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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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はいはいはいはい、あとニ時間もない←



「おはよう、ユキ」
「おはよう、アサギちゃん」

 翌日、休み時間にアサギはユキの教室を訪れる。
 アサギが顔を見せたので、トモハルとダイキも大きく手を振った。注目の的のアサギだ、皆が視線を投げかける。

 ……居づらい。

 多くの刺すような視線を背に浴びて、ユキは顔を顰めたいのを懸命に堪え歩き出す。引きつった笑みにならないように、顔に神経を集中させた。

「ユキ、顔色が良くないけど大丈夫?」
「大丈夫だよ」

 顔色が悪いのではなく、気分が悪い。やはり上手く笑えていなかったのかと、ユキは顔を隠す様に頬を両手で覆い、小首傾げた。
 二人は、階段の踊り場へ行き、メールの続きを語り出す。

「どんな人なの? 写真は?」

 ユキはそう切り出した、ボロが出ないように、昨夜懸命にノートに書き、携帯に打ち込んだ文章を思い出しながら言葉を紡ぐ。
 アサギが困惑した表情を浮かべた、しめた、と思った。

「写真なんて、ないかな。異世界の人なんだよね、不便だね」

 つらつらと言葉が喉から出て来る、多少の嫌味を籠めて、悪意はないように見せかけて、瞳を伏せた。

「うん、写真はない……今度撮ってくる」

 別に見たくないけど、と飛び出しそうな言葉を飲み込んで、ユキはにこやかに頷いた。

 ……私のほうが勝ってる、彼氏は地球の人だもの。そんな不便な彼氏じゃない。

 そう確信したユキは、湧き上がってきた高揚感に震え出す。畳みかける言葉が次々に浮かび、早口で捲し立てた。

「毎日会えるの?」
「ううん、毎日じゃないの」
「そうなんだ、大変だね。寂しくない?」
「会いたいけど、我慢する」
「そっかぁ、私、好きな人には毎日会いたいから、ケンイチと同じ学校でよかったな、って思う。やっぱり、大好きな人ってそうなるでしょ? アサギちゃんがミノル君を好きだった時もそうだったよね、姿が見えれば嬉しかったものね。大変だよねぇ、会えないって」

 皮肉を籠めた、アサギが気づこうが気づかまいが、どうでもよかった。

「そうだね。寂しいけど……」

 自分の言葉を一度は認めたアサギに、ユキは鼻の穴を膨らませる。

「みんなに自慢できないのも辛いよね。かっこいいんでしょ、その人。でも、異世界の人だなんて説明出来ないから、紹介出来ないよねぇ。せっかく彼氏いるのに」

 身体をしならせ「アサギちゃん可哀想」のポーズをとった。

 ……私は違う、胸を張って彼氏を自慢できる!

 完全勝利に終わったと確信していた、アサギを打ち負かしたと思った。それで昨日の怒りが収まった気がした、だから自然な笑みを零した。
 しかし。

「自慢? 彼氏は自慢するものじゃないと思うから、辛くないよ?」

 首を傾げて、アサギが不信感を露わにした。
 その言葉に、ユキが硬直する。

「それに、その……私の友達みんな可愛いから、会わせたくないほうが強かったり。だから、いいかなって。会うことが出来たら、それで。まだ、出逢って時間も経ってないけど、トランシスは、とってもあったかい」

 頬を染めて、そう告げたアサギを目の前にし、ユキは鈍器で殴られたような衝撃を憶える。
 あの、顔。
 恋する乙女の、顔。
 幾多の男を虜に出来そうな、自然な顔。
 媚びていない、顔。
 打算のない、顔。
 好きで好きで堪らないという、美しい顔。
 ユキにはない、顔。

「ユキはケンイチとのこと、みんなに言わないの?」

 その言葉に、ただユキは、蒼褪めた顔で頷くしかなかった。勝利を確信した自分が愚かだったと、怒りが込み上げてくる。

「う、うん、まだ、その、恥ずかしい、し。わ、わたしも、会えるだけで、嬉しいかな、って」
「そっか!」
「う、うん、そう……アサギちゃん、そろそろ教室戻らないと。私、次の授業で発表があるから、準備したい。ごめんね」
「こっちこそ、ごめんね。聴いてくれて、ありがとう」
「気にしないで、私達、親友でしょ?」

