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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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今月中に完結です(’’)

 グシャリ。
 トモハルの掴んでいた、ショップ袋が音を立てて捻り潰される。手が震え、唇がわなわなと小刻みに揺れていた。
 何を言ってるんだ、あの馬鹿な幼馴染は。
 危うく突き進んでミノルの頭を殴りつける勢いで、トモハルは呼吸荒くも必死に怒りに震える身体を押し殺した。
 何故ならば、アサギが。……アサギは。
 こちらから表情は見えないが、微動だしていなかった。怒っているのか、泣いているのかすら分からない。それが判らなくとも、心が悲鳴を上げていることくらいは解る。しかし、トモハルは目の前のアサギにかける言葉など思いつかなかった。出来ることは、アサギが動くまで必死に耐えること。
 自分が今この場にいることを、ミノルに知られたくないかもしれないので、トモハルは耐えるしかない。

「じゃあ私、実君の彼女だー」
「あぁ、カレカノ」
「ね、キスしよっか」

 見ていたくなくて瞳を閉じているのかもしれない、聴きたくなくて耳を塞ぎたいのかもしれない。けれど硬直したまま、立ち尽くしているのかもしれない。
 弾かれたように、トモハルはショップ袋を地面に落とした。
 トサ、と音がしたが雑踏の中。ミノルは、気がつかない。こちらになど、気付くわけがない。
 嬉しそうに、そっと互いの顔を傾けながら。
 憂美、と呼ばれていた少女がアサギとトモハルを見て笑いながら。
 二人の唇が近づくのを、トモハルは見ていた。見ていたくなくて、顔を背けたが腕は正常に動いていた。
 アサギの瞳を覆い隠すように、背後からそっと腕を伸ばして抱え込む。
 決して身体には触れることなく、ただ、視界を腕で覆い隠す、掌で隠し通す。二人の声は、聴こえてしまうだろう。
 が、せめて目の前の光景からは逃がしてあげたかったのだ。
 抱き込まなかったのは、自分はアサギの恋人ではないから。まして、想い人でもないから。
 一時噂にもなった二人だ、目立つ二人、美少年と美少女。仲も悪くはない傍から見ても見栄え良く、絵になる二人。
 けれども、”可愛い”と”好き”は違う。いくら美少女でも、友にいて楽しくても心が求めるものは違う。
 それは、恋ではない。気の合う二人、対の勇者、優秀な生徒、同星の勇者……信頼する”仲間”。
 つー、と。
 アサギの瞳から大粒の涙が零れ落ちた、俯いた顔と地面に染み込んだ水滴で気がついたのだが、トモハルは何も言わず。
 ただ。人混みの中で背後から目隠しをし続ける、それしか思いつかなかったのだ。
 何分、そうしていたのだろう。通り過ぎる人々がこちらを見ていても、気にしない。ひたすらトモハルは、そのまま微動だしなかった。
 やがてミノルと憂美は、立ち上がって何処かへと。
 ゴミを道路に落としても、拾うことなく。分別もせずにゴミ箱に面倒そうに押し込んで、立ち去った。座っていた席にはクレープを巻いていた紙の破片が、残っている。
 顔を顰めるトモハル、おそらく少女のほうがゴミに対して無頓着だろう。皆で出かけた時は面倒でもアサギに言われて、ミノルは分別していた。
 何故、少女に自分を合わせる。出来たことが出来なくなる。

「知ってた、アサギ?」

 自分でも驚くほどの優しい、落ち着き払ったその声でトモハルはようやく呟く。

「俺の手、けっこう大きいだろ? 勇者の剣握っていただけのことはあると思わない?」

 微かに、指を動かして隙間を空ける。前方に、ゆっくりとミノル達がいないことを確認させているのだ。

「……うん。おっきいね」

 そ、と冷え切ったアサギの指先がトモハルの掌に触れる。被いを外すようにゆっくりと下げていくが、アサギは振り返らない。
 下げると、無意識にかアサギは右手を素早く動かした、涙を拭いたのだろう。
 数分の、間。
 鼻をすする音がしていたが、急にアサギはトモハルの腕を大きく開いて囲いから飛び出すと気まずそうに一瞬だけ振り返る。泣きはらした瞳が、トモハルの脳を強打した。
 僅かな瞬間だが、酷く痛々しく、見ていられないほど弱々しく。
 魔王と戦った、勇者様とは思えない。
 そうだ、目の前の彼女は勇者ではなく普通の少女だ。

