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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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べしゅたー。

 男神クリフの荒声が宮殿に響き渡る、ビリビリと空気が震え配下の者達の表情が強張った。目を合わせないようにと床に平伏したまま、固唾を飲み込む。
 涼しい顔をして女神エロースは、そんなクリフを鼻で笑った。大輪の薔薇を引き寄せ香りを楽しみながら、女官に腕と脚を揉ませ、爪先に色を塗ってもらっている。緊張感などない、二人の温度差が激し過ぎた。

「エロース! 何故光の精霊を派遣したっ、今までの事例として」
「優秀な土の精霊、力ある者が補佐に入ればそれだけ早く惑星も完成しましょう? 何をそう心荒立てるのですか、クリフ。人間が溢れ返り、新たな土地が必要だとそなたも知っている筈。順調に育成が進んでいる惑星スクルドの速度を速めるだけのこと」
「ならば、同時に闇の精霊も送るべきだ。私は反対だ、今までの均衡が崩れてしまう」
「選定されたベシュタは、私も書類に目を通し、優秀な者であると誰もが承知しています。愚かな真似はしないでしょう、過去にも二度ほど、途中から育成に参加した光の精霊がいましたわよ」
「しかしっ」
「……クリフ? 何故そこまであの土の精霊に加担するのです? 個人的感情があるようにしか思えませんわ」

 余裕の笑みを浮かべ、扇子で風を扇がれながらエロースは優美に微笑んだ。妖艶な笑み、眼光鋭くクリフは思わず視線を逸らす。逸らしてから舌打ちした、敗北を認めたようなものだった。

「逐一報告は来るのです、焦らず待ちましょう」

 クリフは強張った顔つきのまま身を翻し早足で戻っていく、含み笑いでその後姿を見つめながら差し出された深紅のワインを口元に運んだエロース。舌で唇に付着したワインを舐めながら、鼻で笑う。

「妙ですこと。あの小娘にどうしてあそこまで加担するのかしら? 何か裏があるのかも知れぬ……ミリア、ユイ、調べて頂戴」

 脚を揉んでいた二人は、深く首を垂れると神妙に頷く。満足そうに瞳を閉じた女神エロースは、薔薇の香りを楽しみながら優越感に浸り直した。ベシュタを派遣したのだ、直様成果は表れるだろう。上手く行けばクリフを陥れる弱みを握れるかもしれないと、ほくそ笑む。女の勘だった、アースに肩入れしていることなど明白だった。
 美しい娘に絆されたのか、それとも。

「同じ土の精霊、だったな? はてさて何が飛び出すことやら……」

 女神エロースの企みなど知らず、惑星スクルドにて育成に励んでいた四人の精霊達は届いた伝令に目を丸くしていた。
『光の精霊ベシュタ・ジークリンデを派遣する、共に育成に励むように』
 ただ、それだけだった。四人は首を傾げた、基本惑星の育成は四人一組で行うものだと習ったからだ。土の精霊を中心に、火、水、風。確かに異例で光と闇の精霊も加わる事があったようだが、育成に不備がある際に派遣されたと記憶していた。
 気に入らない、とばかりにトリプトルが舌打ちをする。届いた伝令の羊紙を右手で捻り潰した、トロイが苦笑するが気持ちは解るつもりだ。腕を組み、壁にもたれながら低く呻く。

「理由が見当たらないだろ、はいそうですか、と返事出来ない。返信しよう、説明を求めると」
「その必要はないかな、私から話そう」

 聴きなれない声に、四人は弾かれたようにそちらを見た。黒に近い深緑の髪、四人よりも年齢が上な男が立っていた。雰囲気から察するに光の精霊、つまり伝令にあった”ベシュタ・ジークリンデ”であることは解る。
 開いた口が塞がらない四人を尻目に近寄ってきたベシュタは、無表情で軽く会釈をした。四人の顔に視線を移動させながら、把握していた関係と結び付けていく。
 黒い短髪、幼い顔立ちの風の精霊リュミは、土の精霊と親しい友人。だが、いつしか恋愛感情を抱く筈だと女神エロースは下卑た笑いをしていた。確かに、常に共にいた男女がふとしたきっかけで友情から愛情に変わることはあるだろう。
 紫銀の長髪、恐ろしく整った顔立ちの水の精霊トロイはベシュタも一目置いている若い精霊の一人である。武術大会で最多の優勝を手にした男だ、浮名を流しているとも聞いている。確かにこの容姿ならば女の心を奪っていくだろう、若い頃の自分に似ていると皮肉めいてベシュタは微妙に口角を上げた。エロースも目にかけているらしい。
 紫銀の短髪、トロイに似ているが火の精霊であるトリプトル。トロイの親友で、女神エロースが手に入れたい男の一人、そして土の精霊に恋愛感情を抱いていることが丸解りらしい単純な男。敵意剥き出して自分を見つめてくる視線が、痛いほど解り鼻で笑った。青臭い男である、考えるよりも先に手が出る……情報通り扱い易そうだった。
 そして、新緑の髪、噂の稀なる能力を宿した土の精霊アース。
 ベシュタはそこで一旦視線を止める、軽く瞳を開いた。人目を惹く美貌の持ち主だと聞いていたのだが、まだ子供同然だった。全く好みではない、どう見ても処女である。ベシュタが苦手とする女だった、軽く唇を噛む。この娘の純潔を奪うこと、という極秘指令を受けているのだが、不安になった。
 貧相な衣服を身に纏い、化粧もしていない娘である。抱いた後に今後のことで喚き出さないかと、眉を顰めた。一度抱いただけで将来を語り出す、無知な女に一度当たってしまったことを思い出した。操を大事にし、ただ一人の男に尽くすことを自分の使命だと思い込んでいた女。気紛れで抱いたら付きまとわれて精神的に参った記憶が甦る、二の舞になりそうだ。こういう素朴な女に限って執念深い、ベシュタは内心深い溜息を吐く。
 が、表情には出さずに顔を上げると握手を求め手を差し出した。

「初めまして、ベシュタ・ジークリンデという。此度は話題の惑星スクルドの育成に参加することが出来、大変光栄だ。追々話すとして、不審がられても仕方がないが育成に協力したい心意気は受け入れて戴きたい」

 誰も、手を伸ばさなかった。それでもベシュタは手を引き戻す事はなく四人に手を差し出し続ける、根競べ、というところだろうか。やがて動いたのはアースだった。トリプトルがその名を鋭く呼んだが、アースは困惑気味に近寄ると手を差し出した。恐る恐る出てきた手を強引に掴むと、大きな手で優しく包み込むように握手を交わす。指を絡めるようにして前後に手を振りながら、ゆっくりと微笑んだ。

「アース・ブリュンヒルデ。噂通りの美少女、稀な才能の土の精霊。貴女の惑星に関与できる事を歴代の光栄と致しましょう」
「は、初めまして。アースと申します。あ、あの。経緯をお話してくださると助かります」
「えぇ、勿論。ゆっくりと私の事を理解していただければ良いと思いますので」

 言いながらベシュタは手を離すことなく、にこやかにアースに微笑み続ける。あからさまな舌打ちが聴こえた、思惑通りだと内心笑いが込み上げたが顔には出さない。
 トリプトルが、忌々しそうに二人の繋がっている手を見つめていた。
―――第一印象、成功―――
 ベシュタは、嘲う。
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