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ここで、これを挿入してみるとか。
※時間稼ぎ
ところで、上手く描けたので、早速ついったーの画像をコレに変更してみました。
左手+マウス+ピクシア
素晴らしい出来だと自画自賛してます、最近描いた中で一番上手に描けていると思います。
・・・(項垂)。
一応ウサギなのです・・・。
波に揺られながら、眠るのにも慣れた。
船に乗ってから、何度も月と太陽が入れ替わるのを見た。
一体どの程度船の上にいれば良いというのだろう?
飛行機があればいいのに、と思った。
もしくはこの船が豪華客船であればいいのに、とも思った。
ユキは一人、甲板に立つと潮風に当たる。
現在、夜更け。
寝付けなくて、起きて来て潮風に当たっているわけだが。
「あれ、ユキ?」
弾かれたように悲鳴を上げつつ振り返れば、トモハルとケンイチが立っていた。
珍しい組み合わせだ、と思う。
二人はユキの隣に立つと、一緒に波を見つめて沈黙。
「アサギは、無事かな」
「アサギちゃんだもの、無事よ、きっと」
「そうだよね、でも、泣いてるだろうな。けど、俺達を心配してもいるだろうな」
「だから、泣いてないかもね」
トモハルとケンイチ、アサギについてあれこれと。
急に苛立ちが増したユキ、これ以上この場に居たくない。
確かに攫われたのはアサギだが、ユキとて一人頑張っているつもりだった。
なのに、アサギ、アサギ、アサギ・・・。
「あっれ、お前ら何してんの?」
声に振り返れば、今度はミノルとダイキだった。
勇者が全員、揃ってしまう。
「寝付けなくて」
「船での戦闘も慣れて来たけどな、夜は不気味」
苦笑いのケンイチに、ぶっきらぼうにミノルは返答すると同じ様に甲板に立つ。
「アサギの話をしてたんだ」
トモハルの言葉に、ミノルは口を噤んだ。
ダイキが、ぼそっと一言。
「大丈夫かな・・・心細いだろうな。俺達はこうして一緒なのに」
紅一点のユキだが、出る会話はアサギのみ。
「アサギは・・・」
「アサギが・・・」
「アサギを・・・」
「アサギって・・・」
げんなり、とした疲れた表情でユキは蹲る。
「酔ったの? ユキ」
ケンイチだけが不安そうに、蹲ったユキに話しかけるが。
他はあーだこーだと、アサギの話だ。
いらいらいらいらいらいらいらいらー!
「心配してくれてありがとう、ケンイチ。大丈夫」
「そっか、よかった」
紅一点。
男四人、本命一名有り。
だが、何も進展しない。
「アサギ、エロゲーのヒロインみたいなことになってたらどうしよう」
ぼそり、と吐き捨てたトモハルの台詞に皆が吹き出す。
とりわけ、ミノルは赤面し右往左往。
「ななななななー!」
「いや、兄貴の部屋のゲームにさ。魔王が姫を攫って監禁して色々な内容のゲームがあってさ」
「お前それ、やったのかよ!?」
「やらないよ、部屋に入ったら箱が落ちてただけで。似てたんだ、あの姫にアサギが」
それもそうだ、トモハルの兄がアサギに似ていたから買ったゲームなのだから。
「えっろ!」
赤面しながらも聞いているケンイチとダイキ、喚きたてるミノル、平然としたトモハル。
・・・居辛いユキ。
「で、何だ? その攫った魔王はあのハイに似てるのか?」
「違うよ、魔王はプレイヤーなんだよ。自分好みの姫に育てるゲームなんだ」
ちなみに、トモハルの兄のプレイ記録だと、姫はメイド服着た淫乱従順M姫”アサギ”になっているがそんなこと誰も知らない。
というか、どうでもいい。
「やたら詳しいなお前・・・。やってるだろ!? 姫の名前”アサギ”にしてないだろーな!?」
「してないよ、どうせやるならアサギじゃなくてマ」
マ?
