別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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前回、全くアサギの話が進まずに何故かアイセルが出てきてびっくり。
魔族側だと、作者はアイセルが一番好きです。
勝手に動くよ、どこまでも。
・・・それでは話が進まないね★
というか、外伝1の続きが見つからないのですが。
トマッターっ!!!!!
以下、メモ。
①トビィを(以下略
②リュウを(以下略
③アサギを(以下略
④外伝にしようか ←投げやり。
← アリナ。久々に。なんとなく。
魔族側だと、作者はアイセルが一番好きです。
勝手に動くよ、どこまでも。
・・・それでは話が進まないね★
というか、外伝1の続きが見つからないのですが。
トマッターっ!!!!!
以下、メモ。
①トビィを(以下略
②リュウを(以下略
③アサギを(以下略
④外伝にしようか ←投げやり。
← アリナ。久々に。なんとなく。
アイセルは、懸命に水を飲ませた。上手く飲まないので、口移しもしてみた。本人が知ったら殺されそうだが、思い起こせばすでに先日唇は奪っていた。
「緊急事態だから」
言い聞かせるアイセル。呼吸も落ち着き、顔色も幾分か血色良くなったスリザに安堵すると自分も水を思い切り飲み込む。
どうすべきか。
先程の女が、スリザに何を飲ませたのかを考える。最も、考えたところで判りはしないが胡散臭い女だ、良いものではない。初めて見る姿だった。それに、あれは魔族ではない、人間だ。
どかり、と床に座り込みアイセルは頬杖をつく。部屋から出て、追いかけたいがスリザの後遺症が心配で出られない。医者を呼ぶべきなのか? それともホーチミンを呼び、魔力の波動で探ってもらうべきか?
後者の場合、この現状にねちねちと質問攻めになるだろうが、致し方ない。ホーチミンの居場所は、今日は下級魔術師の訓練で城下町に滞在している筈だから判る。
重たい腰を上げ、アイセルは静かに立ち上がるとスリザの額に手を置いた。熱は、ない。
「……少し休みなよ、アレク様には伝えておく」
アイセルは、部屋を後にし、マントを翻すとアレクへと足を速める。移動していなければ、アサギを見ている筈だった。緊張した面持ちで向かえば、アレクはそのままアサギを見下ろしていた。
「アレク様」
「どうしたアイセル」
徐に声をかければ、きょとん、とアレクがこちらを向いた。静かに歩み寄り、そっと耳打ちするアイセル。身長は僅かにアイセルが高い、告げれば直様腰を深く下ろし跪く。
アレクは、眉間に皺を寄せて耳を疑った。が、アイセルの言葉は真実だろう。
「それで、スリザは?」
「今は、執務室に。可能であるならば医師を出向かせていただきたいです」
「あぁ。……まさか城内で堂々とこのようなことが」
「アサギ様もいらっしゃいます、俺はあの女を探ります」
「そなたは信頼している、腕も確かだ。しかし、油断はするな。スリザが容易く堕ちたのだから」
それは、貴方のお心ゆえです。と、アイセルは言いたかったが、堪える。乙女の気持ちは、揺らぎやすい。脆く儚く、弱い。
考え込んでいるアレクに罪はないが、目の前の勝てない相手にアイセルは若干青筋浮きだたせる。
数分後、沈黙を破ったアレクは踵を返すとアイセルを招いた。行き先は自室だ。途中、敬礼してきた者に医師
の派遣を頼み、そのまま進んだ。
アレク直属の医師ならば、スリザとて無事だろう。アイセルは胸を撫で下ろした。が、妙な胸騒ぎは何故か。
常に傍らに居るスリザの代わりに、アイセルという珍しい組み合わせに皆は首を傾げた。察してアレクはサイゴンを呼ぶようにと、近くの者に伝令を言付ける。
