別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
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らすとー!
・トモハルとアサギの会話
・ハイへのお菓子作り
・トビィ、リュウとハンニバルを訪れる
↓
マクディ発見
・トモハルとアサギの会話
・ハイへのお菓子作り
・トビィ、リュウとハンニバルを訪れる
↓
マクディ発見
ダイキがアサギの弟達に釣りの仕方を教えていたので、静かにトモハルとアサギは糸を垂らしつつも会話した。ブラックバスは、餌で釣ることも出来るが疑似餌を巧みに動かし楽しむ釣りである。垂らしているだけでは釣れないのは承知だ。
「落ち着いた?」
「……ありがとうトモハル、へっきだよ」
「前から訊きたかったんだけどさ、ミノルを好きになったきっかけって何? アサギと違うから? アイツ頭悪いし乱暴だし、共通点ないよね」
思わず苦笑したアサギに、釣られてトモハルも笑う。肩を竦め、軽く竿を揺らす。
「実はね、幼稚園が一緒だったの」
「それは初耳」
竿を揺らしながら、返答したトモハル。ミノルからはそんな事実、聞いたことがなかった。
「多分忘れていると思うな。でも、とにかく一緒だったの。それでね、その時は仲が良かったの。”大きくなったら結婚しようね”って言われてね、嬉しくて」
「へぇ。幼稚園児って意外とませてるもんな……それで?」
「? それだけだよ」
「…………」
唖然としたトモハルに、小首傾げてきょとんとしているアサギ。引き攣った笑みを浮かべて、トモハルは声を絞り出した。
「それで好きになったの?」
「え、うん……とにかく嬉しくて幸せだったものだから」
「……い、意外だなぁ。ま、まぁ恋に落ちるってそんなものかもしれないけどさ」
拍子抜けして一旦リールを巻き、大きく振り被ってルアーを池に投げたトモハルは隣のアサギを見つめる。現実的な子かと思っていたが、そうではないらしい。案外単純なんだな、と。良く言えば純粋、になるのだろうか。
異世界で勇者になった時点で現実的ではない気がするが、それはさておき。
「四年生の時に同じクラスになって、野外学習同じ班だったの。あの時ね、一緒に星を見上げて嬉しかったんだ。一緒にカレーも作ったしね、五平餅も作ったの。それでね、柿狩りもしたんだよね、美味しかった。
……誰かがね、絵が上手い子がね、女の子の絵を描いたの。ショートと、セミロングと、ロングの。『どの子が一番好き?』ってクラスの男の子達に訊いててね、ミノルはね、セミロングを指差したの」
「それでアサギの髪、短くしたり伸ばしたりしてないわけ!?」
「うん。セミロングよりは短いけど……」
大きく口を開き、記憶のアサギを思い浮かべる。確かに、常に髪の長さは同じだった。まさかミノルの好みに合わせていたとは、驚きだ。
「……なんとなくミノルは、アサギの髪の長さの絵を選んだだけな気がするけど」
小声で呟き、リールを動かしながら竿を引く。
「ありがとう、トモハル。とても楽になったよ」
「……別れたんだよな」
訊くべきか迷っていたが、唇を噛み締めてからトモハルは声を発した。その声は若干震えていたが、気にせずアサギは大きく頷いて笑う。
「うん」
「そっか。……ごめんな」
「なんでトモハルが謝るの?」
「……なんとなく」
アサギもルアーを池に投げる、ぼちゃん、と音が響き渡った。
「私、嫌われてたし、他の人となんか違うみたいだから、ミノルは何も悪くないよ」
キィィィ、カトン。
トモハルが顔を上げるが、アサギは何か呟きながら真剣に糸の先を見つめている。軽く安堵の溜息を漏らすと、トモハルも釣りに本腰を入れた。
