に。
小さく微笑んでそれを摘んだロシファは、優しくアサギの頭を撫でる。
「私の理想は貴女と同じよ、皆が安心して暮らせる世界を創りたい。無論アレクも同じ」
「はい」
「・・・アレク。エルフの長として一言。・・・貴方の従兄弟達に招集をかけなさい、機を逃してはいけないわ」
「そうだね」
エルフの姫が、ここまで凛々しく気丈だとは誰も思っていなかった、アレクが押さえ込まれている気さえする。
控えているスリザ達に、声をかける。
「私達が掲げる理想は、容易ではないから。貴方達にアレクへの忠誠心があるのならば、彼を・・・護って」
「心外なお言葉、勿論です」
スリザが平伏した、サイゴンたちも同じ様に平伏す。
「・・・魔王ハイ様、魔王リュウ様。クレオは種族共存を計ります、賛同されるのならばともかく、妨害されるのであれば、故郷の星へ、お戻り下さいませ」
「私は賛同しよう、そして見届けよう。いや、共に参加させてもらえないだろうか」
威厳あるロシファ、怯みながらも素直にハイは言葉を述べる。
にっこり、と満足そうに微笑んだロシファはリュウに視線を移す。
「妨害はしないぐ」
つまり、賛同はしないということだろうか、ロシファに視線を移さずに、リュウは空を仰いだままそう呟く。
「規律を乱すようならば、追放いたします。私の全魔力にかけて」
「望むところだぐ」
のほほん、と微かに愉快そうに笑いながら呟いたリュウ。
些か気に食わない返答にアレクは眉を顰めていたが、ロシファは鼻で笑った。
「神がここにいないのが残念ですね。・・・全くいつでも協調性がない事」
「ロシファ様は神様を知っているのですか?」
「文献でね。空のお城に住まっているだけの存在よ、肝心な時にも来ない。・・・今この場に来て、一緒に調印を押せばいいのに」
軽く毒吐き、悪態つくロシファの額をアレクが小突く。
暫しの会話後、アレクと共にロシファは帰宅した。
帰宅前に、リュウを軽く睨んだが、リュウは気にも留めず。
その後、アレクとロシファを除いて皆で夕食を摂った後、各々部屋へと。
「リュウ様。危険な目に自ら曝さずとも」
室内で、慌てふためきリュウ七人衆が取り囲んだ。
昼間の事を言っているのだ、外で待機していたわけだが、何度飛び出そうと思ったことか。
「勇者は、危険に御座います!」
「・・・良いのだ、気にするな」
不安そうにリュウを見つめる七人に、情けなく、静かに笑う。
「迷惑かけて、ごめん・・・」
ベッドに倒れこみ、静かに寝静まるリュウ。
沈黙の中、七人は困惑気味にリュウを見ていた。
アサギがドアを開くと、無表情でアレクが立っている。
「自室から出てくるとは珍しいな、アレク。何か用か?」
以前のハイも自室に籠もっていたが、自分は棚に上げての発言だ。
気にせずアレクはアサギに目を落とした、小首傾げているアサギを目を細めて見る。
「・・・今日は・・・何をしている? 時間があれば紹介したい人がいる」
アサギの保護者はハイだ、ローブを羽織って欠伸しつつアサギの背後に立ったハイは、腕を組みつつアサギから目を離さないアレクに多少の苛立ちを感じつつ返答。
「誰だ?」
「・・・私の、恋人だ」
「あぁ。なら良い。アサギ、今日はアレクと共に過ごそう」
ロシファならば、ハイとて知っている。
興味がなかったので顔はうろ覚えだが、女だったので快く了承。
「アレク様の恋人ですか?」
「あぁ、ロシファという。アサギの話をしたら、会いたいと言っていたのだが、良いだろうか」
「はい! 楽しみです」
魔王の恋人とは、どんな人だろうとアサギは興奮した面持ちで勢い良く返事。
微かに口元が綻んだアレクは、ハイに手短に詳細を伝える。
「ふむ、午後からか。ならばそれまでは、ゆるりと過ごそう。昨日の買い物で多少身体に軋みが」
ジジくさい発言のハイはさておき、アレクは静かに一礼すると立ち去った。
