別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。
いい加減整理したい。
※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。
絶対転載・保存等禁止です。
宜しくお願い致します。
×
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でろでろーん
クレロから話を聴く
夏休み終了。ハイ、リュウに会いに行く
トビィの過去を知る
⇒ 助けに行く、看病する
ミノル崩壊
トモハル激怒
アサギ、5星マクディを見つける
夕飯を終えると、部屋に置いたままになっていた携帯電話が点滅している事に気がついた。慌てて開き、確認する。
着信二件、メールが一件。どちらも、ミノルからだった。アサギは顔を輝かせたがすぐに気落ちして唇を噛む、嬉しい人からの連絡、好きな人からの連絡、けれども出ることが出来なかった。
慌ててかけ直すと、数回のコール音が響いてミノルが応答する。
『もしもし?』
「ごめんなさい、部屋に置いたままにしていて」
『あぁ、気にするなよ。あのさ、今から会えねぇ? 西の公園でさ』
「あ……え、えっと、その、ちょっと今日はというか今から出かけなくちゃ駄目で。ごめんなさい、すごく行きたいけど……」
『気にするなよ、用事があるなら仕方がないだろ? じゃ、また明日学校で』
「うん! おやすみなさい」
アサギは溜息を吐いた、のだが今はトビィが優先だ。一命は取り止めたが瀕死だった、置いてミノルに会いに行く事が出来なかった。
「会いたかった、な」
呟きながら、アサギは異界へと飛ぶ。食事を運び、途切れ途切れで意識を取り戻すトビィと会話し、傍で眠った。
翌日も学校から帰ると、トビィの元へと向かい看病する。そんな日が何日も続いた。
地球の携帯電話は、異界へ持っていったとしても当然電波など通じないので、常に部屋の机の上に置いてある。毎日、ミノルから着信があった、不在だと解るとメールを送った。それを見るたびに、慌ててアサギはかけ直すがミノルが出ない。
翌日気まずそうな二人は、ぎこちなく校内で会釈をするしかない。
校内一の美少女を射止めた、問題児……ミノルとアサギは直様噂になったので、二人が擦れ違うたびに皆が固唾を飲んで見守る。ミノルに脅されて嫌々ながらにアサギが付き合っているのではないのか……そんな根も葉もない噂も飛び交っていた。
それが耳に入るたびに、ミノルの顔が険しくなる。他人にとやかく言われる筋合いはない、気分が悪い。
擦れ違う二人に、痺れを切らしたミノルが校内でアサギを呼びつけた。
ミノルにしてみたら、何故避けられるようにしているのか理解出来ない。自分は勇気を出して震える手で電話をかけ、落胆しながら滅多に使わないメールを送ったのだ。汲み取ってくれないアサギに苛立った、アサギから頻繁にかけてきてくれそうだと勝手に思い込んでいたことも更に拍車をかける。
どうして、メールを寄越さない、何故、電話に出ない。
ミノルはしかめっ面で、申し訳なさそうにしているアサギの前に立つと腕を組んで軽く睨みつける。
「あのさ、いつも何してんの」
「……あのね、ミノル。クレロ様のお城にいるの。電波が届かなくて……」
驚いたのはミノルだ、何故アサギだけ異界にいるのだろうか。他のメンバーは誰一人として呼ばれていない。
「はぁ!? どういうことだよ」
「そ、それがね。トビィお兄様が今瀕死の状態で、それで看病しているの」
「……は? トビィが死にそう? アイツが?」
「え、えっとね。今のトビィお兄様じゃなくて、過去のトビィお兄様なの。今助けないと、過去で私達の前に姿を現すことが出来なくて」
「……悪い、少し考えさせろ」
「う、うん……」
ミノルは必死になって考えた、アサギが図で説明してくれたのでようやく理解した。
「えーっとつまり、今この時代にトビィが二人いる、ってこと?」
「そういうことです……。今日も看病に行くから、その、電話は繋がらないと思うの」