「私、何か違うみたい……どうしよう……」
ぼそり、とアサギが呟いた。その瞳に涙が浮かんでいたことなど、誰も知らない。知らず溢れた涙は、声にした思いと共に流れていった。
昼過ぎに帰宅し、アサギは急いで菓子を作り始めた。手軽に作れるバナナケーキを選択し、手際よく調理する。
二時間後には出来上がり、甘い香りのするそのケーキを満足そうに見つめた。何等分かに切り、端を弟達に与えると袋に小分けしてバッグに入れる。
向かう先は、異界。
天界でクレロと会話していたトビィに駆け寄り、ハイの元へ行く事を告げる。クレロに暇そうに眠っていたリュウを呼んで貰うと、三人でハイのいる惑星ハンニバルへと移動した。
申し訳なさそうにアサギはトビィを見上げる。
「用事、大丈夫ですか? 急がしかったです?」
「大した用事ではない、気にするな。アサギ優先に決まっているだろう」
「だぐー」
アサギとリュウは二度目の、トビィは一度目の惑星ハンニバルだ。神官ハイ・ラゥ・シュリップが住まう神殿に、足を踏み入れる。雑草が生え放題で、まだ教会も神殿も以前の面影を取り戻していない。広大な敷地をハイ一人で整備するのは、やはり時間が必要だ。
ハイを捜し、三人は歩く。てっきり今日も掃除をしているのだとアサギは思っていたのだが、その姿は何処にも見えない。
名を呼んでも返答はない、いぶかしんだリュウは焦燥感に駆られて足を速める。嫌な予感がした、まさかハイに限ってそんなことはないだろうが、何故か胸が鷲掴みにされたように苦しい。
眉を潜め、トビィもようやく事態に気がつく。狼狽しているアサギの肩を抱きながら、背の剣を抜くと構えながら様子を窺った。慎重に歩きながら、音を聞き分ける。外から聞こえる鳥の鳴き声と、軋む床の音のみの空間が実に不気味だ。
キシ、キシ……。
「ハイ! 遊びに来てやったんだ、早く出てこないか!」
リュウの声が軽く響き渡った、舌打ちし半ば乱暴にドアを開いていく。
トビィに背を抱かれながら、ケーキの入ったバッグを胸に抱き、震えながら歩いていたアサギが辿り着いた場所。導かれるように、そのドアの前に立っていた。アサギの異変に気がつき、トビィがドアをゆっくりと押す。キキィ、と乾いた音を出しながら開いたドアに、リュウも駆け寄った。
小さな部屋だった、床に何冊か本が散らばっていた。ベッドの上を見て、三人が息を同時に飲む。弾かれたように部屋に侵入したのはリュウだ、アサギを押し退けてベッドに駆け寄ると、その上で眠っているハイを抱き起こした。
アサギの悲鳴、トビィが思わずアサギを抱き締め、その光景から逸らす。リュウが乾いた笑い声を出した、ハイの身体を何度も揺すり、叩くが反応はない。
解っていた、死んでいるから反応などありはしない。血の気の失せた顔色、だらん、と下りている腕、死者の匂い。
「な、何やってるんだよ魔王ハイ! お、おい、意味が解らない、ハイ、ハイ!」
リュウが何度も青褪めた唇で名を呼ぶ、受け入れるには無理な話だった。神官から魔王に堕ち、復活した筈のハイが、何故死んでいるのか。魔王ミラボーとの戦いで勇者を助け、生き残ったその男が何故。
アサギからの緊急信号に気付いたクレロも息を飲んだ、泣いているアサギを抱えたトビィだけが会話可能だ。リュウもハイの亡骸を抱き締めたまま、身体を震わせ焦点合わない瞳で佇んでいる。
「……おい、神のアンタは過去に何があったのか解るんだろ? ハイはどうして死んだ」
「今、調べよう。だが、管轄が違うので安易に映らないかもしれない。ハイは惑星ハンニバルで」
「都合が良いな、見殺しにしてないだろうな」
「トビィお兄様!」
