別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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昔のHPから引っ張り出したよ(’ ’ )
その店は、路地の奥にひっそりと佇んでいる。
青年は、そのドアを開いた。
入った途端、眩いばかりの世界に、怯む。
店内の照明が明るいだけではなく、商品たちも煌びやかで、目が眩んだ。
真赤な絨毯の両端には、綺麗に商品たちが並んでいる。番号と金額が書かれた札が、それぞれ下げてあった。
玩具屋マリーゴールド。
青年は、ここが噂の場所かと浮ついた動作で、商品を物色した。
「こんにちは! どちらからいらしたの?」
「いらっしゃい、ゆっくり観たら、また私のところに戻ってきてね」
青年は、声をかけられる度に大きく頷き、子供の様に目を輝かせた。
客は、青年だけだった。商品たちの期待を、その身で受ける。
「いらっしゃいませ、当店は初めてでしょうか?」
「あ、はい」
「システムはご存知でしょうか?」
「はい」
「納得のいく商品を見つけてくださいませ。気に入ったものがなければ、またお越しください」
「はい」
青年は、突然現れた黒服の男とそんな会話を交わしてから、再び品定めを始める。
金の瞳に真紅の髪、猫のような耳がついている商品に目が留まった。
近寄って見つめると「にゃーん」と鳴いて、すり寄ってくる。
鉄格子からそっと手を入れて、頭部を撫でた。気持ち良さそうにしているので、安堵した。
次の商品は、黒髪黒瞳で脚を組んでそっぽを向いている。
「こんにちは」
「……ぉう」
その商品は、それだけ告げた。
無口な商品なのだろうと、青年は立ち去ろうとしたが、気づく。頬を染めて俯いた仕草に、胸がときめいた。
青年の心は、どの商品を購入するかで胸がいっぱいだった。
昨今、アンドロイドを取り扱う店が増えている。
この店は女性型アンドロイドしか取り扱ってないが、男性型も、犬や猫もある。
アンドロイドの扱いは人それぞれで、寂しいから傍に置いておく者もいれば、恋愛対象として共にいる者もいた。
ただ、アンドロイドは高額だ。並大抵の人間では、買えない。
購入出来る富裕層だけでなく、一般にも体験して貰おうと、賃貸を始める企業もいる。
アンドロイドが何処から来ているのかは、謎だ。
昔は、異界の住人たちだと噂が流れていたが、それは出鱈目だという。
世界である一社だけが、制作可能らしい。
賃貸されているアンドロイドたちは、一旦購入されたにも関わらず、飽きて捨てられたものたちである。もしくは、発注を受けて制作したにもかかわらず、代金が振り込まれず未納になったものもいる。
あぶれてしまったアンドロイドたちを普段の半値で引き取り、こうした賃貸の商売が始まった。
アンドロイドの賃貸は、店によって様々だが、青年が訪れたこの店は下記のような取り決めがあった。大体はどこも同じだ。
一・アンドロイド賃貸は、一時間から承ります
ニ・全て前金となっております、一年賃貸も可能ですが分納は出来ません
三・延長したい場合でも、必ずアンドロイドと共に当店へお越しください。金額だけ振り込まれても困ります
四・アンドロイドは商品です、傷をつけてはなりません。もし傷を負わせてしまった場合、賠償金が発生致します。また、その際は大至急当店へご連絡ください
五・食事は必要ありませんが、共に食べることも可能です。詳しくは個々の説明書をお読みください。
六・相性が悪かった場合、追加金なしで別の商品と取り換えることが出来ます。二十四時間以内でしたら可能です、それ以降は別途料金が必要です。
七・アンドロイドの予約は出来ません、お越しいただいた際に気に入った商品を見つけてください
八・アンドロイドの購入は当店では出来ません、幾ら気に入った商品があったとしても、売ることは出来ません
九・以上の事をお守り頂けない場合は、通報させていただきます。最終手段に出る場合もございます
十・以上の事を守って、楽しくアンドロイドとの生活をお楽しみください
アンドロイドは、人間ではない。
人間ではないので、痛みも感じない。
殺人罪にはならないので、アンドロイドを故意に破壊する者もいた。
店側としては、高額で貴重なアンドロイドを”傷物”にされては困ってしまう。