理解は出来たが釈然としない、彼氏をのけ者にして男に会いに行っていたことがどうしても引っかかる。確かに怪我人だろうが、付きっ切りでいる必要があるのだろうか。困惑して俯いているアサギに、余計苛立ったミノルは静かに「ふーん」とだけ告げるとそのまま立ち去る。
その場に居たら、アサギを怒鳴りそうだったので早々に切り上げる事にした。アサギは悪くはない、だが、もう少し自分に気を使ってくれても良いのではないかと、そう思った。
早足で歩き出すと、後方から追いかけてくるアサギの足音が聞こえる。
苛立った。
追いかけて来てくれて嬉しい反面、媚びているようで気に入らなかった。かといって、その場で立ちつくしていたとしても、それはそれで苛立つ。つまり、何をしても苛立つ。
彼氏である、自分よりも年上で美形で長身で非の打ちどころが……あるとすれば性格が悪そうだという点の男を選んだのだから。告白してきたのはアサギだ、それならばもっと積極的に近寄って来てもいいだろうに全く行動を起こさない。
もっと、校内でも話しかけて来て欲しいし、ウザいと思うくらいにメールも欲しかった、電話も欲しかった。
それを苦笑しつつ嬉しくて「仕方ねぇなぁ、お前電話多いんだよ」と、出てみたかった。
アサギなら、そんな感じだと思い込んでいた。
「あ、あの、ミノル。今度の日曜日、何処かに行きませんかっ」
追いかけてきたアサギはそう叫んだ、息が上がっていることくらい、ミノルにも解る。ミノルは赤面したが、瞳を泳がせ咳をし、軽く振り返るとぶっきらぼうに一言。
「……みんなで行ったプール行こうぜ、そろそろ外の流水プールは終わりらしーし。まだあちーしさ。二人でプール行こう」
「うん! そうだね、この間はあまり一緒に泳げなかったから」
嬉しそうに微笑んで軽く飛び跳ねたアサギに、思わずだらしなく顔を緩めたが、慌てて背筋を伸ばすと面倒そうに手を振る。
「そういうことで、じゃ」
「時間は?」
「メールしとく、看病頑張れよ、無理するなよ」
「うん!」
顔が知らず緩む、ミノルはにやにやと焦点の合わない瞳で教室へ戻り、不気味なくらいに笑顔で一日を過ごした。いよいよ恋人同士のようだった、夢見ていた会話とデート。二人きりで出かけることは、これが初めてである。
何より、プールに誘った時のアサギの笑顔が眩しくて偽りなく、愉しそうだと喜んでくれたのだと解ったことが嬉しかった。
アサギも楽しみにしてくれていたんだな、俺との時間を。
ぼそりと呟き、自然と先程までの嫉妬や憎悪が消えていく。ミノルは部活の後浮き足立って帰宅し、待ち合わせ時間をアサギにメールしようとした。が、悲鳴を上げて携帯電話を投げつける。頭を抱えて室内で項垂れた。
約束した日曜は、親戚中が法事で集まる日だったのだ。行きたくなかったが強制連行なので、渋々アサギにメールをする。
『悪い、用事だったからその次の日曜でもいいか?』
数時間後、アサギからメールが来た。
『うん、大丈夫! 今調べたけどその日が最終日だって、よかったよね。楽しみだね、まだまだ暑いから』
プールの営業期間を調べてくれた事が嬉しかった、邪険に扱われていないと解った。ミノルは大きく溜息を吐き、遠い日のプールを夢見て眠りにつく。
楽しみだった、どんな服を着てくるだろう、水着はこの間と同じなのだろうか。手を繋いで流水プールに入ろう、スライダーも何度も並ぼう。昼は何を食べようか……。
―――いいの? 本当にそれでいいの? 選んでいるのはトビィなのに―――
アサギと過ごすプールの夢、その片隅で何か黒いものが連呼していた。トビィを選んだ、トビィを選んだ、と連呼している何かがいた。
日曜日、約束の時間は十時。
その日まで、アサギは三種持っている水着からどれにすべきか必死に悩み、着ていく服を真剣に選んだ。初めて二人で出かけるのだ、気合を入れて当然だった。
ミノルにメールはしたかったが、迷惑に思われないだろうかと躊躇し、頻繁に送っていなかったがもっと互いの近況を報告すべきだったとアサギは反省する。おはよう、おやすみ、くらいしかメールしていなかったのだ。