「ちゃんと、ご飯食べるんだよ? 私はちょっとここまで来たから良く行く服屋さんに」
「あぁ、前言ってた安く服が買える店? 参考程度に俺も行こうかな」
「……と、思ったけどあんまりお金ないから帰ろうかな」
「そうか、じゃあね」
「うん、またね」

 ぺこり、とアサギはお辞儀をすると早足で人ゴミの中へと消えていく。
 溜息一つ、トモハルは地面の袋を拾い上げるとそのまま……追いかけた。
 一定の距離を置いて、二人は歩き続ける。アサギは後方のトモハルに気がついたが、怪訝に眉を顰めて振り返ることなく歩いた。
 一人になりたい気分なのに、何故ついてくるのか。
 落胆している姿を見られたくないというプライドもあるのだろうが、多少混乱している頭は整理が出来ずに何をして良いのかアサギには判らない。
 失恋した、ということは判る。別に好かれていなかったことなど、数年前から知っていた。
 勢いで告白したら、何故か受理された。受理されたのは、空いていたから、だろうと今になってようやくアサギは気付いた……基。
 ”考え付いた”。

「私……いい気になってなんか」

 いないよ、と唇を動かす。

「私……彼女じゃないのも」

 知ってたよ、と唇を動かす。
 そう、ミノルに「好きだ」と言われた記憶は一度もなかった。先程、憂美に『好きだよ』と言っていたミノルを思い出す。
 人は、好きではないものを好きだと言う時、僅かに拒むだろう、躊躇するだろう。
 すんなりと、自然に告げていたミノル。それが、答えなのだろう。

「とても……綺麗な、子だったな。大人っぽい……子だったな」

 右肩のバッグが、重い。水着と、タオルが二枚に日焼け止めとお財布にクッキー。そこまで重いはずはないが、異様に重く感じられる。
 期待と興奮が詰め込まれていた、朝までの荷物が、非常に重圧だった。
 早く家に帰ろうと思ったが、方向は逆だった。普段、ユキとはしゃいで覗くお気に入りのお店も、今は興味が湧かない。
 約束をしても、忘れられてしまうほど自分は軽い存在なのだと解釈して歩き続ける。
 それは確かに、好きな彼女とどうでもいい自分とでは、雲泥の差をミノルがつけても仕方がないだろう。

「知ってた、判ってた、はず……なのにな」

 嫌われていた事など、とうに、理解していた筈なのに。何故、自分は告白して、傍にいてもらったのだろうと後悔。
 知らず足が速まる、足がもつれて転びそうになり、情けなくて涙がじんわりと瞳に浮かんだ。
 後方から聞こえる、トモハルの足音が微妙にイラつく。ふい、っと横にそれて歩くが案の定トモハルはついてくる。
 ビルの隙間を歩いていくと、何処に出るのだったか。行き止まりではないことだけは思い出せたが、上手く脳が回転してくれない。
 思い出すのは、先程の美少女。先程の美少女と、ミノル。
『お高くしてるとこ、優等生ぶってること、自分が正しいと思ってること。誰にでも好かれてると思っているとこ、などなど』
『嫌いなもんは、嫌い。大嫌い。俺は田上浅葱が大嫌い』
 あれは、いつだったか。
 去年だった、トモハルを尋ねて行ったらミノルが自分の事を嫌いだと、はっきりと叫んでいたのを偶然聴いてしまった。

「お高くなんか、してないよ……。優等生なんかじゃ、ないよ……。正しいなんて、思ってないよ……。誰にでも好かれてるなんて……思ってないし、ない、し……っ」

 歩きながら、大粒の涙が零れて零れて必死で手で拭う。
 そっと、バッグからハンドタオルを取り出して汗を拭くような素振りで涙を拭いた。
 誰にでも好かれてるなんて思っていたら、もっとミノルに積極的に話しかけてたんだよ。