今日のアサギは萌黄色のワンピースだ、大きなリボンが背中についていて、ふわふわゆれるスカートが森の妖精を連想させる。
昨日買って貰った商品たちを部屋に片付けつつ、ハイと談笑しながら時を待つ。
一方アレクは早急にロシファを連れ出すために、転移を急いでいた。
「あら、アレク。どうしたの?」
忙しいのでなかなか会えないアレクとロシファだが、今回間もなく会いに来たので思わずすっとんきょうな声を上げるロシファ。
草木染をしていた最中だった、どうやらそれで新しく衣服を作るつもりなのだろう。
「アサギに会わせる。会いたがっていただろう?」
「会いたいけど、もう、会えるの? アレクあなた仕事は?」
「早いほうがいいだろう、ハイには約束を取り付けた、今日の午後から会えるから急ごう」
「・・・え、え?」
ロシファの腕を強引に引っ張る、ほほほ、と笑いながら乳母は二人を見送った。
「ま、待って! 正装させてよ、これ、普段着よ!?」
汚すまいとロシファが着ていた衣服は、何の変哲もない麻のワンピースだった。
おまけに、髪とて結っていない。
「いいじゃないか、君らしい」
「はぁ!? 私一応エルフの姫君なのに」
「有りの侭の私達を見てもらおう、そのほうがいいと思うんだ」
無邪気に笑ったアレクに、怒る気を失くしたロシファはそっと溜息を吐き。
そうね、と小さく呟く。
魔界イヴァンで。
魔王と勇者とエルフの姫君が、出会う。
有り得ない事だった、普通ならば絶対に。
不可能を可能にしたのは、無論異界から来た勇者。
ロシファを連れて魔界に戻ったアレク、スリザが護衛をし、万が一に備えてこの日はアイセルもサイゴンもホーチミンも護衛についた。
ロシファの存在は、良くも悪くも魔界に波紋を齎す。
魔王アレクの恋人がエルフであることは、大概皆知っていた。
質素なサンダルにワンピース、髪とて慌てて結っただけ。
とても姫君には思えないロシファに、思わず小声でホーチミンはサイゴンに告げた。
「あの人・・・綺麗だけど、エルフって身なりを整えないの?」
「お前と違って、化粧して見た目を着飾らなくても美しいんだ・・・ガッ」
聞き終える前にサイゴンの脚を踏みつけホーチミン、静かに睨みを利かせたスリザに肩を竦めた。
大広間ではなく、小さな庭を選んだアレク。
運ばれてきた菓子と茶、小さなテーブル。
庭への入口は四箇所、そのドアに各々スリザ達四人を配置する。
侵入者を、拒む。
やがてハイがアサギを連れて、庭へとやってきた。
菓子を摘んでいたロシファ、思わず食い入る様にアサギを見つめる。
「すまんな、少し遅れてしまった」
漆黒の長い髪、全身を覆い隠す異国の衣服の魔王ハイを見てロシファは息を飲む。
別人かと、思った。
以前紹介された時とは全く空気が違う、身に纏う空気がもはや別人だ。
緊張し、張り巡らされていた糸など、何処へか。
柔らかな光のベールにしか見えないハイ、思わず手の菓子を滑り落とす。
「スリザ様、アイセル様、ホーチミン様、サイゴン様、こんにちは!」
そのハイの影から躍り出たのが、アサギだった。
丁寧に四人の魔族に挨拶をし、朗らかに笑う勇者。
他の魔族達も、釣られて笑っている。
細身の身体、大きな瞳、愛らしい顔立ち・・・の、勇者。
すらりとした脚でハイの前に躍り出たアサギは、アレクに深く会釈をする。
「アレク様、遅れてしまってごめんなさい」
「いや、構わない。私達も先程来たばかりだ。早速紹介しよう、私の恋人のロシファだよ」
トン、と背中を押されるロシファ、アサギと視線が交差する。
ふんわり、と微笑み駆け寄ってきて手を差し出したアサギ、ぎこちなくロシファは自分も手を差し出した。
「初めまして、アサギです」
「・・・初めまして、小さな勇者さん。ロシファです」
ここは、魔界か。
この勇者が来ただけでこの変わりようはなんなのか?