その為、借りる際には、代金と身分証明書が必須になっている。
青年は、一週間程度借りるつもりだった。代金は、父親が亡くなった際に受け取った遺産で支払う。都会で一人暮らししていた青年は、母を幼い頃に亡くし、兄弟もおらず、本当に一人きりになってしまった。
懸命に働いていたので、恋人もおらず、気の合う親友も特にはいない。
ただ、寂しさを紛らわす存在が欲しかった。
どうせなら、自分好みのアンドロイドにしよう。
青年は、子供の頃好きだった少年漫画のヒロインを思い浮かべていた。甲斐甲斐しく健気に寄り添っていた、二つ年上のヒロイン。
そんなアンドロイドを探していた。
店は広くはないが、アンドロイドの数は思ったよりも多い。金額と好みかどうかを照らし合わせて、青年は奥へと進んでいく。
青年は気づいた、手前のアンドロイドの金額が高いことに。人気の商品たちなのだろう、確かに愛嬌があった。
通路の中盤から奥は、少し大人しめのアンドロイド達だった。声を自らかけることもなく、愛想笑いを浮かべている。
会計所を通り過ぎる、目が合った支配人らしき男と会釈を交わした。
そこから先は、商品がまばらだった。鉄格子の”部屋棚”はあるので、それらは借りられているのだろう。
青年は踵を返した、折角足を運んだので、気に入ったアンドロイドが見つからなくても一日だけ借りてみようかと思っていた。
気が大きくなっていた。
と。
「失礼致します」
黒服の男達が数人、やってきた。
にこやかに微笑み会釈していった男が二人、そして、その後ろに。
青年は息を飲んだ、アンドロイドだ。
戻ってきたのだろうか、四人の男に囲まれて、促されるように奥の”部屋棚”へ入ったアンドロイド。
青年は、口を開けたまま見つめてしまった。
アンドロイドは、どれも美しい容姿をしている。人それぞれ好みがあるので、身長や体格はまばらだが、整った顔立ちの商品ばかりだ。
今、戻ってきたばかりのアンドロイド。
健康そうな肌の色、艶かしいしなやかな手足。豊かな新緑色の柔らかく艶やかな髪に、温かみのある光を帯びた大きな瞳、軽く頬を桃色に染めて、熟れたさくらんぼの様な唇の娘。まるで御伽噺の女神の様だと思った。
薔薇を施した漆黒のロリータ衣装に身を包み、そのアンドロイドは”部屋棚”の椅子に腰かけると、まるで人形の様に美しい姿勢で微動出せず、そこに居た。
青年は、思わず近寄った。
0111
札にはそう書かれている。
商品番号0111、一時間毎二千円、一日毎四万円、一週間二十五万円、他交渉次第。
青年は食い入るように見つめた。
しかしアンドロイドは、焦点を青年と合わせない。唇をキュッ、と結び、真っ直ぐに何処か遠くを見ている。
青年の様子が変わったので、支配人は取扱い説明書を手渡した。
奪うようにそれを開いた青年は、震える手でそれを読む。
商品番号 0111
大きさ 身長百五十五センチ、体重三十九キロ、胸八十七、腰五十八、尻八十五
特徴 無感情、無表情、会話なし
可能動作 料理洗濯家事全般、性行為(ただし無反応)
他特記すべきこと 右の二の腕と左胸付近に傷有り、名付けても認識無し
特典 衣装の無料貸し出し
他にも多々記載があったが、青年はもう、このアンドロイドに心奪われていた。
他のアンドロイドと金額を比較すると、中間だ。傷があるので安いのだろうか、と青年は思った。だが、傷など気にしない。
「これをください、戻ってきたばかりでも借りられますか?」
「構いませんが、本当に宜しいのですか? 記載がある通り、反応がないので……」
「構いません、この子が良いんです」
「そうですか、まぁ、今から二十四時間以内に当店へ戻ってくだされば、気に入らなくとも変更出来ますしね」
返す気になど、ならない。
青年は、このアンドロイドに夢中だった。他のアンドロイドにはない魅力を感じていた。
支配人は心配そうに何度も「大丈夫ですか」と訊いてきた、煩わしかった。
「一週間お願いします」
「畏まりました、今ですと衣装をおつけできます。今着ているものから着替えさせても可能ですし、全部で五着、お選びください」
青年はとにかくこのアンドロイドと早く帰宅したかったので、示された衣装棚から適当に衣服を引っ張り出す。
一週間以上契約をした場合、衣装を家に届けてくれるというので、青年は喜んでそれに応じた。また、このまま帰宅するのであれば衣装と共に送ってくれるという。