二人の会話を聴いていたアサギが、弾かれたように顔を上げる。その瞳に捕らわれ、小さくすまない、と謝罪したトビィは再びアサギを真正面から強く抱き締める。が、視線は先のクレロに鋭く睨みを利かせた。
クレロが詳細を調べている間、ハイの亡骸はやはりハンニバルのあの神殿に戻したほうが良いのではないのか、という話になる。三人は項垂れながら戻ると、敷地内の小高い丘に埋葬することにした。丘からは、以前アサギに話してくれた、鳥の巣を人間が落として遊んでいたという池が見える。森も、教会も、神殿も見渡すことが出来た。
「オレの知る限りでは火葬が一般的なんだが……どうしたもんか」
トビィの声に、何も反応出来ないアサギとリュウ。死を受け入れることが出来なかった、真実を歪ませたかった。
数日前までは元気だった、掃除をしていたのだから。そもそも、元魔王は何故死んだのか。
トビィが穴を掘り、その中にハイを寝かせる。土葬することにし、泣きながらハイの亡骸に土を被せていくアサギと、項垂れてただ見ているだけのリュウ。その表情を、二人は涙で揺れる視界で目に焼き付けた。
「ま、待ってよ。ハイを埋めてどうするんだよ! まだ生きてる、生きてる!」
錯乱したのか、リュウが埋めたハイを掘り起こそうとした。魔王同士、もっとも親しかった二人。憎まれ口を言い合いながらも、何処か存在に安心していた二人。魔王戦で生き残った、二人の魔王。故郷に戻り、やり直しをする筈だった二人。
「落ち着いてください、リュウ様! 落ち着いて、落ち、つい、てっ」
悲鳴に近い声でアサギに抱き締められたので、ようやく我に返ったリュウは大きく吼える。絶叫が響き渡り、鳥たちが一斉に飛び立った。身体中の毛穴から一斉に汗を吹き出し、背後から抱き締めてくれているアサギの腕にそっと手を乗せる。
「ごめんだ、ぐ。意味が、わからなくて、ごめん……」
震えているアサギの腕を擦る、手についた土を払うとトビィを見上げ申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「何やってるぐ、ハイ。私達は死者にかける言葉など知らないぐ……神官のハイこそが、それをやらねばならないはずなのに」
掠れた声を出したリュウの手を、アサギが握った。そっとその手を強く握り返したリュウは、溢れてくる涙を拭うことなくハイの亡骸が埋まっている箇所を見つめ続ける。
アサギが作ったケーキを置いた、目印にとトビィが人の頭程の石を運ぶ。
呆然と三人はその簡素な墓標の前に佇んでいた、ふと、アサギが蹲り土に触れ魔法を詠唱する。その墓標の周囲に、花が咲き乱れた。黄色の花はベゴニア、花言葉は親切、片想い。ハイの誕生花である。意図的にアサギが咲かせたのか、それとも必然か、偶然か。墓標は花で満たされた。風で揺れる花たち、ほんのりと甘く香る。
三人は、あっけなさ過ぎる不可解なハイの死を受け入れられず、ただ立ちつくしていた。
元魔王ハイ、死亡。仲間達に知らされ、皆騒然となる。クレロが過去の映像を覗き見ているが、体調が悪かったことは判明した。何度か煎じた薬湯を飲んでいる姿が確認できた、苦しそうに嘔吐と咳を繰り返している映像を見た。
何者かに殺されたわけではない、病気が原因だった。それが何かは解らないが、地球と違い医学が発達していない。傷を回復魔法で治癒することは出来ても、病気の回復は魔法では難しいとの見解だ。
「もし、もっと早くに私がハイ様のところへ遊びに行って、体調不良だと解ったら地球に連れてきて病院へ行く事が出来ました。そうしたら助かりましたか?」
そう繰り返すアサギに、クレロは何も言えなかった。まだ、死因が不明なのだ。何とも言えない。
「どうしよう、私のせいだ。地球だったらお薬がたくさんあるから!」