アレクの室内。
窓から外を見ているアレクの前に、微動だせず控えているアイセル。互いに、何も発しない。
やがて、ノックと共に緊張した面持ちでサイゴンが入室してきた。床に控えていたアイセルにぎょっとするが、咳を一つサイゴンもその隣に跪いた。
二人の、信頼できる男達。
「二人はそういえば、親友だったな」
アレクが眩しそうに二人を見下ろした、静かに頷く二人。
「しかし、まさか私と秘密裏にしていることがあるなど、互いには知らぬまい?」
弾かれたように二人は顔を上げ、そして驚愕の瞳でアレクを見つめる。反射的に顔を見合わせ。今度は親友の顔を見つめた。
アレクはゆっくりとソファに腰掛ける、声を出さない二人に静かに言葉を投げかけ始める。
「時期が来た。そなたら二人を信用している、味方はおおいほうが良い。心して、受け入れてくれ」
重々しい口調に、固唾を飲み込む二人。若干腕が震えた。
「まず。この話をするきっかけになった出来事を。
先程アイセルから報告があった、スリザがこの城内で何者かに襲撃された。現在、医師を向かわせている」
「スリザ隊長が!? まさか!?」
弾かれたように立ち上がったサイゴン、直属の上司だ、驚きを隠せない。唖然と立ちつくしているサイゴンに、微かにアレクは頷く。
「白昼堂々と、だ。城内に容易く侵入されている、二人には異変を突き止めて欲しい」
「無論です!」
声を張り上げるサイゴン、未だに信じられずにいるが、それでも忠誠は絶対である。アイセルに瞳を投げかければ、アイセルも同意していた。
「アサギもいる、心配だ。先日はリュウが不可解な行動を見せた、気が抜けない。ここまで来て……」
唇を噛締めたアレク、元より人間と和解を望むことが難しいと言い聞かせてきたが、進むべき道が開けたのに思いも寄らぬ障害が現れた。表情が、翳る。
「アサギはまず、無事だろう。ハイが片時も離れないから」
もし、それでもアサギに何かあれば、ハイを凌ぐもの、ということになってしまう。二人は緊張した面持ちで固唾を飲み込むしかない。
「侵入者は、人間の女だそうだ。漆黒の髪に紅蓮の瞳、間違いないなアイセル」
「人間!?」
サイゴンが再度声を張り上げる、俄かに信じがたいが、やはりアイセルは深く頷いたままだった。真実だ。
「人間ならば、見つけやすいですね」
魔界に人間は、若干しか存在しない。その点では、楽かもしれなかった。
「スリザ隊長をねじ伏せる人間なんて、何処の誰です? トビィ辺りならやれそうですけど」
不意にサイゴンが名を呟く、が、トビィは不在であるし、男だ。何よりそんなことをする必要が全くない。
「相手の真意が不明なのが恐ろしい。万が一がある、スリザからも目をはなさないで欲しい、何かを飲まされたと」
二人を見つめながら、アレクは立ち上がるとやはり窓辺に移動する。このほうが落ち着くらしい、アレクの癖だった。焦っている場合、どうしても立ち上がってしまうのだ。
「そして、二人には真相を語っておこう。
まず、アイセル。サイゴンの姉マドリードは知っているな?」
急に名を呼ばれ、身を硬くするアイセル。当然知っている、亡くなった美貌の姉だ。
「はい」
「彼女は、私から命を受けていた。勇者を、探してもらっていた。保護し、魔界で育てる為に」
「……なんと」
「だが、彼女程の能力者が常に人間界に居ては、他の者に何やら勘繰られる。その為に時折人間の街を破壊してもらっていた、欺くためだ。犠牲になった人間には、申し訳ないが。何より殺戮を任されていた彼女自身も、精神的に苦痛だったろうに」
唖然。初耳だった、アイセルはサイゴンを見つめるが、サイゴンは硬く瞳を閉じたままだ。