二人の手が、接触した瞬間だった。
ロシファの身体中に電撃が走る、痛いわけではない、ただ一陣の風が吹きぬけるような、身体中が痺れるような。
勇者!? これが勇者!?
「ロシファ? どうした?」
「え、ううん、なんでもないの・・・」
目の前で微笑んでいるアサギを、見つめる。
勇者など、初めて見たが。
・・・勇者なのか? と疑念を抱いた。
確かに異質だった、”人間ではない”気がした。
聴きたい事は多々あったが、上手く言葉が出てこないロシファ。
立食で皆で菓子を食べ、他愛のない話をする。
「どうだい、ロシファ」
「どうって、言われても・・・」
ハイとホーチミンと話しているアサギを、ちらり、と見つめるホーチミン。
出された茶は先日ロシファがアレクに渡した、ハーブティだ。
「・・・ある意味、凄い光景よねこれ。魔界の中心部で魔王二人に勇者一人、エルフの姫が一人・・・」
小さな魔界の一角の庭。
上空を仰げば陽が差し込んでいる、結界がなければ上から誰でも侵入可能な場所だ。
「勇者の神器さえ、ここにあれば奇跡が起こるのに」
「奇跡? 奇跡はもう、起こっているよ」
瞳を細めて穏やかに笑うアレク、遠目で見ていたスリザは弾かれたように身体を硬直したが、情けなく俯いて笑う。
あんな表情を魔界でアレクがするなんて・・・、そういうことだった。
「勇者の神器」
声を張り上げたロシファに、その場に居た全員が驚いて一斉に注目する。
「セントラヴァーズとセントガーディアン。太古の昔、神と魔族とエルフが創り上げた代物。人間の手に預けた代物」
「え、そうなんですか!?」
駆け寄ってきたアサギ、勇者の武器だ気になるに決まっている。
「あなたが所持するべき武器は、どちらなのかしら? 勇者アサギ」
微かにアレクは眉を顰めた、勇者も魔王も関係なく語りたかったのだ。
だが、ロシファは鋭い眼差しでアサギを見つめたまま。
「セントガーディアンは、私の友達のトモハルが持っています。私はセントラヴァーズの所持者なのだと思ってました」
「トモハル?」
「あ、はい。私と一緒にこっちに来た友達で、みんな勇者です」
「みんな?」
首をかしげて、じっとりとアレクを見るロシファ。
アサギの説明は受けたが、”みんな”は知らない。
せっかくなので、とアサギはそっとワンピースからあるものを取り出す。
「私の友達の話、してなかったですよね。話してもいいですか?」
写真だった。
写真など無論、ハイ達は知らない。
鮮明な絵画にしか思えなかったが、興味本位で皆写真を除きこむ。
それは、アサギがずっと持ち歩いている写真だ。
一昨年のクラスの劇の最後に撮った写真である、そう、ミノルが所持している写真と全く同じものだ。
現勇者全員が同じクラスだった、一昨年。
自分が中央に、ユキにミノル、ダイキにケンイチ、トモハル。
そして、実は目を凝らさないと解らないが小さく幼馴染のリョウも写っている。
キィィィ、カトン・・・。
何か、音がした。
聞き覚えのある音に反射的にサイゴンは剣を引き抜き、構える。
「失礼、何か妙な音が聞こえたので」
「大丈夫だ、案ずるなサイゴン」
訝しげに注意深く辺りを見回しているサイゴンに、微かにアレクは微笑む。
だが確かに、皆音を聞いた気がした。
「一緒に来た、勇者です」
「あぁ、そういえば、そうだったな」
アサギを攫った時に確かに見た覚えがあったので、ハイは軽く頷いた。