トモハル、首を傾げる。
今、喉まで名前が出かかっていたのだが。
「マ? トモハルの好きな子、マがつくの? 初耳ー」
興味津々で、ケンイチが乗り込む。
てっきり、アサギだとばかり思って居た。
「まり? まさみ? まき? え、誰?」
同学年でマがつく少女達の名を上げるケンイチ、苦笑いでトモハルは手を振る。
「違うよ、いないよ。アサギは可愛いと思うけど、他はどうでもいいんだ」
どうでもいい、という単語にショックを受けたのはユキだ。
アサギ以外、ひとくくり、その中に自分も入っているのだろう。
酷い話である。
自分の存在が、その場に居ないようで。
「ダイキは前からアサギが好きだよね」
さらり、と言ったトモハルに、ダイキがむせかえる。
違う、と言えずに沈黙。
そこをケンイチに追撃されて逃げる羽目に。
「見てれば解るよ。話せると嬉しそうだから」
といっても、トモハルが気づいたのはつい最近ではない、去年の運動会だ。
ミノルは、自分の番が回って来ないか不安を覚えつつ引き攣った笑いを浮かべる。
話をそらすために、ゲームの話へ。
「で、そのゲームタイトルは? パソコン?」
「・・・ミノル、やりたいわけ? 魔王の名前をミノルにして、姫の名前をアサギにするつもり?」
図星だった。
が、脳内大爆発を起こしたミノルは冗談で言ったつもりのトモハルに殴りかかる。
「お前が魔王って無理があるだろ、あははー」
「う、うるせーっ!!! 18禁ゲーは小学生はプレイしちゃいけないんだーっ!」
その通りだ。
逆上しているミノルの攻撃を交すのは、非常に簡単で。
呆れて苦笑いしているケンイチとダイキを尻目に、ユキは一人舌打ちをする。
ツマラナイ。
話の中心がこの場に居ないアサギなのが、気に食わない。
「ミノルって、アサギのこと嫌いなんだろ?」
真顔で告げたトモハルに、言葉を飲み込んだミノル。
皆、静かになった。
波の音だけが、周囲に響く。
ケンイチも、ダイキも、知っている。
周知の事実だ、門脇実は、田上浅葱が大嫌い。
「でも、お前アサギの写真買ってたから」
「!!!!」
赤面。
ミノルは慌ててトモハルから離れると、一人全力疾走である。
「逃げるなよ、ミノル! 俺知ってるんだからな、部屋にアサギの写真飾ってあるの!」
トモハルの追い討ち、叫ぶケンイチとダイキに顔から火が吹き出そうなミノルである。
「う、うるせー! お前の錯覚だっ」
「でも、運動会とか修学旅行とか文化祭とかスキー研修の時、写真買ってたじゃないかー」
遠く離れた為、大声で言い合う二人。
海に木霊する。
そんなに写真を持っていたのか、とじーっとケンイチとダイキはミノルを見る。
甲板に倒れこんで、ごろごろと恥ずかしさで転がるミノル。
「ってか、どーしてこんな場所で言うんだよっ」
「俺ミノルの幼馴染だろ? それくらい知ってるよ・・・。というか、こんな時だから言うんだよ! アサギを救うのはお前だぞ、ミノル」
急に剣を抜いて全力疾走、ミノルに斬りかかるトモハル。
間一髪、剣で辛うじて受け止めたミノルは。
息を切らして、トモハルを見た。
「え・・・?」
「お前が、アサギを救うんだ。散々苛めたろ、謝って自分の想いを伝えるんだ」
「よ、余計なお世話だよっ」
ギリギリ、とトモハルが剣に力をこめる。
歯を食いしばり懸命に受け止めているが、上のトモハルが無論有利だ。
覚悟を決めろ、というトモハルなりの応援なのか。
肩を竦めて笑うケンイチとダイキの傍らで、ユキが立ち尽くしている。
「なによ、それ・・・。両想いじゃない・・・」
えええええええええええええええええええええ!!!!