 美しい色彩の中に佇んでいた筈なのに、大きなトラックが何台もやってきて、泥水を引っかけてきた。気に入っている純白のワンピースが、泥まみれになった。大きなシミは、洗っても消えることはない気がした。その泥は、土だけではなく、油も交じっている。擦れば擦るほど、広がって、繊維に染み渡る。
 汚れたそれは、もう、元には戻らない。

「嬉しい、ユキが親友でよかった」

 破顔したアサギに、ユキは唾を吐き捨てたくなったが、そんなことは出来ない。しても良いのは、夢の中だけだ。今は堪えなければならない、階段の踊り場は、人も行き来する。
 誰かに見られでもしたら、大変だ。

「アサギちゃん、早く秘密基地行きたいね」
「ユキは何をすることにしたの?」
「うん、課題曲を聴いて覚えたりする場所にしようかな、って。家だと時折邪魔が入って集中できないから」
「ユキはとっても真面目で、素敵だな……。今度、トランシス紹介するね。ユキ可愛いから、心配だけど」
「ふふふ、気にしすぎ! じゃあ、またね」

 二人は、手を振って別れた。
 ユキに真実を話し、心が軽くなったアサギは、晴れやかな表情で。
 反して、昨夜以上の憤怒に襲われたユキは、歯軋りし怒りに震えながら。
 隣接した教室で、残りの授業を受けた。
 ユキは、ランドセルからノートを取り出す。静かに広げて、次の授業科目の教科書も広げる。
 そこは隅の目立たない席だ、それにアサギが近くにいなければ、注目を浴びることもない。
 次は理科の授業である、きちんと予習復習をしているユキは、教科書のページを先生に言われる前に広げる。
 授業が始まった、先生が教科書通りに説明をする。黒板に書かれる文字を、皆はノートに書き写す。
 ユキも、素早くシャーペンを走らせ、ノートにがむしゃらに書き遺す。

『彼氏は自慢するものでしょ、かっこいいほうがいいに決まってる、頭おかしいんじゃないの、馬鹿みたい! 私の友達は可愛い? はぁ? 何そのとってつけたようなお世辞! アンタが一番可愛いんでしょ、見下すんじゃないわよ、バァァァカッ! なんなのその、自分可愛くありませんー、なアピール、うっざっ! 気づいてないの? んなわけないでしょ、気づいてるでしょ!? 何処に行っても注目浴びてるじゃん! なのに、その気にしません、もてませんな自己主張とか、ホントマジでウッザイ! 会って間もない男をそんなに好きになるんだったら、見た目がいいんでしょ!? どうせ性格なんて、中身なんて、まだわかんないじゃん! ケンイチのこと、みんなに言わないのって、余計なお世話だっつーの! 親友でよかった? 私は全然良くない、ホントにいい加減にしてほしい、もう、うんざり! あああああ早く秘密基地行きたい、行って大声でわめきたい! アンタと私の男の趣味違うから、好きにならないし、あー、もー、ほんと、ほんと、ほんと嫌嫌嫌嫌嫌嫌、死ねばいいのに! 勇者アサギ、大失敗して死んで消えればいいのに!』

 ノートは、まっ黒になった。

 その日、学校が終わってから。
 勇者達は待ってましたとばかりに、異界へと急いだ。思惑は様々だが、誰しもが、そこへ行きたかった。
 リョウの部屋は、流石に用意されていなかった。「別に必要ない」と軽く笑い、リョウは天界城に残る事にする。また、同伴する予定だったトビィも、リョウに懇願されて城に残ることになった。
 勇者達は、二人に見送られて、初めてアリナの居る街へと足を踏み入れる。
 出迎えてくれたアリナに笑顔になり、街の人々に好気の視線を投げかけられ、気分よく館を目指す。
 館には、仲間達がすでに集まっていた。滞在しているわけではないが、勇者達が来るというので、皆集まっていた。
 久しぶりの再会に、多少涙腺が緩む。そんな勇者達を微笑ましく見つめ、巨大な館を案内した。
 三階建てのその館は、一人ずつ部屋が用意されている。勇者達の部屋は、二階にあるという。