「綺麗なドレスを着ているのね、アサギちゃんはお姫様だったの?」
最も興味を示したのはホーチミン、すっかり打ち解けているのかアサギにくっついて身を乗り出す。
「あ、これは劇をした後なのでドレスを着ているのです。お姫様じゃないですよ」
勇者の話に皆興味津々だ、アサギは一生懸命話を聞かせる。
「ええと、この人がセントガーディアンを持っているトモハルです」
「勇者の片割れ・・・」
ロシファが目を細める、幼すぎて良く解らない。
「あら、でも、大人になったらイイ男になりそうじゃない」
と、ホーチミン。
苦笑いするサイゴンはさておき、アサギは一人一人紹介していった。
「ダイキがチュザーレの勇者、ケンイチがハンニバルの勇者です」
「ふむ、こやつが・・・。とすると、私はこの勇者と対峙する予定なのか」
ケンイチを見たハイ、率直な感想。
もはや対峙する必要はないと思うが、予定ではその筈だった。
ガサガサ・・・。
和気藹々と語る皆、だが、物音に一斉に武器を構えた。
最も速かったのはスリザ、次いでサイゴン。
アレクはロシファを庇い、ハイがアサギを庇い。
ホーチミンとアイセルはアサギの傍らに立つと、構える。
「・・・おぉ、怖い怖い。っていうか、虐めだぐーよ、どして呼んでくれないぐーか?」
にょこ、っと草むらから出てきたのはリュウだった。
肩の力を抜く皆、慌ててアサギが弁解を。
「はう、ごめんなさい、リュウ様」
「ひどいぐー、混ぜて欲しいぐー。楽しそうだぐー」
「あ、はい、どうぞ」
拗ねた振りをしていたので無視を決めたハイだが、アサギはわたわたとリュウに近寄ると連れてくる。
深い溜息で武器を仕舞う一同を見つつ、リュウは不意に冷えた視線で皆を一瞥した。
「・・・揃いも揃って慣れ親しんで。容易くこれなら殺せそうだね」
小言。
きょとん、と上を向いたアサギに、いつものようににっこりと笑うリュウ。
ふと、威圧を感じリュウは視線を追う。
ロシファが、じっと自分を見ていた。
彼女だけが、構えを解いていなかった。
アレクの影で、両足を肩幅に広げて両腕を構えたままだった。
思わず、口笛。
不敵に微笑んでリュウは鼻で笑うと、刹那、鋭く獲物を値踏みするようにロシファを見る。
「なんの話をしていたぐーか?」
「えっと、友達の話です」
「友達?」
「はい、一緒に来た勇者の」
写真を見せ、微笑むアサギに凍りつくリュウ。
「ゆうしゃ? ・・・アサギ以外にもいるぐーか?」
「はい。ええっと、ここに映っている私の幼馴染の亮以外、皆勇者です。1星ネロの勇者は、ミノルとユキです。可愛い女の子なんですよ、私の親友です。ミノルは、ええとー・・・」
引き攣った表情のリュウ、気にせずハイが話しかける。
「あぁ、そういえば。リュウは勇者に会ったことがあるんだったな? 同じ人物か?」
数年前に聞いたことがあったので、口にした。
ビクリ、とリュウが引き攣る。
「えぇ!? 勇者!? ミノルとユキ以外にですか!?」
アサギが思わずリュウにしがみ付く、貴重な情報だ、勇者はどうやって選ばれるのか。
「私達みたいに、召喚されたんですか? リュウ様を倒すためにですか!? 今何処にいるんですか!? ・・・あれ、でも、勇者の石はミノルとユキが持ってるし・・・」
沈黙のリュウ、唇を噛締める。
絞り出した声は、若干擦れていた。