ダイキとケンイチの絶叫が、海を突き抜けた。
船内から、仲間達が敵の襲来かと上がってきた。
一部始終を見ていた名もなき船員が、青春だねぇ、と涙を流していた最中。
人間の気配を察知した魔物が、海から突如噴き出して来た。
戦闘開始、の混乱。
ミノルはまだ、両想いだと知らされていなかった、けれど。
トモハルと目が合うと、恥ずかしそうに唇を尖らせつつ。
アサギの為に正々堂々と頑張れそうだと、少し、気が晴れた。
問題は、ミノルではなく。
・
・
・
「日曜さ、四人で社会の宿題やらない?」
と、朋玄君が言い出したから私は思わず小さく頷いた。
チャイムが鳴って、肩を叩かれたから振り返ったの。
そしたら楽しそうな笑顔浮かべて、そう言った。
「げぇ、めんどくせー。お前ら三人でやってくれよ、俺嫌だ」
と、私の隣の席の実君が本当に物凄く嫌そうに叫んだから、思わず私は浅葱ちゃんを見た。
「駄目だよ実、班ごとの宿題だからさ、四人揃ってやらないと」
「俺の貴重な日曜をどうする気だ、そんなことに使いたくない」
「三人でやるのは構わないけど、発表の時に実が先生に当てられたらどうするわけ? 上手く発表出来る自信があるならご自由に」
「・・・あー、あー! はいはい、はいはい。わかりましたー、俺も参加しますー。あー! めんどくせーっ!」
朋玄君と、実君の言い争い。
他の子達が遠巻きに見てるほど、とても緊張感があって怖くて、中に入れない。
この二人、あんまり仲が良くないと思う。
朋玄君は、かっこいいし、頭も良くて、勉強も出来る優等生。
密かに憧れている女の子もいること、私知ってる。
私も気になっている男の子、女の子に優しいんだ。
私、あんまり人と話すこと出来ないけど、朋玄君は気遣ってくれるから、好き。
実君は、私苦手。
乱暴だし、言葉遣い悪いし、すぐ人を叩くし・・・って、私はあんまり接しないから叩かれた事ないけど。
人の悪口も大声で言うし、頭も良くない、髪もぼさぼさ。
二人のおうちは、隣同士。
朋玄君はお金持ちで、大きい家に住んでるみたい。
ある意味、王子様キャラなんだよね、少女漫画の主人公みたいな感じ。
で、実君のおうちは新しいけど普通のおうち。
ずっと住んでた朋玄君と違って、実君は引越ししてきたんだよね。
私は、嬉しそうに溜息を吐いて笑った親友の浅葱ちゃんを、見ていた。
浅葱ちゃん。
私の、親友。
スポーツ万能、優等生、お洒落さん、モテ子、ある意味カリスマ小学生。
誰からも好かれて、誰からも羨まれて、誰からも告白されるような、そんな可愛い女の子。
の、好きな男子。
が、その乱暴でガサツで怖くて頭の悪くて、特にかっこよくない実君。
親友の私だけが知っている、浅葱ちゃんの秘密。
何処がいいのか私には判らないけれど、とても好きなんだって。
教えて貰ったときは、開いた口が塞がらなくて聞き直した。
だって・・・不釣合い。
全然、似合わない。
でも、おかげで私は自分の恋を諦めなくてよかった。
だから、応援してるの。
実君と浅葱ちゃんがくっつけば、朋玄君を狙いやすいから。
朋玄君、多分浅葱ちゃんが好きなんだよね・・・。
でも、浅葱ちゃんが仲の悪い実君と付き合えば、諦めると思うんだ。
てっきり、朋玄君を浅葱ちゃんも好きなんだと思ってた。
とにかく、違って、よかった。
こんな親友と張り合う気なんて、私にはないから。
勝てない、勝てるわけがない。
早く、実君と付き合ってね、浅葱ちゃん。
さっさと告白すればいいのに、全然動かないから、少し嫌い。
可愛いのに、動かないから嫌い。
親友だけど、嫌い。
・・・だって私、勝てないもの。
でも、一人の私に優しく話しかけてきてくれて、話も合うから親友なの。
交換日記もしてるの、だって親友だから。