「彼女自身の趣味で、人間を数人魔界へ連れてきていた。これは私が頼んだことではない、身寄りのない子供を罪滅ぼしに攫ってきていたのだろう。その中の一人が、トビィだな?」
「はい。トビィ以外の人間は、殺されておりますが」
「マドリードと、その連れてきた人間を殺した人物こそが、今回の黒幕ではないかと私は思っている」
確かに。二人は同意し、憂いを帯びている主君の横顔を見つめる。となると、アレクに反逆する者の仕業だ。
「サイゴンが引き継ぐと申し出てくれたが、断った。懐かしい事だ。……そうこうしていたら、勇者が自らこちらへ歩み寄ってくれた。奇跡だ」
しかし、束の間の喜びだったようだ。まさか、事件が起きようとは。
「そして、サイゴン」
「はっ!」
「アイセルは、魔界に代々予言をしてきたその巫女の末裔なのだ。予言については、多少なりとも聞いているだろう?」
「…………」
そうは、見えない。サイゴンが明らかに侮蔑の視線を向けると、アイセルはついに爆笑する。張り詰めていた糸が切れたのだ、自分だって信じられないのに、誰が信じるだろう。
アイセルの笑い声をよそに、アレクは続ける。
「アイセルには妹が居る。森深くに封印しているのだが、その少女に瓜二つなのがアサギだ。予言によればアサギこそが次の魔界を統治する女王……つまり、私の後継者」
「え?」
混乱してきたサイゴン、流石にうろたえるしかない。
「アサギが? ゆ、勇者ですよね?」
「そうだ、私も疑ったがアサギで間違いない。彼女は勇者で、魔界の女王になる」
真顔のアレクと、ようやく笑いを止めたアイセルにサイゴンは乾いた笑いを出すしかない。
「まさか、私も勇者が後継者だとは思わなかったが……。しかし、辻褄は合うだろう。人間の勇者が魔界を統治すれば、人間とて魔族に歩み寄るだろう、心開くだろう」
「し、しかし、現在人間反対派の魔族の多くは」
「……あの子には、不思議な力がある。全てを説得し、私が望む世界を創れる気がするのだ」
すべてを凌駕する、勇者としての素質。アレクはアサギならばやってくれると思っている、確信している。
「全ては、星の導きだ。あの冷徹なハイに、心の温かみを戻して魔界に来た勇者。全ては、運命の歯車のもとに」
キィィィ、カトン。
何かが、鳴った。
三人は思わず、構えていた。サイゴンが舌打ちする、以前から聞いている音だ。
「今のは?」
「稀に、聴こえます。不気味です」
サイゴンが剣を構えたまま、宙を睨む。最初に聞いたのはいつだったか?
沈黙する三人だが、音は、鳴らない。
ようやく構えを解いた三人、アレクはそっと移動すると水差しからグラスに水を注ぐ。慌てて止めた二人だが、気さくに笑ってミントの葉が浮かぶ水を配った。
「重苦しいな。また続きは後日に。なかなかこの3人で集まるのは難しいが、時間を見つけよう」
「スリザ隊長はご存知で?」
「いや、彼女には伝えていない。ここまで来ると3人で進めておいたほうが良さそうだ、信頼はしているが何故か今回狙われた」
アイセルは思った、目的はスリザではなくアレクではないのか、と。側近のスリザを手ごまにするつもりだったのでは、と。
アイセル自身、愛するスリザをこれ以上危険な目に合わせたくなどない、本人は納得しないだろうが今は休養して欲しい。軽く唇を噛締めていると、サイゴンが控え目に手を上げた。
「あの。……アレク様の後継者ですが、緑の髪の娘だと聞いております。アサギは、その、黒髪で……」
「それはそうなのだが、アイセルの妹と瓜二つなのだ。アサギで間違いはないだろうし、私自身、彼女であって欲しいと願っている」
「瓜二つ、ではないです。アサギ様のほうが淑やかで心根優しく、温厚な美少女です」