それは違うと、皆口を揃えてアサギを諭した。だがアサギは首を横に振る、何故すぐにケーキを焼いて会いに行かなかったのか、自問自答を繰り返す。
トビィの看病をしていた、ミノルと揉めていた。それだけ、それだけ。
アサギは震えながら、毎日ハイの墓標へ向かう。何を備えれば良いのか解らなかったので、地球の香水入れに天界の水を入れ、そのガラス瓶をそっと石の近くに置いた。
「ごめんなさい、ハイ様。私がもっと早くに会いに行けば」
勇者達もアサギを励ました、責めなくてもいいと、アサギのせいじゃないと必死に告げた。だがアサギは首を横に振る。
トビィは密かにリュウのもとを訪れ、不信感を露にした。リュウも同意し、以前から神クレロの態度に腑に落ちない点があると漏らす。
ハイの死に気を取られていた、最期にリュウがハイに頼んだことは何だったか。
「勇者なのに、私、何も出来てない……どうしよう、どうしよう、どうしよう……」
ハイの墓標の前で泣いていたアサギは、ふらつく足取りで天界に戻る。皆に心配されているが上の空、何処をどう歩いているのかも解らない。目の前が歪んで見えた、冷たい壁に触れながら歩き続けた。ソレルとマグワートが気遣ってアサギの後を追うが、それすらも気付いていない。
大きな丸い球体、神しか起動出来ない筈のその球体。アサギが過去のトビィの危機を知った、それ。
何も映っていない球体が、僅かに煌いた。そっとアサギは手を伸ばし、冷たいそれに身体を寄せる。
と。
赤い惑星がぼんやりと浮かぶ、唖然と見ていたソレルとマグワートだったが、弾かれたようにマグワートが駆け出していた。ソレルは息を押し殺して様子を食い入る様に見つめている。
アサギは気付いていなかった、ただ、球体をそっと抱き締めた。
……惑星・マクディ。”神を殺した”民が蔓延る死の星。大気と土壌汚染で穢れた惑星は毒々しい赤色をしている、一箇所だけ、緑の場所がぽつん、と。
「オレはここだよ、早くおいで」
その惑星で、紫銀の髪の少年が手を空に掲げた。
アサギがゆっくりと、身体を起こして球体を見つめる。赤い赤い惑星、その一点を見つめた。
キィィィ、カトン、トン、トン。
そして、ゆっくりと歯車が起動する。それが必然の、運命なのだから。
「落ち着いた?」
「……ありがとうトモハル、へっきだよ」
「前から訊きたかったんだけどさ、ミノルを好きになったきっかけって何? アサギと違うから? アイツ頭悪いし乱暴だし、共通点ないよね」
思わず苦笑したアサギに、釣られてトモハルも笑う。肩を竦め、軽く竿を揺らす。
「実はね、幼稚園が一緒だったの」
「それは初耳」
竿を揺らしながら、返答したトモハル。ミノルからはそんな事実、聞いたことがなかった。
「多分忘れていると思うな。でも、とにかく一緒だったの。それでね、その時は仲が良かったの。”大きくなったら結婚しようね”って言われてね、嬉しくて」
「へぇ。幼稚園児って意外とませてるもんな……それで?」
「? それだけだよ」
「…………」
唖然としたトモハルに、小首傾げてきょとんとしているアサギ。引き攣った笑みを浮かべて、トモハルは声を絞り出した。
「それで好きになったの?」
「え、うん……とにかく嬉しくて幸せだったものだから」
「……い、意外だなぁ。ま、まぁ恋に落ちるってそんなものかもしれないけどさ」
拍子抜けして一旦リールを巻き、大きく振り被ってルアーを池に投げたトモハルは隣のアサギを見つめる。現実的な子かと思っていたが、そうではないらしい。案外単純なんだな、と。良く言えば純粋、になるのだろうか。
異世界で勇者になった時点で現実的ではない気がするが、それはさておき。
「四年生の時に同じクラスになって、野外学習同じ班だったの。あの時ね、一緒に星を見上げて嬉しかったんだ。一緒にカレーも作ったしね、五平餅も作ったの。それでね、柿狩りもしたんだよね、美味しかった。