二人でお菓子を買いに行ったり、お互いの家で雑誌を見たり、服を買いに行ったりするの。
親友だから。
「誰の家でやる?」
椅子を蹴り飛ばして去っていた実君にはお構いなしで、朋玄君は隣の浅葱ちゃんにそう相談した。
私、朋玄君の家がいいな。
行ってみたいな。
自分の家は色々お片付けとか面倒だし、浅葱ちゃんの家はいつも行ってるから。
実君の部屋は汚そうだから、絶対嫌。
朋玄君のおうちは、綺麗そうだし部屋とか見てみたいし。
「俺の家にしようか、言い出したの俺だし」
相変わらず朋玄君は、浅葱ちゃんに話しかけている。
ようやく私を見て、どうかな、と意見を求めてくれたから頷いておいた。
軽く俯いて困ったようにしている浅葱ちゃん、苛々する。
多分、実君の家に行きたいんだと思う。
けど、言っても本人は嫌がるよね。
だから言えないんだ。
浅葱ちゃんは、朋玄君の言葉に、戸惑いながら頷いてた。
・・・言えばいいのに。
マドンナの言う事なら、男子は誰でも聞いてくれるから。
見ながら思った、私、親友の浅葱ちゃんがやっぱり好きじゃない。
親友だけど。
私、松長友紀。
小学四年生。
好きな事、ピアノと雑貨を見たり文房具を買うこと。
買ってる雑誌は、おまじないのと、お洋服の。
密かに雑誌読者モデルに応募してるけど、当選したことはない。
好きな食べ物、ケーキとチョコレート、とにかく甘いもの。
好きな人、松下朋玄君。
嫌いな人、怖い人、親友の浅葱ちゃん。
日曜日、浅葱ちゃんの家まで歩いて出掛けた。
そこから実君のおうちへ行く。
そう、突然朋玄君のおうちで開かれる筈だったのに実君の家になった。
から、実君はキレて教室で荒れてた。
隣の席の私は、本当に怖かった。
八つ当たりされる場所だもの、私は小さくなってた。
浅葱ちゃんが、朋玄君に実君の家に行きたい、って言ったんだって。
実君に直接言えばよかったのにねー、朋玄君を通して、っていうのが気に入らない。
実君も同じ思いだったんじゃないかな? 馬鹿ね、浅葱ちゃん。
でも、日曜日に朋玄君に会えるし、男女各二人でデートみたいだから。
私はこの間買って貰ったばかりのワンピースを来て、張り切って出掛けた。
買ってる雑誌に載ってたワンピース、お母さんに無理を言って買って貰った。
胸元に黒にリボンがついてて、裾が三重のフリルになってる真っ白のワンピース。
それに、黒のニットボレロを羽織って、お気に入りのピンクの鞄を持って、頭にリボンをつけた。
行く前に、浅葱ちゃんとケーキを買いに行くの。
ふふ、楽しみ。
「浅葱ちゃーん!」
「はーい! お母さん、行って来ます」
ドアが開いて、浅葱ちゃんが出てきた。
私が買っているお洋服のお洒落雑誌でモデルをしている子より、可愛い。
胸もあるし、手足もすらっ、としてる。
可愛い服で来た私と違って、浅葱ちゃんは大人っぽい服にしたみたい。
白色のレースがついたキャミソールの上に、透けてる黄色の肩が見えるニットを着て、超ミニのデニムのぴったりしたスカートを穿いてる。
鞄は黒の光沢のあるおっきなの、似たような素材の黒で光沢のあるヒールが高いミュールを履いてた。
「おはよう、友紀! わぁ、可愛いワンピースだね、とっても似合う」
眩しいくらいの笑顔でそう言われたけれど、私、急に自分のワンピースが色褪せた。
勝てない。
可愛いハートのネックレスをしてる、大人っぽくて、可愛いんだ。
勝てない。
引き立て役にしか、私はなれない。
・・・これだから、嫌いなの、浅葱ちゃん。
「そうかな。浅葱ちゃんもとても似合ってるね」
引き攣った笑いになってないよね? とりあえずそう言ってみる。
悔しいけど。
「ありがとう! このニットね、凄いんだよ! この間500円で売ってたの! なんかここが少しおかしいんだって」
500円? とてもそんな値段には見えない。
