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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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毎日更新頑張ろう。


 アサギは、まだ伝えていなかった。
 親友であるユキに、トランシスという恋人が出来たことを。
 五歳年上の、出逢ったばかりの異界の人。ミノルと別れてすぐに出来てしまった、新しい恋人。
 手を繋いで歩きながら、いつ話せば良いのかタイミングを失ってしまった。
 親友であるユキには伝えておきたい、意見も聞いてみたかった。
 何故、すぐにメールで伝えなかったのだろう。時間が経てば言い難くなると解っていたのに、何故、躊躇したのだろう。
 忙しかったこともあるのだが、ただ、メールするだけだった。それくらい、出来たのに。
 勇者達が歩いて神のもとへと辿り着くと、早速亮に視線は集中する。勇者ではない、一般の人間を勝手に連れてきてはいけない。天界人達がその姿に眉を潜める中で、亮は堂々と神クレロの前に出た。
 風格からして、神だと一目で解った。異彩を放つその姿に半ば圧倒されつつ、左手で石を見せる。
「初めまして、亮といいます。この間、僕のもとにこんな石が届きました。幼馴染の浅葱から話は聞いています、この石、勇者の石ですか?」
 周囲はどよめいた。新たな勇者の出現に、皆狼狽する。確かに亮が所持している石は、ぼんやりと光っている。普通の石ではない。そして、他の勇者達が所持している石とは色が、違う。
 クレロは瞳を細めて目の前の亮を見つめた、勇者アサギの幼馴染だという少年の爪先から髪を見上げて、軽く頷く。
「リョウ、と言ったか」
「はい」
「正直、想定外で私も混乱しているが、それが勇者の石である可能性は無きにしも非ず。話を聞きたい、時間はあるかね?」
「その為に、今こうしてここにいるのです」
「ふむ、では、他の勇者達は至急街の調査に出向いてくれ。リョウはこちらへ」
 その言葉に、リョウが声を荒げた。
 音量に、トモハルが目を見開く。大人しい奴だと思っていたが、今の声でそれが間違っていたと判断した。見れば、顔つきも厳しく、鋭い。ただアサギの傍で飄々としている男だと思っていたのだが、完璧に覆されてしまった。
「いえ、僕は浅葱と共に。僕は浅葱が勇者になって何処かへ行ってしまった時、本当に心配だったんだ。これ以上、離れて不安に怯えるなんて、嫌だ」
「しかし、リョウよ。アサギ達は君が知らない間に実戦で力をつけている、剣も魔法も使用出来る。君はまだ勇者かどうかも解らないうえに、今ついていっても何も出来ないかと」
「いえ、多分大丈夫です」
 言うが早いか、リョウは瞳を閉じ、神経を集中させた。髪がふわりと舞う。
 ミノルはその様子を鼻で笑い、腕を組んで隣のケンイチに肩を竦める。だが、ケンイチは小刻みに震えてリョウを見ていた。訝しんだミノルも、再び視線を戻す。
「なっ」
「ウソだろっ」
 トモハルとミノルが、同時に驚愕の瞳でリョウを見つめる。アサギは一瞬驚いたが、心地よいそれに口元に笑みを浮かべていた。
 リョウの身体から、風が吹き乱れる。両手を差し出し、瞳を徐々に開けば掌から天上へと竜巻が起こり始めていた。
「風使い……!」
 クレロが感嘆の声を上げて、目の前のリョウを見つめる。視線が交差した、リョウの瞳が「僕なら大丈夫です」と告げている。低く呻いて、クレロは片手を上げる。
「あい解った、君のその能力はいつ開花した? 石が現れてから?」
 リョウは竜巻を握り潰す様に、掌を強く握り締める。途端、出現していたそれは瞬時に掻き消えた。自然なその動作に、周囲ではざわめきが広がる。
「いえ、アサギが消えた時、僕は風を使っていたと思います。あの時僕が選ばれなかったことが、本当に不思議でした。ミノルが勇者を拒否していたから、代わりに行こうと思っていました。……結局、僕は残ってしまったけれど」
 ミノルは舌打ちする、コイツは苦手だと直感し、一歩下がった。