……誰かがね、絵が上手い子がね、女の子の絵を描いたの。ショートと、セミロングと、ロングの。『どの子が一番好き?』ってクラスの男の子達に訊いててね、ミノルはね、セミロングを指差したの」
「それでアサギの髪、短くしたり伸ばしたりしてないわけ!?」
「うん。セミロングよりは短いけど……」
大きく口を開き、記憶のアサギを思い浮かべる。確かに、常に髪の長さは同じだった。まさかミノルの好みに合わせていたとは、驚きだ。
「……なんとなくミノルは、アサギの髪の長さの絵を選んだだけな気がするけど」
小声で呟き、リールを動かしながら竿を引く。
「ありがとう、トモハル。とても楽になったよ」
「……別れたんだよな」
訊くべきか迷っていたが、唇を噛み締めてからトモハルは声を発した。その声は若干震えていたが、気にせずアサギは大きく頷いて笑う。
「うん」
「そっか。……ごめんな」
「なんでトモハルが謝るの?」
「……なんとなく」
アサギもルアーを池に投げる、ぼちゃん、と音が響き渡った。
「私、嫌われてたし、他の人となんか違うみたいだから、ミノルは何も悪くないよ」
キィィィ、カトン。
トモハルが顔を上げるが、アサギは何か呟きながら真剣に糸の先を見つめている。軽く安堵の溜息を漏らすと、トモハルも釣りに本腰を入れた。
「私、何か違うみたい……どうしよう……」
ぼそり、とアサギが呟いた。その瞳に涙が浮かんでいたことなど、誰も知らない。知らず溢れた涙は、声にした思いと共に流れていった。
昼過ぎに帰宅し、アサギは急いで菓子を作り始めた。手軽に作れるバナナケーキを選択し、手際よく調理する。
二時間後には出来上がり、甘い香りのするそのケーキを満足そうに見つめた。何等分かに切り、端を弟達に与えると袋に小分けしてバッグに入れる。
向かう先は、異界。
天界でクレロと会話していたトビィに駆け寄り、ハイの元へ行く事を告げる。クレロに暇そうに眠っていたリュウを呼んで貰うと、三人でハイのいる惑星ハンニバルへと移動した。
申し訳なさそうにアサギはトビィを見上げる。
「用事、大丈夫ですか? 急がしかったです?」
「大した用事ではない、気にするな。アサギ優先に決まっているだろう」
「だぐー」
アサギとリュウは二度目の、トビィは一度目の惑星ハンニバルだ。神官ハイ・ラゥ・シュリップが住まう神殿に、足を踏み入れる。雑草が生え放題で、まだ教会も神殿も以前の面影を取り戻していない。広大な敷地をハイ一人で整備するのは、やはり時間が必要だ。
ハイを捜し、三人は歩く。てっきり今日も掃除をしているのだとアサギは思っていたのだが、その姿は何処にも見えない。
名を呼んでも返答はない、いぶかしんだリュウは焦燥感に駆られて足を速める。嫌な予感がした、まさかハイに限ってそんなことはないだろうが、何故か胸が鷲掴みにされたように苦しい。
眉を潜め、トビィもようやく事態に気がつく。狼狽しているアサギの肩を抱きながら、背の剣を抜くと構えながら様子を窺った。慎重に歩きながら、音を聞き分ける。外から聞こえる鳥の鳴き声と、軋む床の音のみの空間が実に不気味だ。
キシ、キシ……。
「ハイ! 遊びに来てやったんだ、早く出てこないか!」
リュウの声が軽く響き渡った、舌打ちし半ば乱暴にドアを開いていく。
トビィに背を抱かれながら、ケーキの入ったバッグを胸に抱き、震えながら歩いていたアサギが辿り着いた場所。導かれるように、そのドアの前に立っていた。アサギの異変に気がつき、トビィがドアをゆっくりと押す。キキィ、と乾いた音を出しながら開いたドアに、リュウも駆け寄った。