縫製が汚いんだろうね、浅葱ちゃんはほつれた部分を見せてきたけど、そんなの言われないと分からない。
私の高いブランドのワンピース、急に・・・嫌いになった。
一緒にお買い物に行くと、浅葱ちゃんは安くて良い物をいつも探し出すし、色々センスが良い。手を繋いで歩き出そうとした浅葱ちゃんに、私は唇を噛み締めて一言。
だって、だって、このままだと。
「待って、浅葱ちゃん!」
「?」
私は、浅葱ちゃんを呼び止めて立ち止まって、それで。
「ボトム、スカートじゃないほうが可愛いと思う。濃い目のスキニー持ってるよね」
「・・・そっか。うん、友紀がそう言うならそうだね! ありがとう。ちょっと変えて来るから・・・少し上がって待ってて」
「外でいいよ、急がなくていいから着替えておいで。実君に会えるんだから、ね?」
嬉しそうに笑った浅葱ちゃん、私も笑う。
だって。
あんな服装で床に体操座りしたら、パンツが見える。
きっと正面から二人も見たい筈、そうなったら冗談じゃない、私。
惨めよね。
・・・阻止しなきゃ、何が何でも。
だから、あのスカートでとても可愛いのだけど、生脚を隠してもらう為にアドバイスしてみた。
それに。
あんな服装で、床に広げた大きなペーパーに書き込みしたら。
パンツが見える。
それで後ろに二人が居たら、撮影会になっちゃう。
冗談じゃない。
こんなに可愛いワンピースを着て来たのに、あんなB級品の服に負けるなんて、プライドが許さない。
何より、実君はどうでもいいけど、朋玄君が。
あんなカッコしてたら女でも目が行くわよっ、チッ!
私は、浅葱ちゃんよりも、可愛い立場で居なければならないの。
お淑やかで、病弱なちょっと存在感のない、不思議な美少女。
・・・というスタンスを、維持しなければいけないの。
そうして浅葱ちゃんはジーパンに履き替えて出てきた、二人でケーキを買って実君の家へ。
歩きながら、思ったんだけど・・・。
ジーパンは、ジーパンで。
なんだかとても脚のラインが綺麗で、大人っぽく見えて、ムカついた。
けど、今日、女の子らしい、男受けする服装なのは私。
このワンピだって”男の子受けする、ゲキかわワンピ、ベスト10”のなんだから!
どっちかっていうと、浅葱ちゃんの服装は”友達受けする、クールコーデ、ベスト10”って感じ。
・・・勝った。
私は、勝った。
勝ったけど、勝った筈だけど。
「うおおおおお、ホントに浅葱ちゃん来たー!」
玄関に、男子がずらり、と並んでいた実君の家。
驚いて浅葱ちゃんと後ずさったら、朋玄君が飛び出てきた。
「兄貴、帰れよ! 勉強するんだ」
「高校生の兄が、勉強くらい教えてやるよ。あ、浅葱ちゃん初めまして、朋玄の兄の松下朱理です。男子校に通っています、あ、これ友達です」
浅葱ちゃんは、差し伸べられたのでとりあえず握手を交わしている。
朋玄君の、お兄さん・・・。
高校生、目元と眉が似てるかな、大人っぽい。
「浅葱、友紀、こっち、こっち!」
朋玄君が私達の手を掴んで、実君の家の中へと連れて行ってくれた。
玄関からは文句を言う声が聴こえてたけど、鍵まで閉めて朋玄君は引き攣った笑みを浮かべる。
「ごめんな、兄貴にバレてさ。あの人達、浅葱のファンクラブ会員らしいんだ。待ち伏せしてたんだよね」
ファンクラブ。
・・・暇な高校生、きっとモテない男達の集団ね。
浅葱ちゃんがどういう反応をしているのか気になったから、軽く見てみたら。
・・・それどころではないみたい。
実君の家の玄関に居るのだから、浅葱ちゃんにとって外の人達はどうでもいいんだ。
玄関に無造作に置かれている、実君の汚いスニーカーを見て、嬉しそうに笑ったり。
狭いしお世辞にも綺麗と言えない家を見渡して、頬を初めたり。
私には、さっぱり分からない。
