別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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冗談だろ……そう言いかけたトビィは口を噤む。冗談を言えるような状況ではないので、今のは虚偽のない、クレロの本心だろう。
しかし、惑星クレオの意思、とは。
惑星に、意思があるというのか。
皆が住まう、惑星に、意思。
多くは球体だという惑星に、意思。
宇宙に浮かぶ、それに、意思。
「じょ」
「冗談ではなく。我々、種族が違う者同士が、こうして難なく会話しているように。惑星にも、意思がある」
受け入れられず、言葉を発したトビィだが、それは被せられた。落ち着き払ったクレロの声に、背筋が凍る。
額を押さえ、乾いた笑い声を出すことしか、出来なかった。
「神である私と、惑星クレオの住人トビィ、そして地球という惑星のリョウ……我ら三人が会話出来る。目に見える形も、大きさも違う、我々なのに。
どんな形をしていたとしても、この宇宙に存在するものらには、全て意思がある。植物にも、動物にも、そして、惑星にも。ただ、全てのものと対話出来るかどうかは、解らない。
惑星クレオとは、君達と同じように会話など成立しないが、訴える様な意思が、聴こえる」
トビィとリョウは、顔を見合わせた。嘘は言っていないのだろうが、どうしても理解出来なかった。
だが、目に見える形を取っ払い”魂”という存在にしてしまえば、同じようなものなのだろうか。
と、思ったが、トビィは慌てて首を横に振る。
惑星に魂があることが、信じられない。動植物に魂があることは、認めるが。
「ええと、仮に惑星クレオに意思があるとして」
「仮に、ではなく、真実だ」
「ご、ごめんなさい、えっと」
即座にクレロに吐き捨てられ、リョウは若干怖気づいたが、控え目に続ける。
「惑星クレオに意思があるのならば、僕達が住む地球にも、意思があるということですか」
迷う素振りなど見せず、クレロは頷く。
「そうなるな」
「クレロ様は、地球と会話出来るのでしょうか」
「対話を試みたが、反応はなかった。惑星ハンニバルや、チュザーレも同じだ。私が意思を汲み取ることが出来る惑星は、現在このクレオのみ」
「その惑星の、神のみが対話出来るのではないでしょうか」
「かもしれぬ、そうなると、地球の神は誰だ。その者に、直接訊ねるが良かろうな」
リョウは困惑し、片眉を上げる。地球の神、が解らない。
目の前にいるクレロのように、実態があるものではない。何処かにひっそりと住んでいるのかもしれないが、このように直接対話するなど、有り得ないだろう。
神は、最も近くにあり、最も不明確な存在だ。
「ええと、そもそも地域によって神様が違いまして……仏様と神様の違いも僕には解りませんし。イエスキリスト? ガブリエル? ゼウス? 天照大神? シヴァ? ……さっぱりです」
地球には、宗教が存在する。崇める神が、宗派によって違う。呼び名が違うだけで、もしかしたら同一のものかもしれないが、神は、謎だ。
思いつく神々の名前を何個か呟いたが、小学生には、これ以上何も考えられなかった。
困り果て俯くリョウを、気の毒に思い、クレロは柔らかく微笑むと、近寄って肩に手を添える。
「すまなかったな、難しい事を考えさせてしまったようだ。忘れても構わないが、最優先すべきことは、アサギの護衛だ」
そのほうが解りやすいし、精が出る、とばかりにリョウは姿勢を正す。トビィも皺が顔に刻まれそうなほど、しかめっ面をしていたが、幾分か和らいだ。
「得体が知れない以上、二人にはこれまで以上に、アサギと共に居て欲しい。あの子は、結構頑固で無鉄砲だ。これからも調査をお願いするが、必ずどちらかは、アサギと共に行動してくれ。出来れば、三人一緒が好ましい」