小さな部屋だった、床に何冊か本が散らばっていた。ベッドの上を見て、三人が息を同時に飲む。弾かれたように部屋に侵入したのはリュウだ、アサギを押し退けてベッドに駆け寄ると、その上で眠っているハイを抱き起こした。
アサギの悲鳴、トビィが思わずアサギを抱き締め、その光景から逸らす。リュウが乾いた笑い声を出した、ハイの身体を何度も揺すり、叩くが反応はない。
解っていた、死んでいるから反応などありはしない。血の気の失せた顔色、だらん、と下りている腕、死者の匂い。
「な、何やってるんだよ魔王ハイ! お、おい、意味が解らない、ハイ、ハイ!」
リュウが何度も青褪めた唇で名を呼ぶ、受け入れるには無理な話だった。神官から魔王に堕ち、復活した筈のハイが、何故死んでいるのか。魔王ミラボーとの戦いで勇者を助け、生き残ったその男が何故。
アサギからの緊急信号に気付いたクレロも息を飲んだ、泣いているアサギを抱えたトビィだけが会話可能だ。リュウもハイの亡骸を抱き締めたまま、身体を震わせ焦点合わない瞳で佇んでいる。
「……おい、神のアンタは過去に何があったのか解るんだろ? ハイはどうして死んだ」
「今、調べよう。だが、管轄が違うので安易に映らないかもしれない。ハイは惑星ハンニバルで」
「都合が良いな、見殺しにしてないだろうな」
「トビィお兄様!」
二人の会話を聴いていたアサギが、弾かれたように顔を上げる。その瞳に捕らわれ、小さくすまない、と謝罪したトビィは再びアサギを真正面から強く抱き締める。が、視線は先のクレロに鋭く睨みを利かせた。
クレロが詳細を調べている間、ハイの亡骸はやはりハンニバルのあの神殿に戻したほうが良いのではないのか、という話になる。三人は項垂れながら戻ると、敷地内の小高い丘に埋葬することにした。丘からは、以前アサギに話してくれた、鳥の巣を人間が落として遊んでいたという池が見える。森も、教会も、神殿も見渡すことが出来た。
「オレの知る限りでは火葬が一般的なんだが……どうしたもんか」
トビィの声に、何も反応出来ないアサギとリュウ。死を受け入れることが出来なかった、真実を歪ませたかった。
数日前までは元気だった、掃除をしていたのだから。そもそも、元魔王は何故死んだのか。
トビィが穴を掘り、その中にハイを寝かせる。土葬することにし、泣きながらハイの亡骸に土を被せていくアサギと、項垂れてただ見ているだけのリュウ。その表情を、二人は涙で揺れる視界で目に焼き付けた。
「ま、待ってよ。ハイを埋めてどうするんだよ! まだ生きてる、生きてる!」
錯乱したのか、リュウが埋めたハイを掘り起こそうとした。魔王同士、もっとも親しかった二人。憎まれ口を言い合いながらも、何処か存在に安心していた二人。魔王戦で生き残った、二人の魔王。故郷に戻り、やり直しをする筈だった二人。
「落ち着いてください、リュウ様! 落ち着いて、落ち、つい、てっ」
悲鳴に近い声でアサギに抱き締められたので、ようやく我に返ったリュウは大きく吼える。絶叫が響き渡り、鳥たちが一斉に飛び立った。身体中の毛穴から一斉に汗を吹き出し、背後から抱き締めてくれているアサギの腕にそっと手を乗せる。
「ごめんだ、ぐ。意味が、わからなくて、ごめん……」
震えているアサギの腕を擦る、手についた土を払うとトビィを見上げ申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「何やってるぐ、ハイ。私達は死者にかける言葉など知らないぐ……神官のハイこそが、それをやらねばならないはずなのに」
掠れた声を出したリュウの手を、アサギが握った。そっとその手を強く握り返したリュウは、溢れてくる涙を拭うことなくハイの亡骸が埋まっている箇所を見つめ続ける。