「アサギ。私は随分と長生きしているぐーよ、人間達とは時間軸が違うぐ。・・・大昔の話だぐ」
「戦ったんですか?」
視線を反らさずに訊いて来たアサギ、リュウは、口篭った。
戦ったのだろう、皆、そう思った。
ハイは聞いていたので知っている、勇者は弱かったのだと、聞いた。
目の前の小さな勇者、魔王に護られ魔界に一人きり。
けれど。
「・・・はは、あーっはっはっは!」
突如高笑いしたリュウ、軽々とアサギを抱き抱えると、首筋に爪を当てる。
「な!? リュウ!?」
驚愕の瞳でリュウを見たハイ、思わず構えたアレク一同。
「アサギ。憶えておくと良い、君は今、魔界の魔王の元にいる。殺されても文句は言えない状況下だ」
小声で告げたリュウ、ハイが喚きながら何か呪文を発動しかけていた。
けれども、アサギは何も動じていなかった。
「はい、知ってます。けど、私は殺されないと思うんです」
「おや? 君は自分の”勇者の立場”を過信しすぎていないかな」
「違います、今この場に、私を殺そうとしている人がいないんです。そう思うんです」
「おやや? 私がこの爪先を一気に押し込めばアサギのか細いクビなど一撃だよ? 鮮血が溢れ、綺麗だろうね」
くい、と首元に爪が刺さる、が、痛くはない。
「リュウ様」
「ん?」
それは、吸い込まれるような大きな瞳だった。
アサギの瞳に、リュウが映っていた。
何故か、半泣きの自分の顔が映っていた。
「リュウ様は、ミノルとユキの前の勇者を殺していないんですよね? どうなったんですか?」
言われた瞬間、弾かれたようにアサギを突き飛ばしたリュウ。
瞬時にハイがアサギを抱き抱え、サイゴンとスリザがリュウを囲む。
「あ・・・」
震える身体、蹲るように片膝ついたリュウ。
思わず、胸を掻き毟る。
身の毛がよだつ、脳内でざわめく。
冷汗が流れ出た、全身が一気にべたつくように。
「リュウ! 貴様どういうことだ! アサギに危害を加えるなどとっ」
「待って、待って、ハイ様! リュウ様は別に何も」
怒涛の勢いで歩み寄るハイを、必死にすがり付いて止めるアサギ。
ロシファを連れて、アレクも歩み寄る。
「・・・冗談なのか、リュウ。アサギは大事な客人だ、以後、謹んでくれ」
甘い、とロシファは鋭くリュウを睨む。
アレクの発言に反論しようとしたが、魔王アレクの言葉は絶対だ。
今のが冗談には、ロシファには見えなかった。
あのまま、アサギを殺してしまいそうだった。
だが、しなかったのはアサギの発言に揺さ振られたからだろう。
最も危険視すべき魔王は、リュウだったのでは、と唇を噛締めるロシファ。
アサギが全く警戒していない点が、不安だ。
だが、警戒していないからこそ、無事なのかもしれない。
「悪かったぐ、冗談だぐ。仲間はずれにするから意地悪したくなったんだぐ」
「やっていいことと、悪いことがあるだろう!? 」
牙をむくハイ、項垂れてリュウはそっぽを向いた。
「ごめんだぐ、アサギ」
「いえ、私は大丈夫です」
「・・・勇者には会ったぐ、でも、戦ってはいないぐ。・・・弱かったから、私の前に来る前に、他の者に殺されたんだぐ」
「・・・」
1星ネロの前の勇者は、死んだのだ。
沈黙。
「あの。辛いところ申し訳ないのですけど・・・。前のその勇者も、二人でした?」
「辛くはないぐ」
「いえ、なんだか勇者の話になると、リュウ様酷く痛々しく悲しそうに見えるんです」