アサギはその日曜日前日、焼き菓子を作ることにし着実に計画を進めていた。可愛いラッピングも買い揃え、練習で母と一度作った。上出来だった、満足して本番に臨む。練習で作ったものは家族は勿論、トビィにもおすそ分けをしておいた。
『こんばんは、トビィお兄様が元気になったよ、そろそろ前の世界へ戻します』
『おはよう、昨日はトビィお兄様が帰りたくないと言い出して大変だったよ。また話すね』
『こんばんは、トビィお兄様の回復力にクレロ様もびっくりしていたよ。流石だね』
『おはよう、眠くなってきたよ。トビィお兄様は元気だから……』
アサギは、近況をミノルにメールした。真実を、告げた。毎日メールをしていた、早く日曜日にならないかなと、願って。
炎天下。蝉が元気に鳴いているが、彼らはいつ、寿命尽きるのだろう。それまで、精一杯鳴き続けるのだろう。
命の期間が短い短い、蝉。けれども、その期間全力で啼き続け、人間に”夏”を感じさせてくれる。
聴きながら額にじんわりと汗が浮かび上がってきたので、ハンドタオルで押さえた。木陰に居るとはいえ、当然暑い。現在気温は何度なのか、熱されたアスファルトから独特の匂いが立ち昇っている。
右手の腕時計を覗き込んだ、予定の時間を一時間半経過。
はしゃぐ声が幾度となく通り過ぎていく、今からプールに入る人々だ。遠くからは、涼しげな水の音と人々の賑わう声が聴こえてきている。
アサギは、困惑気味に携帯電話を操作し唇を噛み締める。直ぐに留守番電話に切り替わってしまった、落胆し途方にくれていたが、思い出し電話帳を漁った。”ミノルおうち”と登録された番号がある、かける。
『はい、門脇です』
「あ、あの、田上です。ミノル君は居ますか?」
『あら、アサギちゃん? ミノルなら出掛けてるわよ』
「そ、そうですか、ありがとうございました」
上ずった声で、ミノルの母親と会話した。ミノルは、不在らしい。地面を見つめながら、力なく携帯電話をバッグに仕舞う。
木陰のある花壇に座り込むと、溜息を大きく吐いた。俯いたまま動かない、楽しみにしていた時間は、容赦なく奪われていく。何もなさないまま。
何か、ミノルにあったのだろうか。二時間の遅刻は、流石に只事ではない。
じわりと身体中に浮かぶ汗、今頃は二人でプールに入っている予定だった。お腹を軽く押さえる、そうなのだ、当然昼が近いのだった。空腹でも仕方がない。本来ならば今頃中で何か頬張っている筈だった。
あと一時間、待ってみよう。
アサギはそう心の中で誓うと、ぎゅっと水着の入ったバッグを握り締めていた。
……記憶が朦朧とする中、ふらつく足取りで立ち上がる。時計は、十三時をまわった。
アナログ時計の数字はハート型、見間違いではなく十三時、十五分である。アサギは仕方なく、人々の楽しそうな声を背にプールを後にする。
楽しみにしていた、プールだった。ミノルが誘ってくれたプールだった、二人だけのプールだった。おそらく、初デートだった……筈だ。
バッグの中には昨夜作った、ミノル向けのスパイシークッキーが入っている。
切なそうに、再びバッグを強く抱き締めて何度も溜息。ともかく、水分を普及したいと思ったアサギは近くの自販機でジュースを購入する。一気に飲み干すと帰宅しようと足を進める、がせっかく外に出たのだ。
気分転換に雑貨屋でも覗こうか、と足の方向を予定と違う方向へ進める。向かう先は、人で賑わう月が丘。
この時期ならアイスを売る屋台もあり、大きなデパートからこじんまりとした店まで一気に揃う人気のスポットである。直様美味しそうな香りが、腹を刺激する。
メロンパンの移動カーだ、アサギもそれを食べる事にした。小さ目を購入し熱々の出来立てを頬張りながら、ぶらつく。
食べ終えれば、喉の渇きを満たすためにフレッシュフルーツの移動カーにてマンゴージュースを購入。
淡い水色の小さな白いリボンがついたワンピースを靡かせながら歩くアサギを、行き交う人々が振り返って見た。目立ちすぎる。滅多にお目にかかれない美少女だから当然であるが、輪をかけて憂いを帯びているのだから誰しもが溜息を吐いた。
