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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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へいほー



 黒髪黒瞳の、利発そうな少年の登場に、トビィは瞳を細める。
 だが、驚きはしなかった。

「誓いを、ここに」

「願いを叶え切るまで終わらない、未来への旅路」
「幾度と受け継がれる魂の記憶、渇望する各々の願いを」
「忘れないように未来へと、三人が覚えていれば、思い出せば、未来を変えることが出来る予感がして」
「誰一人欠ける事無く、各々の願いを叶える為だけに、『彼女』の守護を」

 二人が交互に言葉を紡ぐ。滑るように口から飛び出したその言葉は、当の本人達をも驚かせた。
 どこか唄にも聞こえたそれに、アサギは不思議そうに首を傾げる。
 二人は、沈黙する。互いの瞳は逸れることなく、瞳の奥の光を捕える様に、見つめ続ける。

「リョウ、と言ったな。”初めまして”トビィだ。アサギからオレの事は聴いたのか」
「そうですね、アサギから聴いています。とても頼りになる、素敵な人だと」
「勇者、と言ったな? また面白いことを言い出したもんだ」
「はい、僕もそう思います。貴方とは色々と話がしたかった、ずっと。お礼も言いたかったので、会えてよかったです」

 お礼。
 二人の会話を怪訝に聴いていた勇者達は、眉を潜める。初対面の二人なのに、リョウがトビィにお礼を言いたいとは、一体どういう事なのか。

「アイツ、なんだよ。おかしいだろ」

 無性に苛立つミノルは、歯軋りしてリョウを睨み付ける。それをトモハルが嗜めた。

「おかしい、かもしれない。けれど、俺には悪い奴には見えない。得体が知れないけど、それは」

 ……アサギも似たようなもの。

 トモハルは、ミノルの肩を叩いて誤魔化そうとした。
 アサギが勇者の中で人一倍能力を発揮していたように、リョウもまたそうではないかと、トモハルはそう言いたかった。
 最速で魔法を憶え、剣の扱いにも長けていたアサギ。
 リョウもその類なのではないか。それならば納得がいく。
 けれど、不可解なのは、何故今になって新しい勇者が現れたのか。そしてその勇者は、単独で魔法を操ることが出来たのか。
 
「勇者って、どうやって選ばれるんだったけ」
「ミシアさんが言ってた、確か」

 ミノルの問いに、トモハルは眉間に皺を寄せて、思い出した言葉をたどたどしく口にする。 

勇者、は『世界が混沌の危機に陥った時、伝説の勇者が石に選ばれ世界に光をもたらす』とされています。石は各惑星に存在します。だから、勇者が数人存在するのです』

 集まってきたケンイチが、ポン、と手を叩いた。

「つまり、リョウを必要とする惑星があるってこと!? 別の惑星が魔王の出現で困ってるってことだ!」
「うん、そうなるね。俺達の時と違うのは、使者がいないってことだ。リョウは、誰が渇望している勇者なんだろう」

 アサギは知っていた。愕然とした。
 自分達が知っている惑星など、もう、マクディしか残されていない。
 マクディは、トランシスがいる惑星だ。魔王、に等しい人間に支配されている、灰色の惑星。
 もし、リョウがその惑星の勇者だというならば、リョウの使命は。

「……トランシスが、話してくれた。
要塞神都レプレアという場所にいる、ゴルゴン七世」

 アサギは身震いする。どう考えてもそこにしか行きつかない、同じ人間が今回は相手になってしまう。
 蒼褪めたアサギに、トビィが寄り添う。何か知っているのは解っていたが、無理強いしたくないので、話は問いたださなかった。
 アサギは、何かを知っている。
 何から訊けばよいのか解らず、勇者達も困惑して立ち尽くす。

「ともかく、人々を救出しよう。今はそれを」
 
 トモハルが機転をきかせてそう告げると、それに皆は従った。リョウが軽く会釈をし、気づいたトモハルが薄く微笑む。
 散らばった勇者達を見つめ、トビィはリョウに向き直る。アサギも治癒の魔法の為に離れていった、今は付近に二人しかいない。