それで、肝心の実君は、といえば。
ドスドス、と廊下が軋んでようやく頭を掻きながらよれよれのTシャツにジーパン姿で登場した。
機嫌悪そう、怖い。
「おい、朋玄! 外の集団何だよ!? 警察呼ぶぞ、コラ」
呼んでも良いと思うよ、私。
自分の家に知らない男達が屯っていたら、絶対私警察呼ぶわ。
「浅葱ファンクラブの兄貴を筆頭とする高校生の集団。放置でよいよ」
「ちっ、これだから・・・」
実君は、一瞬浅葱ちゃんを見た。
私、前から思ってたんだけど・・・。
実君、浅葱ちゃんのこと嫌い?
・・・それは困る、実君に浅葱ちゃんが振られたら、朋玄君が慰めに入る。
そしたら、くっついちゃう!
実君は、凄く機嫌が悪そうで、そっと浅葱ちゃんはケーキを差し出した。
とりあえず、ケーキを四人で食べてから研究文を書く事になった。
実君は、市販の大きなペットボトルから必死にコップ四つに、紅茶を入れてくれた。
四人で、ケーキを食べる。
「あっま! あっま! おまえら、いつもこんな甘いもん、食ってるのか!? 信じられねぇ、俺甘いの駄目なんだよ」
「ご、ごめんなさい。えーっと、えと。・・・わ、私のケーキのほうが甘くないかもしれないから、交換を」
二口くらい食べて、実君はお皿に派手にフォークを置く。
甘いみたい、そう?
味覚が変なんじゃないの?
浅葱ちゃんはうろたえて、何を思ったのか自分の食べていたケーキを差し出した。
赤面して実君それを拒否、まぁ、そうだよね。
直接口をつけてないけど、浅葱ちゃんが食べてたケーキだものね。
普通は恥ずかしいよね。
「気にしなくていいよ、浅葱。実は辛党なんだ。でも、そのケーキ美味しそうだから少し貰ってもいい?」
浅葱ちゃんの隣に居た朋玄君は、気遣ってか浅葱ちゃんのケーキを食べる。
唖然、と私も実君も見てた。
朋玄君は、さり気無い気配りが出来る、優しい男の子で。
まれにキザだけど、そこが良いって、子も居る。
今日も清潔そうな真っ白のポロシャツに、ジーパンだけどベルトがとてもお洒落。
髪もさらさら、実君とは全然違う。
駄目よ、浅葱ちゃん。
実君から朋玄君に心変わりしたら、許さないんだから!
何処からどう見ても、朋玄君のほうがイケメン。
浅葱ちゃんは、趣味が悪いのだと思うの、男のね。
「その服、可愛いね」
朋玄君のその声に、コップを潰す勢いだった私は瞳を輝かせて顔を上げた。
けど、その言葉の相手は私ではなく。
「この黄色いの? 500円なの」
浅葱ちゃんだった・・・。
嬉しそうに、500円の服の自慢を始める浅葱ちゃん。
言わなきゃいいのに、ね。
お金持ちなんだし、そんな安い服の自慢をしなくても、って私思うの。
それなら私、この服19,800円なんだけど。
「500円? 見えないね」
「あのね、ほら、あそこの大通りの・・・」
「えーっと、あぁ、あの辺りにあるお店なんだ?」
500円の服で、楽しそうに会話が弾む二人を、私は眺めていた。
実君は渋々ケーキを完食、漫画を読んでいる。
・・・帰りたくなった。
ケーキを食べ終わってようやく、今日集まった目的を開始。
社会の授業で、班毎に研究文を発表する。
大きな紙を貰って、そこに絵を描いたり、文を書いたり。
黒板に貼って班毎に説明をするの。
テーマは、”近々出来る河口堰”について。
河口堰によって引き起こされるであろう、良い事・悪い事を発表するのね。
実君の機嫌は悪くなる一方だし、朋玄君は浅葱ちゃんに付きっ切りだし。
・・・浅葱ちゃん、早く実君のご機嫌をとってよ。
私が、朋玄君と会話出来ない。
折角会えたのに、意味がない。
苛々する。
思わず手にしていたマジックを、強く握り締めて、俯いて歯軋り。
・・・悔しい。
だから、私、親友の浅葱ちゃんが、嫌い、です。
なら。
どうして一緒に居るのかって?