が、本人は気にならないというか気にも留めずに歩き続けた。
声をかけようかと相談している男達も、少なくはない。だが、美しすぎて気落ちしてしまうのだ。無理だ、と。
様々な屋台や移動カーが並ぶ通りには、簡素なテーブルと椅子が設置されており皆そこで昼食をとっている。
ふと。
見慣れた後姿に気がつき、アサギは足を止めた。手にしていたジュースのカップを無意識に力強く握る、驚きで。
「アサギ?」
声をかけられても、急に振り返ることはなく。暫し立ち尽くしていたが肩を叩かれたので、ようやく振り返った。
「トモハル」
「一人? 買い物?」
トモハルだ。
手にトモハルお気に入りのスポーツブランドのショップバッグ、どうやら買い物をしていたらしい。アサギの視線に気付き、軽く笑ってバッグを持ち上げる。
「スニーカー、買いに来たんだ。アサギは?」
「……ぶらぶら、かな」
アサギは、微笑んだ。空になったジュースを、くしゃ、と掴みながら笑った。自然に笑ったつもりだったのだが、不自然だったらしい。
いや。
トモハルが気付いてしまったのだ、異変に。二人の間に、沈黙。
気まずくてアサギが近くのゴミ箱に移動し、空になったカップを捨てに行く。と、トモハルもついてきた。
眉を潜めて、アサギは唇を噛締めたが。
「昼、食べた? 一緒に何か食べる?」
「さっき、メロンパン食べたから」
「そっか、俺まだだからさ、一緒に付き合ってくれない?」
にっこり、とトモハルが笑う。アサギは、断ろうとしたのだが先手を打たれた。断りの言葉を唇から発しないように、なのかトモハルの切り返しは速い。
瞳を伏せて、アサギが困惑気味に視線をトモハルから逸らせば。
「…………」
ミノルだ。瞳に再び飛び込んできた。間違いなく、ミノルがそこにいるのだが。
声をかけたくとも、アサギにはかけられない。アサギの視線を追って、トモハルがそちらを見つめる。
息を飲んで、唖然と二人、同じ方向を凝視。
ミノルの隣に、誰かがいる。誰かは知らないが、親密そうだった。
少女だった。昼食を食べているようだ、サンドイッチらしい。それに、クレープだろうか。ポテトもある、ジュースはLLサイズを二人で一つだろうか、ストローが見えた。
アサギもトモハルも、少女が誰なのか検討もつかない。少女の横顔は見えるのだが、知らない。
トモハルは我に返るとようやく、アサギを見る。
アサギは。硬直したままだった、泣くも喚くも怒るもせず。
ただ、見ている。
急に、少女の視線がアサギとトモハルを捕らえた気がして。周囲はざわつくのに、ミノルの声は鮮明に。少女の声も、鮮明に。
きつめの瞳が印象的な、大人びた少女だ。ゆる巻きヘアに、ピンクのぼんぼんがついたニット帽をかぶり、エメラルド色したパーカーを羽織った健康的な少女。キャミソールは胸元が広めで発育良く、下手をするとアサギ以上の谷間かもしれない。
大人っぽい子。アサギはそう印象を受けた、自分の着ているワンピースが酷く子供っぽく見えた。
突如、胸の鼓動が早鳴る。急に押し潰されそうな圧迫を感じ、アサギは顔を顰めた。
と、少女がこちらを見た気がした。そして、笑ったように見えた。
気のせいかもしれない、が、トモハルが顔を顰める。そう、確かにその少女は笑ったのだ。
くすくす、とアサギを捕らえて笑ったのだ。アサギの後方から見ていたトモハルはそれに思わず嫌悪感を抱く。
「キス、する?」
少女の声。
アサギが弾かれたように一歩後退、危うくトモハルと接触しそうになるがトモハルも一歩後退。何を言っているのか解らなくて、アサギは思わず自分の腕を掴む。
震える身体を押さえる為に、無意識にとった行動だった。
祈る気持ちで、トモハルは思わずミノルを見た。
あれは、誰だ。ミノルに限ってそんなことはないだろうが、何故、二人きりであの少女と共に居るのだろう。
親密な事くらいは、判る。問題は”何故それがアサギではないか”、だ。アサギという恋人が居るにもかかわらず、休日に何故別の少女と?