頼もしそうに見つめてきたクレロに、トビィは舌打ちしたが渋々了承した。神の言う通りになるのは、悔しい。けれども、アサギが絡むならば仕方がない。上手く利用されている気がしたが、公然と居られるのは嬉しかった。
リョウにしても、幼馴染のアサギが心配だったので、願ったりだ。
また、この二人は互いに反発心もない。上手くやっていけそうだと、率直に思った。
「アイツじゃなくてよかった」
忌々しそうに唇を歪めたトビィに、リョウが首を傾げる。「アイツ?」
名を口にすることに嫌悪感を覚えたトビィは、首を横に振ると、心底嫌そうに肩を竦める。
察して、クレロが口を開いた。禍々しい、その名を。
「トランシス、か。トビィ、君も遭ったか」
「やめてくれ……聴くのも耐えられない」
存在を知らないリョウだけが、不思議そうにその名を復唱する。「トランシス?」
途端、トビィが目くじら立てて、リョウを睨みつける。
あまりの威圧感に恐怖したが、ここまでトビィが厭悪する相手に、興味が湧いた。
のだが、クレロが告げた次の一言にすっとんきょうな声を出して、唖然とする。
「惑星マクディ。そこに住んでいるアサギの恋人だ」
「は?」
惑星クレオに意思がある、という衝撃的な事実よりも、リョウには、アサギの新しい恋人のほうが、衝撃的だった。
大口開いて、瞬きするのを忘れた。
すっかり日が暮れて、夜空が闇の世界を作り上げる。時折顔を出していた星達が、続々とその遠き光を現し始めた頃。
夕食はアリナが提供してくれたので、皆で食べた勇者達は地球に帰宅した。
家に帰れば、各々の家で夕飯が待っている。流石に食べられなかったので、食欲がない、とほとんどの勇者は早々に部屋に戻った。
アサギは家族に勇者についてオープンだが、他の者達はまだ説明していない。馬鹿にされると、信じて貰えないと、そう思っていた。
『明日も学校終わったら、行く?』
トモハルが全員に、そうメールすると、返事がまばらに戻ってくる。
ユキはピアノの稽古があるので、欠席だった。ダイキも剣道道場へ行く曜日だったので、辞退した。
他の者達は、行くことにした。
『土日に行くのが、一番いいのかな』
しかし、次の土日、少年サッカーに所属しているダイキ以外の男勇者達は、練習と試合があった。
ので、行けない。
アサギは皆とメールのやり取りをしながら、胸を撫で下ろす。
土曜日は、トランシスに逢える日だった。四日ぶりに逢える、貴重な日だ。予定は、何もいれたくない。
『日曜日、試合観に来る?』
トモハルから、そうメールが届く。ユキがケンイチの応援に行くので、アサギも付き添うことにしていた。ミノルもいるので、躊躇いもしたが、友達の応援には行きたい。
『うん、行くよ!』
アサギは、そう返答した。
宿題を済ませ、欠伸をしてお風呂に入ろうとすると、リョウからメールが来た。時計を見て、毎日のあれだと確信して、携帯の画面を見つめる。
思った通りの、一文がそこにある。
『おやすみ』
その、たった一言に、アサギは微笑して「おやすみ」と返事をする。リョウも色々あっただろうに、普段通りの挨拶だけが、彼らしくて嬉しかった。
しかし、リョウは陰鬱な陰に支配され、仏頂面で漫画を開いている。内容など目にすら入っていない。
「ちぇ、なんだよ。新しい彼氏って……聴いてないっつーの」
がっかりした。信頼されていないのかと、疑った。親友だと思い込んでいたので、恋愛話もして欲しかった。ミノルに振られた時、リョウはアサギに寄り添っていた。号泣し、壊れそうだったアサギを、どうにか救いたいと思っていた。
「確かに、さ。新しい彼氏だなんて、僕もショック受けそうだけど、さ。もっと、深い事も、互いに話せる仲になりたいんだよ、な」
――あの子は、誰にも頼らないよ。本当に心細い時には手を伸ばすけれど、それ以外は、自分で決めて、自分で行動する。そういう子だよ、君の苦労も、純粋な思いも、あの子は気づかない。
「ぁ?」
妙な声が聞えた気がして、リョウは漫画から目を上げる。瞬間、一気に血が逆上し、鳥肌が立った。髪が逆立つ、肌がピリピリと刺激される。