そんなの、決まってるじゃない。
『いつか、見返してやるため』よ。
勝とう、なんて思ってないわ。
引き立て役になんて、ならないわ。
『上手く、利用する』のよ。
浅葱ちゃんが、実君と付き合えば。
朋玄君は私が絶対に、手に入れるの。
そしたらね、一般的にお似合いなのはどっちだと思う?
私と朋玄君よね、浅葱ちゃんと実君じゃ、不釣合いなの。
私はそこで、優越感に浸れるわ。
誰も傷つかないけど、私は癒される。
今までの苦労が、報われる。
とても、楽しみなの。
私、その時を待っているの。
想像してみて、浅葱ちゃんと実君が二人で歩いてたらきっと周囲はこう言うわ。
「あの女の子、可愛いけど趣味が悪いよね」
って。
私。
それが楽しみで仕方ないの。
そしてね、私と朋玄君を見てね、周囲はこう言うの。
「あら、可愛らしい恋人達ね」
って。
私。
それも楽しみで仕方ないの。
だからね、早く浅葱ちゃん。
実君とくっついてね、お願いよ。
その為になら私、断然協力してあげるんだから!
あぁでも、実君は浅葱ちゃんが嫌いみたい。
こっぴどく振られている姿も見てみたいけれど、あぁ、それも見たいけれど!
実君を抜いたほぼ三人で完成させた、その課題。
夕方、お別れをして私は帰宅した。
今日は外食だとお母さんが言うので、お気に入りのワンピをそのまま来て家族行きつけの和食屋さんへ。
その後、お父さんに頼んで本屋さんに寄って貰う。
今日は、私が毎号買っている、おまじないの雑誌の発売日。
ティーンズ雑誌置き場へ真っ直ぐ向かって、迷うことなくそれを手にした。
ふと、隣に雑誌を大量に抱えた女の人が立っている。
・・・高校生? 中学生?
着ている服は、私が大好きなブランド達、背も同じくらい。
その人は、何かぶつぶつ言いながら次から次へと雑誌を手に取って何かを探してた。
何してんの?
私は好きなアイドルの情報を見ようと思って、おまじないの本を抱えて、とあるアイドル雑誌を読み始める。
・・・買っちゃおうかな、かっこいー。
朋玄君も、こういうのに応募したら良い線行くと思うんだけど、なっ。
今度、推薦しちゃおうかな。
そしたら、それで会話出来るし。
あ、でも、朋玄君が上の方まで行ったら、アイドルが彼氏になるのかな?
それはそれで、楽しいよね。
素敵、アイドルとの秘密の恋。
ファンにもナイショだけど、忙しくても朋玄君なら必ず私の元へ帰ってくるわ。
スリルがあって、わくわくしちゃう。
コンサートはいつもアリーナで、もしかしたら私もアイドルデビューとかしちゃえるかもしれないし!
他のかっこいいアイドルの男の子たちとも会えちゃう! やーん、どーしよーっ!
「・・・嫌いなら、嫌いだと言ってみればいいのに」
ふと、そんな声が聴こえた。
思わず顔をあげると、さっきの雑誌を大量に抱えた人が喋ったみたい。
・・・誰に話してるの? 気持ち悪い。
無視。
大きい独り言、止めて欲しい。
「後悔しないのなら、良いけれど。でも、私は貴女が好きじゃない」
?