トモハルは混乱した、しかし当事者のアサギの心痛さなど計り知れず、アサギの揺れる髪を見つめる。
「実君、好き」
そこだけ、異空間のようだった。見知らぬ少女の声が、アサギとトモハルの耳に届いた。
聴きたくもないのに、耳元で叫ばれているように鮮明に届いてしまう。
少女が笑ってそう言って、ミノルの口元についていた何かの食べカスを、指でとってから嘗めて悪戯っぽく笑う。
赤面したトモハル、羞恥心からではない、そんな行動を許してしまうミノルに腹が立ったのだ。
親密な、どうみても好意のある二人の関係。
「実君、私の事好き?」
瞬きしながら近寄っていく少女、思わず歯軋りしたトモハル。ワザとらしい……! ざわり、と背筋が蠢く。
あれは、素ではない演技だ。騙されるなミノル、と心の中で叫び続けるトモハルだが。
呆気なく、拍子抜けするほどにミノルはだらしなく笑みを浮かべながら返答したのだ。
「あぁ、好きだよ」
「実君、すっごく可愛い彼女いるよね。私、彼女になれないよね」
「あぁ、なんだ、知ってたのか。でも、それ誤解。アイツ、彼女じゃないから、問題ない」
「そうなの? あの子だよ、この辺りで皆男の子虜にしちゃう、あの子だよ?」
「可愛いからっていい気になってるけど、俺は憂美のほうが好きだし、可愛いと思う」
着信二件、メールが一件。どちらも、ミノルからだった。アサギは顔を輝かせたがすぐに気落ちして唇を噛む、嬉しい人からの連絡、好きな人からの連絡、けれども出ることが出来なかった。
慌ててかけ直すと、数回のコール音が響いてミノルが応答する。
『もしもし?』
「ごめんなさい、部屋に置いたままにしていて」
『あぁ、気にするなよ。あのさ、今から会えねぇ? 西の公園でさ』
「あ……え、えっと、その、ちょっと今日はというか今から出かけなくちゃ駄目で。ごめんなさい、すごく行きたいけど……」
『気にするなよ、用事があるなら仕方がないだろ? じゃ、また明日学校で』
「うん! おやすみなさい」
アサギは溜息を吐いた、のだが今はトビィが優先だ。一命は取り止めたが瀕死だった、置いてミノルに会いに行く事が出来なかった。
「会いたかった、な」
呟きながら、アサギは異界へと飛ぶ。食事を運び、途切れ途切れで意識を取り戻すトビィと会話し、傍で眠った。
翌日も学校から帰ると、トビィの元へと向かい看病する。そんな日が何日も続いた。
地球の携帯電話は、異界へ持っていったとしても当然電波など通じないので、常に部屋の机の上に置いてある。毎日、ミノルから着信があった、不在だと解るとメールを送った。それを見るたびに、慌ててアサギはかけ直すがミノルが出ない。
翌日気まずそうな二人は、ぎこちなく校内で会釈をするしかない。
校内一の美少女を射止めた、問題児……ミノルとアサギは直様噂になったので、二人が擦れ違うたびに皆が固唾を飲んで見守る。ミノルに脅されて嫌々ながらにアサギが付き合っているのではないのか……そんな根も葉もない噂も飛び交っていた。
それが耳に入るたびに、ミノルの顔が険しくなる。他人にとやかく言われる筋合いはない、気分が悪い。
擦れ違う二人に、痺れを切らしたミノルが校内でアサギを呼びつけた。
ミノルにしてみたら、何故避けられるようにしているのか理解出来ない。自分は勇気を出して震える手で電話をかけ、落胆しながら滅多に使わないメールを送ったのだ。汲み取ってくれないアサギに苛立った、アサギから頻繁にかけてきてくれそうだと勝手に思い込んでいたことも更に拍車をかける。
どうして、メールを寄越さない、何故、電話に出ない。
ミノルはしかめっ面で、申し訳なさそうにしているアサギの前に立つと腕を組んで軽く睨みつける。
「あのさ、いつも何してんの」
「……あのね、ミノル。クレロ様のお城にいるの。電波が届かなくて……」
驚いたのはミノルだ、何故アサギだけ異界にいるのだろうか。他のメンバーは誰一人として呼ばれていない。
「はぁ!? どういうことだよ」
「そ、それがね。トビィお兄様が今瀕死の状態で、それで看病しているの」
「……は? トビィが死にそう? アイツが?」
「え、えっとね。今のトビィお兄様じゃなくて、過去のトビィお兄様なの。今助けないと、過去で私達の前に姿を現すことが出来なくて」
「……悪い、少し考えさせろ」
「う、うん……」
ミノルは必死になって考えた、アサギが図で説明してくれたのでようやく理解した。
「えーっとつまり、今この時代にトビィが二人いる、ってこと?」
「そういうことです……。今日も看病に行くから、その、電話は繋がらないと思うの」