「僕は勇者か、そんなことはどうでもいい。大事なアサギと今度こそ一緒にいたいだけです、僕はアサギと共にいるべきなんだ」
「なんだよ、それ」
 ミノルの不満に満ちた声に、皆も微かに同意した。リョウの発言は共に苦難の路を歩んできた勇者達にとって、なんだか踏み躙られたように思えた。
 共に居なかったのに、何でも知っているような素振りで、アサギに付き添う男。
 恋人であったミノルが苛立つのも、理解出来た。恋仲だった筈のアサギのことを、目の前の男は知り得ているからだ。敗北感を味わっていた。それに付け加えて、先程の風の魔法。勇者達は努力して知識を得たのに、異界に行っていないリョウは地球で習得したという。
 有り得ない。ふざけている。
 今までの苦労や思い出が、踏み躙られた気がして気分が悪くなった。
 リョウは、何も悪くない。
 だが結束している中に、堂々と土足で入ってこられて掻き回された挙句、皆が大事に思っているアサギの隣を何食わぬ顔で得た男に、普段温和なケンイチやトモハルですら、嫌悪感を抱いた。
 自分達では役不足だと言われた気がした。
「気を悪くしたならゴメン、でも僕はアサギの傍にいたいんだ」
「魔法が使えるだけで、うろちょろされても困るんだよ。アサギだって戦いに来だろーし、そもそも実戦で上手く魔法が発動出来るかもわかんねーし。こっちは遊びで勇者やってるんじゃねーんだ」
 突っかかるな、とトモハルはミノルに苦笑した。気持ちは解るが、常に勇者が嫌だと言い、浮気をしてアサギを泣かせた男の発言とは思えない。
「……こう言ったら理解して貰える? トビィと同じ感覚なんだよ」
「は?」
 意外な人物の名前に、ミノルが敵意をむき出しにする。しかし、リョウの瞳を見てそれ以上何も言えなくなった。
 トビィに、視線の強さが似ていた。
 自分では、敵わないと思ってしまった。
 情けないと思いつつも、一歩後退してしまう。腑抜けだと言われても仕方がないが、今のリョウは自分よりも強い気がした。
「神クレロ、僕はアサギと共に。全てが落ち着いたら、話をさせてください。行かせてください」
 沈黙したミノルに安堵し、リョウはクレロに向き直ると言い放つ。
 皆がクレロの言葉に期待をしたが、無駄だった。
「解った、共に行きなさい。アサギ、彼の援護を」
「はい!」
 神は本当に神なのだろうか。
 天界人達は、軽蔑するような眼差しで踵を返したクレロを見送る。ただでさえ、天界人は人間との接触を望んでいない。勇者やトビィ達が天界城に頻繁に出入りするのを、快く歓迎しているわけではない。
 新たに何も知らない人間を受けいれた神に、不信感が募る。
「トビィ達が先に向かっている、場所はカナリア大陸内部。転送する、こちらへ」
 勇者達を転送し、すぐさま下界の監視に入った神を、天界人達は複雑な心境で見つめるしかなかった。
 神の思惑が、解らない。
「拙いわね、皆の隔意の態度をクレロ様とて気づいているでしょうに」
「確かに私達も、時折……ねぇ?」
 あからさまに口にはしなかったが、ソレルとマグワートも顔を見合わせ顔を引きつらせた。側近の二人がこれでは、クレロの支持も多くはないことが窺える。
「次期神候補は誰なのかしら?」
「早すぎない? クレロ様が即位してからまだそんなに……」
「やはり代々神を担ってきた、ニーベルング家のヴァネッサ様が妥当では?」
 クレロは、聞いていた。 
 だが、聞かないフリをした。今は、そんなことに構っている余裕はないことを、知っていた。
 勇者達が転送された先では、トビィが竜達と消火活動を行っていた。「また火事か」と嘆くミノルを叱咤し、指示を求めてトモハルが駆け出す。
 水の魔法を扱える勇者が、いない。もし使うことが出来たらば、一気に町中に雨を降らすのに。
「なんだ、来たのか」
「なんだじゃないよ、俺達は何をしたら?」
「そうだな、魔物の類はいない。安心して町の人々の手当てを」
「解った!」
 瓦礫の下敷きになっている人々を救いだし、怪我人に治癒魔法を施す。
 流石にリョウは回復魔法など扱えず、意気揚々とミノルは精を出していた。が、勇者で使えないのはケンイチも同じだ。ミノルとて、完璧ではない。