煩い独り言・・・こわーい。
私は、思い切り睨みつけて、離れて雑誌をまた読み始める。
「貴女は、満足してたけれど。でも、多くのものを失ったよ。・・・言ってみればいいのに、嫌いだって」
・・・なんなの、この人。
雑誌に目を落としたまま、喋り続けるこの女。
私は、雑誌を丁寧に棚に戻すと鼻で笑って睨みつけて、レジへ向かった。
「奈留ー! まだ雑誌見てたわけ? 早く買いなよ」
「ちょっと待って、綾ちゃんっ! ・・・えーっと、情報によると今月出ている雑誌はあと一冊あるわけで」
「買いすぎ」
私の脇を、ストレートロングの長身のお姉さんが通り抜けて、あの独り言女に話しかけている。
奈留、という名前らしい。
憶えてやった。
睨みつけたら、奈留とかいう女は、ようやく私を見て。
「忠告は、してみたーよ」
と、真顔で言ってきたから、私。
思わず手にしていたおまじないの雑誌を、爪を立てて握り締めた。
何、あの女。
頭悪そう、馬鹿みたい。
最悪。
苛々する。
今日は、本当に、良い事がない。
・・・早く、家に帰って雑誌を読まなくちゃ。
みずがめ座は、今月の運勢どんな感じかな?
・・・あの奈留って女の声が、こだましてる。
うるさい、うるさい、うるさい。
誰にも、迷惑かけてないわ。
私、何か悪い事してる?
してないと思う、大丈夫。
・・・私にだって、自分を主張する権利はあると思う。
本当は、嫌いだったの、ずっと。
だから、何だっていうの?
私一人くらい、嫌いでも罰は当たらないわ。
そう思うでしょ?
・
・
・
ユキの心に。
広がり始めた、黒い影。
ユキは、大人しい性格も手伝って友達と呼べる人が居なかった。
優等生で、美少女で、名は知られていたが友達が、居なかった。
だが、小学四年の四月。
アサギが同じクラスになった。
この小学校ならば誰でも知っている人物だ、眩しくて誰からも好かれて囲まれて。
そんな彼女と、親友になった。
けれど。
誇らしい一面で、広がっていく嫉妬心。
アサギ、アサギ、アサギ、アサギ、アサギ・・・。
誰も。
自分を。
見ては。
くれない。
誰も自分を見てはくれない。
魔物を撃退し、未だに不貞腐れているミノルを冷やかすトモハルと、ケンイチ。
ダイキは静かにそんな二人を見ている。
失恋した、と判ったからだろう。
一人きり。
ユキは。
一人きりだった。
「ユキ、おいでよ」
そんな時、手を差し伸べてくれたのは。
待ち望んでいたトモハルではなく、ケンイチである。
一緒に二人で数週間過ごしたこともあるし、気が知れた。
ユキは、手を伸ばす。
トモハルはアサギを好きではないと解った、だが、だからなんだ。
アサギと、ミノルが両思いならば、ユキも誰かと両思いになりたい。
それが、アサギの傍で惨めにならずにいられる方法だと・・・ユキは思った。
「うん、ありがとう、ケンイチ」
にっこりと、微笑む。
ケンイチは、優しい。
一番、気にかけてくれる。
だから。
「ケンイチ、傍にいてくれてありがとう」
「え? うん」
きょとん、としたケンイチに、一層ユキは微笑んだ。
キィィィィ、カトン・・・・・・。
何処かで、歯車が、廻る。
「トモハル!」
「何ミノル?」
「地球に帰ったら、お前の兄貴にそのゲーム借りてきてくれっ」
「・・・」
まだ、憶えていたのかコイツ。
「べ、別に名前がミノルでアサギで、ご主人様の為なら何でもします的な姫に育てるつもりは・・・」
「・・・」
もう、トモハルは熱弁する幼馴染のミノルに、何も言えなかった。
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