理解は出来たが釈然としない、彼氏をのけ者にして男に会いに行っていたことがどうしても引っかかる。確かに怪我人だろうが、付きっ切りでいる必要があるのだろうか。困惑して俯いているアサギに、余計苛立ったミノルは静かに「ふーん」とだけ告げるとそのまま立ち去る。
その場に居たら、アサギを怒鳴りそうだったので早々に切り上げる事にした。アサギは悪くはない、だが、もう少し自分に気を使ってくれても良いのではないかと、そう思った。
早足で歩き出すと、後方から追いかけてくるアサギの足音が聞こえる。
苛立った。
追いかけて来てくれて嬉しい反面、媚びているようで気に入らなかった。かといって、その場で立ちつくしていたとしても、それはそれで苛立つ。つまり、何をしても苛立つ。
彼氏である、自分よりも年上で美形で長身で非の打ちどころが……あるとすれば性格が悪そうだという点の男を選んだのだから。告白してきたのはアサギだ、それならばもっと積極的に近寄って来てもいいだろうに全く行動を起こさない。
もっと、校内でも話しかけて来て欲しいし、ウザいと思うくらいにメールも欲しかった、電話も欲しかった。
それを苦笑しつつ嬉しくて「仕方ねぇなぁ、お前電話多いんだよ」と、出てみたかった。
アサギなら、そんな感じだと思い込んでいた。
「あ、あの、ミノル。今度の日曜日、何処かに行きませんかっ」
追いかけてきたアサギはそう叫んだ、息が上がっていることくらい、ミノルにも解る。ミノルは赤面したが、瞳を泳がせ咳をし、軽く振り返るとぶっきらぼうに一言。
「……みんなで行ったプール行こうぜ、そろそろ外の流水プールは終わりらしーし。まだあちーしさ。二人でプール行こう」
「うん! そうだね、この間はあまり一緒に泳げなかったから」
嬉しそうに微笑んで軽く飛び跳ねたアサギに、思わずだらしなく顔を緩めたが、慌てて背筋を伸ばすと面倒そうに手を振る。
「そういうことで、じゃ」
「時間は?」
「メールしとく、看病頑張れよ、無理するなよ」
「うん!」
顔が知らず緩む、ミノルはにやにやと焦点の合わない瞳で教室へ戻り、不気味なくらいに笑顔で一日を過ごした。いよいよ恋人同士のようだった、夢見ていた会話とデート。二人きりで出かけることは、これが初めてである。
何より、プールに誘った時のアサギの笑顔が眩しくて偽りなく、愉しそうだと喜んでくれたのだと解ったことが嬉しかった。
アサギも楽しみにしてくれていたんだな、俺との時間を。
ぼそりと呟き、自然と先程までの嫉妬や憎悪が消えていく。ミノルは部活の後浮き足立って帰宅し、待ち合わせ時間をアサギにメールしようとした。が、悲鳴を上げて携帯電話を投げつける。頭を抱えて室内で項垂れた。
約束した日曜は、親戚中が法事で集まる日だったのだ。行きたくなかったが強制連行なので、渋々アサギにメールをする。
『悪い、用事だったからその次の日曜でもいいか?』
数時間後、アサギからメールが来た。
『うん、大丈夫! 今調べたけどその日が最終日だって、よかったよね。楽しみだね、まだまだ暑いから』
プールの営業期間を調べてくれた事が嬉しかった、邪険に扱われていないと解った。ミノルは大きく溜息を吐き、遠い日のプールを夢見て眠りにつく。
楽しみだった、どんな服を着てくるだろう、水着はこの間と同じなのだろうか。手を繋いで流水プールに入ろう、スライダーも何度も並ぼう。昼は何を食べようか……。
―――いいの? 本当にそれでいいの? 選んでいるのはトビィなのに―――
アサギと過ごすプールの夢、その片隅で何か黒いものが連呼していた。トビィを選んだ、トビィを選んだ、と連呼している何かがいた。
日曜日、約束の時間は十時。
その日まで、アサギは三種持っている水着からどれにすべきか必死に悩み、着ていく服を真剣に選んだ。初めて二人で出かけるのだ、気合を入れて当然だった。
ミノルにメールはしたかったが、迷惑に思われないだろうかと躊躇し、頻繁に送っていなかったがもっと互いの近況を報告すべきだったとアサギは反省する。おはよう、おやすみ、くらいしかメールしていなかったのだ。
アサギはその日曜日前日、焼き菓子を作ることにし着実に計画を進めていた。可愛いラッピングも買い揃え、練習で母と一度作った。上出来だった、満足して本番に臨む。練習で作ったものは家族は勿論、トビィにもおすそ分けをしておいた。
『こんばんは、トビィお兄様が元気になったよ、そろそろ前の世界へ戻します』
『おはよう、昨日はトビィお兄様が帰りたくないと言い出して大変だったよ。また話すね』
