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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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ごたごた。

 椅子は四つしかなかった、ベシュタがアースに勧められ席に着く。アースは、トリプトルの隣に立つと自分はこのままで良いから、と話を促した。仏頂面の三人と、困惑気味のアースを前にベシュタはゆっくりと口を開く。出来るだけ、丁寧に声をかける。

「君達の育成方法に間違いなどない、順調過ぎると言っても良いだろう。素晴らしい成績だと、皆絶賛していた」
「ならば、光の精霊が派遣されなくとも」

 トロイが腕を組み睨みを利かせる、口を挟まれベシュタは肩を竦めたがそのまま切り替えした。

「だからこそ、だ。優秀な四人に今更一人加わろうとも乱れる事はないだろう、と。上も急いでいるようだ、人間達の増加が早いからな。私が加わる事で、惑星の完成の速度を速めたい……ただ、それだけ。
 私はその為にこちらへ派遣された、今までの育成報告は拝見させて貰ったが実際の目で確かめてみたい。早速で悪いが誰か案内してくれないだろうか。遊びに来たわけではないので」

 押し黙ったままの四人に、ベシュタは大袈裟に肩を竦め溜息を吐く。

「優秀、といえどもこの程度か。四人でないと遣り辛い”何か”があるのか」

 トリプトルがテーブルを思い切り叩き付け、それを制したトロイ。だが、トロイ自身も身体が小刻みに震えている。必死に勘定を押し殺していた、リュミも視線を逸らしたまま口を閉ざす。
 アースが、一歩前に進み出て口を開いた。

「あの、ならば私が。力をお貸しください、ベシュタ様」
「アース! こんな奴の力など借りなくても、オレ達は今まで通り四人で」
「トリプトル、あのね。大丈夫、ベシュタ様も私達の努力を解ってくださるから。やっぱり、育成も人が多いほうが良いだろうし、早ければ人間達も助かるのでしょう? なら……一緒に仲良くやっていきましょう」

 懇願するようにアースにそう言われたので、トリプトルは何も言い返すことが出来なかった。立ち上がったベシュタは、純白のマントを翻しアースに跪くと恭しくその手を取り、甲に口づける。

「物分りの良い方だ、流石は稀な神の愛児。では、早速」

 アースを連れて歩き出したベシュタに、トロイが声をかける。振り返ることなく、ベシュタは脚を止めた。

「明日でも良いだろう? もう夕刻だ」
「時間が惜しいのだよ、トロイ殿。何度も言うが遊びに来たわけではない、私は一族の期待を背負い、重大な任務を科せられたのだから」

 軽くアースの腕を引き、歩くように指示するとそのまま大股で進む。リュミがテーブルに肘をついて唇を尖らせているトリプトルを叱咤した、が反応しない。
 去っていった二人に深い溜息を吐き、重苦しい空気で三人はその場から離れようとしない。リュミは落ち着かないと立ち上がり、右往左往を繰り返す。トロイは椅子の背もたれに重心をかけて天井を見上げていた、トリプトルはテーブルを爪で引っかいている。

「……アースの良くも悪い性格だな、他人を無下に扱えない」
「大丈夫かな、二人で行かせて」

 押し黙ったままのトリプトルを不安そうに見つめた二人は、再び深い溜息を吐くと気分を変えようと茶を煎れる。
 暖かな茶を飲めば少しは落ち着くかと思ったのだが、そうもいかない。

「納得が出来ない、直談判してくる」

 トロイが立ち上がると、リュミが困惑気味だが頷いた。

「うん……何かおかしいよね、唐突過ぎるよ。本当に神の決定なのかな。でもさ、トロイ。直談判ってことは、主星に戻るってこと? 均衡が崩れないかな」
「惑星は安定している、崩れるとすればあの光の精霊が何か馬鹿な真似をした時だけだ。そうしたら神にありのままを話すさ、アイツを寄越したが為に狂った、とな。
 オレが帰るまで、アースを頼んだ。いいな、トリプトル、リュミ」

 大きく頷いたリュミと、頭を抱えたまま歯軋りしたトリプトル。苦笑し、トロイは手を振ると歩き出す。短時間で戻ってくるつもりだった、協力者が育成途中の惑星を離れることなど、あってはならない。