「き、気のせいだぐ。っていうか、二人ってなんだぐ?」
見抜かれた、リュウは顔を顰めるがすぐに作り笑いを浮かべる。
「今の勇者、ミノルとユキで二人なんです」
「いや、勇者は一人だったぐ。強いて言うなら勇者の傍らに妻の姫が居たぐ」
「・・・前の勇者、結婚していたんですか?」
「そうだぐ、夫婦だったぐ」
「・・・」
もし。
ミノルとユキがそういった仲になっていたらどうしようかと、アサギは思わず顔色を変える。
離れて旅を始めたことなど知らないアサギ、二人が苦難を乗り越えていることを想像したらば、胸が痛く。
「アサギ?」
静かになったアサギ、ハイが不安そうに声をかけるが、アサギはぎこちなく笑った。
間近で見ていたリュウ、思ってしまった。
あぁ、なるほど、アサギの弱点はその”1星ネロの勇者”だ、と。
「どうして、勇者って一つの星で二人も存在するんですか? 2星と3星は一人なのに」
ぼそ、とアサギ。
「1星は知らないけれど、4星は同時に二人というわけでもないの。今回は偶然のはずよ。常に対であるわけではないわ」
「え・・・?」
す、っと躍り出たロシファ、アサギの頬を撫でる。
「セントラヴァーズとセントガーディアン、どちらか相応しいほうの武器を手にするの。ただ、各々その力を発揮出切るかは解らないわよ? もう一人の勇者はもう武器を手にしているのよね? でも、恐らく解放されていない筈」
「・・・そうなんですか・・・」
分けがわからない、勇者に選ばれたからとはしゃいでいたが、謎が増えてしまった。
「あの、私はもう戦う必要がないと思っているんですけど、それでも武器は必要なんでしょうか?」
戸惑いがちにロシファに聞いた、即答される。
「必要よ、あなたが真の勇者ならば。・・・セントラヴァーズを私も観てみたいし、受け取るべきだわ」
「・・・じゃあ私、ここに居ちゃいけないから、みんなのところへ戻らなきゃ」
申し訳なさそうにハイを見るアサギ、絶句するしかなかったハイ。
沈黙。
とんだ顔合わせになってしまった。
気まずそうにホーチミンはサイゴンに寄り添い、スリザは不安そうにアレクを見つめる。
「急がなくてもいいと思うの、でも、もし、本当に貴女が勇者ならば、セントラヴァーズから貴女の元へやってくる筈」
「・・・そうなんですか? みんなが取りに行っているから、それでかな・・・」
「人間界の何処かにあるのよね?」
「あ、はい、ピ」
地名を言いかけたアサギの口を、ロシファが即座に塞ぐ。
怒った様な口調でアサギを制し、ゆっくりと手を離す。
「魔界で、言わないで。誰が聞いているとも限らない」
「ご、ごめんなさい・・・」
「・・・貴女の使命は何かしら? 魔王を倒すことかしら?」
「違います! 最近思うんですけど、私がここに来た理由って、人間と魔族の戦いを止める為なのかなって。勘違いしてると思うから・・・」
それしかないと、アサギは判断した。
戸惑いがちにアレクを見上げた、ハイを見上げた、リュウを見上げた。
満足そうにロシファは微笑むと、そっと髪を撫でる。
「・・・ならば、その為に武器が必要ね。魔界の先導者、人間の要の勇者、エルフの長の姫、三者が揃っても他に圧力をかけておかないといけないものね。
改めて始めまして、勇者アサギ。私の名はロシファ=リサ。現エルフの長を勤めております」
地面に、両手をつけたロシファ、軽く微笑む。
ズア・・・!