『こんばんは、トビィお兄様の回復力にクレロ様もびっくりしていたよ。流石だね』
『おはよう、眠くなってきたよ。トビィお兄様は元気だから……』
アサギは、近況をミノルにメールした。真実を、告げた。毎日メールをしていた、早く日曜日にならないかなと、願って。
炎天下。蝉が元気に鳴いているが、彼らはいつ、寿命尽きるのだろう。それまで、精一杯鳴き続けるのだろう。
命の期間が短い短い、蝉。けれども、その期間全力で啼き続け、人間に”夏”を感じさせてくれる。
聴きながら額にじんわりと汗が浮かび上がってきたので、ハンドタオルで押さえた。木陰に居るとはいえ、当然暑い。現在気温は何度なのか、熱されたアスファルトから独特の匂いが立ち昇っている。
右手の腕時計を覗き込んだ、予定の時間を一時間半経過。
はしゃぐ声が幾度となく通り過ぎていく、今からプールに入る人々だ。遠くからは、涼しげな水の音と人々の賑わう声が聴こえてきている。
アサギは、困惑気味に携帯電話を操作し唇を噛み締める。直ぐに留守番電話に切り替わってしまった、落胆し途方にくれていたが、思い出し電話帳を漁った。”ミノルおうち”と登録された番号がある、かける。
『はい、門脇です』
「あ、あの、田上です。ミノル君は居ますか?」
『あら、アサギちゃん? ミノルなら出掛けてるわよ』
「そ、そうですか、ありがとうございました」
上ずった声で、ミノルの母親と会話した。ミノルは、不在らしい。地面を見つめながら、力なく携帯電話をバッグに仕舞う。
木陰のある花壇に座り込むと、溜息を大きく吐いた。俯いたまま動かない、楽しみにしていた時間は、容赦なく奪われていく。何もなさないまま。
何か、ミノルにあったのだろうか。二時間の遅刻は、流石に只事ではない。
じわりと身体中に浮かぶ汗、今頃は二人でプールに入っている予定だった。お腹を軽く押さえる、そうなのだ、当然昼が近いのだった。空腹でも仕方がない。本来ならば今頃中で何か頬張っている筈だった。
あと一時間、待ってみよう。
アサギはそう心の中で誓うと、ぎゅっと水着の入ったバッグを握り締めていた。
……記憶が朦朧とする中、ふらつく足取りで立ち上がる。時計は、十三時をまわった。
アナログ時計の数字はハート型、見間違いではなく十三時、十五分である。アサギは仕方なく、人々の楽しそうな声を背にプールを後にする。
楽しみにしていた、プールだった。ミノルが誘ってくれたプールだった、二人だけのプールだった。おそらく、初デートだった……筈だ。
バッグの中には昨夜作った、ミノル向けのスパイシークッキーが入っている。
切なそうに、再びバッグを強く抱き締めて何度も溜息。ともかく、水分を普及したいと思ったアサギは近くの自販機でジュースを購入する。一気に飲み干すと帰宅しようと足を進める、がせっかく外に出たのだ。
気分転換に雑貨屋でも覗こうか、と足の方向を予定と違う方向へ進める。向かう先は、人で賑わう月が丘。
この時期ならアイスを売る屋台もあり、大きなデパートからこじんまりとした店まで一気に揃う人気のスポットである。直様美味しそうな香りが、腹を刺激する。
メロンパンの移動カーだ、アサギもそれを食べる事にした。小さ目を購入し熱々の出来立てを頬張りながら、ぶらつく。
食べ終えれば、喉の渇きを満たすためにフレッシュフルーツの移動カーにてマンゴージュースを購入。
淡い水色の小さな白いリボンがついたワンピースを靡かせながら歩くアサギを、行き交う人々が振り返って見た。目立ちすぎる。滅多にお目にかかれない美少女だから当然であるが、輪をかけて憂いを帯びているのだから誰しもが溜息を吐いた。
が、本人は気にならないというか気にも留めずに歩き続けた。
声をかけようかと相談している男達も、少なくはない。だが、美しすぎて気落ちしてしまうのだ。無理だ、と。
様々な屋台や移動カーが並ぶ通りには、簡素なテーブルと椅子が設置されており皆そこで昼食をとっている。
ふと。
見慣れた後姿に気がつき、アサギは足を止めた。手にしていたジュースのカップを無意識に力強く握る、驚きで。
「アサギ?」
声をかけられても、急に振り返ることはなく。暫し立ち尽くしていたが肩を叩かれたので、ようやく振り返った。
「トモハル」
「一人? 買い物?」
トモハルだ。
手にトモハルお気に入りのスポーツブランドのショップバッグ、どうやら買い物をしていたらしい。アサギの視線に気付き、軽く笑ってバッグを持ち上げる。
「スニーカー、買いに来たんだ。アサギは?」