 ベシュタと共に出かけたアースは前を歩いている背中を見つめながら、上手く話せるかどうか心配をしていた。一刻も早くこの惑星のことを知ってもらい、皆と親しく育成を進めて行く事が望ましい。

「アース、と言ったな」
「あ、はい」
「簡単で良いから惑星全体を見たい、それで判断しよう」
「わかり、ました。えっと、あの機械に乗れば良いですよね」

 上空から操縦しているベシュタに懸命にアサギは惑星の状況を語った、水が豊富で、常に新しい息吹を運ぶ風が吹き、暖かな陽射しが草木に降り注ぐ。完璧に近い楽園がそこにはあった、移住してきた鳥や動物達の姿が時折見える。
 ベシュタは見下ろしながら無表情のまま、ぼんやりと状況を眺めていた。
 確かに報告書以上の出来である、直ぐにでも人間が住めそうな純度だ。流石は噂の土の精霊の惑星だ、ベシュタは興味を持たず、ただ相撃ちだけしておく。
 数日かけて丁寧に惑星の特色を話したアースは、休憩がてらに小屋へと誘った。大きく背伸びし、茶を煎れているアースを見つめながらいつ、行動を起こすべきか悩むベシュタ。
 まだ、駄目だろう。
 信用を得られていない、確実に自分に悪意がないことをアースに理解してもらわねばならなかった。

「お疲れでしょう、ベシュタ様。真剣に聴いてくださってありがとうございます。お口に合えば良いのですが」

 アースが差し出してきた茶を啜る、口内に広がる豊潤な香りに思わずベシュタは息を飲んだ。

「こ、これは」
「近隣で詰んだ葉で、どうですか?」
「苦味も渋味もない、美しい澄んだ味だ。神々の茶会で出る茶よりも美味い、成程、これがこの惑星の特色か。美しき大地から芽を出した葉は純粋で穢れない……」

 思わず我を忘れて茶を飲むベシュタに嬉しそうにアースは微笑む、空になったカップに再び注いだ。

「ふむ、あまりにも模範的過ぎて面白みに欠ける、と思っていたがこれには驚かされた。素晴らしいよアース、この惑星の育成者として参加できる事を心から感謝しよう」
「はい! お願いしますっ、ベシュタ様が居ると心強いです」

 肩の荷が下りたのか、アースの緊張が解れたことを読み取ったベシュタは気持ちを切り替える。本題に入らねばならない、自分の役目は目の前の娘の純潔を奪うこと。その為には自分に心を許してもらわねば困る。
 二人は、その小屋で会話を始めた。育成に関し、自身の身につけていた知識をアースに語り聞かせ、それを懸命に紙に記す姿を見つめる。何に対してもアースは一生懸命で手を抜かない、ご苦労な事だと内心ベシュタは呆れ返った。
 馬鹿がつくほど真面目だ、これならば騙す事は容易いだろう。

「しかし、アース。一つ気にかかることがあるのだが……気を悪くしないでくれ。火の精霊の育成方法に不安を覚えている」
「え? トリプトルのですか?」
「アースの大事な仲間の事を悪く言うつもりはないのだが……他言無用だ、君を”信頼して”いるから話そう。
 私の派遣を皆不審がっていただろう? 報告書の分析をした結果、火の精霊の力が最大限に反映されていなかったのだ。それで私に声がかかった。光の精霊の役割は、火の精霊に似ている。極秘に補い、修正をして来いとの指令なのだ。
 気を悪くするのが目に見えていたので、あの場では口にしなかったが」
「それは何かの間違いでは? トリプトルはいつも全力です、常に傍にいて支えてくれる優しい人です、力を抜くなんて有り得ないです! ベシュタ様、どうにかなりませんか、間違いだと証明していただけませんか?」

 トリプトルの名を出した途端、アースの態度が豹変する。常に落ち着いた口調と声質だったが、泣き声に変わり表情も一気に青褪めていた。
 解り易い……と皮肉めいてベシュタは内心嗤うと、これならば直ぐにでも身体を戴けそうだと頷く。

「出来るならそうしたい、アース、協力して欲しい。彼を助けたいだろう?」
「はい! 絶対に間違ってます、あの人は、とても真剣で」
「アースが言うなら、そうなのだろう。私も彼を”信じよう”、上の間違った見解を正して見せようじゃないか。
 ……アースの為に」
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