アサギが作ったケーキを置いた、目印にとトビィが人の頭程の石を運ぶ。
呆然と三人はその簡素な墓標の前に佇んでいた、ふと、アサギが蹲り土に触れ魔法を詠唱する。その墓標の周囲に、花が咲き乱れた。黄色の花はベゴニア、花言葉は親切、片想い。ハイの誕生花である。意図的にアサギが咲かせたのか、それとも必然か、偶然か。墓標は花で満たされた。風で揺れる花たち、ほんのりと甘く香る。
三人は、あっけなさ過ぎる不可解なハイの死を受け入れられず、ただ立ちつくしていた。
元魔王ハイ、死亡。仲間達に知らされ、皆騒然となる。クレロが過去の映像を覗き見ているが、体調が悪かったことは判明した。何度か煎じた薬湯を飲んでいる姿が確認できた、苦しそうに嘔吐と咳を繰り返している映像を見た。
何者かに殺されたわけではない、病気が原因だった。それが何かは解らないが、地球と違い医学が発達していない。傷を回復魔法で治癒することは出来ても、病気の回復は魔法では難しいとの見解だ。
「もし、もっと早くに私がハイ様のところへ遊びに行って、体調不良だと解ったら地球に連れてきて病院へ行く事が出来ました。そうしたら助かりましたか?」
そう繰り返すアサギに、クレロは何も言えなかった。まだ、死因が不明なのだ。何とも言えない。
「どうしよう、私のせいだ。地球だったらお薬がたくさんあるから!」
それは違うと、皆口を揃えてアサギを諭した。だがアサギは首を横に振る、何故すぐにケーキを焼いて会いに行かなかったのか、自問自答を繰り返す。
トビィの看病をしていた、ミノルと揉めていた。それだけ、それだけ。
アサギは震えながら、毎日ハイの墓標へ向かう。何を備えれば良いのか解らなかったので、地球の香水入れに天界の水を入れ、そのガラス瓶をそっと石の近くに置いた。
「ごめんなさい、ハイ様。私がもっと早くに会いに行けば」
勇者達もアサギを励ました、責めなくてもいいと、アサギのせいじゃないと必死に告げた。だがアサギは首を横に振る。
トビィは密かにリュウのもとを訪れ、不信感を露にした。リュウも同意し、以前から神クレロの態度に腑に落ちない点があると漏らす。
ハイの死に気を取られていた、最期にリュウがハイに頼んだことは何だったか。
「勇者なのに、私、何も出来てない……どうしよう、どうしよう、どうしよう……」
ハイの墓標の前で泣いていたアサギは、ふらつく足取りで天界に戻る。皆に心配されているが上の空、何処をどう歩いているのかも解らない。目の前が歪んで見えた、冷たい壁に触れながら歩き続けた。ソレルとマグワートが気遣ってアサギの後を追うが、それすらも気付いていない。
大きな丸い球体、神しか起動出来ない筈のその球体。アサギが過去のトビィの危機を知った、それ。
何も映っていない球体が、僅かに煌いた。そっとアサギは手を伸ばし、冷たいそれに身体を寄せる。
と。
赤い惑星がぼんやりと浮かぶ、唖然と見ていたソレルとマグワートだったが、弾かれたようにマグワートが駆け出していた。ソレルは息を押し殺して様子を食い入る様に見つめている。
アサギは気付いていなかった、ただ、球体をそっと抱き締めた。
……惑星・マクディ。”神を殺した”民が蔓延る死の星。大気と土壌汚染で穢れた惑星は毒々しい赤色をしている、一箇所だけ、緑の場所がぽつん、と。
「オレはここだよ、早くおいで」
その惑星で、紫銀の髪の少年が手を空に掲げた。
アサギがゆっくりと、身体を起こして球体を見つめる。赤い赤い惑星、その一点を見つめた。
キィィィ、カトン、トン、トン。
そして、ゆっくりと歯車が起動する。それが必然の、運命なのだから。
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