「それで。なんだろうな、初対面な気がしない」
 
 トビィがそう切り出せば、リョウも深く頷く。

「はい。上手く言えないけれど、何処かで会っている気がします。気がするというか、会ってます。時折、夢で見るんだ。貴方や、アサギの事を。でも、それは今じゃない」
「……過去の記憶」
「はい、その通りです。貴方となら、話が出来る気がして」
「お前、風の使い手だと」
「はい」
「以前、アサギを捜していた時。身近に風の力を感じた時があるが、あれはお前か」
「おそらく、僕です。勇者に選ばれず、アサギを心配していた時に、貴方の姿が見えました。僕は、貴方ならばアサギを護れると確信して、願いを込めたのです」

 トビィは瞳を細める。
 思い出したのは、神聖城クリストヴァルへ行く途中の洞窟での事だった。入る前に、風の声を聴いた。
『あぁ、彼なら大丈夫。必ず彼女を護ってくれるから』
 その声と、目の前にいるリョウの声が一致する。軽く目を見開き、トビィは優しげに微笑んで、その頭を撫でた。

「お前だったか、リョウ」
「はい、僕です。解ってもらえて良かった。ずっと、会いたかった。話がしたくて、しなければならなくて」

 何処かで水の音が聞こえる、風が二人を取り囲む。

「トビィさんの属性は、水。僕は、風。アサギは、土だ」

 キィィィ、ガ。

 何処かで音が聞こえる、振り払うように、リョウは左手で風を巻き起こす。

「トビィさんも、なんとなく解ってる。僕達が、普通ではないことを。妙な夢や幻影を視ることを」
「確かに、幾度となく、妙な記憶が甦る」

 神妙にトビィは頷くと、腕を組む。思い起こせば多々あるのだが、トランシスに遭遇した時も違和感を覚えた。
 リョウは手を差し出した、その手を、トビィはすんなりと握り締める。

「僕達は、多分アサギを護らねばならないと思う」
「それは言われなくとも」
「トビィさんは、アサギを愛していますよね」

 挑むような目つきのリョウに、トビィは同じ様に瞳を光らせると「当然」と言い放つ。

「僕はまだ、愛とか解らない。けど、アサギの事はきっと、好きなんだと思う。好きな子には、幸せになって欲しい」
「だろうな、オレは、オレがアサギを幸せにしたいと思ってるが」
「でしょうね、なんとなく解ります。おそらく、貴方なら可能だと思います」

 ……でも、多分駄目なんだ。それじゃ、駄目なんだ。

 声には出さなかったリョウのその言葉、だが、それはトビィも気づいた。

「ともかく、僕も混乱してる。アサギが消えて暫くして、変な夢を見るようになって。アサギが戻ってきて話を聞いたら、トビィさんを夢で見てた気がして。もし、僕の話す言葉に耳を傾けてくれたのなら、それは」

 一呼吸おいて、リョウは言った。

「夢じゃなくて、真実だと」

 トビィは苦笑し、それでも否定しなかった。何かが心でざわめいている、リョウに出逢ってそれは徐々に大きくなっていた。

「おそらく僕は、惑星マクディという場所の勇者です。アサギが呟いていた」
「マクディ? ……あぁ、あの大馬鹿のいる惑星か」
「大馬鹿?」

 リョウはまだ、トランシスの事を知らない。アサギの恋人の事を、知らない。

 ケンイチとユキは、二人で人々の治療にあたっていた。
 正直、ユキは疲れてしまった。こんな惨状など見たくはない、そもそもこれはボランティア活動だ。こんなこと、したくはなかった。
 勇者は、もう終わりたい。何も楽しい事なんかない。
 自分にはケンイチという彼氏が出来た、アサギは彼氏に振られた。
 あとは、地球の日本という生れ育った安全で快適な場所で、親友を適当に慰めつつ、彼氏と甘い日々を過ごせばいいだけだ。
 そのはずなのに、一体いつまでこの勇者ごっこは続くのだろう。
 不機嫌そうなユキを、ケンイチが励ます様にそっと手を握る。
 その瞬間は、ユキも微笑み、嬉しそうに手を握り返した。