むっすりした顔で間入れず発言したアイセルに、アレクとサイゴンは面食らった。何か、問題児なのだろうか妹は? と首を傾げるが全く持ってその通りだ。
アレクですら、マビル自身には会ったことがなかった。何れは会わねばならないと思ってはいたが、今が丁度頃合だろう。
咳を一つ、アレク二人の信頼する魔族を細い瞳で見つめる。
「最優先事項は、紛れ込んだ人間の女の探索だ。侮るな、出来れば二人で行動してもらいたい。アサギの御身はハイが必ずや護るだろう、心配しなくとも良いと思う」
「はっ!」
「御意に」
「緊急事態だから」
言い聞かせるアイセル。呼吸も落ち着き、顔色も幾分か血色良くなったスリザに安堵すると自分も水を思い切り飲み込む。
どうすべきか。
先程の女が、スリザに何を飲ませたのかを考える。最も、考えたところで判りはしないが胡散臭い女だ、良いものではない。初めて見る姿だった。それに、あれは魔族ではない、人間だ。
どかり、と床に座り込みアイセルは頬杖をつく。部屋から出て、追いかけたいがスリザの後遺症が心配で出られない。医者を呼ぶべきなのか? それともホーチミンを呼び、魔力の波動で探ってもらうべきか?
後者の場合、この現状にねちねちと質問攻めになるだろうが、致し方ない。ホーチミンの居場所は、今日は下級魔術師の訓練で城下町に滞在している筈だから判る。
重たい腰を上げ、アイセルは静かに立ち上がるとスリザの額に手を置いた。熱は、ない。
「……少し休みなよ、アレク様には伝えておく」
アイセルは、部屋を後にし、マントを翻すとアレクへと足を速める。移動していなければ、アサギを見ている筈だった。緊張した面持ちで向かえば、アレクはそのままアサギを見下ろしていた。
「アレク様」
「どうしたアイセル」
徐に声をかければ、きょとん、とアレクがこちらを向いた。静かに歩み寄り、そっと耳打ちするアイセル。身長は僅かにアイセルが高い、告げれば直様腰を深く下ろし跪く。
アレクは、眉間に皺を寄せて耳を疑った。が、アイセルの言葉は真実だろう。
「それで、スリザは?」
「今は、執務室に。可能であるならば医師を出向かせていただきたいです」
「あぁ。……まさか城内で堂々とこのようなことが」
「アサギ様もいらっしゃいます、俺はあの女を探ります」
「そなたは信頼している、腕も確かだ。しかし、油断はするな。スリザが容易く堕ちたのだから」
それは、貴方のお心ゆえです。と、アイセルは言いたかったが、堪える。乙女の気持ちは、揺らぎやすい。脆く儚く、弱い。
考え込んでいるアレクに罪はないが、目の前の勝てない相手にアイセルは若干青筋浮きだたせる。
数分後、沈黙を破ったアレクは踵を返すとアイセルを招いた。行き先は自室だ。途中、敬礼してきた者に医師
の派遣を頼み、そのまま進んだ。
アレク直属の医師ならば、スリザとて無事だろう。アイセルは胸を撫で下ろした。が、妙な胸騒ぎは何故か。
常に傍らに居るスリザの代わりに、アイセルという珍しい組み合わせに皆は首を傾げた。察してアレクはサイゴンを呼ぶようにと、近くの者に伝令を言付ける。
アレクの室内。
窓から外を見ているアレクの前に、微動だせず控えているアイセル。互いに、何も発しない。
やがて、ノックと共に緊張した面持ちでサイゴンが入室してきた。床に控えていたアイセルにぎょっとするが、咳を一つサイゴンもその隣に跪いた。
二人の、信頼できる男達。
「二人はそういえば、親友だったな」
アレクが眩しそうに二人を見下ろした、静かに頷く二人。
「しかし、まさか私と秘密裏にしていることがあるなど、互いには知らぬまい?」
弾かれたように二人は顔を上げ、そして驚愕の瞳でアレクを見つめる。反射的に顔を見合わせ。今度は親友の顔を見つめた。