「……ぶらぶら、かな」
アサギは、微笑んだ。空になったジュースを、くしゃ、と掴みながら笑った。自然に笑ったつもりだったのだが、不自然だったらしい。
いや。
トモハルが気付いてしまったのだ、異変に。二人の間に、沈黙。
気まずくてアサギが近くのゴミ箱に移動し、空になったカップを捨てに行く。と、トモハルもついてきた。
眉を潜めて、アサギは唇を噛締めたが。
「昼、食べた? 一緒に何か食べる?」
「さっき、メロンパン食べたから」
「そっか、俺まだだからさ、一緒に付き合ってくれない?」
にっこり、とトモハルが笑う。アサギは、断ろうとしたのだが先手を打たれた。断りの言葉を唇から発しないように、なのかトモハルの切り返しは速い。
瞳を伏せて、アサギが困惑気味に視線をトモハルから逸らせば。
「…………」
ミノルだ。瞳に再び飛び込んできた。間違いなく、ミノルがそこにいるのだが。
声をかけたくとも、アサギにはかけられない。アサギの視線を追って、トモハルがそちらを見つめる。
息を飲んで、唖然と二人、同じ方向を凝視。
ミノルの隣に、誰かがいる。誰かは知らないが、親密そうだった。
少女だった。昼食を食べているようだ、サンドイッチらしい。それに、クレープだろうか。ポテトもある、ジュースはLLサイズを二人で一つだろうか、ストローが見えた。
アサギもトモハルも、少女が誰なのか検討もつかない。少女の横顔は見えるのだが、知らない。
トモハルは我に返るとようやく、アサギを見る。
アサギは。硬直したままだった、泣くも喚くも怒るもせず。
ただ、見ている。
急に、少女の視線がアサギとトモハルを捕らえた気がして。周囲はざわつくのに、ミノルの声は鮮明に。少女の声も、鮮明に。
きつめの瞳が印象的な、大人びた少女だ。ゆる巻きヘアに、ピンクのぼんぼんがついたニット帽をかぶり、エメラルド色したパーカーを羽織った健康的な少女。キャミソールは胸元が広めで発育良く、下手をするとアサギ以上の谷間かもしれない。
大人っぽい子。アサギはそう印象を受けた、自分の着ているワンピースが酷く子供っぽく見えた。
突如、胸の鼓動が早鳴る。急に押し潰されそうな圧迫を感じ、アサギは顔を顰めた。
と、少女がこちらを見た気がした。そして、笑ったように見えた。
気のせいかもしれない、が、トモハルが顔を顰める。そう、確かにその少女は笑ったのだ。
くすくす、とアサギを捕らえて笑ったのだ。アサギの後方から見ていたトモハルはそれに思わず嫌悪感を抱く。
「キス、する?」
少女の声。
アサギが弾かれたように一歩後退、危うくトモハルと接触しそうになるがトモハルも一歩後退。何を言っているのか解らなくて、アサギは思わず自分の腕を掴む。
震える身体を押さえる為に、無意識にとった行動だった。
祈る気持ちで、トモハルは思わずミノルを見た。
あれは、誰だ。ミノルに限ってそんなことはないだろうが、何故、二人きりであの少女と共に居るのだろう。
親密な事くらいは、判る。問題は”何故それがアサギではないか”、だ。アサギという恋人が居るにもかかわらず、休日に何故別の少女と?
トモハルは混乱した、しかし当事者のアサギの心痛さなど計り知れず、アサギの揺れる髪を見つめる。
「実君、好き」
そこだけ、異空間のようだった。見知らぬ少女の声が、アサギとトモハルの耳に届いた。
聴きたくもないのに、耳元で叫ばれているように鮮明に届いてしまう。
少女が笑ってそう言って、ミノルの口元についていた何かの食べカスを、指でとってから嘗めて悪戯っぽく笑う。
赤面したトモハル、羞恥心からではない、そんな行動を許してしまうミノルに腹が立ったのだ。
親密な、どうみても好意のある二人の関係。
「実君、私の事好き?」
瞬きしながら近寄っていく少女、思わず歯軋りしたトモハル。ワザとらしい……! ざわり、と背筋が蠢く。
あれは、素ではない演技だ。騙されるなミノル、と心の中で叫び続けるトモハルだが。
呆気なく、拍子抜けするほどにミノルはだらしなく笑みを浮かべながら返答したのだ。
「あぁ、好きだよ」
「実君、すっごく可愛い彼女いるよね。私、彼女になれないよね」
「あぁ、なんだ、知ってたのか。でも、それ誤解。アイツ、彼女じゃないから、問題ない」
「そうなの? あの子だよ、この辺りで皆男の子虜にしちゃう、あの子だよ?」
「可愛いからっていい気になってるけど、俺は憂美のほうが好きだし、可愛いと思う」
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