小さな悲鳴を上げたホーチミン、突如として足元で花が咲いたからだ。
ポポン、と木に花が咲き乱れ、草木が一斉に伸びる。
「わぁ・・・!」
感嘆の声を漏らしたアサギ、ハイも唖然と成り行きを見守る。
「ロシファ、不用意に力を使うな!」
「あらアレク、いいじゃない細かいこと言わなくても」
焦燥感に駆られて止めに入ったアレク、破壊とは正反対の力をエルフは持っている。
くすくすと笑うロシファ、これがエルフの力である。
生命の源を増幅させられるからこそ、体内に湧き出るモノを摂取すれば、その者は力を増幅させられるのだろう。
美しき庭に、色取り取りの華が。
興奮する一同の中で、一人アイセルがそっと写真を眺めていた。
目に焼き付ける、マビルに教える為に。
不意に、トモハルが気になり食い入る様に見つめるが、何故かは解らず。
百花繚乱、魔界の箱庭。
麗しき三人の魔王に囲まれた、幼き美貌の勇者一人。
凛々しいエルフの姫君と、肩を並べて空を仰ぐ。
傍らに四人の精鋭魔族を、花乱れる香る庭。
「また、会いたいわ。貴女と話がしたいの」
「はい、また遊んでください」
花弁が、アサギの唇に。
小さく微笑んでそれを摘んだロシファは、優しくアサギの頭を撫でる。
「私の理想は貴女と同じよ、皆が安心して暮らせる世界を創りたい。無論アレクも同じ」
「はい」
「・・・アレク。エルフの長として一言。・・・貴方の従兄弟達に招集をかけなさい、機を逃してはいけないわ」
「そうだね」
エルフの姫が、ここまで凛々しく気丈だとは誰も思っていなかった、アレクが押さえ込まれている気さえする。
控えているスリザ達に、声をかける。
「私達が掲げる理想は、容易ではないから。貴方達にアレクへの忠誠心があるのならば、彼を・・・護って」
「心外なお言葉、勿論です」
スリザが平伏した、サイゴンたちも同じ様に平伏す。
「・・・魔王ハイ様、魔王リュウ様。クレオは種族共存を計ります、賛同されるのならばともかく、妨害されるのであれば、故郷の星へ、お戻り下さいませ」
「私は賛同しよう、そして見届けよう。いや、共に参加させてもらえないだろうか」
威厳あるロシファ、怯みながらも素直にハイは言葉を述べる。
にっこり、と満足そうに微笑んだロシファはリュウに視線を移す。
「妨害はしないぐ」
つまり、賛同はしないということだろうか、ロシファに視線を移さずに、リュウは空を仰いだままそう呟く。
「規律を乱すようならば、追放いたします。私の全魔力にかけて」
「望むところだぐ」
のほほん、と微かに愉快そうに笑いながら呟いたリュウ。
些か気に食わない返答にアレクは眉を顰めていたが、ロシファは鼻で笑った。
「神がここにいないのが残念ですね。・・・全くいつでも協調性がない事」
「ロシファ様は神様を知っているのですか?」
「文献でね。空のお城に住まっているだけの存在よ、肝心な時にも来ない。・・・今この場に来て、一緒に調印を押せばいいのに」
軽く毒吐き、悪態つくロシファの額をアレクが小突く。
暫しの会話後、アレクと共にロシファは帰宅した。
帰宅前に、リュウを軽く睨んだが、リュウは気にも留めず。
その後、アレクとロシファを除いて皆で夕食を摂った後、各々部屋へと。
「リュウ様。危険な目に自ら曝さずとも」
室内で、慌てふためきリュウ七人衆が取り囲んだ。
昼間の事を言っているのだ、外で待機していたわけだが、何度飛び出そうと思ったことか。
「勇者は、危険に御座います!」
「・・・良いのだ、気にするな」
不安そうにリュウを見つめる七人に、情けなく、静かに笑う。
「迷惑かけて、ごめん・・・」
ベッドに倒れこみ、静かに寝静まるリュウ。
沈黙の中、七人は困惑気味にリュウを見ていた。
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