アレクはゆっくりとソファに腰掛ける、声を出さない二人に静かに言葉を投げかけ始める。
「時期が来た。そなたら二人を信用している、味方はおおいほうが良い。心して、受け入れてくれ」
重々しい口調に、固唾を飲み込む二人。若干腕が震えた。
「まず。この話をするきっかけになった出来事を。
先程アイセルから報告があった、スリザがこの城内で何者かに襲撃された。現在、医師を向かわせている」
「スリザ隊長が!? まさか!?」
弾かれたように立ち上がったサイゴン、直属の上司だ、驚きを隠せない。唖然と立ちつくしているサイゴンに、微かにアレクは頷く。
「白昼堂々と、だ。城内に容易く侵入されている、二人には異変を突き止めて欲しい」
「無論です!」
声を張り上げるサイゴン、未だに信じられずにいるが、それでも忠誠は絶対である。アイセルに瞳を投げかければ、アイセルも同意していた。
「アサギもいる、心配だ。先日はリュウが不可解な行動を見せた、気が抜けない。ここまで来て……」
唇を噛締めたアレク、元より人間と和解を望むことが難しいと言い聞かせてきたが、進むべき道が開けたのに思いも寄らぬ障害が現れた。表情が、翳る。
「アサギはまず、無事だろう。ハイが片時も離れないから」
もし、それでもアサギに何かあれば、ハイを凌ぐもの、ということになってしまう。二人は緊張した面持ちで固唾を飲み込むしかない。
「侵入者は、人間の女だそうだ。漆黒の髪に紅蓮の瞳、間違いないなアイセル」
「人間!?」
サイゴンが再度声を張り上げる、俄かに信じがたいが、やはりアイセルは深く頷いたままだった。真実だ。
「人間ならば、見つけやすいですね」
魔界に人間は、若干しか存在しない。その点では、楽かもしれなかった。
「スリザ隊長をねじ伏せる人間なんて、何処の誰です? トビィ辺りならやれそうですけど」
不意にサイゴンが名を呟く、が、トビィは不在であるし、男だ。何よりそんなことをする必要が全くない。
「相手の真意が不明なのが恐ろしい。万が一がある、スリザからも目をはなさないで欲しい、何かを飲まされたと」
二人を見つめながら、アレクは立ち上がるとやはり窓辺に移動する。このほうが落ち着くらしい、アレクの癖だった。焦っている場合、どうしても立ち上がってしまうのだ。
「そして、二人には真相を語っておこう。
まず、アイセル。サイゴンの姉マドリードは知っているな?」
急に名を呼ばれ、身を硬くするアイセル。当然知っている、亡くなった美貌の姉だ。
「はい」
「彼女は、私から命を受けていた。勇者を、探してもらっていた。保護し、魔界で育てる為に」
「……なんと」
「だが、彼女程の能力者が常に人間界に居ては、他の者に何やら勘繰られる。その為に時折人間の街を破壊してもらっていた、欺くためだ。犠牲になった人間には、申し訳ないが。何より殺戮を任されていた彼女自身も、精神的に苦痛だったろうに」
唖然。初耳だった、アイセルはサイゴンを見つめるが、サイゴンは硬く瞳を閉じたままだ。
「彼女自身の趣味で、人間を数人魔界へ連れてきていた。これは私が頼んだことではない、身寄りのない子供を罪滅ぼしに攫ってきていたのだろう。その中の一人が、トビィだな?」
「はい。トビィ以外の人間は、殺されておりますが」
「マドリードと、その連れてきた人間を殺した人物こそが、今回の黒幕ではないかと私は思っている」
確かに。二人は同意し、憂いを帯びている主君の横顔を見つめる。となると、アレクに反逆する者の仕業だ。
「サイゴンが引き継ぐと申し出てくれたが、断った。懐かしい事だ。……そうこうしていたら、勇者が自らこちらへ歩み寄ってくれた。奇跡だ」