「うるさい! アサギの悪口は、この僕が許さない!」
分厚い週刊誌を閉じ、床に叩き付けると、耳元の声はねっとりとした余韻を残して、消えていった。
身体中から、汗が吹き出る。夏だというのに、うすら寒い。クーラーはつけていない、網戸にしてある窓からは、涼しい風など入ってこない。
「なん、だ?」
リョウは、服で顔の汗を拭こうとしたのだが、掴んだ手の感触に悲鳴を上げる。
衣服が、水に浸したかのように、濡れている。不気味な何かに怯えて、身体が一気に汗を出したのだろう。
「なん、だよっ」
再び、床を殴りつける。
何処かで、声が聞えた気がしたが、それは遠ざかって行った。
――あぁ、駄目だ。これはやはり、駄目だ。上手く、行かない。行かない。別にしよう、シヨウ、シヨウ。
キィィィ、カトン。
夢見も悪く、目を覚ましたリョウは、気怠く起き上がる。
あのまま寝てしまったらしく、近所で毎朝鳴り響くラジオ体操の音で目が覚めた。老人会の皆さんが、公園に集まって体操しているらしい。鬱陶しいと思うときもあったのだが、こうして寝過ごした場合は、大変助かる。
第二体操に入ったところで、ようやく重たい腰を上げると、大きな欠伸をしながら、シャワーを浴びた。危うく寝過すところだった、今日は学校だ。
どうにか支度を終えて、アサギと学校へ向かい、普段通りにかったるい授業を受けた。たっぷりと寝たはずなのに、眠い。気怠い、身体が重い。
急いで家に帰り、ランドセルを放り投げると、待ち侘びた異世界への時間だ。
ダイキとユキがいないが、他の勇者達は、喜んで向かう。
「そうだ、部屋貰わない?」
「部屋?」
「うん、勇者の部屋。一部屋、余っているの」
「うーん、僕は別にいらないや。みんなみたいに、武器も持ってないし」
アサギは、リョウに空き部屋を勧めたが、無意味な提案だったようだ。
勇者達は、まだディアスを見て回っていなかったので、アリナに、案内を頼みに来た。流石に、勇者達だけでは、不安だ。
「あ、アサギ! トビィが待ってるよ。一緒にどっか行くんだって?」
アリナにそう言われ、アサギは首を傾げたが、すぐに思い出した。以前、行きかけて止めてしまった場所がある。魔王アレクの従兄弟、ナスタチュームに逢いに行かねばならないのだった。
アサギが行くなら、とリョウも付き添うことにしたので、街を観光するのは勇者三人だけになった。
不服そうに唇を尖らせつつ、嫌々ながらに手を振って別れた勇者達は、豪快に笑うアリナに連れ立って、街を彷徨った。
「何処行きたい?」
「腹減った!」
ミノルが即答したので、満足そうに頷いたアリナは、子分を引きつれているかのように、上機嫌で街を歩く。
道中、民に声をかけられると、気さくに手を振る。注目を浴びているので、勇者達は多少居心地悪く、照れながら後ろをついて回った。そして、誰にでも好かれているアリナを、誇らしく思った。
仲間の人気が高いと、気分良く思える。
ジェノヴァほど大きくはないが、活気は負けていないその街に、勇者達はすっかり気分良くしていた。
トビィが迎えに来たので、ようやく魔族達が集まるという島へ出向いたアサギは、降り立った先でいきなり抱きしめられた。
唖然とそれを瞳に入れたトビィは剣を抜き、リョウも剥がそうと背後から力を加える。
「アンリ! あぁ、アンリ!」
紅蓮の長い髪を風に遊ばせて、魔族のサーラは号泣しながらアサギを抱き締める。
困惑し、サーラを見上げたアサギは、不思議そうに首を傾げる。アンリ、と呼んだ目の前にいる、白皙な美しさの男性に、なんとなく記憶があった。
遠い、遠い、記憶。女性の様に繊細で儚げな、その人。何処か悲しみを纏ったような、しかし芯が通った、燃え滾る心を持つ人。
サーラの胸元で、想い人アンリの肖像画を施した、銀のネックレスが煌めく。
遠くのなだらかな稜線が、夕日でより一層、くっきりと見えた。
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