「ミノルが、私の事を嫌いなの、知ってたもん」

 言葉にしたら、涙が更に溢れて溢れて嗚咽が漏れる。
 当時の状況が甦る、足が震えて、それでも精一杯トモハルに会いに行った。あの場で逃げたら、トモハルも周囲の皆も困っただろうから、必死に歩いた。笑顔で、聴かなかった振りをした。
 あの時、初恋は終わったのだと思ったがそれでも何故かミノルを目で追った。
 そして、一緒に勇者になった。
 勇者になって魔王を倒して、地球へ帰る前に感極まってミノルに告白したのはつい最近のこと。
 唐突過ぎてミノルは、面食らって間違って頷いてしまったのだろう。
 いや。

「……頷いてなんか、なかった……よね……そういえば」

 キィィィィ、カトン。

 あの時の必死だった自分が、都合良く解釈していた事にアサギは今”気がついた”。
 砂塗れ、血塗れ、魔物の体液、視界もおぼろげでなにより異常な興奮状態にあったあの日。
 ミノルは、引き攣った笑みを浮かべていたことを”思い出した”。
 嘲笑、『コイツ、何言ってんの?』と、蔑んだ瞳で自分を見ていたミノルが、頷くわけなどなかったのに。何故、自分はミノルが”頷いた”と、思い込んでいたのか。

 キィィィ、カトン、トン。

 音が、聞こえる。だが、アサギは気にも留めなかった。聴覚など、現在意味を成さない。
 耳は雑音が常に纏わりついている、何処へ向かっているのかすら解らないので周囲の音など気にならない。視覚さえあやふやだ、信号があったなら、道路を横断しなければならなかったのなら、アサギは下手すると車に撥ねられていたかもしれない。
 幸い、ここは車両は入って来られないのでその心配はなかった。
 眩暈がしてアサギは思わず壁にもたれかかりそうになる、足がふらつく。

「少し、休んだら?」

 慌てて駆け寄ってきたトモハルによって、アサギの身体は支えられた。
 放っておいて、そう言いたくて唇を動かしたが口内が乾き切っていて声が出てこない。アサギの胸に、黒い影が落ちる。
 駄目だ、トモハルが……邪魔だ。
 放っておいてくれても、自分は平気だし、そのほうが気も楽なのに。
 物言いたげにトモハルを見上げようとしたのだが、俯いていた為か太陽の光が痛いくらいに眩しくて思わず瞳を瞑る。
 トモハルに引き摺られるようにして、木陰のベンチに座らされたアサギ。
 隣にトモハルが座り、額に冷たいペットボトルが押し当てられる。

「おうち、帰らないの?」

 ようやく声を絞り出したアサギ、トモハルは軽く笑って返答しなかった。
 何をしているのだろう、トモハルは。
 きっと慰めようとしてくれているのだろうとは思ったが、放置されたほうがアサギは楽なのだ。何も言わないトモハルに、無性に腹が立ってきたようなアサギ。
 胸の中が真っ黒で、何も悪くないトモハルに八つ当たりをしてしまいそうな自分がいて、そこにも更に嫌悪感。
 混沌の渦に巻き込まれたアサギは必死に歯を食いしばった、震える拳を握り締めた。

「腹減ったなー」

 唐突に、トモハル。
 怪訝に見上げたアサギ、放っておいて食べに行けばいいのに、と恨めしそうに睨みつける。すると、ようやく二人の視線が交差した、気まずそうに慌てて視線を逸らすアサギだが。

「腹減ったなー、何か食べるものないかなー」

 この付近はランニングコースで店はない、食べ物など売っていない。
 観れば解るのに何をトモハルが言っているのか、アサギは解らなかった。
 腹を擦りながら、トモハルは力なく肩を落とし情けない声を出す。

「アサギ。食べ物、持ってない?」
「え?」

 下から覗き込まれた、予期せぬふられ方に狼狽し言葉に詰まる。
 が、トモハルは笑顔でアサギのバッグをそっと取ったのだ。

「なんか、良い匂いがするんだよねー」
「え、あ……」

 匂いなどするわけがないが、確かに食べ物は入っている。

「これ、食べてもいい?」
「え、う、うん」

 ハート柄の紙袋を、トモハルは取り出して無邪気に微笑んだ。思わず頷いたアサギ、後悔もしたが、コレで良いのだと思い直す。
 ミノルに作った、クッキーだ。昨日購入に走った、可愛らしいハート柄の紙袋とお揃いのシール。昨夜ミノルを想い懸命に作った、甘さ控え目のスパイシークッキー。
 それは、楽しい時間だった。その時の自分は、笑みが零れて頬を染めて、幸せ一杯だった。
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