 ……そうね、振られて惨めなアサギちゃんが勇者ごっこをしたいのなら、付き合ってあげてもいいかな。ミノル君とは寄りを戻さないだろうし、トモハル君には好きな子がいるみたいだし。なんとかなるかな。

 そう考えると、どことなく気持ちが安定した気がして、救いを求める人々に笑顔を振りまく。すると、涙を流して感謝されたので、ユキは徐々に機嫌が良くなった。
 楽しそうなユキを見て、ケンイチも安堵の溜息を零す。

「女の子って、難しいね」

 アサギは一人、人を捜す。
 町の外れまで来て、ようやく見つけたので、蹲っているその人に声をかけた。

「大人しくしてくださったんですね、今治療します」
「……何しにきやがった」
「言ったじゃないですか、後で治療しますって」

 先程の男だ。しかめっ面でアサギを睨み付けるが、気にせず回復の魔法を唱える。
 大した傷ではないので、簡単に治癒は完了した。

「では、お大事に」
「……馬鹿なガキだな、わざわざご苦労さん」
「いえ、言ったことはなるべく実行したいんです。一応私、勇者なんですよ。勇者って、人を助けるものですよね」
「お前は、人に褒められたいのか? ご苦労なこった」
「褒められたい、というか。自分に出来ることは、やりたいです。勇者になりたくて、なれたんだから、色々頑張りたいです」
「妙なガキだな、勇者なんて面倒なだけだろうに。世界が平和になったら、用済みだろう。まっぴらゴメンな職業だ」
「そうですか? 私は、嬉しいんです。私にも出来る事があるんだな、って実感出来るのです。さっきはごめんなさい」

 男は、髪をかき上げる。「馬鹿に塗る薬はないとかいうか」と、小さく零すと肩を竦める。

「お前、名前は」
「アサギです」
「勇者アサギ様ね、忘れなかったら憶えといてやるよ。見返りは必要ないのか」
「見返り? ……勇者でいられたら、それで。人の笑顔見るのって、嬉しくなりませんか? 見返りが欲しいとしたら、それかもしれません」
「ふーん」

 深くお辞儀をして去ったアサギを、その男は見送る。「何処かで見たような気がする」そう呟くと、男は全く痛みが無くなった腕を軽快に振り回し、小川へと足を運んだ。

「ちなみに、自分の名前はな、嬢ちゃん。オルトールってんだ」

 川で顔を洗い、髪を懐のナイフで切り落とす。野暮ったい男は、久方ぶりに髪越しでなく、太陽の光を見た。
 無骨だが、精鍛な様子の男が立っていた。「たまには、真面目に働くかな」自嘲気味に笑い、オルトールは愉快な気分になる。
 アサギと会話し、何か心が軽くなった気がした。淀んでいた心が、澄んできた気がした。

「変な小娘」

 なけなしの金で、落ち着いてきた衣料店で衣服を買う。こざっぱりとした男は、修復活動の日雇い職に申し込んだ。

「この金、何処から出てるんだ?」
「ディアスからの資金援助らしい、有り難いな」

 数日後、またアサギがこの町に来たが、オルトールは声はかけなかった。ただ、黙々と働き、通り過ぎたアサギに軽く笑う。

「聞いたか、あの可愛娘ちゃん、勇者なんだってよ!」
「ひえええええ、そりゃたまげた!」
「あの娘が近くに来ると、なんか落ち着くよな」
「だな」

 オルトールは、作業員達のそんな話を聞きながら、何故か、嬉しくなっていた。

「大丈夫だ、お前は存在だけで人を幸せにしているさ」

 トビィに連れられて歩くアサギを、オルトールは眩しそうに見つめる。「幸せに、おなり。勇者になったことが、吉と出る様に」

 キィィィ、カコン。



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