 リョウは、風の力で瓦礫を浮かび上がらせている。
 その様子に唖然とするミノルを、トモハルが宥めた。
「なんだよ、アイツ……。トモハルとアサギは優秀だから、勇者になっても成長が早いって解るケドさ。アイツ、別に目立った成績じゃないだろ?」
「落ち着けミノル。……彼は多分、アサギが本当に大事なんだよ。その為だけに力を開花させた気がする」
 ミノルにとって、それが一番気に入らないことだった。ある意味、深く抉られた。別れても、自分はアサギにとって特別な男でいたかった。
 まだ、好きだった。
 ユキとアサギも人々の治療に専念する、忙しなく動き回って、甲斐甲斐しく救出するその姿に町の人々も癒された。
「可愛い子達だねぇ、嬉しい事だ」
 そんな声が聞える度に、ユキは微笑む。褒められることは好きだ、自分を高められる気がした。
 しかし、そんな人間ばかりではない。
 
「こっち手当しろよ! おせーんだよ!」
 
 怒鳴り散らす大の男に、周囲は瞳を伏せる。ユキもその声に身体を震わせた。
 見れば、一般常識のなさそうな男が腕に怪我をしたと喚いている。
 しかし、その傷は大したことではない。他に重傷を負っている人がいるのに、そちらに構ってはいられない。
 ユキは、無視して他の人を助けようとした。
 だが、近寄ってくる男に悲鳴を上げる。
「おい、いてーんだよ、なんとかしろよ」
「そうでしたら、大人しく休んでいてください。座ってください、大声を出さないでください」
 ユキと男の間に、アサギが割り込んだ。気丈に見上げて、そう諭す。
 どうなることかと皆は固唾を飲んだ、騒ぎに気付いたリョウとトモハルが駆け足でやってきた。
「座ったら治してくれるんか、あぁ!?」
「他に怪我をされている方がいます、順番です」
 歯向かわなくていいのに! とユキは心で叫んだが、アサギが言いそうなことだ。案の定男は今にもアサギに掴みかからん勢いで、腕を振り回す。
「生意気な小娘だな!」
「そんなに腕を振り回せるのならば、大した傷ではないのでしょうか」
 そりゃそうだ、と周囲の大人達も大きく頷いた。本当に痛いのならば、動かさない筈だ。大声でも痛みを感じるから、大人しくしている筈だ。
 男は顔を真っ赤にし、正当な事を告げるアサギにいよいよ殴りかかろうとしている。
「傷が悪化したら、てめぇのせいだからな!?」
「悪化したら、治します」
「腕が動かなくなったら、てめぇのせいだからな!?」
「それも治します」
 こういう男に限って、何処も痛くないのに「痛い、痛い」と喚くのだろう。トモハルはげんなりとして、治療費を請求する卑劣な輩を思い浮かべた。
 何処の世界にもいるようだ、少し悲しくなった。
「そうか、ならば今動かなくしてみようか」
 その声に、トモハルが安堵し、アサギも笑みを浮かべた。
 男が青筋立てて振り返ると、仏頂面のトビィが立っている。美しい風貌の自分より背が高いトビィに、一瞬男は怯んだ。
「な、なんだてめぇ」
「オレはアサギと違って慈悲の心を持ち合わせていない、これ以上この場を乱すならば、今ここで面倒だから、オレが口を塞ぐ。何、痛いのならば、腕を斬り落とせばいい。それでも痛いのなら息の根を止めてやろう、そうしたら全ての痛みから解放される」
 凄まれ、男は背筋が凍る思いだった。本気でやりかねないと痛感した為、男はわけのわからない負け台詞を吐いて逃亡する。
「お、おぼえとけよ、畜生め!」
「どうしてオレが、貴様のような馬鹿を憶えておかねばならんのだ……鬱陶しい」
 存在が威圧。
 トモハルもミノルも、その場に居た勇者達は、トビィに憧れた。
「アサギも、あんなの相手にするな」
「ごめんなさい、でも話をしないと悪化しそうだったので」
 話をしても悪化したが、トビィは口にしなかった。
「あの、トビィさん……ですよね」
 リョウが、滑るようにトビィの目の前に立つ。
 瞬間、勇者達は同時に鳥肌が立った。晴れていた空から突然雨が降り、風が吹き抜けていく。
「……そうだが」
「リョウといいます、新しい勇者です」
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