しかし、束の間の喜びだったようだ。まさか、事件が起きようとは。
「そして、サイゴン」
「はっ!」
「アイセルは、魔界に代々予言をしてきたその巫女の末裔なのだ。予言については、多少なりとも聞いているだろう?」
「…………」
そうは、見えない。サイゴンが明らかに侮蔑の視線を向けると、アイセルはついに爆笑する。張り詰めていた糸が切れたのだ、自分だって信じられないのに、誰が信じるだろう。
アイセルの笑い声をよそに、アレクは続ける。
「アイセルには妹が居る。森深くに封印しているのだが、その少女に瓜二つなのがアサギだ。予言によればアサギこそが次の魔界を統治する女王……つまり、私の後継者」
「え?」
混乱してきたサイゴン、流石にうろたえるしかない。
「アサギが? ゆ、勇者ですよね?」
「そうだ、私も疑ったがアサギで間違いない。彼女は勇者で、魔界の女王になる」
真顔のアレクと、ようやく笑いを止めたアイセルにサイゴンは乾いた笑いを出すしかない。
「まさか、私も勇者が後継者だとは思わなかったが……。しかし、辻褄は合うだろう。人間の勇者が魔界を統治すれば、人間とて魔族に歩み寄るだろう、心開くだろう」
「し、しかし、現在人間反対派の魔族の多くは」
「……あの子には、不思議な力がある。全てを説得し、私が望む世界を創れる気がするのだ」
すべてを凌駕する、勇者としての素質。アレクはアサギならばやってくれると思っている、確信している。
「全ては、星の導きだ。あの冷徹なハイに、心の温かみを戻して魔界に来た勇者。全ては、運命の歯車のもとに」
キィィィ、カトン。
何かが、鳴った。
三人は思わず、構えていた。サイゴンが舌打ちする、以前から聞いている音だ。
「今のは?」
「稀に、聴こえます。不気味です」
サイゴンが剣を構えたまま、宙を睨む。最初に聞いたのはいつだったか?
沈黙する三人だが、音は、鳴らない。
ようやく構えを解いた三人、アレクはそっと移動すると水差しからグラスに水を注ぐ。慌てて止めた二人だが、気さくに笑ってミントの葉が浮かぶ水を配った。
「重苦しいな。また続きは後日に。なかなかこの3人で集まるのは難しいが、時間を見つけよう」
「スリザ隊長はご存知で?」
「いや、彼女には伝えていない。ここまで来ると3人で進めておいたほうが良さそうだ、信頼はしているが何故か今回狙われた」
アイセルは思った、目的はスリザではなくアレクではないのか、と。側近のスリザを手ごまにするつもりだったのでは、と。
アイセル自身、愛するスリザをこれ以上危険な目に合わせたくなどない、本人は納得しないだろうが今は休養して欲しい。軽く唇を噛締めていると、サイゴンが控え目に手を上げた。
「あの。……アレク様の後継者ですが、緑の髪の娘だと聞いております。アサギは、その、黒髪で……」
「それはそうなのだが、アイセルの妹と瓜二つなのだ。アサギで間違いはないだろうし、私自身、彼女であって欲しいと願っている」
「瓜二つ、ではないです。アサギ様のほうが淑やかで心根優しく、温厚な美少女です」
むっすりした顔で間入れず発言したアイセルに、アレクとサイゴンは面食らった。何か、問題児なのだろうか妹は? と首を傾げるが全く持ってその通りだ。
アレクですら、マビル自身には会ったことがなかった。何れは会わねばならないと思ってはいたが、今が丁度頃合だろう。
咳を一つ、アレク二人の信頼する魔族を細い瞳で見つめる。
「最優先事項は、紛れ込んだ人間の女の探索だ。侮るな、出来れば二人で行動してもらいたい。アサギの御身はハイが必ずや護るだろう、心配しなくとも良いと思う」
「はっ!」
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