「窓から出入りするならそれでもいいけど、一応出入り口はここしかないから。入って真正面が、上へ行く階段。右を廊下づたいに進むと、食堂の入口が左側にあるよ」

 アリナが説明してくれる、心躍らせて勇者達は大きく頷き歩く。
 食堂への入口は、ドアがない。廊下から直接入ることが出来た。中を覗くと、すでに見事な装飾のダイニングテーブルとチェアーが置いてある。キッチンが奥にあるようだ。

「好き勝手使ってくれていいよー、で、食堂は置いといて、更に進むと真正面が広間っていうか休憩室っていうか、だべり場」

 アリナがドアを開くと、広い空間が広がっている。茶色の絨毯が敷き詰められており、皆の憩いの場になるようだが、まだ、何もない。

「で、二階ね。勇者達、適当に部屋選んでよ。ちなみに、中身は空だから、どこも同じだよん」
 
 二階に上がる、何処も同じならば、とミノルが階段に最も近い、廊下左側の部屋にすぐさま滑り込む。苦笑し、監視する意味でトモハルがその向かいを選んだ。ミノルの隣の部屋がケンイチ、その隣がユキ。ケンイチの正面の部屋がダイキで、その隣がアサギだ。アサギとユキの片側の部屋は、まだ空き部屋だ。
 しかしアサギの隣は、本人の要望があり、トビィが陣取る手配になっていた。アリナは肩を竦めて、紙に「トビィの部屋」と乱雑に書くと、ドアに釘で打ち付けた。

「ユキの隣の部屋が今は空き部屋だね、誰か来るかもしれないけど」
「はい、わかりました」

 ユキは内心「いないほうが、嬉しいけど」と、ほくそ笑んだ。
 
「んで、三階にボク達と、サマルト、ムーンがいるよん。アーサー達は、まだ個々の部屋があっても勿体ないからって、二部屋隣同士がチュザーレさんち、みたいなことになってる」

 ミノルはいなかったが、勇者達は三階へ上がった。ドアの中間に『チュザーレ御一行様』と木の表札が打ち付けられている。勇者達は、まだ惑星クレロの文字が読めない。しかし、読めるただ一人読めるアサギは首を傾げる。

「アリナの部屋がないような……あ、ブジャタさん、クラフトさんのも」
「ボクらはすぐそこが自宅だから、いらないかなって。でも、現時点で部屋は二つ空きがあるし、いつでも来れるよん」

 確かに、三階の右側奥も名前が打ち付けられていない。それならば、リョウの部屋も借りられるのでは、とアサギは喜んだ。しかし、本人は「いらない」と言っていたので、先にリョウに話をする為、アサギはアリナにその旨伝えなかった。
 思い出したように、アリナが大きく手を叩く。

「そうそう、んでね、広間を通過しなきゃならないんだけどさ。ごめんね、設計間違えてね。浴場が一階にあるんだよん。男湯と女湯別れてるよん」
「ご、豪華だなぁ。至れり尽くせりでごめんなさい」
「……何処から費用が出たのか不安で仕方がない」

 感動しつつも、申し訳ない気がしてきた勇者達だが、あっけらかんとアリナは笑う。
 本当に大がかりな別荘だ、一応使い道は作戦会議の筈だが。
 勇者達は、大浴場を見に行った後、それぞれの部屋に引っ込む。
 ミノルは、漫画を床に置いて読み始めた。
 ケンイチは、特にすることがなかったので、ミノルの部屋に行き漫画を読んだ。
 ダイキは、荷物を置いて横になり瞳を閉じる。
 トモハルは、荷物を置いた後アリナに会いに行き、欲しいものをどうしたらよいのか伝えた。「机が欲しい」勉強する為だった。
 アサギは、何を地球から持ってこようか、紙に書きだし始めた。
 ユキは、寝転がると、腹に溜まっていたドス黒い言葉を吐き出し始めた。

「嫌い嫌い嫌い嫌い、イライラするイライラするイライラするイライラする、死ねばいいのに
死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに、あーあーあーあーあーあーあーあーあーあー!」

 防音効果があるのかないのか解らなかったので、小声だったが、まるで何か良くないものが乗り移っているかのように、言葉は止まらない。
 それはあたかも呪いの言葉のようで、ユキの部屋は瘴気に包まれた。
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