当初は、アンドロイドを連れて街を出歩こうと思っていたが、早く二人きりになりたかったので、一つ返事で同意した。
狭いアパートの一室に、似つかわしくない煌びやかな衣服とアンドロイドがやってきた。
送ってくれた黒服の男に青年は礼を述べ、ドアを閉める。
部屋には、気に入ったアンドロイドと青年。
まるで恋人を初めて部屋に呼んだかのように、照れくさそうに青年はソファへアンドロイドを誘導した。
アンドロイドは、言われた通りに移動して腰掛けるが、微動だしない。
まるで大きな人形だ、時折瞬きすると、その長い睫毛が揺れる。溜息が出る美しい顔を、青年は食い入るように見つめた。
着ていた衣装が好みではなかったので、着替えさせることにする。
青年は後悔した、真面目に衣服を選べばよかったと。
あまり自分好みなものがなかったのだ、項垂れる。ロリータ衣装ばかりだったが、浅葱色した浴衣があったのでそれを着せた。
「そうだ、名前はアサギと名付けよう」
青年は、アンドロイド0111にそう名付け、趣味の一つであるカメラを持ち出すと、ひたすら撮り続けた。
お世辞にも綺麗と言えない部屋だったが、アンドロイドがいるだけで華やいだ。
浴衣の美少女がいる、乱雑な部屋。
芸術を感じた、青年は腹に食べ物を入れることも忘れて、夢中で撮る。アンドロイドも腹が空かないので、寝ることすら忘れて、撮り続けた。
翌日、軽く過眠をとった青年が目を覚ますと、隣で寝ているアンドロイドに安堵する。
アンドロイドは、眠らない。だが、こうして同じベッドで横になることは出来る。
パジャマがなかったので、自分のトレーナーを着せた。
アンドロイドは、暑さや寒さを感じない。裸でも構わないが、青年はアンドロイドを丁寧に扱った。
その美しい裸体を見た時は、流石に欲望が脳を過ったが、彼はただ添い寝をしただけで満足だった。
この日は、真紅のロリータ衣装を着せて街へ出かけた。
公園で、写真を撮り続けた。
通り過ぎる人が、美しいアンドロイドに足を止める。それが気分よく、青年は始終笑顔だった。
だが、アンドロイドは笑わない。
帰りに、量産店で女性の衣装を購入した。普通のワンピースだ、青年は華美なものより質素な衣服の女性が好きだった。
アンドロイドを、自分の恋人の様に、いや、妹の様に扱う。
何も話さない、反応しないアンドロイドだが、青年はそれでよかった。
何も言わない分、自分の欲望を押し付けられる。
言うことを素直に聴く、美しいアンドロイド。
あっとう間に、一週間が経過した。
青年は延長する為に、アンドロイドと店を訪れた。また、一週間分の金額を支払った。
ニ週間が経過し、青年は再び店を訪れた。今度は、一ヶ月分支払った。
一ヶ月とニ週間が経過し、青年は一ヶ月延長した。
ニヶ月とニ週間が経過し、青年は更に一ヶ月延長した。
三か月とニ週間が経過し、青年は一週間、延長した。
青年は、所持金が底をついていた。
仕事をへ行くことを忘れていた為、会社は首になった。アンドロイドに衣装を買い与え、写真を撮る為に旅行を繰り返したので、父親の財産すらも消えてしまった。
「あの、必ず払うので一週間延長を」
「今支払えないのであれば、アンドロイドはお返しください」
「わ、解りました。とりあえず一日延長で」
青年はその日、闇金業者から金を借りて、また一週間延長した。
三ヶ月と三週間と一日が経過した、約束の期日だったが、店に青年は来なかった。
契約違反である。
案の定青年からの連絡が途絶え、電話も通じない、部屋ももぬけの殻だった。
店の支配人は無言で頷き、黒服の四人の男達が青年を捜し始める。
簡単だった、居場所はすぐに解った。
雪深い山奥に、青年は訪れていた。
その雪景色は綺麗だった、幼い頃見たそのものだった。そこは、青年の故郷だった。
船で渡ったその故郷の山、道中闇金で借りた金も無くなっていた。
もう、青年は何も出来ない。
けれど、山小屋でどうにか生き永らえないかと、最後の希望を託していた。
家族に迷惑もかからない、行方不明になったところで、会社もクビになったし、困るのはあのアンドロイド賃貸の店と闇金業者だけ。
青年は、怖かった。
アンドロイドが自分の手を離れるのが、酷く恐ろしかった。
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